胃がん検診は2年に1回で十分な理由と検診を受ける間隔

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2016年時点で厚生労働省が推奨するさまざまながんに関連する検診指針が一部分改正され、その中でも特に胃がんに関する検診内容に大きな変更が追加されました。

改正される以前は、主に40歳以上の方々を対象にして年に1回の胃がん検診を受けることが定められていました。

ところが、改正された後では胃がん検診の対象者は、2年に1回の頻度で基本的に50歳以上(ただし、改正後当分の間は胃部X線検査に関しては40歳以上の方に対して年1回のペースで実施可)と修正されました。

以前は1年に1回だったのに、2年に1回に減らしてしまって本当に大丈夫だろうか?と疑問に思われた方もいらっしゃることでしょう。

ここでは、胃がん検診を受ける間隔について解説します。

胃がん検診の受診間隔が変わった理由

胃がん検診の受診間隔について大きな変更が加わったことを紹介しましたが、それにはもちろん理由があります。

年齢が40歳以上より若い世代においては、胃がんの主な原因と指摘されているピロリ菌の感染者が減少していると共に、胃がんそのものの罹患者数が低下していることが挙げられます。

検診の具体的な検査項目自体もエックス線を用いて行う胃部バリウム検査(胃部X線検査)、あるいは胃内視鏡検査のいずれかを自由に選択することが可能となりました。

胃がんを早期発見するために各々の自治体レベルで実施されている検診を受ける際には、法改正に応じて受診年齢に制約はあるものの該当者に関しては無料、あるいは安価な金額で検診検査を受けることが可能です。

40歳以下の年齢層に該当し胃がん検診をどうしても受けたいケースでは、個別で自治体に連絡することによって胃部X線検査のみ受診可能となる場合がありますが、保険適応とはならずに自費での検査になることを知っておきましょう。

検査に伴うリスクやデメリット

胃がん検診にはメリットだけでなく、次に挙げるようなデメリットもあります。

バリウムの腸閉塞リスク

バリウム造影剤は消化管内では分解されず吸収もされないため、上部消化管造影や注腸造影検査の造影剤として一般的に利用されていますが、バリウムが腸管内に貯留した際には腸閉塞や消化管穿孔をきたす可能性があります。

上部消化管内視鏡検査後のバリウム貯留による大腸穿孔は稀な疾患で、バリウムを用いた胃がん検診者に大腸穿孔が発生する頻度は101万人中3人(0.00029%)とされています。

ただし、一度発症すると致死率が高く、穿孔部からの糞便の漏出により容易に菌血症や敗血症へと移行し重症化します。バリウムによる大腸穿孔を認めた場合は、迅速な外科的治療と厳重な全身管理が求められます。

また、かりに救命できたとしても腹腔内へのバリウム漏出を原因とする、癒着性イレウスやバリウム腹膜炎などの合併症により長期間の入院を要し、人工肛門造設を必要とするなどQOLが低下します。

胃部X線検査の放射線被ばく

胃部X線バリウム検査では、放射線を照射するレントゲン撮影を行いますので放射線被ばくのリスクもあります。

特に、胃バリウム検査はほかの検査と比べて被ばく量が多い検査であり、胸部X線写真は1回あたりの被ばく量が0.1mSyですが、胃バリウム検査の場合には15~25mSyもの被ばく量にもなります。

さらに検診車などで行う間接撮影では小さな画像しか得られないため、20~30mSyもの被ばく量になります。

胃バリウム検査が、胸部X線写真の150~300倍もの被ばく量があることは、案外知られていません。

胃カメラに伴う不快感

胃カメラは、小型カメラが先端に搭載された直径1cmほどのスコープを口、または鼻から挿入して胃や食道に異常がないかを観察する検査です。

胃カメラが苦しくなる原因は、おもにカメラが喉の奥を通過する際に起きる咽頭反射、あるいは咳が出て苦しいなどが考えられます。

咽頭反射は人体に備わっている防御反応で、体に異物が入り込まないようにするための機能です。

胃カメラが舌の一番奥に触れると、咽頭反射により強い吐き気が生じるため、苦しさを感じることが多いでしょう。

喉の麻酔によりある程度軽減できますが、完全になくすことは難しいです。

咽頭反射は年齢にも関係があり、若い方ほど強く反応する傾向があり、歯磨きで奥歯を磨くときに嘔吐感がある方も咽頭反射が強い場合があるでしょう。

また、胃カメラが苦しく感じる別の原因として検査中の咳があります。口やのどに溜まった唾液や消化粘液が気管に入りそうになると、むせて咳が出るため、苦しく感じる場合があるでしょう。

胃カメラの検査では、喉に麻酔をかけるため、飲み込んだ唾液が気管に入りやすい状態になっています。

胃カメラの合併症リスク

胃カメラ検査は比較的安全な検査ですが、稀に合併症やリスクが発生する可能性があります。

一般的な合併症としては、喉の傷や出血、感染症のリスクがありますし、鎮静剤や喉の麻酔の使用によるアレルギー反応や呼吸困難のリスクもあります。

胃カメラ検査の偶発症としてまれに、消化管出血、穿孔などが生じることがあり、入院や緊急の処置・手術が必要となることがあります。

自治体の胃がん検診と人間ドックの違い

自治体が実施する対策型胃がん検診には、一次検診、そして一次検診で「異常あり」と指摘された場合に対する二次検診での精密検査があります。

まず、一次的な検診として広く推奨されている検診内容としては、「問診」、「胃内視鏡検査」、「バリウムを用いた胃部X線検査」の3種類となっています。

また、一次検診では胃がんの発症リスクを上昇させる物質として知られているペプシノゲン濃度を測定する検査、もしくは同様に胃がんのリスク因子となっているピロリ菌の有無を調査する抗体検査が追加して実施されることもあります。

自治体が行う胃がん検診を受けることで早期の胃がん発見が可能となるメリットが考えられますが、一方で、特に胃部X線検査においてはX線による画像を撮像している際中の数分間にかけて放射線を浴びるという短所も理解しておく必要があります。

胃部X線検査では、他の放射線検査よりも比較的高値の被爆が心配され、人体にとって無害とはいい切れないことからも胃がんリスクが一般的に低いとされている40歳以下の方は検診の対象外とされているのです。

人間ドックは何が違う?

