喘息の種類と違い…咳喘息・気管支喘息・小児喘息・成人喘息

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季節の変わり目に咳が多くなる方は多いと思います。喘息は咳を伴う代表的な病気のひとつです。

喘息にはさまざまな種類があり、発症のメカニズムや発症しやすい人の傾向も異なります。ここでは喘息の種類とそれぞれの特徴について解説します。

喘息とは

喘息とは、空気の通り道である気管が炎症などによって狭窄することで咳や呼吸困難をきたす病気です。

人の気道はもともと異物が侵入した場合には咳でそれを排出しようという機能が備わっています。例えば水を吸い込んでしまった場合も、むせて咳き込みます。しかし一方で、通常であれば花粉やちいさな微粒子などは少し吸い込んでも咳き込むことはありません。ある程度の小さい物質であれば咳は出なくて済んでいるのです。

しかし、喘息の患者の場合何らかの原因で気道に炎症が慢性的に起こっていることがほとんどです。炎症が長く続くと気道過敏性が亢進します。すなわち、気道に何らかの物質が付着した際に起こる反応が、非常にちいさな物質でも起こってしまうのです。

気道過敏性が亢進して咳が止まらなくなる

喘息に限らず普通の気管支炎などでも同様の反応は起こります。気管支炎の際も、気管の炎症によって気道の過敏性が亢進し、咳が出ます。さらに、咳自体が刺激になり、咳が咳を呼ぶような状態となり、止まらない咳が続きます。

実は私も喘息をもっているのですが、花粉が飛び交う時期はのどの奥の方がチリチリするような刺激があり、何かの拍子に咳が出ると、咳が止まりません。咳でのどが痛くなってくるとその痛みのせいでさらに咳が出るような状態です。

単なる感染症による気管支炎でも炎症によって気道過敏性が亢進し、咳が止まらなくなることはあります。しかし喘息の場合はその炎症が慢性的に起こってしまうため、常日頃から咳が出てしまいます。さらに問題となるのは、炎症や咳が慢性的に起こると、気道自体がだんだんと変性し、狭く、固くなってきてしまうことです。

気道の狭窄で呼吸困難をきたすことも

炎症の際には気管の粘膜に浮腫が起こり、気管が狭くなります。そのため、息苦しさを感じてきます。ただし、普通の気管支であれば少し炎症が起こったぐらいでは呼吸苦をきたすことは稀です。

しかし気道が慢性炎症によって変性し、狭くなっている場合、そこに炎症が起こって粘膜が浮腫になると呼吸困難をきたすほどの気道の狭さになってしまいます。

この呼吸苦の特徴は、息を吐くことが難しいという呼吸苦です。実は人は肺を広げる力は強いのですが、肺をしぼめる力が弱いため、気道が狭窄してしまうと息を吐くことが困難になります。もちろん、気道の狭窄が進むと吸うことすら困難になります。

細いストローを口にくわえて呼吸することを想像してみてください。喘息の発作は、そのような息苦しさを伴います。

アトピー型喘息と非アトピー型喘息

喘息は気道に慢性に炎症が起こることによって引き起こされます。その原因はさまざまです。喘息は原因の違いによって分類されます。最初にアトピー型喘息と非アトピー型喘息の分類について見てみましょう。

アトピー型喘息

アトピー型喘息は、アレルギーが関与するとされる喘息です。吸入し、気管に入ってきたアレルゲン(花粉やダニ、ハウスダストなどが多いです)に対して免疫が反応し、炎症が起こります。

専門的な話になりますが、アレルギーの分類としてはIgEと呼ばれる抗体が関与するⅠ型アレルギーに分類されるアレルギーになります。

多くの場合、同じアレルゲンに対するアレルゲン反応は体の他の部分でも起こります。例えば花粉による喘息であれば、いわゆる花粉症の症状である鼻水やくしゃみ、目のかゆみなどに咳をはじめとした喘息の症状が合併してくることになります。

