高齢者に多い下肢浮腫の原因と対策

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高齢者に多い悩みに足のむくみがあります。むくみを放置していると重症化して歩行が困難になることがあります。また、心臓、腎臓、肝臓などの病気がむくみの原因になっていることもあります。ここでは高齢者に多い下肢浮腫の原因と対策について解説します。

浮腫(むくみ)とは

ふくらはぎに手を添える女性

下肢浮腫はいわゆる脚のむくみのことです。血液中の体液が血管の外に漏れ出て、血管の外の皮下組織に溜まった状態のことをいいます。 

通常、下肢の筋肉や静脈の逆流防止弁の作用により、下肢に供給された血液は心臓に戻ります。

ところが、普段から下肢の筋肉をあまり使わず、デスクワークや立ち仕事などの同じ姿勢を長時間続けていると、下肢の血液は心臓に戻ることができずに、下半身に溜まっていき、下肢のむくみが生じます。

また、過度の飲酒が原因で血管が拡張することで、血管外へ水分が漏れ出し、むくみが生じることもあります。

高齢者の下肢浮腫の原因

ハートと聴診器、心電図

高齢者の下肢浮腫の原因としては次のものが考えられます。

循環器系の病気

心不全は心臓を取り巻く心外膜や心筋、心内膜疾患、弁膜症、冠動脈疾患、大動脈疾患、不整脈など様々な要因により引き起こされるものと考えられています。

心不全の原因は、心臓自体に問題がある場合と、心臓の機能に間接的な悪影響を及ぼす要因がある場合の2つのタイプに分けられます。

心臓の筋肉を養っている血管である冠動脈が詰まってしまう心筋梗塞や狭心症、あるいは動脈硬化や塩分の摂り過ぎなどが原因の高血圧がもとになって心不全になる人もいます。

また、心臓のそれぞれの部屋を分けている逆流防止弁が障害される弁膜症、心臓の筋肉に異常が起こる心筋症、そして拍動のリズムが異常になる不整脈、先天的な心臓の病気など様々な疾患も心不全を引き起こす原因としてよく知られています。

心不全になると、心臓から十分な血液を送り出せなくなり、体に必要な酸素や栄養が足りなくなるので、坂道や階段の上り下りで息切れがしたり、疲れやすくなります。

また、心不全に伴って腎臓に流れる血液が少なくなって尿の量が減り、水分が体内に貯留してくることになります。

例えば、足の甲や下肢全体が浮腫を起こしてむくんだり、体重が短期間で数キログラム程度増加したりもします。

さらに病状が進行して体の中で血液が滞るうっ血状態が進むと、腹部膨満、そして呼吸が苦しくて横になって眠れない起坐呼吸といったような危険な容態になることもあります。

腎臓の病気

高齢者の下肢浮腫の原因のひとつとして、ネフローゼ症候群があります。

ネフローゼ症候群とは血液中に含まれているアルブミンというタンパクが大量に尿中に漏れ、血液中のアルブミン濃度が下がることで低タンパク血症になり、全身の浮腫や様々な症状が発生する疾患です。初期症状に気づきにくく、健康診断で判明することもあります。

アルブミンは血管内に水を引き込み、血流を維持する大事な役割を持っています。血中アルブミン濃度が下がると、血管外へ水分が漏れて溜まってしまうことにより、足・顔を中心として肺・心臓・腹部・陰嚢にも水が溜まります。血液中にアルブミンが漏れ出るのは、腎臓にある糸球体が炎症を起こしたことが原因です。

糸球体とは小さな穴が網目状に空いている微細な血管でできた組織で、ふるいのような役割を持ちます。本来であれば穴を通過できないアルブミンが、糸球体の炎症によって穴を通過してしまい、尿となって排泄されます。

糸球体が炎症を起こす原因は不明です。

また低タンパク血症は血液中のコレステロールを増やすだけでなく、腎不全・感染症・心筋梗塞や脳梗塞のような血栓症を合併する危険もあります。

肝臓の病気

高齢者の下肢浮腫の原因のひとつとして、肝硬変があります。肝硬変は、一般的に肝臓に慢性的な炎症が生じる慢性肝炎が進行することによって発症します。

長期間にわたって継続する炎症が生じることで、肝臓の細胞は徐々に破壊されていき、その部位に硬い組織が蓄積して形成されていくために肝臓が全体的に硬くなるのです。

肝硬変の主な原因は、飲酒や肝炎ウイルス、脂肪肝であり、欧米ではアルコールが原因の肝硬変が多いと報告されています。

一方で、日本では肝炎ウイルス感染によるものが多いと言われており、特にC型肝炎(HCV)とB型肝炎(HBV)が多く、それに次いで飲酒となっています。

肝硬変の根本的な原因である慢性肝炎にはさまざまな原因がありますが、その中でも肝硬変の原因の約半数を占めて主因とされているのはC型肝炎ウイルス感染によるものです。

最近では、肥満や糖尿病などの生活習慣病から発症する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と呼ばれる疾患からの肝硬変も時々見られるようになりました。

その他、原発性胆汁性胆管炎などで胆汁がスムーズに排出されなくなる、あるいは自己免疫性肝炎などにおける免疫異常、慢性心不全などの病気をきっかけに肝硬変になることもあります。

肝硬変になっても、初期のうちは肝機能の低下自体は軽度であることが多いため、症状が認められないないこともしばしば散見されますが、下肢浮腫の原因になる場合があります。

筋力低下

高齢になると、筋力が低下し、足の関節に痛みを抱えていたりするので、小刻み歩行やすり足歩行になりがちであり、足の筋肉を十分に使った歩行にならないので、ふくらはぎの筋肉をしっかりと動かすことができず、下肢にむくみが出やすい状態になります。

運動不足によるふくらはぎの筋力低下によって筋肉によるポンプ機能が低下して、足の血液を心臓に送り戻す機能が悪くなり血液がうっ滞してむくみます。

薬の影響

薬剤のなかで、カルシウムチャネル拮抗薬、ピオグリタゾン、非ステロイド系抗炎症薬、ホルモン剤、甘草、プレガバリン、ミロガバリンなどは副作用として下肢浮腫が起こりえます。

これらの薬を中止することで足のむくみが治ることもありますので、その薬を処方した医師に相談しましょう。

下肢浮腫の対策

下肢浮腫の対策としては、散歩や階段の上り下りなどで、足の筋肉をできるだけ使う、足首を回してほぐす、仰向けで両足を上にあげてブルブルと小刻みに動かすなどを実践すると、血流の活性化にも繋がります。

また、ふくらはぎを中心に、アキレス腱や太ももなどリンパの流れに沿って、心臓に向かい血液を送り出すイメージでマッサージすると下肢浮腫が改善する場合があります。

足を上げて寝ることにより血液の流れが良くなり、むくみ解消につながりますし、重力によって下半身に血液やリンパ液が滞りやすくなるため、足を高くすることで血液やリンパ液の流れを活性化させることができます。

まとめ

これまで、高齢者に多い下肢浮腫の原因と対策などを中心に解説してきました。

むくみは余分な水分がたまって起こり、特にむくみが起きやすいのは足です。

足は血液を送り出している心臓からもっとも遠く、重力の影響も受けるため、足には血液を心臓へ戻すための特別なメカニズムがあります。

足がむくむ原因はさまざまであり、時には重大な病気が潜んでいることがありますので、心配であれば、専門医療機関で相談しましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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