便秘や精神的落ち込みに用いる大承気湯(だいじょうきとう)の効果

漢方事典

大承気湯(だいじょうきとう)は、便秘やお腹の張りが気になる場合に処方される漢方薬です。消化管に働きかけて便通を良くし、便秘が原因の精神の落ち込みなども回復できます。

大承気湯を構成する生薬

大承気湯は、膨満感が顕著な消化器疾患と不安神経症などの精神神経疾患に適応する厚朴(こうぼく)という生薬を中心に、枳実(きじつ)、大黄(だいおう)、芒硝(ぼうしょう)といった4つの生薬でできています。

大承気湯は下痢をさせる代表的な漢方薬

東洋医学の基本的な汗法(かんぽう)・吐法(とほう)・下法(げほう)の治療法則のうち、大承気湯は下法の代表的な漢方薬です。下法とは下痢をさせる治療で、汗をかかせる汗法、吐かせる吐法とともに、「病邪を体外に追い出す」という共通点を持っています。

下法は、外邪が体内深部にまで達し、疼痛が増悪するなど、激しい反応を見せている場合に適応になります。大承気湯は主に消化管に症状が出たり、腹部につかえや張りや強い圧痛を感じ、舌や便が乾燥するといった場合に処方されます。

大承気湯は痩せる?ダイエットに使える?

大承気湯は頑固な便秘トラブルを解消します。肥満体質の便秘などにも用いられる漢方薬のため、便秘傾向の体質を改善する方法としては有効です。ただ、大承気湯は体力が充実している方向けで、冷え性や「虚証(きょしょう)」の方は避けたほうがいい漢方薬でもあります。

もともと下痢や嘔吐を起こしやすい方にも向いていません。しっかりと体質を見極めたうえでの服用が大切です。安易に「痩せる漢方薬」として常用することは避けましょう。

大承気湯と他の漢方薬との違いと使い分け

大承気湯と他の漢方薬との違いや使い分けのポイントを紹介します。

桃核承気湯、調胃承気湯、潤腸湯との違い

大承気湯と類似している処方に、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)があります。桃核承気湯は、女性で月経前の便秘やイライラが募る場合に向いています。

また、腹部の膨満感が少なく精神不安がない場合は調胃承気湯(ちょういじょうきとう)を、うさぎのようなコロコロした便の場合は潤腸湯(じゅんちょうとう)が用いられます。

大黄甘草湯や麻子仁丸、桂枝加芍薬大黄湯との使い分け

便通のトラブルで使用される代表的な漢方薬に、大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)や麻子仁丸(ましにんがん)、桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)があります。大黄甘草湯や麻子仁丸は大承気湯よりも強く効果が出て、逆に桂枝加芍薬大黄湯は弱く出るので、症状に併せて使い分けましょう。

処方のポイント

余剰な熱を瀉下作用で大便により体外排出する大黄を中心に、大黄の働きを助ける芒硝、腹部膨満を除き排便を助ける枳実と厚朴で構成されます。
お腹が硬く張り、大便が乾燥気味で硬くコロコロした便秘などに適応します。
苦味で、温服が効果的です。

大承気湯が適応となる病名・病態

保険適応病名・病態

効能または効果

腹部がかたくつかえて、便秘がある、あるいは肥満体質で常習便秘、急性便秘、高血圧、神経症、食あたり。

漢方的適応病態

熱結。すなわち、陽明病腑実・裏実熱で、高熱、発汗、転々反側、腹部膨満感、腹痛、圧痛が強い、便秘、口渇、尿が濃い、ひどいときには意識障害、うわごと、興奮状態などを呈します。

