鼻水が大量に出るつらい花粉症に苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)

漢方事典

苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)は、中国の古典医学書「金匱要略」に収載されている漢方薬です。体力が低下ぎみで、冷え症体質で胃腸が弱く、貧血の方に適した処方で、水っぽいたんが出る気管支炎、気管支喘息、動悸などに用いられます。

苓甘姜味辛夏仁湯を構成する生薬

苓甘姜味辛夏仁湯は、せきやたんを抑える半夏(はんげ)、杏仁(きょうにん)、五味子(ごみし)、細辛(さいしん)や、水分の巡りを改善する茯苓(ぶくりょう)、身体を温める乾姜(かんきょう)、調和の役目を持つ甘草(かんぞう)、計7種類の生薬で構成されています。

花粉症のつらい鼻水を軽減できる

苓甘姜味辛夏仁湯は、肺の水滞(すいたい)を改善するので、花粉症の代表的な症状のひとつの鼻水に対して改善を期待できます。水滞を改善する、いわゆる利水剤として用いられる場合があります。

新型コロナの後遺症にはあまり用いられない

苓甘姜味辛夏仁湯は主に冷えから来るせきやたんなどに処方される漢方薬で、一般的にはあまり新型コロナの後遺症のせきやたんに処方されることはありません。

せきのほかに、薄いたんや鼻水が出る場合は小青龍湯(しょうせいりゅうとう)を、濃いたんの場合は麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)などを処方します。

苓甘姜味辛夏仁湯と小青竜湯の違いは?

小青竜湯には、エフェドリン作用のある生薬の麻黄が含まれています。エフェドリン作用とは、中枢神経を活性化させる効果で、覚醒作用があります。気管を広げたり血管を収縮させる作用があるものの、刺激が強いので高血圧や不整脈のような持病のある方、高齢の方には向いていません。

苓甘姜味辛夏仁湯は麻黄を含まないので、小青竜湯を服用できない方に適した処方です。

苓甘姜味辛夏仁湯の主な副作用について

発生する頻度は稀ですが、重大な副作用として、低カリウム血症や血圧上昇、むくみなどの偽アルドステロン症、低カリウム血症によるミオパチーがあります。異常や違和感を感じた場合はすぐに医師の診察を受けてください。

処方のポイント

からだを温め水様の鼻水やくしゃみに対応する乾姜と細辛、呼吸器周辺の水分流通を改善し、咳等の呼吸器症状に効果のある半夏と茯苓、鎮咳作用の杏仁、五味子、消化器を保護する甘草で構成。
花粉症をはじめとする止まらない透明な鼻水等に適応します。
酸味のある甘辛味で、温服が効果的です。

