胃がんに前兆はある?胃がんが疑われる症状と危険因子

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胃がんは、過去の日本人のがん死亡率の第1位でしたが近年は減少傾向で、2020年厚生労働省の部位別がん死亡者数では男性では肺がんを下回り第2位でした。

ただし胃がんを発症する人の数は比較的多く、2018年に診断された人は男女で約13万人存在します。胃がんは早期の段階での自覚症状は乏しいものの、中には前兆といえる症状を伴う場合もあります。

ここでは胃がんの症状の特徴や発症のリスクを高める危険因子について解説します。

前兆はある?胃がんが疑われる症状

次に挙げる症状は胃がんが原因で引き起こされることがあります。

腹痛

早期胃がんでは、胃痛を含む腹痛、腹部不快感、食欲低下、嘔吐、嘔気、胸やけ症状などが認められることがありますが、慢性的に胃の調子が悪いときや、胃炎などの胃腸疾患でも経験しやすい症状です。

したがって、本人自身は気づかないでいても、検診などの機会で胃がんが偶然に見つかるケースも少なくなく、胃がんが進行してくると腹部の痛みや腹部不快感などを自覚されるケースが増えます。

胃がんは、早期の段階では自覚症状がほとんどないこともあり、かなり病状が進行しても有意な症状が乏しい場合があって一定の注意を払うことが必要です。

食欲がない、体重が減る

胃がんにおいては、早い段階から消化不良による胃の不快感、食後の膨満感、胃痛、胸焼けや食欲不振などの症状が現れる場合もあります。

胃がんの場合は、上腹部痛や食欲不振、嘔気からくる胃そのものの不調から食欲がなくなり、体重が減少することが多いと考えられています。

一般的に、胃がんが生成する「サイトカイン」という炎症に関連する物質の影響によって、胃の機能が低下して食欲不振が引き起こされると考えられています。

がんが進行して徐々に病変部が大きくなってくると、筋肉や骨を分解してでも栄養を吸い取ろうとするので体重が悪性疾患そのものによって減少するという場合もあります。

通常、体重減少は、ダイエットなどで減量をして自分で体重をコントロールすることではなく、自ら意図していないのにもかかわらず、半年程度で4.5kg、あるいは5%以上体重が減少する状態を指します。

胃がんが進行すると食欲不振や通過障害を引き起こし、体重減少となる場合がありますし、体重減少は胃がんを含めて胃腸の病気や消化器疾患との関連が強く疑われます。

直近の半年間でダイエットをしていないのに4〜5キロ程度の体重減少を認めた場合や体重減少と併発して食思不振など何らかの症状がみられる際には、胃がんなどの疾患を除外する必要がありますので、専門医療機関を受診しましょう。

食べ物を飲み込みにくい

物を食べて飲み込むときに、のどや胸につかえ感や不快感などがあって飲み込みにくい状態を「嚥下障害」と呼称しています。

嚥下障害は、飲食物が口からのど、食道を通って胃に入るまでの過程のどこかに不具合が生じているために起こることが知られていて、胃がんの場合にも日常的に物を飲み込みにくい症状が出現することがあります。

胃がんを発症すると、食事がつかえて十分に栄養を摂取できずに、体重が減少するといった症状を認める場合もあります。

黒色便が出る

胃がんの病変部は、胃の粘膜が悪性の細胞に取って代わられて、容易に出血しやすくなっているため、気が付かない間に胃の中で出血することに伴って貧血所見を認める、あるいは血液成分が便に混在して黒色便が出るという症状が認められることもあります。

腹痛などの症状がなくても、黒色便によって胃がんを発見する契機になることもあります。

胃がんの病状が進行すると、消化管が狭くなったことによる食欲不振や嘔吐、全身の倦怠感、体重減少以外にも、胃壁がただれたことによる吐血や黒色便、貧血などの症状が悪化して引き起こされますので事前に早期発見に繋げることが重要です。

胃がんかどうかを症状で判断するのは難しい

胃がんの早期段階の場合には、症状がないことがほとんどであり、胃がんに随伴して、胃の痛みや腹部違和感、食欲低下、嘔気、体重減少、食事のつかえ感などが代表的な症状となりますが、かなり進行しても症状がない場合もあります。

