脳腫瘍が生理不順や不妊の原因になることも?下垂体腺腫の症状を解説

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不妊や、生理不順が続く、赤ちゃんがいないのに母乳が出るなどの症状で産婦人科を受診したところ、脳腫瘍が見つかることがあります。これは、下垂体腺腫といい、良性の腫瘍になります。

ここでは下垂体腺腫の症状について詳しく解説します。

ホルモンを分泌する下垂体の働き

下垂体は脳の一部で、鼻の奥にある1cmくらいの小さな器官です。下垂体は前葉と後葉にわかれ、前葉で生命の活動を維持するためにさまざまなホルモンを分泌します。

プロラクチン

妊娠中や妊娠後に女性の乳房を刺激して乳汁を分泌します。

副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)

副腎を刺激するホルモンで、コルチゾールと呼ばれるホルモンをつくります。このコルチゾールは身体中の糖類、タンパク質、脂肪の使用を制御して、身体がストレスに対応するうえで役立ちます。

成長ホルモン

身体の成長や身体中の糖類、脂肪の使用を制御するうえで役立つホルモンです。

甲状腺刺激ホルモン

甲状腺を刺激するホルモンで、成長、体温、心拍数を制御する他のホルモンをつくります。

黄体形成ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)

女性の月経や男性の精子形成を制御するホルモンです。

下垂体腺腫とは

下垂体腺腫とは、下垂体の前葉そのものに発生した腫瘍で、基本的には良性となり、時間をかけてゆっくりと増大します。20~60歳の成人に多く、脳腫瘍の中では3番目に多い腫瘍となります。

下垂体腺腫は、上記のような特定のホルモンを多く分泌する機能性腺腫と、ホルモンを分泌しない非機能性腺腫に分かれます。

機能性腺腫の症状

機能性腺腫は、特定のホルモンが過剰に産生されることでさまざまな症状を伴います。

プロラクチン産生腺腫

女性では子どもができない不妊や、月経不順や無月経、さらに妊娠していないのに乳汁が出ることがあります。男性の場合は、性欲低下やインポテンツになります。

成長ホルモン産生腺腫

小児では、標準より身長が高く、体格が大きくなります。成人でこの成長ホルモン産生腺腫になると、末端肥大症(手足の先端や額、下顎、鼻、唇、舌などが肥大する)になります。

靴や指輪のサイズが合わなくなったとか、数年前に比べて顔つきがかなり変わったということからこの病気が発見されることがあります。

副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫(クッシング病)

下垂体腺腫による副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)過剰分泌のために副腎皮質からコルチゾールと呼ばれるステロイドホルモン分泌が亢進します。

特徴的な症状としてはバッファロータイプ肥満と表現される体型で、腹部が肥満して四肢が太くならない中心性肥満、赤ら顔でむくんだ満月様顔貌にニキビが多発、首の付け根に脂肪がついた水牛様脂肪沈着、妊娠線が赤くなったような皮膚線条などのクッシング様体型を示します。

筋力低下、にきび、多毛、浮腫、骨折、月経異常などから見つかることも多いです。精神障害の頻度も高いとされており、高血圧、糖尿病などがみられます。

甲状腺刺激ホルモン産生腫瘍

甲状腺刺激ホルモンが過剰に分泌されることで甲状腺機能亢進症状が認められます。症状としては、動悸、手のふるえ、多汗、眼球が突出するなどの症状がみられます。

非機能性腺腫の症状

非機能性腺腫ではホルモン症状がみられません。そのため、腺腫が大きくなるまでは症状が出ません。腫瘍が大きくなることで視神経が圧迫され、両耳側半盲(視野の外側が見えにくい)という視野障害が最初に生じます。

さらに正常な下垂体が圧迫されれば、下垂体機能に障害が生じるため、下記のような症状が出ます。

・体毛の減少
・女性の場合は、月経頻度の減少または無月経、乳汁分泌がなくなる
・男性の場合は、顔ひげがなくなり、乳房組織が成長し、インポテンツとなる
・女性、男性ともに性欲が低下する
・小児では、成長や性的発達が遅延する

また体形成ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)をつくる腫瘍のほとんどで、症状が出現するほどの過剰なホルモンはつくられません。ですので、これらの腫瘍は非機能性腺腫と考えられます。

下垂体腺腫の症状について見ていきました。機能性下垂体腺腫の場合は、各々のホルモンが過剰に分泌されるために、腫瘍が小さくても症状が出ます。

最初に内科や産婦人科を受診して、原因を詳しく調べる際に腫瘍が見つかって脳神経外科に紹介されることも少なくありません。非機能性下垂体腺腫の場合は、腫瘍が小さいうちは症状が何も出ないため、脳ドックなどでたまたま見つかる以外は小さいうちに見つけるのは困難です。症状が出現して、見つかった際には腫瘍が大きくなっていることがほとんどです。

ここで紹介したような気になる症状が見られた際は、病院を受診してみてください。


<執筆・監修>

九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師

高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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