入院が必要になることも?胃潰瘍の手術について解説

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胃潰瘍は、みぞおちの痛みや吐き気を伴うことが知られています。このような症状が出るのは、ピロリ菌や非ステロイド性解熱鎮痛薬と呼ばれる薬剤などによって胃粘膜に傷がついて、さらに胃酸などの攻撃によってその傷が粘膜の下にある筋層などの深部まで達し、くぼみ状の病変が生じているためです。

胃潰瘍の検査や治療で入院が必要になるのはどのような場合でしょうか? 詳しく解説していきます。

胃潰瘍で入院するケース

胃潰瘍で入院するケースには検査のための入院と、治療のための入院があります。

検査入院

胃の具合が悪化した際に専門の消化器内科のクリニックや病院へ診察のために行くと、担当医から検査入院を指示されることがあります。検査のために入院すると病院に数日程度滞在することになります。

胃痛など腹部症状の原因となる病変や診断を確定するために、直接的に胃潰瘍の病変などがあるかどうかを確認することが重要です。胃潰瘍などの疾患が疑われるときに検査入院して胃カメラや胃透視検査、あるいは血液検査などを行うのが有益な場合があります。

治療のための入院

胃潰瘍の中でも特に腹痛がひどい、もしくは貧血などの全身症状が強いケース、潰瘍部位が大きくて出血を伴っているケースなどは、食事を摂取しないことが一番の治療になります。基本的には数日間絶食して点滴治療を行い症状の推移を経過観察します。

治療入院で行うのは、胃潰瘍の病変部から出血が認められる場合の内視鏡的処置、貧血を呈する場合の輸血や鉄剤などの投与、胃潰瘍になる原因のほとんどを占めているピロリ菌が存在する場合の除菌治療などです。

特に、黒色便を自覚している人は、胃や十二指腸などの消化管潰瘍から出血している可能性が高く、早期的に胃カメラ検査を行い、さらに貧血の程度が顕著な場合には緊急的に入院加療が必要になります。

入院が必要な胃潰瘍

入院が必要な胃潰瘍には出血性潰瘍、穿孔性潰瘍、難治性潰瘍などがあります。

出血性潰瘍

胃潰瘍で便に血が混じる場合や黒色の排便が認められる場合には、出血性潰瘍が疑われます。

出血性胃潰瘍では、潰瘍が形成された部位の血管が破れるのが主な原因であり、潰瘍からの出血が多くなればなるほど吐下血を起こして貧血による立ちくらみや動悸、息切れ症状などを自覚することにつながります。

血液自体は胃酸で酸化されると黒褐色に変色するため、吐血の場合にはコーヒー残渣様の吐物が認められ、下血する時には黒いタール便が認められます。

これらのサインは良性の胃潰瘍のみならず、悪性の胃がんに伴う潰瘍性病変でも認められる所見であるため、黒色便などの症状を自覚した際にはできるだけ早く医療機関を受診して胃を含めた消化管の粘膜状態を精密に検査することをおすすめします。

穿孔性潰瘍

胃潰瘍が進行すると、胃内部にできた潰瘍が胃壁を貫通して腹腔内に通じる穿孔性潰瘍が形成されることがあります。この場合、急に強い腹痛が生じてその症状が腹部全体に広がります。深呼吸する、姿勢を変えるだけで疼痛症状が悪化すると言われています。

穿孔を起こした患者さんは体を動かさないように横たわることが多く、診察場面では腹部の病変部に圧痛所見を認めて、疼痛部位を深く押してから急に戻すとさらに圧痛が増す反跳痛所見を呈することが知られています。

胃潰瘍が未治療で経過した場合や潰瘍の存在に気づかずに知らず知らずのうちに病状が進行するケースでは、ときとして胃壁と腹腔内に開口部が形成されて穿孔性潰瘍を呈し、胃酸や消化酵素を含んだ液体が腹部全体に広がり、腹膜炎になって重篤化することがあります。

難治性潰瘍

難治性潰瘍とはいわゆる一般的治療に抵抗する潰瘍、つまり治癒しにくい潰瘍病変のことを意味しています。

難治性潰瘍の背景には、糖尿病をはじめとする基礎疾患など創傷治癒を妨害する複雑な因子が存在する場合が多く、それらのリスクファクターを取り除きながら少しずつ病変部を改善させることが肝心です。

難治性潰瘍の主な原因としては、糖尿病に起因する末梢神経障害、動脈硬化、免疫力低下、放射線治療後皮膚潰瘍などが挙げられ、これらの背景を有するケースは難治化しやすいことが知られています。

