原因は胃下垂?サルコペニア?痩せすぎの原因と改善方法

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「痩せすぎ」とは、脂肪組織が標準体重に対して異常に減少し、筋肉を主とする活性組織量の減少を伴う状態であるといえます。

ここでは痩せすぎの状態を引き起こす代表的な原因を確認し、改善のための基本的な考え方を紹介します。

痩せすぎの原因

次のような疾患は痩せすぎの原因になります。

胃下垂

胃下垂とは、簡単に言うと胃が垂れ下がった状態です。日本人の約3割近くの方が胃下垂だと言われていて、胃が臍部や下腹部まで垂れ下がります。腹壁の脂肪不足や腹圧が低下している痩せ型の人に認められやすいと考えられています。

胃下垂の多くは胃の動きが低下して、胃の働きが弱った状態を伴っていることが多く、虚弱体質など先天的な素因による場合もありますし、暴飲暴食、過労、不安、ストレスなどが契機になって胃の働きが弱って腹部症状が出現する場合もあります。

胃下垂になると食べ物が胃の中に長く停滞して、消化管で消化するのに負担がかかります。胃下垂の方は、細く痩せた体質である場合が多く、痩せている人では腹部脂肪と筋肉が通常よりも薄く、腹圧が低いために、胃が垂れ下がる原因のひとつになっていると考えられています。

胃下垂になると胃の働きが弱まるだけでなく、小腸など下部消化管領域でも栄養を吸収しづらくなる結果、食べても太りにくい体質になる傾向があります。ただし、胃下垂でも肥満に陥る場合もあります。

サルコペニア・フレイル

高齢者は、徐々に体重が減少し、やせの人が増えてきますし、高齢期には筋肉が加速度的に衰えていくと共に、食が細くなり、食事の量が減って摂取される総エネルギーが不足すると、筋肉を壊してエネルギーとして代償的に使用されます。

筋肉量は、20歳から80歳の間に20%程度減少すると指摘されていて、加齢に伴って全身の筋肉量が減り、筋力が低下する状態がサルコペニアであり、中年期以降では筋肉量は徐々に減ることが分かっており、タンパク質の摂取などを意識的に取り組むことが重要です。

一般的に、痩せている人は筋肉も少なく、サルコペニアのリスクが高いといえます。

サルコペニアは筋肉減少症、フレイルは加齢による可逆的な虚弱状態を指していて、事前に有効な対策を実施しなければ、筋力の衰えはどんどん進行し、自立した生活を送ることが難しくなります。

また、筋肉を維持するには適度な運動が重要であり、負荷をかけて実施する無酸素運動(いわゆる筋肉トレーニング)が筋肉維持に役立つと考えられています。

高齢者を中心に食事量が減って定期的に運動を実施しないでいると、筋肉の異化が進行して筋肉減少による体重減少からサルコペニアを招くと同時に、体力低下からフレイルに進行すると言われています。

代謝・内分泌異常

代謝・内分泌異常でやせの原因になるものとしては、血糖がコントロールされていない糖尿病やバセドウ病を含む甲状腺機能亢進症、あるいはアジソン病などの副腎機能低下による食欲低下などが挙げられます。

ブドウ糖はすべての細胞の活動を支えるエネルギーの源であり、糖尿病による糖代謝障害ではインスリンの作用が不足してブドウ糖が細胞内に入れず、食欲亢進と体重減少を引き起こします。

痩せる症状以外にも、特に糖尿病では血糖値が高く、尿糖排泄増加により多尿となるため、口が渇く、飲水量が増加するなどの所見を伴います。

万が一、ダイエットとは無関係に体重減少を認めた際には、適切なタイミングで代謝内分泌内科など専門医療機関を受診しましょう。

嚥下障害

嚥下障害は、高齢者を中心に重要な問題として捉えられていて、高齢者に引き起こされる食事摂取に関する課題の一つとして、食欲はあるものの、嚥下(物を飲み込む機能)しようとすると反射的にむせてしまう場合があります。

嚥下障害に伴って食事摂取量がどうしても低下してしまう傾向があり、体重減少や痩せ症状に繋がりますので、嚥下する際にむせてしまう時は、嚥下機能を耳鼻咽喉科など専門医療機関で評価してもらうことをオススメします。

嚥下障害を認める場合には、その原因が可逆的なもので改善する見込みがあるのか、あるいは食べ物を口から摂取すること自体を断念せざるを得ないのかを含めて適切に判断する必要があります。

痩せすぎを改善する方法

痩せすぎを改善するときの基本的な考え方を紹介します。

摂取カロリーを増やす

痩せている人にとっては、少しでも太って体重を増加させるためには摂取カロリーを増やして「摂取カロリー>消費カロリー」にすることが重要なポイントです。

摂取カロリーを増やすために食べたくても、食べるのが苦手でたくさん摂取できないと悩んでいる人の場合には、食べるメニューや食べ方を工夫することによって、無理に食べる量を増やさなくても摂取カロリーを増やすことが可能となります。

例えば、同じ量を食べるのでもできるだけ高カロリー食品に変更する、あるいは一度にたくさん食べられない時には食べる回数を通常よりも増やす、など食べ方を自分なりに工夫することによって、摂取カロリーを増加して痩せすぎを改善することが期待できます。