抗原に暴露せずに済むのであれば症状は比較的抑えられるのですが、花粉やハウスダストを完全に除去するのは難しく、季節毎に苦しい症状に悩まされます。

非アトピー型喘息

非アトピー型喘息はアトピー型喘息と違い、アレルギー反応ではない原因によって気道に炎症が起こり喘息を来します。もちろん、普通の人でもなり得るのですが、もともと気道過敏性が強い人はよりなりやすいといえるでしょう。俗に言う「気管が弱い」人が喘息になりやすい人といえるかもしれません。

非アトピー型喘息は、ウイルス感染やストレス、喫煙などの刺激が気道粘膜にかかることで炎症を引き起こします。気候の変化もストレスとなり気道に対する刺激になって喘息を引き起こします。

特徴的なのは肥満患者に非アトピー型喘息が多いということです。主にBMIが25を超える場合とされていますが、肥満の場合は気道が脂肪によって狭くなっていることが多く、炎症による気道狭窄が少しでも進むと喘息の症状が出現してくるほか、脂肪細胞が分泌するホルモンが炎症をより強くすることが分かっており、気道の炎症をさらに増悪させます。

喫煙による影響は非常に大きく、煙に含まれるさまざまな物質が気道粘膜の炎症を引き起こすほか、異物を外部に除去する線毛という器官の働きを弱め、異物が除去されずにとどまることで炎症が進行します。

喘息の治療において、肥満の改善と禁煙は非常に重要なファクターとなります。

咳喘息と気管支喘息

咳喘息という病気があります。これは、気管支喘息のように気管支が狭窄して呼吸困難の症状が出現する状態にはないですが、何らかの刺激を誘因として咳が止まらなくなってしまう状態です。

このような状態は、気道過敏性が亢進していることによって起こります。つまり、普通では特に咳を起こすようなものではないような刺激でも気道が過敏に反応して咳が引き起こされてしまいます。

このとき気道では炎症が起こっていますから、気管支喘息と同様の状態です。炎症が長引けば気道粘膜の変性が起こり、狭窄が進んできますから気管支喘息へと進行していきます。

すなわち、咳喘息は気管支喘息の初期症状と考えられます。

咳喘息の状態でしっかりと炎症を抑える治療をすれば気道の変性を予防したり、遅らせたりすることが可能ですから、たかが咳だけだと思わず、しっかりと治療を行うことが肝要です。

小児喘息と成人喘息

喘息を発症した年代によって、小児喘息と成人喘息に分かれます。なぜこのように分類するかというと、小児の場合は肺や気管はまだ成長の過程にあり、成長に伴って喘息が治まってくる可能性があるからです。反対に、成人喘息は完治に至ることは少なく、治療に難渋することが多くなります。

小児喘息の特徴

小児喘息は、2~3歳までに6~7割が、6歳までに8割以上が発症するとされています。家族にアレルギー体質の人がいると高い確率で発症し、アトピー性皮膚炎や他のアレルギー疾患を合併するケースが目立ちます。

小児はもともとの気管が狭いため、少しの炎症で気管の狭窄が強くなり、呼吸苦症状が強くなることが多くなります。発症早期からの治療が必要です。

小児喘息の約7割は成長とともに症状が軽快してきます。肺や気管の成熟に伴うものですが、アレルギー素因は体の中に持ち続けるので、ストレスやアレルゲンへの大量暴露によって再度症状をきたすことがあります。

成人喘息

成人の喘息は非アトピー型喘息が多くなります。一部は小児喘息が再発したアトピー型です。他には、小児の頃には喘息として認知されなかったほど軽度の喘息だったものが、抗原への大量暴露によって成人で顕現化するケースもあります。

非アトピー型喘息が多くなりますから、抗原がはっきりするわけではなく、症状が慢性的に続くことが多くなり、治療が難しくなります。

アスピリン喘息

アスピリン喘息は気管支喘息とは違い、アレルギー的機序で発症するものではありません。アスピリンは薬の一種で鎮痛薬として市販されています。このアスピリンに限らず、鎮痛薬として市販されている薬によってアスピリン喘息は起こってきます。

