うっ血性心不全の症状の特徴は?原因となる疾患と治療法

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心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を果たすために四六時中、休むことなく働き続けています。

急性うっ血性心不全とは、心臓が悪いために、身体中に水分がうっ滞して急激に息切れやむくみが起こり、だんだん症状が悪くなって命の危機に直結する病気です。

ここでは急性うっ血性心不全の症状の特徴や原因となる疾患、治療法について解説します。

うっ血性心不全の症状

心臓には、全身の筋肉や臓器に血液を送るポンプとしての機能があります。肺で酸素を受け取った血液を心臓から全身に送り、さらに全身を巡った血液を心臓に戻して再び肺に送ります。

このポンプ機能が何らかの原因でうまく働かず、体に様々な症状をもたらす状態を「心不全」といいます。

さらに、この心不全が突然起こる、あるいは症状が急激に悪化するのが「急性心不全」と呼ばれる状態であり、急性心不全は心筋梗塞などの病気が引き金となり、ポンプ機能が急速に低下して息苦しさや動悸、食欲不振、むくみなどの症状をもたらします。

心不全の初期の段階では、夜間にトイレに起きるようになります。

これは、日中に四肢で滞留していた血液が、横になって休むことで胴体に戻って腎臓の血流が増加し活発になるためです。

心不全が進行して重症化すると、就寝時にも息苦しさを感じますし、上半身を起こすと呼吸が楽になる「起坐呼吸」の症状が現れることもありますし、激しい咳やピンク色の痰、胸の痛みがでることもあります。

心臓は中隔(ちゅうかく)と呼ばれる壁で左右に分かれており、左側に心不全が起こる「左心不全」と、右側に心不全が起こる「右心不全」で症状が異なります。主なものでは動悸、息切れ、食欲不振、むくみ、体重増加などが代表的な症状です。

左心不全の症状

左心不全の場合、初期では運動時に息切れや動悸、疲労感などがあらわれて、重症化すると、夜間に呼吸困難や起坐呼吸(頭を高くしないと息苦しくて眠れない)などを生じ、さらに安静時でも動悸や息苦しさを伴います。

左心不全になると肺から送られてきた血液が心臓内に溜まる「うっ血」が生じ、そのうっ血はやがて肺にも及び、肺でのガス交換がうまく行なわれなくなり、息切れや呼吸困難などの症状があらわれます。

右心不全の症状

右心不全では、食欲不振、便秘、悪心、嘔吐、腹部の膨満感、手足のむくみ、体重増加などの症状が特徴的です。

右心には全身を巡ってきた血液を肺に送る働きがありますが、右心不全で機能が低下すると全身の血液が戻りにくくなり、このような症状があらわれます。

さらに、心臓から送り出す血液量が不足すると疲労感や脱力感、手足の冷え、尿量の減少、記憶力・集中力の低下などの症状が起こりやすくなります。

うっ血性心不全の重症度の違い

うっ血性心不全の重症度の分類には、身体所見に基づいたNYHA(New York Heart Association:ニューヨーク心臓協会)作成のものが広く用いられ、I度~IV度に分けられます。

I度では、心疾患はあるが、身体活動に制限はなく、日常的な身体活動では、著しい疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じない場合です。

II度は、軽度ないし中等度の身体活動の制限がありますが、安静時には症状は出ずに、日常的な身体活動で疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じるレベルです。

III度においては、高度な身体活動の制限がありますが、安静時には症状は出ず、通常以下の身体活動で疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じる場合が該当します。

IV度は、心疾患のため、いかなる身体活動も制限され、安静時にも心不全症状や狭心痛があり、わずかな労作でこれらの症状が増悪する状態を意味しています。

急性うっ血性心不全の原因となる疾患

急性うっ血性心不全は、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、そして糖尿病や脂質異常症、高血圧といったいわゆる生活習慣病全体によって心腔内に血液を充満させ、それを駆出するという心臓のあるべき機能に障害が生じた結果、さまざまな症状を呈します。

また、心臓のそれぞれの部屋を分けている逆流防止弁が障害される弁膜症、心臓の筋肉に異常が起こる心筋症、そして拍動のリズムが異常になる不整脈などさまざまな疾患も急性うっ血性心不全を引き起こす原因として知られています。

慢性的な基礎疾患などによって、長期間かけて心臓に負担がかかったことで心臓の働きが低下するので、規則正しい生活を送って心不全の原因となる生活習慣病を制御することが、心不全の予防につながると考えられます。

虚血性心疾患

虚血性心疾患とは、高血圧や糖尿病、肥満などによって心筋を養う冠動脈が狭くなる、あるいは閉塞することで心臓の血流障害を起こす病気であり、主に狭心症と急性心筋梗塞に分類されます。

狭心症は、冠動脈の内側に微小な血栓やコレステロール成分が貯留することで血管の内径が狭くなって血液の流れが悪くなることで心臓に十分な栄養分を供給できなくなることで胸痛症状や胸の圧迫感が出現します。

急性心筋梗塞は、心臓を養う冠動脈という血管が突然ふさがり、冠動脈疾患を起こすことによって心筋の一部への血液供給が大きく減少し遮断されることで発症します。生命に必須である心臓への血液供給が中断されると、心臓の横紋筋の筋組織が壊死します。

