苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)はお腹が冷えて痛むときに

漢方事典

苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)は、中国の古典医学書「金匱要略(きんきようりゃく)」に掲載されている漢方薬で、比較的体力が低下した人に向いています。

からだの冷えが顕著で、とくにお腹が冷えて痛むときによく使われます。

苓姜朮甘湯を構成する生薬

苓姜朮甘湯は、消化器を温める乾姜(かんきょう)、消化器周辺の水分流通をととのえ消化機能を亢進する白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、消化器を保護する甘草(かんぞう)で構成されます。

含まれている生薬の名前から一文字ずつとって、苓姜朮甘湯と命名されました。

苓姜朮甘湯の主な効果は?

苓姜朮甘湯は、消化器周辺が冷えて痛んだり、からだが重だるい等の症状に適応します。

甘辛味で、温服が効果的です。

苓姜朮甘湯は痩せる?

漢方薬には、いわゆるダイエット薬のように直接体重を落とすような薬はありませんが、体質を改善し、痩せやすいからだをめざすことはできます。

苓姜朮甘湯には、水分の循環をよくして老廃物や余分な水分を排出し、むくみを緩和する生薬が含まれています。

苓姜朮甘湯は下痢に効く?

苓姜朮甘湯は、慢性胃腸炎、過敏性大腸炎などの胃腸の不調に用いられることがあります。胃や消化機能をあらわす「脾(ひ)」のはたらきを補うとともに、からだを温め冷え症を緩和し、水分の滞りも解消します。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)と苓姜朮甘湯の違いは?

当帰四逆加呉茱萸生姜湯と苓姜朮甘湯は、使用する目的が似ています。しかし、手足の末端の冷えが強く、下腹部痛や頭痛などをともなう場合は、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を用いることがあります。

苓姜朮甘湯の副作用について

苓姜朮甘湯を服用して起こる可能性がある副作用には、胃部の不快感や吐き気、食欲不振などがあります。

重篤な副作用はめったに起こりませんが、苓姜朮甘湯を構成する生薬には甘草が含まれているので、ほかの漢方薬などを服用した際の甘草の重複による偽アルドステロン症に気をつけてください。

異常を感じた場合は服用を中止し、ただちに医療機関を受診してください。

処方のポイント

消化器を温める乾姜、消化器周辺の水分流通をととのえ消化機能を亢進する白朮、茯苓、消化器を保護する甘草で構成されます。
消化器周辺が冷えて痛む、からだが重だるい等の症状に適応します。
甘辛味で、温服が効果的です。

苓姜朮甘湯が適応となる病名・病態

保険適応病名・病態

効能または効果

腰に冷えと痛みがあって、尿量が多い次の諸症:腰痛、腰の冷え、夜尿症。

漢方的適応病態

下焦の寒湿。
すなわち、腰から下が冷えて痛む、甚だしければ水の中に坐っているような感じ、腰以下が重だるい、軽度の浮腫、よだれが多いなどの症候があり、食欲は普通で口渇はなく、尿量は多い場合に適応します。

苓姜朮甘湯の組成や効能について

組成

乾姜12 茯苓12 白朮6 炙甘草6

効能

温中散寒・健脾除湿

主治

寒湿停滞

◎温中散寒・健脾除湿:中焦脾胃を温補し、運化機能を強めて寒邪と温邪を除去する治法です。

解説

苓姜朮甘湯は温・燥の性質を利用し、寒邪と湿邪の侵入による「腎着病」を治療する処方で、別名を「腎著湯」(著=着)ともいいます。

◎腎着病:腎著病ともいいます。
着は停滞、附着を意味し、主に身体が重く、腰から下が冷えて痛むなどの症状をいいます。

適応症状

◇腰重・腰冷・腰痛

腎着病の主症状です。
湿邪はとくに下焦に停滞しやすく、腎の府である腰に停滞すると、腰が重い症状が現れます。
湿邪とともに寒邪も侵入しているので腰が冷えます。
湿邪と寒邪が停滞して、経脈の気血の流通を妨げると「不通則痛」で腰痛が悪化します。

◇身体が重い

寒湿の停滞によって、腰だけではなく、全身、特に下半身が重く感じます。

◇浮腫

寒湿が下肢の筋肉、皮膚に停滞すると浮腫が現れます。

◇舌苔白膩

寒湿の邪気の存在を示す舌象です。

◇脈沈

病位が深い(下焦)ことを示す脈象です。

乾姜は薬性が温で、陽気を通じさせ、寒邪を除去します。
温経作用を増強したい場合は炮姜を用います。

茯苓は下行する滲湿薬で体内の湿邪を尿に変えて除去します。
白朮と茯苓には健脾作用があり、水湿を運化する機能を増強できます。
燥湿作用の強い蒼朮を用いることもあります。

苓姜朮甘湯は腎に附着した寒湿の邪気を除去するために、中焦脾胃に作用する薬を多く配合しています。
これは五行学説の「脾土は腎水を克する」の意に沿っています。

臨床応用

◇腰痛

寒邪と湿邪による、冷え、重いなどの症状をともなう腰痛に用います。
坐骨神痛を治療することもできます。

◎四肢不温など(腎陽虛)をともなうとき+「牛車腎気丸」(温陽補腎・利水)

◇痺証

関節・筋肉の疼痛(痺訒)に併用することもできます。
しかし、寒湿は除去できますが、活血通絡の作用はありません。

◎疼抗が強いなど、瘀血痺証のとき+「疎経活血湯」(活血通絡・止痛)

◇浮腫

妊娠浮腫、原因不明の浮腫、腎性浮腫などの浮腫にも用いることができます。

◎利水作用を増強したいとき+「五苓散」(通陽利水)

◇帯下

健脾利湿薬が多いので、白色で、質が薄い寒湿带下に用います。

◎健脾作用を増強したいとき+「六君子湯」(健脾益気・化痰)

または+「参苓白朮散」(健脾滲湿)

◇下痢

乾姜の散寒、茯苓の利水、白朮の燥湿健脾作用があるので、慢性胃腸炎、過敏性大腸炎などによる下痢、食欲不振、悪心、苔白膩など脾虚湿滞の症状を治療することができます。

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