胃がんの末期症状とは?貧血、消化管閉塞、腹水、腹膜播種を解説

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胃がんの病状が進行して末期と呼ばれる状態に悪化すると、胃などの消化管から栄養を効率よく消化、吸収することが難しくなってきます。

また、普段から食物が胃を通過しづらくなってしまい吐気や嘔吐、もしくは食思不振に陥ることで、胃がん末期状態では体重が著しく減少して、やせ細ってしまうケースが往々にしてあります。

胃がんの末期状態では、胃以外の肺、肝臓、骨髄、脳、腹膜などさまざまな全身臓器にがん細胞が転移して、疼痛や倦怠感、貧血、腹水貯留、黄疸などを始めとする多彩な症状を引き起こすことが知られています。

ここでは胃がんの末期症状について解説します。

胃がんの「末期」とは

胃がんの病巣が進行悪化して末期レベルに陥ると、病期分類でステージIVに該当し、予後的に5年生存率が10%以下であることからも非常に厳しい状態であると考えられます。

胃がん末期とは、他臓器に複数箇所に渡って転移したがん組織が全身性に悪影響を及ぼして、顕著な回復が望めない状態を指します。さまざまな合併症に対して肉体的、かつ精神的な苦痛を少しでも取り除くことを目的とした緩和ケア治療が前向きに実践されます。

胃がんに伴う食思不振とは

食欲低下や食思不振の症状は、進行がんの患者さんの約8割程度に生じます。

主に、胃がんや膵臓がんの末期に多い症状であるといわれますが、症状が進行したケースではほぼすべてのがんで食思不振を生じる可能性があります。

胃がんが進行して末期の状態になると、胃から栄養を吸収することや、胃で食べものを消化することが困難になってしまいますし、食べ物が胃を通りにくくなることで嘔気が出現します。食思不振をまねき、体重の著しい低下がみられます。

胃がんが末期の状態にまで進行した場合は、胃がんそのものの治療よりも、がんによってもたらされる辛い症状を改善するための治療が優先して実施されます。

例えば、がんによって胃の出口がふさがれてしまって食思不振の症状が著しい場合には、胃と小腸をつなぐバイパスを形成し、食べたものが胃を通過できるような臨時的な対応を行います。

胃がんに伴う貧血とは

胃がんに罹患すると、色々な原因によって貧血症状を呈することが広く知られています。

貧血とは、血液中のヘモグロビン濃度や赤血球数が減少して酸素を全身の細胞に運搬する機能が低下する状態であり、患者さんが立ちくらみやめまい感、あるいは動悸や日常的にふらつくなどの症状を自覚されることが多いです。

胃がんの発症に伴って、日常的に食欲不振の状態が継続されることで食事を摂取できる能力が通常よりも低下します。

その結果、赤血球を作るのに必要なタンパク質や鉄分、ビタミンB12を始めとするビタミン類などの栄養素を体内に取り込めずに栄養不良状態に陥り、鉄欠乏性貧血を発症することも想定されます。

また、胃がんの治療をしている途中経過の段階で、抗がん剤を用いた化学療法や放射線治療を実施することで骨髄細胞が造血する機能が低下することによって赤血球が作成されずに貧血を認める場合が考えられます。

同時に、骨髄内における血液細胞を合成する働きが低下する骨髄抑制の影響以外にも、赤血球などの血球成分が健常時よりも破壊されやすくなる溶血性貧血を呈し、ふらつき症状などを自覚するケースもあります。

胃がん末期状態に進行すると、がん病変部が存在している組織部位から出血を来して、吐血や血便などの消化管症状が長期に渡って続くことで貧血症状に繋がります。

また、がん細胞自体が骨髄領域へ侵入して転移することもある胃がんの末期状態では、骨髄レベルで赤血球を含む血球成分や血液そのものを合成することが困難となって貧血を呈することも懸念されます。

胃がんに伴う消化管閉塞とは

胃がんの病状が進行した症例では、胃・十二指腸のレベルで消化管閉塞が起こることがあります。

胃がんが進行すると、胃や十二指腸の閉塞を生じやすく、患者の生活の質を著しく低下させます。

胃の出口に当たる幽門部や、そこから続く十二指腸が、増殖した悪性腫瘍によって塞がれてしまう状態であり、食べたものが胃から小腸へと通過しないので、患者さんは食事ができなくなってしまい、徐々に体重減少することにつながります。

胃がん末期状態で、胃腸の蠕動運動の低下により消化液が貯留することで悪心や嘔吐の症状が出現しやすくなります。

胃がんに伴う腹水とは

腹水とは、胃や腸管の粘膜を包んで保護している腹腔スペースや腹膜部位に体液が異常に蓄積する状態を示しています。

胃がんの末期では、腹膜部位にがん組織が浸潤して、その刺激に伴って腹腔内に液体を産生して、いわゆるお腹に水が貯留する状態に陥ります。

さらに、胃がん病巣部が肝臓や、血液が肝臓に循環する門脈と呼ばれる太い血管に進展すると、肝臓内圧が上昇して循環破綻を起こすことによって体液成分が血管から滲出し、腹部全体に体液が貯留されることに繋がります。

