美人病?女性に多い膠原病・自己免疫疾患と全身性エリテマトーデス

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全身性エリテマトーデス(SLE)は関節、腎臓、皮膚などに症状が現れる膠原病の一種です。

ところで「美人病」と呼ばれる病気があるのをご存じでしょうか。甲状腺疾患のバセドウ病などはそう呼ばれています。また、全身性エリテマトーデスを美人病だと考える人もいるようです。

ここでは全身性エリテマトーデスの原因や症状を取り上げ、女性に多く見られる膠原病・自己免疫疾患について解説します。

膠原病とは?

全身性エリテマトーデス(SLE)は膠原病の一種です。最初に膠原病とはどのようなものなのかを確認しておきましょう。

もともと人の体には、体の外部から侵入した病原体から体を守るため、さまざまな免疫システムが構築されています。細菌やウイルスなど、さまざまな強力な病原体を相手にしますから、免疫システムは非常に多種多様のものに対応した上に、強力な能力を有しています。

一方で、それだけ強力な免疫システムが誤って自分自身の体を構成するさまざまな細胞を攻撃しては困ります。そのため、免疫システムには自分自身の体とそれ以外を識別するシステムが備わっており、自分自身の細胞は傷害しないようにできています。

しかし、何らかの理由で免役システムに異常が生じ、自分自身の細胞を傷害してしまう病気があります。こうした病気を総称して膠原病と言います。

全身のさまざまな場所に症状が出てくるのが膠原病の特徴です。SLEも膠原病の一種であり、さまざまな症状を呈します。

膠原病とアレルギーの違い

膠原病とアレルギーは同じように免疫システムの異常が原因で起こるものですが、全く別の機序による疾患群になります。

アレルギーは、体の中に病原体が侵入したときに免疫システムが過剰に反応する結果、さまざまな反応を示すものです。

一方、膠原病は病原体の侵入が無くても免疫システムが勝手に暴走することで症状が起こってくるものです。ですから、アレルギーのように原因となる物質を避けることによって症状が抑えられることはなく、免疫システムを適切に押さえる治療が必要となります。

全身性エリテマトーデス(SLE)の原因と誘引

薬剤性のSLEは特定の薬剤を使用することで発症し、通常の場合、問題の薬の使用を中止することで消失します。

一方で、薬剤性のSLEを除く多くのSLEは、異常な抗体が突然産生されるようになることで発症し、原因が分からないことがほとんどです。

抗核抗体とは

抗体は免疫を担当する血中成分である白血球が産生する物質で、それぞれが特定の物質に結合しやすい構造をしています。抗体は物質に結合し、攻撃を担当する免疫細胞が攻撃をする目印となります。

抗核抗体はその名の通り、細胞の核に結合する抗体です。そのため、さまざまな体内の細胞の核に結合し、免疫細胞が攻撃するために症状が起こってきます。

発症に関連する事柄

SLEを発症するのは圧倒的に女性が多く、男女比は1:9程度と言われています。年齢は全ての年齢で発症しますが、特に15~40歳程度の若い女性に多くなっています。

発症の原因には遺伝の要因も関連していると言われますが、一卵性双生児でも両者に発症するのは30%程度と言われており、遺伝のみで決まっているわけではなく、あくまで発症しやすい遺伝素因があるのではないかと考えられています。

一説には紫外線やウイルス感染、怪我、ストレスなどが発症に寄与していると言われています。妊娠・出産を契機に発症したり、病状が悪化したりするケースは多く、関連があると考えられています。

全身性エリテマトーデス(SLE)の症状

全身性エリテマトーデス(SLE)の症状には全身症状、皮膚症状、関節症状などがあります。

全身症状

SLEは突然の免疫の異常により全身で炎症が起こります。炎症によって発熱が起こり、体力の消耗から体がだるくつかれやすい症状が出現します。また、関節痛もおこり、インフルエンザにかかったのかと思われる方もいます。

