肋間神経痛の症状と原因の違い…してはいけないこととは?

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息を吸ったときに胸や肋骨の辺りが痛いという症状を感じたことはありませんか? そのような痛みのことを肋間神経痛といいます。ここでは、そのような肋間神経痛の原因や痛みの特徴、対処法について解説します。

肋間神経痛とは

肋間神経痛ははっきりとした病名ではなく総称です。肋間神経痛というと肋間神経が感じている痛みをいっていると思うかもしれません。しかし必ずしもそうとは限らず、何らかの原因で肋骨辺りや、脇腹辺りに痛みを感じる状態を肋間神経痛と総称します。

肋間神経は脊髄から出ている末梢神経の一種です。胸椎の後ろからでた末梢神経のうち一部は肋骨の下縁に沿って脇腹、そして前の方へと走行します。これが肋間神経です。肋骨は左右12本あり、肋間神経もそれに合わせて左右12本あります。

この肋間神経は、その周囲の皮膚の感覚を伝えるほか、呼吸に関わる筋肉のうち、肋骨と肋骨の間にある筋肉を運動させる指令を伝えます。

この神経に痛みの刺激が伝わったり、神経自体が損傷を受けたりすると痛みを感じます。これが狭義の肋間神経痛と言えます。

しかし実際には肋間神経が関与していないのに脇腹辺りで痛みを感じたり、深呼吸をすると胸の辺りに痛みを感じたりする場合があり、これらも肋間神経痛と呼ばれることがあるのです。

ここからは肋間神経自体が関わる痛みである狭義の肋間神経痛について取り扱います。

肋間神経痛の症状

肋間神経痛の症状は主に2つに分かれます。

1つめは、体や胸を動かしたときに感じる、響くようなズキズキした痛みです。いわゆる一般的な体の痛みです。不意に動いたときにも起こりますし、寝返りをしたり、深呼吸をしたり、くしゃみをしたりすることで痛みを感じます。

2つめは、いわゆる「ジンジン、ビリビリ」とした痛みです。これらの痛みは神経障害性疼痛といって、神経自体がダメージを受けることによって起きる痛みです。

また、神経がダメージを受けたときだけではなく、神経が修復されるときにも痛みが起こりますから、実際に外傷を受けたときに痛むのはもちろん、その後長い間にわたって痛みが後遺症のように残ることもあります。

さらに上記の2つとは別に、ストレスによって感じる痛みもあります。これは実際に痛いということを神経が検知しているわけではありませんが、心理的に痛いと思い込むことによる痛みです。

ただし、肋間神経痛があると思われるときに最初から心理的な痛みが原因と考えることはなく、さまざまな原因を考慮して治療を行った結果、症状が全く変わらない場合に心理的な痛みを考慮します。

上記2つの肋間神経痛は、基本的には上半身の左右いずれか半分に症状が限局することが普通です。そしてそれは、肋間神経の走行部位に一致するという特徴があります。

肋間神経痛の原因の違い

肋間神経痛にはさまざまな原因がありますが、それらの原因は主に次の2種類に分類されます。

続発性肋間神経痛

続発性肋間神経痛は、何らかの病気によって肋間神経が損傷しているという原因が分かる状態をいいます。例えば外傷や手術によって肋間神経が障害を受けた場合、脊椎の変形や椎間板ヘルニアなどによって肋間神経の根元で神経が圧迫されている場合、あるいは帯状疱疹によって肋間神経に感染が起こった場合などに続発性肋間神経痛となります。

続発性肋間神経痛は原因が分かりますから、治療法もはっきりとしてくる場合が多いです。しかし原因を除去しても肋間神経の損傷自体が完全に治ることはあまりないので、その後に神経自体の痛みを取り除くための治療が行われます。

原発性肋間神経痛

原発性肋間神経痛は、原因が明らかではない肋間神経痛のことをいいます。さまざまな検査を行っても、上記の続発性肋間神経痛の原因となる病気が見つからない場合に原発性肋間神経痛と考えます。

実際には見つけられないだけで何らかの病気によって起こっている場合もありますが、神経自体が変性している場合や、ストレスによって神経自体の活動がおかしくなっている状態などが考えられますが、どのような条件下で原発性肋間神経痛が起こってくるのかは分かりません。

いずれにしても、明らかな原因の除去以外は続発性肋間神経痛と同じように、神経自体による痛みを取り除くための治療を行います。

肋間神経痛でしてはいけないこととは?

NG行動に気をつけて!