近年では高齢化に伴う生活習慣病の罹患率上昇により、動脈硬化性疾患も増加傾向にあり、全身の組織へ十分に血液や栄養が行き届かずに虚血状態を招いて潰瘍性病変を生じやすいと考えられています。

また、膠原病などの自己免疫疾患を患っている患者さんは、ステロイドや免疫抑制剤を普段から常時内服しており、その薬剤効果によって健常者よりも免疫力が低下して潰瘍部位が難治することもあります。

胃潰瘍の手術

胃潰瘍の手術には大きく分けて開腹手術と内視鏡手術があります。

開腹手術

通常、胃潰瘍においては食事療法を含めて内科的な薬物治療などを実践しますが、潰瘍から大出血を起こす、潰瘍部が穿孔する、潰瘍に伴って幽門部が狭窄する、潰瘍病変そのものががん化する、といった場合には開腹手術を施行することがあります。

穿孔を起こして強い腹痛を訴える患者さんには迅速な手術加療が必要になります。小開腹や腹腔鏡下に穿孔部位を閉鎖して、大網と呼ばれる腹腔内の脂肪組織を使用して患部を被覆する処置を行います。

腹膜炎の状態が重篤な場合には、腹腔内部に漏れ出た食物残渣や膿をきれいに洗い流す洗浄ドレナージ術を緊急的に行います。

炎症がひどく腸管拡張など術視野の妨げになる際には開腹手術を余儀なくされるケースもありますが、近年では術後回復の早さなどを考慮して可能な限り患者さんに優しい腹腔鏡手術が実践されています。

内視鏡手術

胃潰瘍から出血している場合には、従来では緊急的に外科手術が行われていましたが、現在では上部消化管内視鏡による止血法が普及しています。

内視鏡による検査で胃潰瘍の病変部から出血が認められる、もしくは胃粘膜に露出した血管が認められる症例では、胃カメラで目視しながら出血部位をクリップと呼ばれる小さな治療用金属で縛る、あるいは出血部の露出血管を焼灼するなどの止血処置を施します。

特に、出血性胃潰瘍に対する内視鏡を用いた治療方法は、持続的な再出血イベントを抑制して、緊急手術への移行や死亡率を減少させるため有用であると考えられています。内視鏡による止血率は非常に高確率であり、身体的負担が軽く入院期間も短いといわれています。

手術後の注意点

潰瘍治療はめざましく進歩しましたが、開腹手術や内視鏡的処置が終了したのちに症状を自覚しないからといって、再度不規則な生活を送るなどして放置した場合には、症状再発することが知られています。

再発リスクを軽減するために、H2ブロッカーや胃粘膜防御因子改善薬を服用するだけでなく、最近では胃潰瘍を患ってヘリコバクター・ピロリ菌に感染していることが判明した場合には除菌療法行って潰瘍形成の抑制に努めます。

ただし、除菌治療を行っても症状再発する人が一定数いるのも事実であり、穿孔性潰瘍という重症化する合併症の発生率はいまだ減少していないため、担当医と相談しながら食事の管理や禁煙を適切に実行することが大切です。

まとめ

入院が必要になる胃潰瘍やその手術方法などを中心に解説してきました。

胃潰瘍の病変部位を評価するために上部消化管内視鏡検査の施行を目的として検査入院をすることもありますし、検査した結果潰瘍部から出血しているケースなどでは、一定期間入院治療が必要になることもあります。

胃潰瘍は多くの場合で薬物治療だけでも良好に治癒することが期待できますが、潰瘍からの出血が認められる場合や露出血管を呈する症例では内視鏡的処置が実施されます。

また、胃壁に穴が開いて穿孔を起こした例や潰瘍病変のために幽門部狭窄などを合併して食物の通りが悪くなっているケースなどでは、腹腔鏡を含めて開腹手術が必要となる場合もあります。

普段から腹痛や嘔気などを自覚している、コーヒー残渣様の吐血を認める、真っ黒な便が出て下血している場合には、すぐに医療機関を受診して診察を受けましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。


<執筆・監修>

国家公務員共済組合連合会大手前病院
救急科医長 甲斐沼孟 医師

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院を経て、令和3年より現職。
消化器外科や心臓血管外科の経験を生かし、現在は救急医学診療を中心とする地域医療に携わり、学会発表や論文執筆などの学術活動にも積極的に取り組む。
日本外科学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。
「さまざまな病気や健康の悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして微力ながら貢献できれば幸いです」

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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