栄養バランスを整える

痩せすぎを改善するためには、日々の生活で摂取カロリーを増加するとともに、栄養バランスを整えることも重要です。

特に、栄養素のなかでも、三大栄養素と呼ばれるタンパク質、炭水化物、脂質をバランスよく摂取するようにしましょう。

タンパク質は体を作る源になる栄養素であり、炭水化物は活動のエネルギーとなって筋肉や脂肪の減少を防ぐ、そして脂質は高カロリーなので効率よく摂取カロリーを増やすことができます。

特に、脂質はカロリーを構成する3つの栄養素のなかで一番高カロリーであり、タンパク質や炭水化物が1gあたり4kcalなのに比べて、脂質は9kcalと倍以上であるため、無理に食べる量を増やさなくても脂質を多く摂ることで効率よく摂取カロリーを増加できます。

これらの3大栄養素を効率的に日常の食生活において摂取することで痩せすぎを改善することにつながると考えられています。

腸内環境を整える

食べ物の栄養をスムーズに消化して順調に吸収する働きは、個人の生まれつきの体質にもある程度影響されますが、腸内環境の乱れやストレスが原因で消化吸収の機能が低下する場合も見受けられます。

痩せを少しでも改善させたい場合には、食物繊維や乳酸菌などを摂取して腸内環境を整える、またリフレッシュ方法を発見してストレスをため込まずに負担を緩和することが重要です。

胃下垂を改善するには?

筋トレをする女性

胃下垂が原因で痩せている人は、次に挙げる改善方法にも取り組むようにしましょう。

姿勢を改善する

胃下垂を引き起こす原因のひとつとして、猫背は大きな要因を占めています。

猫背によって姿勢が悪くなると、体が前屈みになることで、上半身の重みがお腹側にかかり続けますし、胃が上部から圧迫を受け続けることで、次第に胃が下垂してしまいます。

胃下垂に対しては、猫背などの不良姿勢の改善や、自律神経のバランスの調整など、根本的な原因に対しての治療を受ける必要があります。

猫背を改善するためには、骨盤のバランスの崩れなど、骨格を整えることが有効です。

食事の回数を増やす

胃下垂の際には、胃の蠕動運動を正常に保つよう心がけます。

具体的には、食べ物を少量ずつ頻回にわけてとることも効果があります。

少量ずつ頻回に食事を摂ることで胃への負担を軽減できますし、大量の食事を一度に摂るよりも、軽めの食事を繰り返し食べる方が効果的です。

胃の負担を減らす

また、過度に熱い飲み物や冷たいものは控えるようにしましょう。

胃の負担を減らすことで内臓の働きを活発にし、食事からの栄養吸収を高めることができます。

胃の負担が減り、胃腸の状態が良くなれば、胃下垂自体は改善せずとも、症状によるストレスを減らし、また栄養の吸収もしやすくなります。

日々の食生活において、暴飲暴食や過労、ストレスを避け、バランスの取れた食事を摂ることが重要です。

特に、肉や脂物の多い食事は、消化に時間がかかるため、胃腸に負担が大きくかかります。

野菜や果物は、胃酸の分泌量も少なくすみ、消化にかかる時間も短くすむため、胃に優しい食材ですし、野菜や果物には食物繊維が豊富に含まれているので腸の善玉菌を増やし、便通を促す効果もあります。

筋力トレーニングを行う

胃下垂は、胃を支える筋肉や脂肪の少ない「やせ型で背が高い体型の人」がなりやすいといわれています。

胃下垂の治療には、食事療法(食事を1日4〜6回に分け栄養価の高いものを少しずつ食べる)をする以外にも、運動療法(腹筋を鍛える)などを含めた生活指導が中心となります。

腹筋を鍛えることで腹部の筋肉を強化し、胃の位置をサポートすることができますので、定期的な腹筋運動を取り入れるとよいでしょう。

ストレスをためない

胃下垂はいろいろな原因によって引き起こされますが、その中のひとつに強いストレスがあります。

強いストレスを感じるようなことがある、あるいは慢性的なストレスを抱えているうちに、気がつくと胃が下垂してしまっているという場合が少なくありません。

ストレスによって交感神経が強く働くと、内臓の機能が低下します。

胃の機能が低下することで、胃の位置を留めている筋肉も働きが悪くなり、胃の下垂につながります。常日頃からストレスをためないようにセルフケアをしましょう。

まとめ

これまで、痩せすぎの原因や改善方法などを中心に解説してきました。

痩せる原因は多彩ですが、摂食不足、消化吸収障害、内分泌代謝障害、過剰なカロリー消失などが挙げられます。

痩せは、単独の病気というよりは、高齢者におけるサルコペニアなどさまざまな病気による症状であり、著しいやせや急速な体重減少を認める場合には、専門医療機関で的確に調べてもらうことが重要です。

痩せすぎを改善するために確実に摂りたいのが三大栄養素であるタンパク質、炭水化物、脂質です。これらを含む食品をしっかり摂取し、効率よく筋肉の維持や増量に努めることで体重の増加につながるでしょう。

痩せすぎの人で一度にたくさん食べられない場合には、間食を取り入れて食事回数を増やして摂取カロリーを無理なく増加させることで痩せすぎを改善する効果を期待できます。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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