気道の粘膜で炎症が起こるわけではありませんから風邪のような咳や痰と言った症状はあまり認めません。このような発熱や倦怠感が約1週間以上続きます。

皮膚症状

SLEではさまざまな皮膚症状を認めます。最も特徴的なのは蝶形紅斑と呼ばれる顔面の皮疹です。鼻を中心に左右にまるで蝶が羽を広げたかのように広がる紅斑を認めます。

他にはディスコイド疹と呼ばれる皮疹も特徴的です。ディスコイド疹は顔面や手足に好発する皮疹で、当初は周囲との境界が明瞭な紅斑を認めます。かゆみは通常認めません。しばらくするとカサカサと乾燥してきて、固くなります。かさぶたのようになりますが、なかなか治らない皮疹です。

他にも日光過敏症と呼ばれる症状があります。皮膚に紫外線が当たると、その部位に紅斑や水疱が出現して熱が出ることもあります。びまん性の脱毛が起こることもあります。

関節症状

SLEに伴う関節の症状は患者の約90%に見られます。こちらも自分自身の免疫によって関節が傷害されることによって起こります。

関節痛のパターンは個人差が大きく、時々関節が痛むという人もいれば、突然複数の関節が一度に炎症をおこし、痛みを感じる人もいます。

これらの関節痛はSLEの他の症状と連動して強くなったり弱くなったりすることもあります。長期間にわたり炎症が起こると関節リウマチのように関節の変形を残すことがあるものの稀であり、一般的にSLEの関節病変は間欠的なものと言われています。

臓器障害

免疫による障害は多くの臓器に見られます。自分自身の免疫によって臓器が傷害されることもありますし、血管を傷害することによって臓器への血流が悪くなったり、臓器の中で血管が破綻したりすることで臓器への障害を認める場合もあります。

SLEの臓器合併症の中で特に多いのは腎臓の病変で、ループス腎炎と呼ばれる腎障害を来します。腎臓は血管が非常に豊富で複雑な構造をしていますから、血管の障害による影響を非常に受けやすい臓器なのです。

ただ症状の程度には個人差が大きく、顕微鏡で見ると異常が見つかったり検査で少量の潜血尿や蛋白尿を認めたりするだけという軽い症状の人から、治療をしても腎臓の機能低下が著明に進み腎不全に至ってしまう人もいます。

一般に腎機能がSLEの予後を左右する最も重要な因子と言われています。腎不全を契機として治療に反応しにくい高血圧へと至る場合もあります。

肺でも炎症が起こることがあり、胸の痛みや息切れ、動悸などの症状を認めます。炎症が特に激しくなると肺胞内に出血し、血痰を吐き出したり、ひどく出血すると呼吸困難になったりする場合があります。

脳の炎症が起こる場合は中枢神経ループスと言います。頭痛だけで済む場合もあれば、人格の障害や思考の障害、癲癇発作や脳卒中を起こすこともありますが、頻度はあまり高くありません。

心臓は、心臓の内面が傷害されて弁の機能が異常になる場合もありますし、心臓に栄養を送る血管である冠動脈の障害で狭心症・心筋梗塞を起こすこともあります。また、血管の障害で種々の動脈の血流障害から他の障害を引き起こすこともあります。

その他

朝起きたときに関節がこわばって動かしにくい、あるいは指を冷やすと血流が非常に悪くなって指が青白くなってしまうレイノー現象が見られます。これらの症状は、SLEに限らず種々の膠原病で見られることが多い症状になります。

粘膜の障害を反映して、口の中や舌、のどに潰瘍ができ、痛みを感じる人もいます。

また、抗リン脂質抗体という抗体が同時に出現することがあります。この抗リン脂質抗体が出現すると血の塊ができやすくなります。通常であればあまり気になることはありませんが、抗リン脂質抗体患者は妊娠しにくくなることが分かっています。

<h2> 全身性エリテマトーデスは美人病?

