食べたら下痢をするのはがん?大腸がんによる便通異常の特徴

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何かを食べると下痢をするといったことが繰り返されると、深刻な病気ではないかと心配になります。便秘と下痢を繰り返す症状が現れたときには、過敏性腸症候群が第一に疑われますが、大腸がんを疑う必要もあります。ここでは大腸がんの症状の中でも便通異常に関連するものを中心に紹介します。

大腸がんによる便通異常の特徴

早期の大腸がんでは自覚症状はほとんどありませんが、次に挙げるような症状が現れることがあります。

腸管の内腔が狭くなる

大腸は小腸を取り囲むように存在する全長約1.5mから2mの管状の臓器であり、大腸は結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)と直腸(直腸S状部、上部直腸、下部直腸)の2つに分けられます。

大腸は腸の内容物から水分を吸収し、肛門に至るまでに徐々に固形の便となり、肛門から排泄する役割があります。

大腸がんが大きくなると食べ物の通過が困難となり、腸管の内腔が狭くなって、腹痛や腸閉塞のような症状が現れる場合もあります。

便が細くなる

大腸がんの位置により出やすい症状は異なり、大腸に届いたばかりの便は、まだまだ水分が多く、固まりきっていないため、進行しても症状が目立たないことが多いと言われています。

じわじわと出血し貧血になった、お腹にしこりがある、と言った症状で発見されることがあります。

一方で、便が硬くなった大腸の後半部分のがんでは、便の通りが悪くなることによる腹痛、嘔吐が起こりやすいとされ、血便や便が細くなるといった症状も認めやすくなります。

特に、直腸に位置する大腸がんは肛門に近い部位であり、血便で発見されることが多いですし、がんが大きくなり、直腸の内腔が狭くなると、便の狭小化や残便感などの症状が見られることもあります。

排便回数が増える

便の回数が多くなる病気として、大腸がんなどの狭窄により、便が通過しづらくなったため、便が下痢状になり、回数が多くなっている場合が考えられます。

大腸がんが進行すると、大腸が狭くなるため便が滞り、 少しずつ数回に分けて便意をもよおすことが想定されます。

便秘と下痢を繰り返すことがある

大腸がんになると、大腸の中を便が通過するときに、大きくなった腫瘍(がん)が邪魔をして内容物が通りにくくなるために、便秘傾向になります。

大腸がん初期の頃はそれほど便秘を自覚することはないかもしれませんが、大腸がんが進行して腫瘍が大きくなるほど便秘を実感しやすくなります。

下痢と便秘をくり返す場合もあり、この症状の場合は過敏性腸症候群を第一に疑いますが、大腸がんを疑う必要もあります。

大腸がんの代表的な症状は、他にも、血便、腹痛などもありますので、そういった症状が認められる際には、まずは大腸内視鏡検査を行い、大腸内部の状況を確認することが重要です。

がんが大きくなり腸管の内腔(腸の内側の空間)が狭くなると、便が通過しにくくなり、便秘や間欠的な下痢などの便通異常がみられることがあります。

大腸がんと症状が似ている過敏性腸症候群

腸管に明らかな炎症や潰瘍などの病変がないのに、腹痛や腹部不快感に下痢や便秘を伴う症状が続く病気を過敏性腸症候群と呼んでいます。

血液検査や内視鏡検査でも顕著な異常が見つからず、日々のストレスで腹部症状が悪化することから心身症のひとつとして認識されています。

過敏性腸症候群は、人口の約15%程度に認められるとされており、そのなかでも特に女性に引き起こされやすく、年齢を重ねるごとに罹患頻度は減少していくことが判明しています。

大腸がんと類似して、腹痛や腹部の不快感、下痢や便秘などをくり返す病気が過敏性腸症候群ですが、これはストレスを受けやすい20〜40歳代に特に多くみられて、過労や睡眠不足、不規則な食生活や不規則な排便などが誘因となることが知られています。

ストレスや緊張によって自律神経が乱れると、腸管にけいれんが起きて排便のリズムが崩れることによって、下痢などの便通症状がもたらされることにも繋がります。

日々の生活のなかで緊張を感じて、不安になることがあると、腸全体の働きが影響を受けて、下痢などの症状が出現することがありますので、多大なストレスや過度の緊張などに伴って自律神経のバランスが崩れている人は過敏性腸症候群を発症しやすいと考えられます。

心配であれば、消化器内科など専門医療機関を受診してください。

大腸内視鏡検査で発見できる病気

大腸内視鏡検査は、先端に小型カメラが付いている内視鏡という細長い管を、肛門から入れて行う検査であり、大腸の内部を映し出すモニター画面を見て、肉眼で確認できることが強みです。

また、ポリープ(良性腫瘍)や早期のがんが見つかった場合、その場で内視鏡を使って組織を採取することや、その場で切除できる場合もあります。

また、見つかったがんが進行していると疑われた場合は、CT、MRI検査やエコー検査などを行い、全身にがんが広がっていないか(転移していないか)という検査が追加になることもあります。

一般的に、大腸内視鏡検査で発見できる病気は、大腸がんや、痔以外にも、何らかの大腸炎(虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎、感染性腸炎など)や、大腸憩室からの出血、クローン病など様々です。

大腸内視鏡検査が推奨されるケース

大腸内視鏡検査は、通常の胃カメラと違って肛門から高性能カメラ付きのスコープを挿入して、肛門・大腸・小腸に異常がないかを調べる検査です。

大腸内視鏡検査は腸の状態を直接観察できたり、必要に応じて腸の粘膜を採取できたりするため病気の発見への近道です。

食べたら下痢を認める際や、赤い血の混じる便が継続して出る場合には、大腸内視鏡検査の実施が推奨されます。

大腸内視鏡検査では、肛門から内視鏡を挿入し、大腸全体の粘膜を観察し、専用カメラを介して粘膜を見ることができるため、がんをはじめとする病変の位置、範囲などを正確に把握することができます。

また、必要に応じて組織の一部を採取し、病理組織検査を行うことができますし、がん化のおそれのある大腸ポリープを切除することも可能です。

まとめ

これまで、食べたら下痢をするのはがんなのか、大腸がんによる便通異常の特徴などを中心に解説してきました。

2018年の人口動態統計によると、日本において、一生のうちにがんと診断される割合は、は男女ともに50%を超えていて、2人に1人はがんを経験する時代です。

特に、がんで亡くなった人の数のうち、大腸がんが原因だった人は、女性が1位、男性で3位と、がんの中でも大変身近ながんであり、この20年で大腸がんによる死亡数は1.5倍に増加しており、特に生活習慣の欧米化(高脂肪・低繊維食)が関与しています。

早期の大腸がんでは自覚症状はほとんどなく、がんが進行し大きくなると血便、便通異常(便秘・下痢)、腹痛、便の狭小化(便が細くなること)、体重減少などの症状が現れますし、がんの発生する場所によっても症状が異なります。

大腸がんは、早期発見により十分に治療が可能な病気ですので、下痢など気になる症状が続く場合は、可能な限り専門医療機関で大腸内視鏡検査を受けられることをお勧めします。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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