アスピリン喘息を起こす市販薬は、NSAIDs(エヌセイズ)と呼ばれる鎮痛薬の種類です。NSAIDsは非ステロイド性解熱鎮痛薬の略です。ステロイド系の薬剤ではなく、炎症を抑えることによって痛みを抑え、熱を下げる効果があります。

NSAIDsは、身体の中でシクロオキシゲナーゼという酵素を阻害します。シクロオキシゲナーゼというのはアラキドン酸という物質からプロスタグランジンという物質を合成するときに使用される酵素です。

プロスタグランジンが増加する事によって炎症が起こり、痛みが起こってきたり、熱が出たりします。シクロオキシゲナーゼの阻害によってプロスタグランジンの合成が減少する事によって炎症反応が抑えられ、痛みが抑えられます。

しかし、アラキドン酸から合成されているのはプロスタグランジンだけではありません。ロイコトリエンという物質も合成されます。平常時は、アラキドン酸からプロスタグランジンもロイコトリエンも同じように合成されています。しかしNSAIDsが投与されるとプロスタグランジンの合成が減少し、ロイコトリエンの合成が代わりに増加してきます。

ロイコトリエンが増加すると気道粘膜に作用します。気道粘膜に浮腫が起こってきて、平滑筋が収縮します。これによって気管や気管支が狭くなり、喘息発作が起こってくるのです。

喘息を持っている人の中でも重症喘息の場合に多く、慢性副鼻腔炎や鼻茸といったものを合併することが多いのも特徴です。

成人の喘息のうち10%はこのアスピリン喘息と言われています。喘息の患者さんの場合はNSAIDsの使用に慎重にならなくてはなりません。

運動誘発喘息

ウォーキング中に息切れをおこした女性

運動誘発喘息は運動によって喘息発作が誘発される事を言います。

基本的には運動を始めて数分で発症し、運動を中止すると30分ほどで回復するのが特徴です。一方で、運動を行った後6~12時間後に起こってくる遅延型と呼ばれるものもあります。

運動の種類や持続時間、気温と湿度などによっても違いますが、気道が過敏になっているとき、喘息のコントロールができていないときに起こるのが特徴です。

独立した病気と言うよりは、一般的な気管支喘息の中でもコントロールが不十分なときに、体へのストレスによって発作が起こってくるものと考えてよいでしょう。

運動誘発性喘息を起こしやすい運動と起こしにくい運動があります。起こしやすい運動はマラソンやサッカー、ラグビーなど屋外で行い、激しく、持久力が必要なものです。起こしにくい運動は剣道や水泳などのように屋内で行い、持久力をそこまで必要としないものです。

季節は冬に起こりやすいです。冷たい空気が気道に入ってくることが刺激となり、喘息発作を引き起こします。

妊婦の喘息

通常、女性は月経前には喘息が増悪しますが、妊娠出産でも影響が出ることが多いです。

もともと妊婦さんは、赤ちゃんによって肺が圧迫されるため、呼吸回数をやや増やして対応しています。このような場合、低酸素になった時の予備力が低いと言えます。

そのようなときに喘息発作が起こると低酸素になる可能性が高く、また妊娠中の低酸素は赤ちゃんに影響して早産や低体重、先天性異常のリスクを上昇させることが知られています。そのため、妊娠中の喘息のコントロールは通常以上に気をつけなければいけないのです。

喘息が最もコントロール不良になるのは妊娠24~36週と言われています。その後落ち着いていき、出産後は出産前と同じようになりますが、次の妊娠の時には再び同じような経過になる可能性があります。

その他の喘息

基本的には喘息とは区別されますが、心不全や腎不全によって喘息のような症状をきたすことがあります。心不全や腎不全が起こると、肺の中に水分がしみ出してきます。この水分によって、空気の通り道が邪魔されることで喘息と同じような症状が出ることがあり、心臓喘息と呼ばれます。

心臓喘息は気管支の問題ではありませんから、心臓や腎臓の治療を行っていくことになります。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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