全身性エリテマトーデスは「美人病」ではないかという噂があります。美人がなりやすいのか、全身性エリテマトーデスになると美人に見えるのか、いずれかによって噂があるのでしょう。

しかし実際には、明確なエビデンスはありません。

あくまで推測ではありますが、病気にかかる人の多くが若い女性であること、また日光に当たることで皮膚症状が増悪するので日光を避けることから色白になること、等の原因があるのかもしれません。また、蝶形紅斑も薄ければ頬紅を塗ったような印象を与えるかもしれません。

女性に多い自己免疫疾患・膠原病

全身性エリテマトーデスは女性に多く見られる病気ですが、膠原病の中にはほかにも女性が発症しやすいものがあります。バセドウ病、シェーグレン症候群、全身性強皮症について解説しましょう。

「美人病」と呼ばれるバセドウ病

バセドウ病は、甲状腺が過剰に働くことで起こり、20歳~30歳ぐらいの女性に多い病気です。

甲状腺は喉元にある内分泌器官です。そして、脳から分泌されるTSHと呼ばれるホルモンが甲状腺に働く事によって甲状腺は甲状腺ホルモンを分泌します。もし甲状腺ホルモンの量が多すぎると脳は調節のためTSHの分泌量を減らすことで、甲状腺からの甲状腺ホルモンの分泌量を減少させます。

バセドウ病では、甲状腺を刺激するTSHに似た物質である抗TSH受容体抗体というものが何らかの原因で大量に作られてしまいます。この抗体によって甲状腺は常に刺激されて、甲状腺ホルモンを分泌し続けてしまうのです。

甲状腺ホルモンが過剰になると、全身の発汗が亢進したり、脈が速くなったり、呼吸が荒くなったりと、興奮状態が強く出てきます。また、食欲が亢進する一方、下痢や腹痛にも悩まされます。

バセドウ病の特徴に、眼球突出と言うものがあります。これは抗TSH受容体抗体が、眼球の後ろの脂肪組織に沈着する事で脂肪組織が腫大し、眼球が前に押し出されてくるものです。もしかしたらこの眼球突出が美人に見えると言われている原因なのかもしれません。

治療は抗甲状腺薬の内服などが行われるほか、甲状腺を外科的に摘出する手術も行われます。

シェーグレン症候群

シェーグレン症候群は、涙や唾液を作っている分泌腺が何らかの原因で炎症を起こしてしまうことにより、それらの分泌腺が機能不全を起こす病気です。涙を作っている分泌腺が機能不全を起こせば涙が減って眼球乾燥が起こりますし、唾液を作っている分泌腺が機能不全を起こせば唾液が不足し、口の中がカラカラになるという症状を感じるでしょう。

この病気は一般に40~60歳代に多いものですが、小児期や若年期にも見られます。ただし、若い人には分泌腺の機能不全症状はあまり出現しないことが多く、全身倦怠感・関節痛・皮疹・リンパ節腫脹や耳下腺腫脹が繰り返し見られる程度で終わることも多いです。

また、分泌腺だけではなく肺炎や神経障害、腎障害等の症状が起こってくることも時折あります。

根本的な治療法はなく、それぞれの症状に対症療法を行うことになります。

全身性強皮症

全身性強皮症は、その名の通り皮膚や全身が硬くなってしまう病気です。男女比は1対12と圧倒的に女性に多く、主に30~50代で発症します。

根本的な原因は分かっていませんが、自己免疫疾患であることは間違いなく、自己免疫に加えて線維化、血管障害といった状況が絡み合うことで症状が完成していると言われています。

通常皮膚はコラーゲンの働きで健康な状態が保たれていますが、コラーゲンが多くなると繊維化が起こってくることがあります。これが全身性強皮症で見られる皮膚が硬くなる症状です。

強皮症の患者で特徴的な症状にレイノー症状という症状があります。冷たい水に指をつけたときなどに、手指が白・紫・赤に変色します。これをレイノー現象と言い、血管障害の症状です。血流が悪くなる事によって皮膚の色調が悪くなる上、進行すると指先の潰瘍や壊疽が起こってくる事があります。

内臓病変としては、肺が硬くなる間質性肺炎があります。ほかの内臓としては心臓、消化器、腎臓などにも線維化が起こり、機能が低下してしまいます。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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