化膿性脊椎炎とは?原因とメカニズム、治療方法を解説

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化膿性脊椎炎という病気があります。脊椎に細菌が感染する病気で、一度なると治りにくく重篤化しやすいという特徴があります。ここでは化膿性脊椎炎はどのようにして起こるのか、どのように治療するのかについて解説します。

化膿性脊椎炎とは?原因とメカニズム

化膿性脊椎炎というのは、脊椎のとくに椎体と呼ばれる部分に感染が起こる病気です。椎体は脊椎の中でも最も大きい部分で、体全体を支える屋台骨となる部分です。

背骨は体の奥深くにあり、もともと細菌は一切いない場所です。また、多少の怪我では背骨まで傷が届く事もありませんから、怪我で体表から細菌が入り込むこともまずありません。

化膿性脊椎炎が起こるとき、ほとんどの場合は体の他の場所に細菌が感染している感染巣があります。その感染巣から血液の流れに沿って細菌が流れ出し、背骨にたどり着いてそこで増殖を始めるようになって発症します。

化膿性脊椎炎の原因となる細菌

原因となる細菌としては、約半数は黄色ブドウ球菌です。この菌は体表にもともと生息している菌で、何らかの原因で体内に入り込み感染巣を作ります。そして血液の流れによって脊椎に至るのです。

続いて多いのは、尿路感染を起因とするものです。このときには大腸菌やプロテウス、緑膿菌などの菌が主となります。

ごくまれに、結核性脊椎炎もあります。これは、結核の感染が持続することによって体内に結核菌が広がり、その症状の1つとして脊椎に感染することで発症します。ただし、経過が大きく異なる事から、結核性脊椎炎は化膿性脊椎炎とは別の疾患として捉えることが多くなっています。

化膿性脊椎炎を発症しやすい人

患者さんの背景についても触れておきましょう。普通の人であれば、体の中に細菌が入ってきても菌が増殖する前に免疫が働いて感染巣を作る事はほとんどありません。しかし、何らかの理由で免疫の能力が低下している場合には細菌の増殖に免疫が間に合わず、感染が広がってしまうのです。

このような免疫が低下する原因として最も多いのは糖尿病です。糖尿病の中でも治療をしっかりしてコントロールが良い場合にはあまり起こらず、大抵化膿性脊椎炎が起こっている場合には糖尿病のコントロールが非常に悪い様子が見られます。

他には癌や肝機能障害などの免疫異常をきたす疾患を持っている場合に化膿性脊椎炎は起こりやすくなっています。

化膿性脊椎炎の症状

化膿性脊椎炎が起こると、初期には体を動かした時に病巣の付近の痛みがみられます。細菌の増殖速度によっては一か所の脊椎だけではなく複数の脊椎で感染が広がり、痛みを感じる場所が広範囲にわたる場合があります。

痛みは非常に強く、寝返りを打つのも痛くてできないばかりか、呼吸でも痛みが背骨に響くという事もあるほどです。

痛みが起こってくるのに前後して、高熱や悪寒がみられます。前述の通り、化膿性脊椎炎がある場合には他に感染巣がある場合がほとんどですから、既にその感染が始まっている時点で高熱が起こっている場合もありますが、化膿性脊椎炎が始まってからはじめて高熱が出る場合も稀ではありません。

免疫の能力によっては熱が出ないこともあります。このような場合は免疫がしっかり働けていないという事ですから、より重症である場合がほとんどです。分単位で状態が悪化していく可能性もある非常に重篤なケースといえます。

一部の例では、微熱の場合もあります。このような場合は症状の出方もゆっくりで、なかなか受診をしない場合も多く、診断がついたときには非常に重篤になっている場合もあります。

また、脊椎の中には脊髄が通っており、脊髄から出た神経が脊椎の近くを通過します。膿瘍がそれらの神経を圧迫することでしびれや麻痺などの症状が起こることもあります。

化膿性脊椎炎の治療方法

まずは診断をつける事が大事です。診断では、単に化膿性脊椎炎があるということを見つけるだけではなく、何の菌が原因でおこっているのか、他に感染巣はないのか、基礎疾患は何なのかという事を調べます。

特に重要なのは何の菌が原因なのかです。菌は血液中にいることがほとんどですから血液培養を行うほか、膿瘍を形成している場所から検体が採取できる場合は採取して培養検査を行います。

ただ、培養検査の結果が出るまでには比較的時間がかかりますから、最初は広範囲の細菌に効果がある抗生物質を可能な限り早く開始します。培養検査の結果が出次第、その菌に効果が最も高い抗生物質に変更して治療を行います。

また、それに伴って病巣に対する手術を含めた治療を検討します。膿瘍を形成しているばあい、それを切除したり内容物を穿刺吸引することを検討します。というのは、膿瘍というのは細菌の塊の周りに免疫細胞が集簇したものです。膿瘍の内部には血管がありませんから、抗生物質を投与してもなかなか内部までは届きません。ですので、膿瘍を放置したまま漫然と抗生物質を投与してもなかなか膿瘍は改善しないのです。

特に細菌による脊椎の破壊が強い場合は、膿瘍を切除するとともに、脊椎の不安定性を改善させるために脊椎固定術を行う場合もあります。

これらの治療と並行して行われるのは、他の病気の治療です。特に重要なのは、免疫異常を引き起こすさまざまな全身疾患の是正です。特に糖尿病は感染の原因となる一方、感染によって糖尿病の状態が急激に悪化するという悪循環を来します。そのため、インスリンを積極的に使用して血糖値を改善させることで感染症の治療のサポートをします。

また、一次感染巣としてもともと細菌が増殖していた部分も多くの場合は膿瘍を形成しているため、可能な限り切開や切除を行う事で抗生剤の効果を最大化させます。

これほど感染が進んだ場合は、他の全身の機能にもさまざまな影響が出てきます。さまざまな方面から体の状態を安定化させるよう、整形外科だけにとどまらない治療が行われます。

発見が早期であった場合には、感染がそこまで重症化していない場合もあります。その場合は抗生剤治療だけでなんとかなる場合もあります。とにかく早く治療を開始することが肝要なのです。

化膿性脊椎炎の予後と合併症

化膿性脊椎炎は治療をするとすぐによくなるという事は比較的少なく、画像上では明らかな感染巣がはっきりしなくても感染がくすぶっていることも少なくありません。そのような場合は血液検査で炎症所見が継続しており、治療を継続する必要が出てきます。

また、他の場所から細菌がやってきて脊椎で膿瘍を形成しているということは、脊椎から他の部分に感染が広がる可能性があることを示します。例えば、脊椎の中には脊髄が通っています。脊髄は硬膜という膜で包まれていますから、脊髄に細菌が感染していくことは稀ですが、硬膜の外に膿瘍を形成する場合があります。これを硬膜外膿瘍といいます。硬膜外膿瘍が悪化すると膿瘍が増大して脊髄を圧迫し、強い痛みやしびれ、麻痺などが急速に進行することがあります。このような場合にはすぐに手術が必要です。

このように、他の場所に再度感染が起こったり、血液中にまだ細菌が残っていたりと、感染がくすぶることが多いため、完全に治癒するのは60%程度と低い数字です。

麻痺やしびれが永続的に残ってしまう場合もありますし、再発する場合もあります。一度発症した場合には後遺症を残したり再発したりという可能性が非常に高くなります。

ですので、可能な限り早く治療を開始することが重要です。また、糖尿病のような感染の原因となる病気にならないようにしっかり治療を行う必要があります。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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