帯状疱疹とヘルペスの違いと、水疱瘡との関係
帯状疱疹という病気があります。皮膚にブツブツが帯状にでき、比較的強い痛みを伴います。治癒後にも痛みや皮疹が残ることが多く、なかなかやっかいな病気です。
帯状疱疹の原因は「水痘・帯状疱疹ウイルス」というウイルスです。ヘルペスや水疱瘡(みずぼうそう)との違いは何?と疑問に思われている方もいらっしゃることでしょう。
ここでは帯状疱疹を取り上げ、原因となるウイルスや、発症の仕方について解説していきましょう。
目次
ヘルペスウイルスと帯状疱疹の関係は?
ヘルペスウイルス科には9種類のウイルスがあります。その中でも一般に「ヘルペス」と呼ばれる、皮膚症状を引き起こすウイルスは主に2種類で、単純ヘルペスウイルスと水痘・帯状疱疹ウイルスです。
単純ヘルペスウイルスは口唇ヘルペスや性器ヘルペスを引き起こします。病変部に触れることで他の人に移ることもあります。発症すると、口唇や性器といった感染した部位にちいさな水ぶくれを作ります。触ると痛いのが特徴です。
一度感染すると完全に体内からいなくならないことが多く、疲れたときやストレスを受けたときなどに再発を繰り返すことがあります。
次に水痘・帯状疱疹ウイルスは、水疱瘡や帯状疱疹を引き起こします。
この他にもヘルペスウイルスにはEBウイルス、サイトメガロウイルスなどがあり、いずれも人に感染し症状を引き起こし、風邪のような症状や血液の病気を引き起こすなどさまざまな特徴を持っています。
帯状疱疹とは原因が異なる単純ヘルペス
帯状疱疹のように水疱ができる病気として、単純ヘルペスによるものがあります。帯状疱疹と単純ヘルペスはどのように違うのでしょうか。
単純ヘルペスには1型と2型がある
単純ヘルペスも、帯状疱疹も、ヘルペスウイルスという種類のウイルスによって起こってくる感染症です。人に感染するヘルペスウイルスには、現在8種類が確認されています。それぞれ学名としてHHV-1、HHV-2という風に、番号がつけられています。
HHV-1は単純ヘルペスウイルスの1型と呼ばれるものです。同じようにHHV-2が単純ヘルペスウイルスの2型になります。HHV-3が帯状疱疹ウイルスになります。他にはEBウイルスや、サイトメガロウイルスなどがヘルペスウイルスに分類されています
ヘルペスウイルスの特徴としては体に感染した後、一度は症状が良くなりますが、その後も体の中に潜伏して色々な症状を起こしてくることがあるということにあります。帯状疱疹もそうであるように、単純ヘルペスウイルスは体の中に潜むため、再発を繰り返すというのが特徴です。
単純ヘルペスの1型と2型は、それぞれ感染する場所に特徴があります。単純ヘルペス1型は主に口の周りに感染するものです。潜伏する神経としては、三叉神経となります。一方で、単純ヘルペス2型は、性器周辺に感染を起こしてきます。こちらは腰仙髄神経節に感染をして潜伏します。
1型の感染は、何らかの接触による感染による接触感染です。20代までに、約半数が感染すると言われています。一方で2型は、ほとんどが性行為によって感染します。
症状の特徴は?
単純ヘルペス1型の場合には、初感染の時には歯肉や口内炎の症状が出てきます。口腔内などに水泡や潰瘍ができてきます。潜伏していたものが再度発症してくるような場合には、唇などに水泡や潰瘍ができます。これを口唇ヘルペスと言います。
免疫状態が悪く、ウイルスの活性化の度合いが非常に強い場合には、角膜炎や脳炎を起こすことがあります。非常に重篤化することもあるので、注意が必要です。
単純ヘルペス2型の場合には、性器ヘルペスを起こします。外陰部に強い疼痛を伴った水疱や潰瘍ができるのが特徴です。ウイルスが再活性化した時にも同じような症状が出てきます。
なお単純ヘルペス1型で性器ヘルペスの症状が出ることもあります。ただし、潜伏部位が違いますので初感染の時だけ症状が出て、再び出ることはありません。
再燃や感染のリスクは?
前述のように、単純ヘルペスウイルス1型も2型も、神経に潜伏して、体の中にずっと潜んでいます。疲労や何らかの原因で免疫状態が悪くなった時には、ウイルスの活動性に免疫が負けてしまい、症状が出てくることがあるのです。
そのような症状が出た時にも、免疫が活性化されて、しばらくすれば症状は落ち着いてきます。しかしそれでも、体の中に潜んだ状態はずっと続きますので、免疫が弱くなるたびに症状が再び出るということを繰り返します。
他の人に移すリスクは、単純ヘルペスウイルス1型については症状が出ていない時にはほとんど心配ありません。症状が出ている時には水疱の中にウイルスが存在していますから、水疱が破れることによって他の人にうつることがあります。単純ヘルペス2型については性行為で感染します。
帯状疱疹と水疱瘡の違いは?