大承気湯の組成や効能について

組成

大黄12 厚朴15 枳実15 芒硝12

効能

峻下熱結

主治

裏実熱証

◎峻下熱結:作用の強い瀉下薬によって、胃腸に停滞している熱をともなう硬便(熱結)を通じさせる治法です。

◎裏実熱証:体内(胃腸=裏)に実熱が存在する病証をいいます。

解説

大承気湯は胃腸に実熱が停滞した病証(陽明腑実証)に用いる処方です。
承知とは胃腸の気を順調に下降させて閉塞状態を通じさせるという意で、「大」は作用が強い意です。
大承気湯は重症に用いることが多く、薬の使用量も多めですが、病態や体質、年齢などに合わせて調節する必要があります。

適応症状

◇大便秘結

実熱と腸管の積滞によって、腑気の通じが悪くなったために現れる便秘症状です。
六腑は通じている状態が健常であり、胃腸が不通であれば便秘となります。

◇発熱

陽明胃経は特に気血が多い経絡です。
月経の経気と熱の邪気が激しく抗争するため、高熱になる陽明の気が最も盛んになる夕刻の申酉の時間(午後3~7時)に発熱の頂点に達します。これを「日晡潮熱」といいます。

◇煩躁

イライラ、躁動不安、ひどい場合は譫語(うわごと)などの症状が現れます。
これらは燥熱の邪気と腸管の濁気が一緒に上昇して、心の神明を乱すことによって生じる症状です。

◇熱結旁流

糟粕(糞便)が鬱滞し、水っぽい物を下痢する症状(下痢清水)を示します。
腸管に停滞した燥熱が津液を切迫すると、津液は乾燥した便の傍を腸壁に沿って流れ下ります。
病気の根本は実熱にあり、下痢は副次的な症状です。

◇腹痛・腹脹

便が胃腸内に積滞して腑気の流れが滞ると、腹脹と腹痛が見れます。

◇舌苔焦黄

焦苔は体内の津液不足を示し、黄苔は熱盛を示します。

◇脈滑実

滑脈は胃腸に有形の積滞が存在していることを示し、力のある実脈は体力が衰えておらず、邪気も盛んであることを示しています。

大承気湯の主証は「痞・満・燥・実」の四字で表現できます。

大黄は主薬で、苦寒の性味をもち、苦味は下降作用があり、寒性は泄熱作用があります。
通便泄熱の作用が強く胃腸の積滞を取り除きます。
瀉下通便作用を増強するため、生の大黄を「後煎」することが多いです。

また大黄には活血補の効能もあります。
芒硝も瀉下薬に属しますが、鹹寒の性味をもち、鹹味で、軟堅通下(堅い便を軟らかくする)し、鹹寒の性質によって津液を生みます。
津液が増えれば燥硬の便が排出しやすくなります。(増水行舟ー川の水を増やして舟を動かす)
大黄と芒硝を配合することによって通便散結の効能はより増強されます。
厚朴と枳実は強力な理気薬。
気の流れが悪いと便秘症状が悪化し、便秘すると気滞の症状は強くなります。
そこで腸内の積滞を除去するために理気薬を配合します。
厚朴は強い散満作用とともに化痰作用があるので、苔が厚く、痰湿が停滞した満症状に適しています。
枳実は下降作用が厚朴より強く、直接便秘を除去します。

臨床応用

◇陽明腑実証

「痞・満・燥・実」の症状が顕著な陽明腑実証に最も適した処方です。

発熱、腹痛、腹脹、便秘などが重点目標となる症状です。
急性腸閉塞、急性虫垂炎、急性胆囊炎、急性胰臟炎などに用います。

◎発熱が高いとき+「白虎湯」(清熱生津)

◎腹痛が強いとき+「芍薬甘草湯」(緩急止痛)

◎胆囊、胰臓の疾患に+「小柴胡湯」(疏肝清熱)

◎虫垂炎のとき+「大黄牡丹皮湯」(活血消腫)

◇便秘

体方は瀉下作用が中心となっており、便秘一般にも用いられます。
清熱作用があるので実熱の便秘に適していますが、手術後の腹脹、便秘にも一時的に使用することができます。

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