弁膜症

心臓弁膜症とは、左心室・左心房・右心室・右心房の4部位に分かれた心臓の部屋を区切る役割を担っている4つの弁組織に異常が生じて正常に機能しなくなる病気のことです。

基本的に、心臓には4つの弁が存在しており、右心房と右心室を隔てている三尖弁、右心室と肺動脈を隔てている肺動脈弁、左心房と左心室を隔てている僧帽弁、左心室と大動脈を隔てている大動脈弁が挙げられます。

これらの弁は、血液が流れる際に開いて、血液が流入し終わると血液の逆流を防ぐために閉じる仕組みになっていますが、加齢に伴う変性や石灰化などが原因となって弁の機能が低下すると正常に開閉ができなくなり、心臓弁膜症を発症することになります。

心臓弁膜症を発症すると心臓に過度な負担がかかりやすくなるため、心臓の機能は徐々に低下していき、急性うっ血性心不全を始めとして全身に多彩な症状を呈するようになります。

不整脈

不整脈とは心臓の脈拍が正常とは異なるタイミングで起きるようになった状態です。脈が速くなる頻脈性不整脈、また脈が遅くなる徐脈性不整脈、そして頻度的に最も多く予期しないタイミングで脈が生じる期外収縮などがあります。

不整脈の種類や症状はさまざまであり、中には緊急性はなく放置してもあまり問題にならないタイプがある反面、突然死を起こすなど命に直結する不整脈も存在します。

危険な不整脈になると、脳への血流が不十分となり、失神やふらつきを起こすことがありますし、不整脈により心臓が十分量の血液を全身へと供給できなくなれば息切れや呼吸困難などの急性うっ血性心不全の症状が出現することも考えられます。

心筋症

心筋症とは、心臓の筋肉に異常が起こって、心臓のポンプ機能が阻害されることによって心臓本来の働きである全身へ血液を送るポンプ機能が低下する病気であり、その発症原因はウイルス感染やアルコールの過剰摂取、コカインや抗がん剤などの薬物です。

心臓は収縮や拡張を繰り返すことでポンプ機能を発揮しますが、心筋症は心筋そのものの異常に伴って、収縮・拡張運動機能が低下して急性うっ血性心不全を呈する可能性がある疾患です。形態学的な変化や原因などに応じていくつかのタイプに分類されています。

その背景や重症度によって症状の出現様式や治療方法、臨床経過も異なるため、適切な診断を受けて、治療を実践することが重要です。

急性うっ血性心不全の治療

心臓機能のなかでも、どの働きが、どのような原因で、どの程度、急激に低下しているのかなどの要素によって、急性うっ血性心不全の種類や重症度はさまざまです。

急性うっ血性心不全は高血圧や動脈硬化などに関連している生活習慣病を長期に罹患することによって引き起こされることが多いため、普段から食生活や運動習慣を整えて、規則正しい生活を送ることが重要となります。

また、急性うっ血性心不全を引き起こす可能性を有する虚血性心疾患、弁膜症、不整脈、心筋症などの有無を適切に評価し、異常があれば適切に治療を行います。

薬物治療

薬剤を用いた薬物治療は、心不全治療の基本となります。息切れや呼吸苦などの症状を改善する、そして心不全が悪くなって入院することを回避して死亡率を下げる目的で実践します。

急性うっ血性心不全の状態になるとレニンやアンジオテンシン、アルドステロンなどのホルモンが大量に分泌されて、体内に水分とナトリウムが貯留する結果として、息切れや浮腫などの症状を呈しますので、利尿薬を使用することでうっ血を改善することを期待します。

また、左心室の収縮機能が低下することで発症する急性うっ血性心不全の場合には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、あるいは交感神経の緊張を抑えるベータ(β)遮断薬、アルドステロン拮抗薬などを活用します。

CRT(心臓再同期療法)

急性うっ血性心不全では、薬物療法以外にCRT(心臓再同期療法)や補助循環治療などの治療を行うことがあります。

CRT(心臓再同期療法)とは、心不全により心臓のポンプ機能が低下している患者さんに対して、心臓の動きが遅れたところを電気で刺激して心臓の動きを整え、ポンプ機能を改善させる治療法です。

補助循環治療

補助循環治療では、IABP(大動脈内バルーンパンピング)やPCPS(経皮的心肺補助装置)、あるいはVAD(補助人工心臓)と呼ばれる補助循環装置を使用して、一時的に心臓を休ませて機能を回復させます。

60歳以下で心不全を引き起こして、他に有効な代替治療手段がない場合には、心臓移植を検討することになります。

まとめ

急性うっ血性心不全とはどのような病気か、症状の特徴や原因となる疾患、治療法などを中心に解説してきました。

急性うっ血性心不全とは、体の中で血液が滞留したために、肺やほかの臓器などに静脈血が滞っている状態を指しており、主に息切れや動悸、激しい咳、手足のむくみ、倦怠感、夜間の頻尿、多尿などさまざまな症状が出現します。 

狭心症や急性心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患、高血圧、心臓弁膜症、不整脈、心筋症などさまざまな心臓の病気が原因となって急性うっ血性心不全が発症します。

うっ血性心不全が悪化すると命に関わることもあるため、早期発見し適切な治療が必要です。胸の痛みや激しい咳、息切れ、呼吸苦など気になる症状がある際には、循環器内科や心臓血管外科などの専門医療機関を受診しましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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