同時に、胃がん末期において肝転移を認める場合には、肝臓において血中のタンパク質を合成する能力が低下して、全身の体液バランスを破綻させる結果として、腹部内に腹水が貯留しやすくなります。

がん病変部が肝臓内のリンパ系組織に浸潤してリンパの流れを遮ると、過剰な液体成分を効率的に放出することが困難となり、その代償に腹腔内間隙に腹水が蓄積します。

胃がんの進展に伴って腹膜に炎症が起こり末期状態に悪化すると、がん性の腹水が大量に溜まる結果、腹腔内に余分に蓄積された体液が腹部全体を膨満させて、患者さんはおなかが張ってしんどい思いをすることがあります。

胃がんの末期状態では、胃のみならず腹腔内にもがん細胞や悪性腫瘍が飛散して、がんに伴う腹膜炎という状態を引き起こし、腹水が腹部内に多く溜まることに繋がります。

腹水貯留は、胃がんの末期状態、あるいは胃がんの再発例によく見られる症状であり、腹水自体の精密検査を実施すると、腹水検体から多量のがん細胞が認められることが知られています。

このように、胃がんの末期状態では、身体の組織内における水分調節が正常に機能できずに腹水が貯留する結果、患者さんは下半身部分に浮腫を起こし、膀胱や尿管が大量の腹水に物理的に圧迫されて排尿障害が認められます。

胃がんに伴う腹膜播種とは

胃がんが進行して末期状態に悪化すると、腹膜播種を合併することが知られています。腹膜播種とは、胃がんの悪性腫瘍細胞が腹部全体に波及することを意味しています。

胃に出来たがん細胞が胃壁の筋層まで広がった上で、がん病巣が急速に発育して漿膜部位にまで到達し、がん病変部が漿膜を越えて腹腔内に飛散していくことで腹膜播種が認められることがあります。

腹部内、あるいは腹膜部位にがん病巣が播種を起こして炎症を惹起し、その反応で腹水と呼ばれる液体成分を排出すると、腹部全体が常に張った状態になり患者さんは膨満感を訴えて少し動くだけでも苦労するようになります。

同様に、腹部の張りに伴って胃や腸管の臓器そのものが限られた腹腔内スペースのなかで圧排されるおかげで食欲不振がひどくなり、栄養状態が悪化することでさらに体内からタンパク質の仲間であるアルブミンという物質が減少します。

アルブミンは血管内に一定程度血液や水分を保持する働きを有しており、そのアルブミン量が相対的に減少してしまうと血管内に存在する水分が血管外に位置する腹腔内に放出されて腹水が溜まる、というように負のスパイラルに陥ってしまいます。

がん性に腹膜炎が引き起こされて腹膜播種の状態になると、お腹に水が溜まり腸管を圧迫して、イレウス(腸閉塞)を合併して、排ガスや排便をしづらくなって腹痛や嘔吐症状が現れます。

また、腹膜播種によって波及したがん病巣部が尿管や膀胱といった尿路系組織を物理的に圧迫することで尿が出しづらいなど排尿障害をきたすことに繋がります。

胃がんに伴う褥瘡(じょくそう)とは

褥瘡とは、いわゆる「床ずれ」のことであり、同じ姿勢のまま長時間過ごすことで、接地部位の血流が悪くなることから発症します。

胃がん末期の症状は、胃で食べものの消化をすることが困難になってしまうため、体重の著しい低下がみられ、徐々に体力が消耗して寝たきり状態になることもあります。

がん末期の患者さんは、他の疾病の患者さんに比べて褥瘡の発生率は高くなると指摘されています。

胃がん末期には、体の組織の水分調節機能もうまく働かなくなってしまうため、腹水も溜まりやすくなり、腹水が溜まると腹部の膨満感や足のむくみ、排尿障害などが起こって、体を動かしづらくなります。

また、胃がん末期状態では、がんに侵された組織から出血が生じるため、吐血や下血などの症状がみられるようになり、たとえ少量の出血であっても、持続的に続くことで貧血が起こり、めまいなどの症状が表れて寝たきりになる場合もあります。

末期の胃がんは、肺や肝臓、骨、脳などの様々な臓器に転移して、それぞれの臓器に特有の症状を引き起こして、腹部や背部などの激しい痛みや強い倦怠感、黄疸などが生じることに伴って、体動が困難になり褥瘡が発生しやすくなります。

まとめ

ここでは貧血、腹水、腹膜播種など胃がんの末期症状を中心に解説してきました。

胃がんは、胃壁に存在する粘膜細胞が、がん組織に変化して悪性化した疾患であり、その末期状態では貧血、腹水貯留、腹膜播種など多彩な全身症状を呈することが知られています。

胃がん末期になると、普段から食事が喉を通りづらく胃がもたれて体重が減少する、あるいは吐血や下血によって貧血状態が進行するのに伴って動悸、めまい、ふらつきといった症状が出現することに繋がります。

胃がんの末期状態ではそういった合併症の症状が緩和されるように取り組み、患者さんやそのご家族の生活の質を少しでも改善するための対処策を講じることが重要です。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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