苓甘姜味辛夏仁湯が適応となる病名・病態

保険適応病名・病態

効能または効果

貧血、冷え症で喘鳴を伴う喀痰の多い咳嗽があるもの。
気管支炎、気管支喘息、心臓衰弱、腎臓病。

漢方的適応病態

寒痰の喘咳。
すなわち、咳嗽、呼吸困難、白色で薄い多量の痰、喘鳴、くしゃみ、鼻水、冷えなどの症候、胃内に溜飲も多くみられます。

苓甘姜味辛夏仁湯の組成や効能について

組成

乾姜9 細辛3 茯苓12 半夏9 杏仁9 五味子6 甘草6

効能

温肺化飲・降逆止嘔

主治

寒飲咳喘・水逆嘔吐

◎温肺化飲:肺を温めて痰飲(飲邪)を除去する治法です。

◎降逆止嘔:胃中の上逆した水飲を下降させ、嘔吐を止めます。

◎水逆嘔吐:胃中にある水飲が上逆する嘔吐症状です。

解説

苓甘姜味辛夏仁湯は痰飲、咳嗽を治療する「苓甘五味姜辛湯」に半夏、杏仁を加えた処方です。
温性をもち、寒飲が肺と胃に停滞した症状(主として咳と嘔吐)を治療します。

適応症状

◇咳嗽・喘息

痰飲が肺に滞ると肺の宣発、粛降機能を乱すと肺気上逆し、咳と喘息の症状が現れます。

◇白い痰が多い

肺に寒性の痰飲があるので、痰は薄く、白く、量が多くなります。

◇嘔吐

胃中にある水邪が胃気とともに上逆する症状です。

◇浮腫

肺気の宣発・粛降機能および通調水道の機能が失調すると、津液を全身に行き渡らせられなくなるため、軽い浮担重(特に顔面部)が現れます。

◇舌苔白滑

案性の痰飲が停滞していることを示します。

◇脈沈遅

脾胃の陽気が虚して津液を運化することができなくなると、体内に痰飲が発生し沈脈がみられます。
病邪の性質が寒飲(陰)なので、遅脈をともないます。

苓甘姜味辛夏仁湯は、各側面から痰飲を除去する薬を配合しています。
痰飲は陰邪なので、温性の薬が必要です。
乾姜と細辛は辛熱の性味をもち、肺を温めて寒飲を除去します。
さらに乾姜は、痰を生む源である中焦の脾陽を温めて胃気を下降させ、半夏の止嘔作用を増強します。
茯苓は利水作用によって体内の痰飲をおだやかに除去しながら、乾姜と一緒に脾の運化能を調節して痰の生成を防止します。
半夏は化痰作用に優れ、痰飲による肺の咳眦喘息を治療し、胃気を下降させるので嘔吐症状を緩和させます。
杏仁は肺気を粛降させ、細辛は肺気を宣発させます。
この2つの薬によって肺の機能を調節し、咳嗽と喘息を治療します。
五味子は肺気を収斂し、細辛、乾姜など辛散薬による肺気の発散過多をおさえます。
このような配合の仕方を一散一収(発散と収斂)といい、肺気の通利を調整できます。
甘草は甘味で、胃を調和すると同時に、茯苓の健脾作用を補佐し、乾姜などの強い辛味を緩和することができるのです。

臨床応用

◇咳・喘・痰

肺を代表する3大症状である咳、喘、痰を治療することができます。
温性の方剤なので主に寒飲の停滞による諸症状に用います。
臨床では気管支炎、気管支喘息や肺気腫など肺の疾患が原因の咳に使用することが多いでしょう。

◎咳がひどいとき+「清肺湯」(清肺、止咳化痰)

または+紫菀、款冬花、貝母(止咳化痰)

◎喘息がひどいとき+「小青竜湯」(温肺化飲)

または+紫蘇子、前胡、麻黄(宣利肺気・平喘)

◎痰が多いとき+「二陳湯」(燥湿化痰)

または+栝蔞仁、竹茹

◎胸悶などの気滞症状をともなうとき+「半夏厚朴湯」(理気化痰)

◇動悸(心疾患)

痰飲が上昇して、心の血脈を主る機能を乱すと、動悸、息ぎれ、軽度の浮腫などの症状がみられます。
舌苔白滑、薄い白痰をともなう心疾患に苓甘姜味辛夏仁湯を併用すると、寒性の痰飲が除去され、心臓の負担は軽くなり症状が軽減されます。

根本を治療するには血分薬が少ないので+「炙甘草湯」(益気養心)

または+「当帰芍薬散」(養血活血・利水)

◇悪心・嘔吐

苓甘姜味辛夏仁湯は痰飲を除去し、中焦脾胃の運化機能を整えられるので、急性・慢性胃炎で痰飲が胃に停滞して生じる悪心嘔吐の症状に用います。

疲労、食欲不振など脾胃虚弱症状がみられるとき+「六君子湯」(健脾化痰)

◇浮腫

苓甘姜味辛夏仁湯は肺の痰飲を取り除き、体内の津液代謝を調整することができるので、浮腫の初期で特に咳など肺の症状をともなうときに用いられています。
臨床では、急・慢性の腎炎ネフローゼに使用されます。

◎浮腫がひどいとき+「五苓散」(通陽利水)

注意事項

苓甘姜味辛夏仁湯は温性に偏るので、痰が黄色くて濃い、苔黄など熱痰証には不適当です。

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