人間ドックは個人が検査を希望することによって実施される検診のことです。実際に各種の検査を提供する医療機関によって受けることが可能な精密検査の内容は若干異なります。

「がん検診ガイドライン」によると、人間ドックを代表とする任意型の検診時においても、自治体が主導する対策型検診と同じように胃部X線検査、あるいは胃内視鏡検査を受けることを対象者に勧告しています。

また、前述したペプシノゲン検査やピロリ菌抗体検査に関しては、胃がんによる死亡率を減少させる一定の効果を示すエビデンスがいまだ不十分な点も否めませんが、受診者が検査を強く希望するケースでは人間ドックでも検査が可能です。

胃がん検診を受ける間隔の目安とその理由

胃がん検診をどれくらいの間隔で受けるのがよいのかについては、個々のケースによっても変わってきます。ここでは代表的な例を紹介します。

ピロリ菌に感染していない人の場合

ピロリ菌に感染していない場合には、感染例と比較して胃がんを発症する危険性は低いと考えられるため、定期的な内視鏡検査を含む検診を受ける必要性は低いと認識されています。

非感染例であっても仮に普段から胃痛などの腹部症状を慢性的に認めている場合には、その原因を精査するために検診として実施される内視鏡検査を受けることも検討されます。

ピロリ菌に感染していないと判明していても加齢、喫煙習慣、家族歴(がん家系)などを始めとする胃がんのリスク因子が認められる場合には胃がんを発症することもありえます。

ですから、胃がんを確実に早期発見するために、ピロリ菌を除菌して、さらに胃部内視鏡検査、あるいは胃部X線検査などの検診精査を定期的に受けることが重要なポイントとなります。

ピロリ菌感染や萎縮性胃炎が認められる人の場合

胃がんの主な発症リスク因子は、日々の塩分リッチな食事、長期の喫煙習慣、日常的な多量飲酒、そしてピロリ菌感染と指摘されています。

ピロリ菌は、胃粘膜部位で慢性的に炎症を惹起する病原性を有する細菌であり、一度感染すると除菌しないかぎり胃内部に生息し続ける厄介なバクテリアです。

ピロリ菌感染に伴う慢性的な胃炎が起こると同時に暴飲暴食、過度なストレスなどの要因が複雑に関与することによって、胃がんを発症する危険性が相対的に上昇すると考えられています。

したがって、ピロリ菌感染を認める場合には、胃がんをより早期的に発見することを目的に定期的に内視鏡検査を受けることが推奨されています。

その受診間隔は一定の指標はありませんが、おおむね数年間隔で定期的に内視鏡検査を受けるのが一般的にすすめられています。

また、ピロリ菌に感染して除菌治療を行った後でも胃の粘膜部に萎縮性胃炎を認める場合には、胃がんを発症するリスクが若干上昇することが指摘されていますので、ピロリ菌感染例と同様にこまめに内視鏡検査などの検診を受けられることをおすすめします。

早期胃がんの治療を受けたことがある人の場合

早期胃がんの治療歴がある方の場合には、治療を受けた部位と別に胃がんが認められる危険性は5年間で10%程度となっています。該当する方は少なくとも1年に1度は胃内視鏡検査を受けることをおすすめします。

これまでに胃がんを実際に指摘されて治療を実施されたケースでは胃がんの発症リスクが通常よりも高いといわれているため、若年例で自治体において年齢制限などによって対応が難しければ人間ドックを受診することも検討しましょう。

さらに、胃がんは初期症状が出現しにくく発見が遅れやすいと指摘されている疾患ですので、早期胃がんを患った経験を有する場合には、早い段階で自治体、あるいは健診施設などで胃がん検診を受けることがすすめられています。

胃がん検診を積極的に受けた方が良い人とは?

国立がん研究センターの報告では、胃がんはがんの部位区分別の死亡者数で第3位、罹患者数で第2位となっており、注目されているがん疾患の一つであるといえます。

特に、男性においては40歳を超えると、胃、大腸、肝臓などをはじめとして消化器系に関連するがん死亡率が通常よりも高値になることが指摘されていますので、胃がん検診を積極的に受けたほうが望ましいと考えられます。

最初の部分で述べたように、原則として胃がん検診は50歳以上の方々(胃部X線検査のみ対象者は40歳以上でも実施可)が性別問わず受診対象に定められています。

胃がんの罹患率、死亡率が高まっている年齢層において前向きな胃がん検診の実施が推奨されていますし、40歳以下の場合にも検査費用は自己負担になるものの希望すれば胃がん検診を受けられます。

まとめ

胃がん検診を受ける間隔について解説してきました。

胃がんは日本においてがんの部位別統計で死亡者数が上位を占め、50歳を過ぎれば多く発症する疾患となっています。早期発見することで治癒率が高まり胃がんによる死亡率を減少させることができるので、早めに検診を受けることが重要です。

胃がん検診は受診できる年齢に一定の制限はありますが、大切な命を守るために基本的に50歳以上に該当する人は定期的に検診を受診して、胃がんの発症リスクやがん病巣が進行する危険性を避け、健康維持に努めることをおすすめします。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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