胃がんは、胃壁の内側に発生する悪性腫瘍であり、典型的な初期症状がわかりにくく、知らない間に進行していることが多く、いったん病変が進行すると胃がんは胃壁の奥まで入り込み、リンパ節や他の臓器へ転移するリスクが上昇します。

検診や胃カメラ検査などを受けて、たまたま胃がんを発見されることが多いですし、がん病変が進行すると、みぞおち周辺の腹痛、嘔気、食欲低下、貧血、体重減少、胃の張った感じなど様々な症状が出現することもあります。

胃がんを予防的に早期発見および早期治療するためには、少なくとも年に1回程度は定期的に胃カメラ検査などを受けることが重要です。

胃がんの危険因子を知っておこう

胃がんの危険因子としては次のものが挙げられます。

ピロリ菌の感染

胃がんが発生する原因については、現時点でもいくつかのリスク要因が指摘されていて、まず忘れてはいけない危険因子として「ピロリ菌の感染」が挙げられます。

これまで数々の研究で、ピロリ菌感染者と、そうでない方を比較すると、前者の方が胃がんの発生する割合やリスクが大きく異なることが判明しました。

ピロリ菌感染による慢性的な胃粘膜の炎症は、胃がんの主原因のひとつとして認識されています。

ヘリコバクター・ピロリ菌とは胃の粘膜に生息して炎症を起こす細菌であり、胃の中で生きることができるらせん形状の悪玉菌です。

食べ物や水を介して感染し、除菌しなければ胃の中で生き続けることができると言われており、ほとんどが乳児期に感染すると考えられていて、当時の衛生環境が悪かった 50代以上の方々が保菌していることが多いと推察されています。

このピロリ菌に一度感染すると慢性的に胃の粘膜が荒れた状態が続き、それが胃壁を形成する細胞の癌化を促進して、胃がんを発症すると考えられています。

実際、50歳以上の中年層の方では約7割以上の方がピロリ菌に感染していると推測されていますが、感染した人の全てが直接的に胃がんになるわけではありません。

塩分のとり過ぎ

胃がんは、長期間にわたる胃の中の環境悪化や、過度な刺激によって発症すると言われていて、発症に関連する危険因子として塩分の多い食品の過剰摂取、慢性的な野菜や果物の摂取不足など様々な要素が挙げられます。

また、普段から暴飲暴食を繰り返す、あるいは消化に負担のかかる脂っこい食べ物や香辛料など刺激の強い食事などは、胃酸を過剰に分泌させて、胃の粘膜に負担がかかり炎症が起こりやすく胃がんの発症に繋がります。

飲酒・喫煙

喫煙は、胃酸の過剰な分泌と胃粘膜の血流を悪化させて、胃の粘膜に炎症が起こりやすくなり、胃炎や胃潰瘍だけでなく胃がんの発症原因となっています。

お酒を飲みすぎると一般的に肝臓に重い負担をかけるイメージが強いですが、タバコを吸うとともに過剰に飲酒行為を行うことで相乗効果として胃がんを発症する危険度が上昇することも指摘されています。

このように日常的に喫煙や飲酒をする人の場合は、胃がんの発症リスクが高まりますし、意図せずに体重減少を認めた場合には、悪性腫瘍が原因になっていることがあるので、症状が長引く場合は医療機関で相談しましょう。

まとめ

これまで、胃がんに前兆はあるのか、胃がんが疑われる症状と危険因子などを中心に解説してきました。

胃がんは、胃壁の内側の粘膜に発生する腫瘍性病変のことであり、筋肉や粘膜でできている胃壁の中でも最も内側にある粘膜の細胞が何らかの原因でがん細胞となり増殖することで生じます。

胃がんは初期段階ではほとんど症状がなく、進行しても目立った症状が出ない場合がありますので格段の注意が必要です。

進行胃がんの場合、胃痛、貧血、黒い便、体重減少、脱力感などの症状を伴うことがありますし、胃がんが進行した場合には胃痛症状も見られます。

主に50代以上の中年齢層の方々が胃がんを発症することが多く、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染、過剰な飲酒歴や喫煙歴、食塩や高塩分食品の摂取などが胃がん発症の危険性を高めることが報告されています。

胃がんはがんによる死因の上位を占めていますが、早期発見および早期治療につなげることが出来れば比較的予後が良い疾患です。気になる症状が現れて心配なときは迅速に消化器内科など専門医療機関を受診して相談しましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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