肋間神経痛がある場合にしてはいけないことがあります。具体的に見ていきましょう。

重いものを持つ

肋間神経痛の原因は胸椎椎間板ヘルニアや変形性脊椎症、背骨の骨折などによって起こっている場合があります。このような場合に重たいものを持つと、背骨に負担がかかってしまい、元々の疾患である胸椎椎間板ヘルニアや変形性脊椎症が悪化し、痛みがさらにひどくなる場合があります。

現在の痛みがひどくなるだけではなく、別の肋間神経にも痛みが広がり、痛みを感じる範囲が広くなってしまうことがあります。

身体をねじる激しい運動

前述の通り、肋間神経痛は胸椎の問題によって起こっている場合があります。激しい運動をすることで胸椎の問題がさらにひどくなり、神経が圧迫されて症状が強くなってしまうことがあります。

胸椎の部分は身体のねじれを司る場所です。体幹部をねじる場合、胸椎の部分が多く動く事でねじれるようになっています。そのため、大きく身体をねじったり、背中を沿ったりすることで肋間神経が圧迫され、それによる神経痛の症状がひどくなってしまうことがあるのです。

また、症状がひどくなるだけではなくどんどんと変形が強くなり、治りにくくなってしまう場合もあります。

強く激しい運動や、身体をねじるような運動は極力避けるようにしましょう。また運動に限らず、ねじる体勢は日常生活でも避けた方が無難です。

猫背をなおさない

胸椎の問題で起こる肋間神経痛は、身体を前屈すること自体が痛みをひどくする要因となります。前屈みになって床のものを拾おうとするだけで痛みが生じてしまうこともよくある事です。

元から猫背がある場合も注意が必要です。猫背の場合は、胸椎の部分で背骨が曲がっていることになります。このような状態だと常に神経が圧迫されていることになり、神経の痛みが生じます。痛みがなかったとしても、少し動いただけで痛みが起こりやすくなります。

普段から背中をまっすぐにして生活をすることで神経の圧迫を改善させる事で、突然の肋間神経痛が起こらないように予防したり、痛みを抑えたりすることができます。

痛みを放置する

肋間神経痛がある場合は、何らかの原因によって痛みが起こっています。放置する事で原因となっている病気がさらに進行してしまう可能性があります。

特に帯状疱疹による肋間神経痛は、治療をせずに放置すると皮疹も神経痛もひどくなってしまうことがほとんどです。我慢できる程度の痛みだと思っていたら、数日後には寝るのも困難な程の痛みとなってしまうことも稀ではありません。

胸椎の問題による肋間神経痛でも胸椎の変形やヘルニアなどがひどくなっていき、治療による改善が難しくなってしまうこともあります。

痛みがある場合は放置せずに、早いうちに病院を受診するようにしましょう。

肋間神経痛の痛みの緩和法

肋間神経痛は神経障害性疼痛の一種です。この神経障害性疼痛は、市販の痛み止めではあまり効果が無いことが知られています。また、手術中や手術直後の激しい痛みを取るための医療用麻薬も、神経障害性疼痛の痛みを取るには不十分です。

そこで、神経障害性疼痛の場合には特殊な治療法を複数使用することで対処します。

薬物療法

まず基本となるのは薬物療法です。とはいえ前述の様に普通の痛み止めは効果がありません。神経障害性疼痛に対しては、実は抗痙攣薬や抗うつ薬など、他の疾患に対して使われる薬に効果があるとされ、そうした薬をある程度系統立てて使用する方法が確立しています。これらの薬による薬物療法を先ずは試みます。

神経ブロック

薬物療法だけでは効果が無い場合は神経ブロック療法を行います。痛みが強く、薬物療法だけでなくほかの治療を行った方がよいと思われる場合には、最初から神経ブロック療法を行うこともあります。

神経ブロックというのは、神経の根元付近に局所麻酔薬を注入することで神経を麻痺させ、痛みを感じなくさせる治療法です。

とはいえ局所麻酔薬はしばらく時間がたつと効果が切れて、また痛みが再燃します。そこで、痛みが出てきた後にまたブロックを行います。多い場合は2日に1回注射をしますが、一般的には週に1回程度の頻度でブロックを行います。

このブロックを続けると、だんだんと痛みが少なくなってきます。痛みを感じている状態が続くと脳は痛いことが当然だと思い込むため、何も触れていなくても痛いと感じてしまいます。

しかし、神経ブロックをすると痛みが無い状態を脳が感知します。そうすると、再度痛みが出てきたときに異常だと感じるようになってきます。繰り返すことで痛みが無い状態を脳に覚え込ませて、だんだんと痛みを取っていくことができるのです。

神経ブロックだけでは実際に痛んでいる神経の元々の痛みは取りづらいですから、薬物療法を併用することで痛みをだんだんと取っていきます。

漢方薬

肋間神経痛の薬物療法に使用する薬剤には、眠気やふらつきなどの副作用があります。これらの副作用があり治療が困難となる人や、逆に治療薬を使用しても症状の改善が今ひとつという人には漢方薬も考慮されます。

肋間神経痛に対して効果があるといわれている漢方薬には桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)、疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)、五積散(ゴシャクサン)などがあります。

また、漢方薬は全身の状態を改善させることで症状を緩和することを目的として処方されるものもあり、例えば中枢神経を抑制することで痛みを和らげる柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)や、冷えを改善して痛みを緩和する麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)などが使われることがあります。

体質や個々の症状、状態に応じてさまざまな漢方薬が選択、利用されますので、お困りの際は漢方専門医や専門薬剤師に相談してみてください。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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