脳腫瘍で起きる「てんかん」とは?発作や治療法について解説

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「てんかん」、「けいれん」どちらもよく聞く言葉ですよね。でも全く同じ意味というわけではありません。

「けいれん」とは自分の意志とは関係なく、勝手に筋肉が強く収縮する発作性の運動症状のことです。その原因としててんかんもありますが、てんかん以外にも高熱や、感染症、電解質異常、薬物、頭蓋内病変(腫瘍、外傷、低酸素脳症)、脊髄や末梢神経の刺激などで引き起こされます。

てんかんとは「脳の慢性疾患」で、脳神経細胞(ニューロン)に突然発生する激しい電気的な興奮により繰り返す発作のことです。

てんかんは乳幼児期から老年期までに幅広くみられ、約100万人いるといわれています。てんかんの約4%が脳腫瘍に関わるといわれています。

ここでは脳腫瘍で起きる「てんかん」を取り上げ、発作の種類や治療法について解説します。

「てんかん」とは

てんかんは「特発性てんかん」と「症候性てんかん」に分けられます。

特発性てんかんとは、さまざまな検査をしても特に異常がみつからない原因不明のてんかんです。

症候性てんかんとは、脳疾患が原因となり生じるてんかんのことです。小児の場合ですと、先天性の脳奇形や出産時の低酸素脳症、脳内出血などの障害が原因になり、成人の場合には、脳梗塞や脳内出血、くも膜下出血などの脳血管障害、腫瘍などの脳の器質的な病気が原因となります。

その他にも頭部外傷や髄膜炎、脳炎などの感染症が原因となることがあります。

てんかんを起こしやすい脳腫瘍は?

てんかんをもつ脳腫瘍の患者さんは約30%にも及びます。てんかんを起こしやすい腫瘍に傾向などはあるのでしょうか?

てんかんは大脳皮質から生じます。そのため、大脳皮質にダメージを生じる腫瘍がてんかんを起こしやすいといえます。代表的なものとしては、髄膜腫や神経膠腫、転移性脳腫瘍となります。悪性度の高い脳腫瘍ほどてんかんが生じる可能性が高くなります。

脳腫瘍てんかんの部分発作

てんかんには大脳半球の一部のみに電気的興奮が限局している部分発作と、両方の大脳半球に電気的興奮が生じている全般発作があります。症候性てんかんは、部分発作が大部分です。

脳の異常がある部分によって、生じるてんかんも異なってきます。側頭葉てんかん、前頭葉てんかん、頭頂葉てんかん、後頭葉てんかんにわかれ、側頭葉てんかんと前頭葉てんかんが多いです。

側頭葉てんかん

吐き気や違和感など前兆症状があるのが特徴です。その後突然反応がなくなって、口や舌を動かす口部自動症が出現します。

前頭葉てんかん

発作時間は短いですが、突然走り出すや奇声を発するなどの予測ができない動作を突然始めて、短時間のうちに突然終わるのが特徴です。また、発作中に四肢の硬直がみられることがあります。

後頭葉てんかん

後頭葉は視覚中枢です。そのため、この後頭葉がてんかんを起こすと視覚に関連するものが認められます。意識を失う前に認められる前兆としては物が異常に光って見えたり、物がかすんで見えたり、視野が狭くなったりすることがあります。

頭頂葉てんかん

頭頂葉てんかんは頻度が最も少ないてんかんとなります。発作症状としては主にしびれ、痛みなどの知覚症状を示します。

脳腫瘍てんかんの全般発作

全般発作とは、大脳の両側の広い範囲で過剰な興奮が起こる発作となります。発作時には、意識がありません。

強直間代性発作

突然発症して強直発作と間代性発作を起こします。発作後は、30分~1時間位ぼーっとしている状態が続き、その後普段の状態へと戻ります。

強直発作

突然意識を失って、全身の筋肉が強直します。そのため、歯を食いしばり、呼吸が止まり、手足を伸ばした状態で全身を硬くして、数秒~数十秒持続します。

間代発作

膝などを折り曲げる格好をとって、手足をガクガクと一定のリズムで曲げたり伸ばしたりするけいれんが起こります。数十秒~1分以上続くこともあります。

欠伸発作

数十秒間にわたって意識がなくなる発作です。倒れたりはしないため、気づかれない場合があります。話をしたり、何かをしたりしている時に、突然意識がなくなり、急に話が途切れたり動作が止まったりします。

ぼーっとしている様に見えるため、注意力がない、集中できてないなどと周囲から思われることがあります。学童期や就学前に症状が現れることが多く、女児に多い発作となります。

脱力発作

全身の筋肉の緊張が低下・消失するため、崩れるように倒れてしまう発作のことです。発作の持続時間は数秒以内と短く、発作と気づかれないこともあります。

ミオクロニー発作

全身あるいは手足など、どこか一部分の筋肉が一瞬ピクっと収縮する発作のことです。瞬間的なため、自覚することが少ない発作ですが、連続して数回起こることもあります。また、転倒したり、持っているものを投げ飛ばしてしまうほど症状が強いこともあります。

脳腫瘍てんかんの治療法

脳腫瘍の患者さんでは、脳腫瘍とてんかん発作の両方を制御する必要があります。てんかんの薬には腫瘍の制御に用いられる抗がん剤の効果を弱めたり、逆に強めたりするものも知られているため、両立がとても難しくなります。抗てんかん薬には互いに影響を及ぼす相互作用が知られています。

抗てんかん薬による薬物療法

てんかんを抑えるには薬が必要となります。この抗てんかん薬には、腫瘍を抑える効果が期待されるものがあります。

◎酵素誘導するもの:抗がん剤による抗腫瘍効果が弱まる可能性があります。
薬剤名:カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール

◎酵素抑制するもの:抗がん剤による抗腫瘍効果が逆に強まる可能性があります。
薬剤名:バルプロ酸

◎酵素を誘導も抑制もしないもの:抗てんかん薬の中にも酵素誘導に関係しないものもあります。
薬剤名:レベチラセタム、ラモトリギン、ゾニサミド

外科治療

腫瘍が原因としててんかんが起きている場合は、腫瘍を外科的に切除することでてんかんの症状も改善することがあります。

しかし、脳奇形や脳梗塞などは障害部分を手術で取り除くことができないので、抗てんかん薬の内服治療を継続していく必要があります。

また、手術後1週間後に発作が出る危険率は、手術前のてんかん発作の有無に関わらず10~15%程度と言われています。そのため、長期での予防的な投与を正当化する理由はありません。

今回は、脳腫瘍によって生じるてんかんについて見ていきました。てんかんは、前兆があるものもありますが、急に起こることが多いです。そのため、準備しておくということはなかなか難しいことがあります。

しかし、てんかんが原因で脳腫瘍が見つかることも多く、脳から出される重要なサインともいえます。何かおかしいな、いつもと違うなと感じることがあれば専門機関に相談してみてください。


<執筆・監修>

九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師

高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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