帯状疱疹も水疱瘡(水痘ともいいます)も、水痘・帯状疱疹ウイルスという同じウイルスが引き起こします。このウイルスに初めて感染すると水疱瘡を発症します。
以前は、これまで感染したことがない子どもに発症することが多かったのですが、近年ではワクチンの普及により激減しています。
水痘・帯状疱疹ウイルスがやっかいなのは、一度感染すると症状が治まった後もウイルスが体の中に残り続けることです。
日本人の約9割が水痘・帯状疱疹ウイルスを体内にもっていると言われています。このウイルスが再度活性化すると、帯状疱疹を発症します。
ウイルスの働き方で異なる症状
帯状疱疹も水疱瘡も原因となるのは同じウイルスですが、症状が出るときのウイルスの働きは全く異なります。
過去に一度もウイルスに感染したことのない人は、ウイルスが口から入ってくることで水疱瘡を発症します。水疱瘡を発症している人がくしゃみや咳をするとウイルスが空気中にばらまかれ、人に感染します。
ウイルスが口から気道に侵入すると、のどやリンパ節で増殖したあと、血液中に漂い始めます。血流に乗って肝臓や脾臓に届いたウイルスは、そこでさらに増殖し、血液中のウイルスの数が増加します。すると、皮膚に大量のウイルスが届くことで皮疹が出現するのです。
のどで増殖したウイルスは咳やくしゃみで体外に排泄されますから、そのウイルスを口から取り込んだ人に感染するのです。
やがてウイルスは感染した人の免疫によって駆逐され、水疱瘡の症状は落ち着きます。しかし、ウイルスは免疫の影響を受けにくい細胞の中にとどまり、一生体内に残り続けます。
このようにして体内に残り続けたウイルスが、何らかの原因で再度増殖を始めることで、皮疹が出現するのが帯状疱疹なのです。
この場合、血液中にはあまりウイルスが出現しませんし、肺やのどにも出現しませんから、帯状疱疹の際の症状は皮疹と疼痛のみで、風邪のような咳やくしゃみの症状は出現しません。
発症する年齢の違い
水疱瘡を発症することが多いのは子どもです。ごく稀に、一度も水疱瘡を発症したことがなく、ワクチンも接種していない大人でも感染することがあり、その場合肺炎や脳炎など重症になることがあるので注意が必要です。
一方、帯状疱疹は若年で発症することもありますが、多くは50歳以上の中高年者に発症します。帯状疱疹患者の約7割が50歳以上と言われています。
うつりやすさの違い
水痘・帯状疱疹ウイルスの感染力は水疱瘡と帯状疱疹では大きく異なります。
水疱瘡の場合、感染者の咳やくしゃみによって感染します。空気中に排泄されるウイルスの感染力はかなり強く、集団感染を引き起こすこともありますから、皮疹が出現した場合には保育園や幼稚園などの登園は禁止となります。
一方で、帯状疱疹は後述の通り神経と皮膚の感染症ですので、咳やくしゃみで体外に排泄されることはなく、他人に感染するケースは少ないです。ただし、水ぶくれの中にはウイルスが存在しますから、まだ水疱瘡に感染したことがなく免疫力が弱い子どもや、免疫力が低下した老人などには稀に感染することがあるので注意が必要です。
帯状疱疹はどのように発症するのか?
帯状疱疹と水疱瘡の違いや関係について一通り説明を終えたので、ここで一度、帯状疱疹がどのように発症するのか整理しておきましょう。
ウイルスの侵入
初回感染で体の中に侵入した水痘・帯状疱疹ウイルスは、増殖して血液中を漂い、皮疹を来します。その後、感染者の免疫によって徐々に消失し、血液中からウイルスはいなくなります。
神経の細胞の中にウイルスがとどまる
しかし、免疫システムが届きにくい神経細胞の中にウイルスは入り込み、細胞の中で粛々と生き延びているのです。皮膚の感覚を伝える神経は、脊髄や脳神経の近くに細胞があり、そこから神経線維を伸ばす構造をしています。ウイルスはそのような感覚を伝える神経の細胞の中によくとどまっているのです。
免疫力の低下による症状の出現
通常の免疫が保たれている体であれば、ウイルスが増殖しようとしても免疫によって増殖が阻害されるため、症状が出現することはありません。
しかし、何らかの理由で免疫力が低下した場合、ウイルスの増殖を抑える事ができなくなり、ウイルスが増加します。神経細胞の中で増殖したウイルスは、神経線維に沿って広がりを見せます。そしてその広がりに沿って、痛みを感じ、また皮疹を出現させるのです。
感覚を伝える神経は、脊髄から出たあと体の後ろの方から前の方へ体表に沿って進みます。各脊髄の高さから平行に何本も並んで神経が走行しています。胸部では肋骨に沿って、腹部でも同じように並んで神経は走行しています。
そのため、その神経線維に沿ってウイルスが伝搬すると、神経の走行通り帯状に痛みと皮疹が続くのです。
顔面も同じように感覚神経がそれぞれの場所を支配していますから、支配領域に沿って皮疹と疼痛を認めます。この際に神経線維を傷害するため、皮疹が出る前に痛みを感じることもありますし、また帯状疱疹の皮疹が落ち着いた後も後遺症として神経痛が残る場合があるのです。
全ての場合に当てはまる訳ではないですが、神経細胞から徐々に線維を伝って広がっていくため、背中からだんだんと皮疹と痛みが広がってくる場合もあります。
加齢、ストレス、疲労が発症のきっかけに
帯状疱疹の発症につながる免疫力の低下は、重篤な病気だけではなく加齢や強いストレス、疲労などでも起こりえます。
「最近どうも調子が悪い……」というときに、何かブツブツができてきた場合は、帯状疱疹を疑う必要があります。
特に帯状疱疹は、早期に治療を行わないと後遺症となる神経痛が残る可能性が高くなります。おや?と思ったら、すぐに専門医を受診するようにしましょう。