足の動脈硬化(末梢動脈疾患)の初期症状と治療法

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動脈硬化という病態は身体中のどこの血管でも起こりえる状態であり、足も決して例外ではありません。

末梢動脈疾患という病気を聞いたことがありますか。

全身の血管において、特に手や足に血液を運ぶ役割を有している動脈を末梢動脈といいます。末梢動脈の動脈硬化が進行すると末梢動脈疾患を発症します。

ここでは足の動脈硬化によって引き起こされる末梢動脈疾患の初期症状と治療法について詳しく解説していきます。

放置すると怖い足の動脈硬化

足の動脈硬化性変化によって引き起こされる末梢動脈疾患は、足領域に血流を栄養する血管自体に動脈硬化が起こって血管が細くなる、あるいは詰まることで足先に十分な血液が配給されなくなることで発症します。

この病気では、初期段階では歩行時に足がしびれる、痛い、冷たいなどの自覚症状が出現し、病状が進行すれば長い距離を歩けなくなる間欠性跛行を呈する、あるいは運動時のみならず安静にしていても足の患部に疼痛症状を覚えることになります。

さらに病勢が悪化すると、足部に潰瘍性病変が形成される、また患部の壊死を引き起こし、最悪の場合には足を切断しなければならないことも考えられます。

末梢動脈疾患の症状を詳しく見ていきましょう。

末梢動脈疾患の初期症状

末梢動脈疾患における初期症状の代表例としては、手足の冷感やしびれが挙げられます。

末梢動脈疾患を抱えた患者さんの約2割は無症状であると言われていますが、これは患者さん自身が下肢の虚血症状を誘発するほどの運動や日常的活動を送っていないことが主たる要因であると思われます。

末梢動脈疾患を発症した人の一部に、運動耐容能の低下や、関節痛などの関節部の疼痛症状を認めることがあります。

また、間欠性跛行と呼ばれる典型的な症状があります。これは、歩行した後に主に腓腹部や臀部、あるいは太ももなどの筋肉レベルで血流不足による疼痛症状が自覚され、安静にすれば症状が軽減する、というものです。

そして、末梢動脈疾患の病状がさらに進行して悪化すると、痛みなどの症状を自覚することなく日常生活において歩行できる距離が段々と短くなると言われています。

症状が進行すると重症虚血肢に

症状の進行と共に、末梢動脈における動脈硬化が重症化すると安静にしている時から患部に痛みが生じます。安静時痛は下肢遠位部でより強くなり下肢挙上によって悪化することが知られています。

また、虚血状態の悪化に伴って足趾部または踵部などに潰瘍性病変が出現することもあります。潰瘍病変は黒ずんだ壊死組織に取り囲まれる傾向があり、通常であれば強い疼痛症状を生じます。

糖尿病を患っている方が末梢動脈疾患を抱えて重症化すると虚血性潰瘍を形成するのみならず、感染による蜂窩織炎を合併して全身状態が悪化することもあります。

安静時における疼痛症状や潰瘍壊死病変が認められる状態をまとめて重症虚血肢といい、適切な処置を実施しなければ足の切断を余儀なくされる場合もあります。

重症虚血肢の状態に陥ると、罹患してから1年後までに死亡、あるいは下肢切断に至る患者さんは半数を超えると言われています。続いて、末梢動脈疾患の治療法について見てみましょう。

末梢動脈疾患の治療法

末梢動脈疾患における症状を緩和して、心臓や脳における血管疾患を予防するためには動脈硬化を進行させないことが大切です。

例えば禁煙、運動療法、塩分や油物を控える食生活などが挙げられます。生活習慣を改善しても効果が見られなければ薬物治療が検討されます。

薬物療法

末梢動脈における血流を少しでも改善させるために、バイアスピリンⓇやリバーロキサバンⓇなどの血液をサラサラにする抗血小板剤や抗凝固薬、ACE阻害薬やβ遮断薬などの血管を拡張させる血管拡張薬などが用いられます。

これらの薬物療法でも足の症状が改善せずに病勢がますます進行するケース、あるいはすでに重症虚血肢状態に陥っている場合には、血行再建術を考慮することになります。

特に、重症虚血肢を有している患者さんでは、迅速に適切な治療を介入しないと、将来約3割の人が下肢大切断を余儀なくされると言われているため、血行再建術は必要不可欠な治療策となります。

血行再建術には、カテーテルを用いて行う血管内治療や外科的なバイパス手術があります。

カテーテルを用いた血管内治療

血管内治療は、血管内にガイドワイヤーを通し、病変部を血管壁の内側からバルーン(風船)で広げたのちに金属ステントを患部に挿入することで、再度同じ部位が狭窄しないようにする治療です。

血管内治療では皮膚表面を大きくメスで切開することなく、局所麻酔のみで施行できるために一般的には身体への負担は少ないと考えられています。

ただし、病変部の部位や範囲、狭窄度などの重症分類によっては治療介入できないこともあります。また、治療完了した血管が将来的に再度狭くなる、あるいは閉塞するといった課題もあります。

外科的なバイパス手術

外科的なバイパス手術は、血流障害を起こしている血管の代替になる新たな血液迂回路を作成することで末梢動脈の血流を改善する治療法です。血液迂回路の作成には、大伏在静脈など手足に走行している静脈や人工血管グラフトを使用します。

外科的なバイパス手術は基本的に全身麻酔下で実施されますので身体への負担は血管内治療と比較しても大きいといえます。しかし、治療終了後の血流改善効果は甚大であり、自家血管や人工血管グラフトが再狭窄する可能性は低率であると考えられています。

いずれにしても、個々のケースで病変の状態は異なりますので、主治医と相談して最適な治療方法を選択することが大切です。

まとめ

末梢動脈疾患という病気は動脈硬化が進行して主に下肢や足先にかけてさまざまな症状を呈することが知られており、「1度」から「4度」までの症状の重症度分類が広く用いられています。

1度では足が冷たくてしびれる、足の皮膚表面が青白くなる、2度になれば少し歩くと足が痛くなり休息すると疼痛症状が軽快する、3度では安静にしていても足が痛む、そして4度になると足部に潰瘍や壊死が引き起こされるという具合に症状が進展していきます。

病状の進行度や治療目標に応じて薬物療法や血行再建術などの治療が行われます。

末梢動脈疾患の背景には動脈硬化、メタボリック・シンドローム、心臓や脳血管に関する血行障害などが認められます。この病気を早期に発見して適切に治療することは、元気な生活を取り戻すことにつながります。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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