悪性脳腫瘍に対する手術・放射線・化学療法と新しい治療法
脳腫瘍には、他のがんのようにTNM分類やステージ分類といったものがありません。その代わり悪性度(WHO grade)で分類しています。Grade IからIVで分類され、IVがもっとも悪性度が高くなります。
ここでは悪性脳腫瘍を取り上げ、さまざまな治療法を紹介します。
目次
良性脳腫瘍と悪性脳腫瘍の違い
脳腫瘍の中で良性脳腫瘍とは、他の部位に転移することがなく、成長の速度が緩徐であり、周囲の脳との境界がはっきりしている腫瘍のことを指し、WHO grade Iのことをいいます。良性脳腫瘍は脳腫瘍の約40%程度を占め、髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腺腫などがあります。
一方、悪性脳腫瘍とは、脳そのものから発生し、WHO grade IIからIVのことを指します。急速に増大する上に、正常な組織との境界がはっきりしないため、染み込むように増殖していきます。神経膠腫(グリオーマ)や中枢神経系悪性リンパ腫などがあります。
悪性脳腫瘍の外科手術
治療を必要とする脳腫瘍のほとんどが、手術が必要となります。手術の目的は、診断の確定と腫瘍の摘出となります。
病理組織検査
脳腫瘍の種類は150以上もあり、正確な診断は、腫瘍を取り出して顕微鏡で調べる病理組織検査が必要です。この病理組織検査の結果によって、その後の治療法が決まってきます。
診断の確定だけが必要な症例もあり、そういった場合は、局所麻酔下で針生検する定位的腫瘍生検術が行われることもあります。
腫瘍の摘出
手術は、手術用の顕微鏡を用いて精密に腫瘍を摘出していきます。腫瘍の位置に応じて運動誘発電位などの術中モニタリング、神経内視鏡や手術用ナビゲーションを使用して、より安全で可能な限り損傷を与えないように腫瘍を摘出していきます。
実際に大事な機能が障害されないかどうか見るために、術中覚醒させてモニタリングしながら手術を行うこともあります。
さらに2013年からは悪性神経膠腫に対して術中に腫瘍摘出面に留置し、徐々に抗腫瘍剤BCNUを放出する脳内留置剤(ギリアデル)が使用できるようになりました。そのため、術中迅速診断で悪性神経膠腫が考えられる場合は、ギリアデルを摘出面に置くことで腫瘍再発や増大を抑えることができます。
悪性脳腫瘍に対する放射線療法の種類
基本的に悪性脳腫瘍の場合、外科的摘出術で腫瘍細胞を完全に取り除くことは困難です。そのため、ほとんどの症例で放射線治療を行います。また、再発した際なども放射線治療を行います。放射線治療には、次に紹介するようなさまざまな種類があります。
通常分割外照射
通常分割外照射は、正常組織に浸潤性に発育する神経膠腫に適応があります。腫瘍およびその周囲を広範囲照射します。通常必要総線量を20~30回に分割して照射する方法です。
分割することで正常脳組織に対する影響を最低限におさえることができます。ただし、治療日数がおよそ1か月~2か月ほどかかります。
定位放射線治療
定位放射線治療には、γナイフ、サイバーナイフ、エックスナイフが該当します。それぞれ微妙に特性は違うのですが、目的としては、腫瘍の正確な位置をコンピューターに覚え込ませて、たくさんの放射線を虫眼鏡のように腫瘍組織のみに絞って照射するというものです。
正常組織への照射の心配はありませんが、腫瘍が大きいと使用できません。また、境界が明確でないとターゲットを決められません。そのため、再発を繰り返す髄膜腫や聴神経腫瘍などの神経鞘腫、転移性脳腫瘍が適応となります。入院期間は短く、およそ3日~1週間くらいです。
強度変調放射線治療
2011年から強度変調放射線治療という最新のシステムが活用されています。これは、コンピューターで治療装置を制御し、腫瘍部分に放射線を集中して照射する新照射技術で、機能的臓器である脳の放射線障害をできる限り少なくすることが可能です。
悪性脳腫瘍に対する化学療法
日本においては2006年9月に発売された、テモゾロミド(テモダール TMZ)が主に使用されます。これは、アルキル化剤に分類される抗悪性腫瘍剤で「悪性神経膠腫」を効能効果とする新有効成分医薬品であり、日本においても「悪性神経膠腫」に対して標準的治療薬となっています。
化学療法は外科的手術の後、放射線治療と併用あるいはその後に行います。飲み薬で副作用が少ないため、外来通院で使用できます。
また脳腫瘍の血管新生を抑制し脳浮腫に対して強い効果を示すベバシズマブ(アバスチン)といった脳腫瘍以外でも治療実績のある薬剤が使用可能となりました。
こちらは、悪性神経膠腫で使用可能であり、生存期間の延長はできませんが、腫瘍の発育や周囲脳浮腫を抑えるためADL(日常生活動作)が上がります。こちらも副作用が少なく、2~3週に1回の外来での点滴となります。
腫瘍治療電場療法とは
近年、神経膠腫の治療に腫瘍治療電場療法という治療法が加わりました。これは、患者さんの頭の皮膚に電極を貼り、常時携帯できる治療装置に接続して、脳腫瘍のまわりに特殊な電場を発生させることで、腫瘍細胞が分裂するたびに壊れていくようになります。
この電場は正常な脳神経には影響しないので副作用はほとんどありません。しかし、セラミック製の板を頭皮に貼らないといけないため、剃髪する必要があります。
光線力学療法とは
光線力学療法とは、腫瘍組織や新生血管への集積性がある光感受性物質を患者さんに投与した後、組織にレーザー光を照射することによって光感受性物質と光化学反応を引き起こして、細胞を変性・壊死させるという治療法です。
この治療で使用するレーザー光は、一般的なレーザー治療に用いられる高出力のものとは異なり、出力が弱く、手をかざしてもほとんど熱さを感じない程度であり、反応が起こる範囲を光感受性物質が集積した病変部分だけにコントロールすることができます。そのため、正常組織への侵襲が少なく、病変のみを治療することが可能になっています。
いかがでしたでしょうか。脳腫瘍の治療は、以前であれば手術することしか方法がありませんでした。しかし、2006年にテモゾロミドが認可されてからは、化学療法と放射線治療を組み合わせることで生存期間が延長でき、選択肢がますます増えてきています。
それぞれの治療に特徴があり、また、使用できる施設が限られる治療法もあります。そのため、もし、ご自身もしくはご家族が悪性脳腫瘍と診断された際は、どのような治療法がよいか主治医とよく話し合ってみてください。
<執筆・監修>
九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師
高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医。