お腹のポチャポチャ音がするときに茯苓飲(ぶくりょういん)
「茯苓飲はお腹のポチャポチャ音がするときによく使われます」
処方のポイント
消化器と呼吸器を補強する四君子湯と似た構造で、新たに消化周辺に滞っている水分代謝を活性化させる枳実です。陳皮が追加されたものです。食欲不振で、胃部に振水音(ポチャポチャ音)がある症状等に適応します。辛味で、温服が効果的です。
目次
茯苓飲が適応となる病名・病態
保険適応病名・病態
効能または効果
吐きけや胸やけがあり尿量が減少するものの次の諸症:胃炎、胃アトニー症。
漢方的適応病態
1)胃の痰飲。すなわち、上腹部がつかえて苦しい、膨満感、胃部の振水音、ときに水様物の吐出などの症候。
2)脾気虚の痰飲。すなわち、食欲不振、疲れやすい、元気がない、食べると腹がはるなどの脾気虚の症候に、上腹部膨満感、胃部振水音’尿量減少、呑酸、嘔吐などの痰飲の症候を伴うものに。
茯苓飲の組成や効能について
組成
人参3白朮3茯苓3陳皮2枳実2生姜4
効能
健脾和胃・化痰和飲
主治
脾胃虛弱・痰飲内停
〇化痰和飲:痰と飲を取り除く治法です。痰と飲はともに津液の停滞によって生じる病理物質でありますが、痰は濃く、飲は薄いものです。
解説
茯苓飲は脾胃虚弱を補益し、停滞している痰飲を除去する扶正去邪の処方です。
症状分析
◇胸膈満悶
胸と胃に膨満感、不快感のある症状です。脾胃虚弱によって、津液を運化できないために生じた痰飲が気の流れを阻害し、脹って詰まった感じをおこします。
◇嘔吐・噯気
曖気とはゲップのことをいいます。胃脘部に停滞している痰飲が胃気とともに上逆する症状です。胃虚による症状であるため、水っぽいものを嘔吐することが多いです。
◇不能食
食べることができない状態を示します。脾の運憮能と胃の受納機能が低下すると同時に、胃腹部の痰飲停滞に起因する症状です。
◇舌淡胖・舌苔白滑
淡胖舌は脾胃の気虚を示し、白滑苔は痰飲を示します。
◇脈細緩あるいは細滑
細緩脈は脾胃の虚弱を示し、滑脈は痰飲の存在を示します。
茯苓飲は「四君子湯」の組成を基本としており、脾胃の虚弱を補うことができます。人参は脾胃虚弱の病態に対して直接的に補益する役割りをはたしています。茯苓は利水滲湿の用に優れ、胸胃の痰飲を下から除去します。白朮は健脾作用と燥湿作用をもち、茯苓の利水作用を増強します。陳皮、枳実・生姜の3薬はいずれも化痰作用があり、停滞している痰飲を取り除きます。陳皮は化痰作用が一番強く、理気作用によって脾胃の気の流れを改善させて、食欲を増進させます。枳実は理気作用が一番強く、中焦脾胃の気滞によって生じた膨満感、不快感(痞詛)を治療します。生姜は止嘔作用に優れ、痰飲による嘔吐、噯気の症状に用いることが多いです。生姜のかわりに乾姜を加える場合もあります。乾姜は温中散寒作用があり、人参、白朮とともに脾胃をあたためて元気を与え湿の停滞をとります。
臨床応用
◇脾虚痰飲証
脾胃虚弱と痰飲內停が同時にみられる病態に用います。虚弱体質で吐き気、ゲップ嘔吐、食べられないなどの病証に適しています。慢性胃炎、胃酸過多症、胃痛、あるいは胃の術後の苔白厚、食欲不振に用いることもできます。
◇下痢
利水燥湿作用が優れているので、下痢に用います。特に水湿性の下痢で、水様便や軟便に適しています。
注意事項
茯苓飲の薬性は温燥なので、発熱苔黄膩などの湿熱証には不適当です。使用の要点は脾虛と水湿の停滞です。