動脈硬化の危険因子と、発症リスクが高まる病気の種類

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血管の状態が悪くなり、全身に十分な血液を送れなくなる動脈硬化。

動脈硬化を引き起こしたり、悪化させたりする危険因子があることをご存知でしょうか。

ここでは動脈硬化の危険因子と、動脈硬化によって発症リスクが高まる病気について詳しく解説します。

動脈硬化とは

動脈硬化は、動脈の血管が硬くなって弾力性が失われた状態を指します。

正常な動脈血管は、心臓から送り出される血液を介して酸素や栄養素を運ぶ重要な役割を持っています。通常であれば血管には弾力性がありますが、老化やさまざまな危険因子の影響で硬くなってしまうのが動脈硬化です。

動脈硬化になった血管では、血管の内側にコレステロールなどの粥腫が付着して血管が狭くなり、血液の流れが悪くなります。動脈硬化はさまざまな病気の原因になります。

動脈硬化の危険因子

動脈硬化の危険因子には肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症があります。

肥満

肥満は生活習慣病や動脈硬化のリスクファクターです。

肥満症とは、身体に過剰な脂質が蓄積している状態のことです。脂質の蓄積が引き金の一つとなって、身体の末梢組織に膵臓から分泌されるインスリンの抵抗性を誘発します。インスリン抵抗性になると、食後の血糖値を処理しにくくなる耐糖能障害が現れます。

日本肥満学会による肥満症の診断基準ではBMI(Body mass index)が25を超える場合に「肥満」としています。

糖尿病

糖尿病は血糖を一定の範囲におさめる働きを担っているインスリンが十分に働かず、血中のブドウ糖が増加する病気です。糖尿病は現代の疫病ともいわれ、糖尿病予備軍まで含めると全人口の約3割程度が発症していると考えられています。

血糖値が高い状態が続くと、血液中に多量に存在するブドウ糖が血管の壁を傷つけて動脈硬化が進行します。

動脈硬化が進行すると、目や腎臓、神経領域にも十分な血液が供給されにくくなり、網膜症、腎機能傷害、末梢神経障害という、いわゆる糖尿病の三大合併症を引き起こすことが知られています。

高血圧

高血圧症が長期的に持続することで動脈硬化が進行します。

軽度の高血圧であれば無症状で経過することも少なくないために放置される傾向があります。ただし、高血圧の状態を放置して動脈硬化が悪化すると、後に見るように脳卒中や心疾患などの病気を発症させる引き金となります。

脂質異常症

脂質異常症とは、血液中に存在する脂肪分が多すぎる、あるいはその逆に少なすぎる状態を指します。

以前は高脂血症と呼ばれていましたが、2007年に日本動脈硬化学会が診断名を「脂質異常症」に修正した経緯があります。

脂質異常症の多くは、不規則な生活習慣によって起こると言われており、運動不足、油物などを過剰に摂取する偏った食事、肥満体形などが主たる原因とされています。

脂質異常症の中でも要注意だと認識されているのが、高LDLコレステロール血症、高トリグリセライド血症、低HDLコレステロール血症です。

動脈硬化で発症リスクが高まる病気の種類

動脈硬化によって発症リスクが高まる病気があります。心臓の病気、脳の病気、大動脈・末梢動脈の病気について代表的なものを紹介します。

心臓の病気

動脈硬化が原因で発症率が高まる心臓病の一つとして心不全が挙げられます。

心不全とは心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって生命を脅かす病気です。

心不全の病状が進行して体の中で血液が滞るうっ血状態が進むと、呼吸が苦しくて横になって眠れない起坐呼吸といった危険な容態になることもあります。

心不全は生活習慣病に関連する動脈硬化によって引き起こされることがあるので、普段から食生活や運動習慣に気を配り、疲れやストレスをためない生活を意識して続けていくことが大切です。

脳の病気

脳梗塞の主な危険因子は高血圧、糖尿病、脂質異常症などであり、動脈硬化と密接に関連しています。

脳の血管が閉塞して詰まってしまうと、その先に存在する脳細胞へ血液が流れなくなって脳細胞が死滅し、脳梗塞につながります。脳梗塞においては、脳に酸素や栄養を送っている血管の血行不良により、神経細胞が死滅してさまざまな症状をきたします。

大動脈・末梢動脈の病気

大動脈解離は、通常3層で成り立っている大動脈の内膜が裂け、中膜の隙間に血液が流入して血管が縦方向に剥がれるように裂けていく病気です。

大動脈解離は動脈硬化が進行しやすい高齢層の罹患率が多いと言われています。大動脈解離は大動脈に加わるストレスの大きさと大動脈壁の強度とのバランスが崩れることによって発症すると考えられています。

また、動脈硬化が進行して下肢の血管が狭くなることによって引き起こされる血管病として閉塞性動脈硬化症が挙げられます。この病気では、特に下肢の中でも足の血管が障害されることが多く、血流障害によって歩行障害や足の痛みといった症状が生じます。

閉塞性動脈硬化症は主に50歳以上の男性が発症しやすいと考えられています。糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満、喫煙習慣などは閉塞性動脈硬化症を発症させるリスク因子となります。

まとめ

動脈硬化は喫煙や運動不足などが重なることで発症し、肥満、高血圧、脂質異常、糖尿病などの危険因子によって病状は進行します。

動脈硬化は自覚症状なく進行することが多く、心不全、脳梗塞を始めとする脳卒中、大動脈や末梢動脈における血管病といったさまざまな病気を引き起こすリスクが高くなることを知っておきましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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