横になると息苦しい起座呼吸とは?心不全が疑われる症状に注意

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「臥位になると呼吸が苦しくなる」、「夜息苦しくて眠れない」、「就寝後2~4時間ほど経過すると呼吸困難で目が覚める」といった症状は起座呼吸の可能性があります。

起座呼吸とは、心不全や気管支喘息などの病気のときに現れて、横になっていると息苦しく感じるのに、体を起こして座ると楽になる状態を指しています。ここでは起座呼吸と心不全について詳しく見ていきましょう。

横になると息苦しい起座呼吸

眠りについたと思ったら数時間後に息苦しくて目が覚め、体を起こすと呼吸が楽になるという症状がある方は、「起座呼吸(起坐呼吸)」という状態かもしれません。

起坐呼吸とは、呼吸困難が臥位で増強し、起坐位で軽減する臨床的な徴候のことです。

心臓は血液を送り出すポンプの役割を持ち、全身へ血液を送り出す左心系と、心臓へ戻ってきた血液を肺へ送り出す右心系に分かれます。

特に、左心系のポンプ機能が低下すると肺にうっ血が生じる結果、息苦しさを感じて起座呼吸という状態につながります。

起座呼吸は、主に左心不全、まれに気管支喘息や肺炎で認められ、血中BNP値などの指標と組み合わせることで心不全の診断につながります。

起坐呼吸を呈する急性心不全は、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)が90%未満であることが多く、低酸素状態を補正するためにただちに酸素療法を行うことが推奨されています。

心不全による呼吸困難の特徴のひとつに起坐呼吸があり、坐位になると静脈還流量が減少し前負荷が軽減することにより呼吸が楽になるため、心不全の患者さんが経験的にとる体勢のことを意味しています。

起座呼吸は、心不全など重大な病気のサインということがありますので、症状が現れた場合は、早めに循環器内科など専門医療機関を受診して相談する必要があります。

息苦しさと心臓の血流の関係

心臓が担うポンプ機能が何らかの原因でうまく働かず、体に様々な症状をもたらす状態を「心不全」といいます。

横になると息苦しさを自覚する起坐呼吸の主な病態は、臥位をとると右心系への静脈還流が増加し、右心系や肺を経由して左心系の前負荷が増加することによると考えられています。

特に、左室の収縮機能障害や拡張機能障害があると、心臓より手前の血流負荷が増加することによって左室充満圧が上昇し、左房圧の上昇から肺うっ血をきたして、呼吸仕事量の増大を招き起坐呼吸を生じると考えられます。

心不全は心腔内に血液を充満させ、それを駆出するという心臓のあるべき機能になんらかの障害が生じた結果、息苦しさなどの症状を呈します。

特に、左心不全になると肺から送られてきた血液が心臓内に溜まる「うっ血」が生じ、そのうっ血はやがて肺にも及んでしまう結果、肺でのガス交換がうまく行なわれなくなり、心不全に関連する症状が出現します。

肺は太い血管で心臓とつながれているため、心臓のポンプ機能が低下すると、連動して肺に血液が溜まり、うっ血状態になります。

肺がうっ血状態になって、呼吸がしにくくなる際に、体を起こして座ると心臓に戻ってくる血液量が減り、心臓への負荷が軽減することで呼吸が楽になるという仕組みになっています。

起座呼吸の原因

ルーペを持つ医師

起座呼吸の原因としては、心不全の他にも気管支喘息が挙げられます。

心不全

心不全は心筋梗塞などの病気が引き金となり、ポンプ機能が急速に低下して息苦しさや動悸、食欲不振、むくみなどの症状をもたらします。

心不全が進行して重症化すると、就寝時にも息苦しさを感じ、上半身を起こすと呼吸が楽になる起坐呼吸の症状が現れることもありますし、激しい咳やピンク色の痰、胸の痛みが出現することも考えられます。

気管支喘息

息切れの原因が肺なのか心臓なのか、簡単に見極める方法はありません。

肺と心臓は連続した臓器であり、一方が異常をきたすと他方にも大きく影響を及ぼすため身体所見も似通ったものになります。

気管支喘息のように慢性の呼吸器疾患が長期間続くと肺性心となり、肺性心自体は右心不全の病態を呈するために心不全と同様の身体所見を呈することがあります。

心不全による呼吸困難を心臓喘息とよぶことがあり、喘鳴等の症状は気管支喘息によく似ていて、両者を簡単に確実に判別するのは難しいと考えられます。

気管支喘息などの肺疾患では肺うっ血が原因ではなく、臥位で横隔膜が挙上するために十分な胸腔容積が得られず、気道分泌物の喀出が困難となるために起坐呼吸が出現すると考えられています。

他にもある心不全が疑われる症状

起座呼吸の他にも、次に挙げるような症状が当てはまる場合は心不全が疑われます。

むくみ

心不全に伴って腎臓に流れる血液が少なくなって尿の量が減り、水分が体内に貯留してくると、足の甲や下肢全体が浮腫を起こしてむくんだり、体重が短期間で数キログラム程度増加したりもします。

特に、うっ血性心不全は、体の中で血液が滞留したために、肺やほかの臓器などに静脈血が滞っている状態の心不全であり、うっ血性心不全になると、息切れや動悸、激しい咳、手足のむくみ、夜間の頻尿・多尿などの症状が現れます。

心臓は中隔(ちゅうかく)と呼ばれる壁で左右に分かれており、左側に心不全が起こる「左心不全」と、右側に心不全が起こる「右心不全」で症状が異なりますが、むくみや体重増加などが代表的な症状です。

四肢の冷え

心不全では心臓の働きが不十分であり、代償的に心臓拍出量を維持する仕組みが働いて、心臓拍出量そのものの低下は抑えられるものの、そのかわりに体のいろんな部分に負担がかかって様々な症状が出現します。

特に、右心系には全身を巡ってきた血液を肺に送る働きがありますが、右心不全で機能が低下すると全身の血液が戻りにくくなり、食欲不振、便秘、悪心、嘔吐、腹部の膨満感、手足のむくみ、体重増加などの症状が出現しやすくなります。

さらに、心臓から送り出す血液量が不足すると、疲労感や脱力感だけでなく、四肢(手足)の冷えや尿量の減少、記憶力・集中力の低下などの症状が起こりやすくなります。

だるい・疲れやすい

心不全になると、心臓から十分な血液を送り出せなくなり、体に必要な酸素や栄養が足りなくなりますので、坂道や階段の上り下りで息切れがしたり、疲れやすくなります。

特に左心不全の場合には、初期段階では運動時に息切れや動悸、疲労感などがあらわれて、重症化すると夜間に呼吸困難や起坐呼吸などを生じ、さらに安静時でも動悸や息苦しさを伴います。

まとめ

これまで横になると息苦しく感じる起座呼吸や、心不全が疑われる注意すべき症状などを中心に解説してきました。

心不全においては症状が出現するようになると、息切れや疲労感、呼吸困難感、足を中心としたむくみなどの兆候が目立つようになります。

体の中で血液が滞るうっ血状態が進むと、腹部膨満、そして呼吸が苦しくて横になって眠れない起坐呼吸といった危険な容態になることもあります。

心不全が疑われる症状に気づいた場合は循環器内科を受診して相談しましょう。

ただし、急性心不全では急激な血圧の低下によりショック状態に至るケースもありますので、そのような場合は速やかに救急車を呼んでください。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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