老化は認知症だけじゃない?物忘れの原因について解説

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「最近物忘れが多くなりました」。外来でよく聞く言葉です。物忘れを自覚する人は多いと思います。しかし、それが病的な物忘れなのか、老化に伴う物忘れなのかなかなか判断が難しいですよね。

ここでは老化が原因の物忘れや、病気が原因の物忘れなど、物忘れのさまざまな原因について詳しく見ていきましょう。

老化による物忘れ

物忘れは年齢にかかわらず起こりますが、加齢とともに物忘れが頻繁に起こることがあります。

記憶力は20歳代をピークに徐々に減退していきます。とくに60歳頃になると、記憶力に加え判断力や適応力なども衰え始め、それが物忘れにつながるようになります。

老化による物忘れに特徴的なのは自覚があるかどうかです。

食事をしたことは覚えているけれど、食事のメニューが思い出せないといった体験の一部を忘れる場合や、買い物に行ったけど、買い忘れがあった、用事があって台所に行ったが何をしに来たのか忘れてしまったなどの忘れたことを自覚している場合は老化に伴う物忘れです。

日付、曜日、場所などを間違える、間違えを指摘するとそうだったと自覚する、無くしたものを探して見つけるといった生活に支障がないレベルの物忘れの場合などは、老化に伴うものとなります。

認知症による物忘れ

一方で認知症による物忘れはどういったものになるのでしょうか。

食事をしたにもかかわらず、食事をしたのを忘れてご飯をちょうだいといってくるなどの体験そのものを忘れる場合、用事を忘れていること自体に気づかずに別のことをする、買い物に行ったことを忘れて、また買い物へ行くなどの忘れたことを自覚できない場合は認知症による物忘れといえます。

日付、曜日、場所などがわからなくなる、間違えを指摘すると、作り話をして怒り出す、無くしたものを誰かに盗られたと騒ぎ出す、自宅に帰る道がわからなくなるなどといった生活に支障をきたす場合は、認知症による物忘れと考えられます。

認知症による物忘れはいろいろありますが、代表的な病名には次のものがあります。

脳血管性認知症

脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって、脳の細胞に異常が起きたことで生じる認知症のことです。洋服のボタンを掛け違えるなど、以前はできていたことができなくなったり、何かを尋ねても答えが出るまでに時間を要したりするようになります。

脳が損傷を受けた部分によって失われる機能が違い、症状は人によってさまざまとなります。些細なことで涙を流したり、急に怒り出すなどの感情失禁があるのも特徴です。また、言語障害や手足の半身麻痺、感覚障害などの神経症状も現れます。

アルツハイマー型認知症

認知症の原因で最も多いとされている疾患となります。アミロイドβという異常なタンパク質が脳に溜まることで、脳の細胞が段々と萎縮して、思考や言語に関わる部分が障害されます。

初期症状では、昔のことは覚えているのに、最近のことが思い出せなくなるなどの短期記憶障害が起こり、また、周囲のことに関心がなくなっていきます。表情が乏しく、沈んだようになったかと思うと、多弁になるなど気分の波が激しくなることもあります。症状は徐々に進行していき、やがて家族や友人がわからなくなったり、徘徊や幻覚が見られるようになります。

レビー小体型認知症

アルツハイマー型認知症の次に多いといわれています。アルファシヌクレインという異常なタンパク質が原因とされています。

初期には物忘れや、物、時間、場所が正しく認識できなるといったアルツハイマー型認知症と同じような症状が表れるほか、幻視などの症状が現れます。病状が進行してくると、幻視がはっきりと現れ、体の硬直が始まり動作全般が遅くなって、転倒のリスクなど身体介護の必要な場面が増えてきます。

前頭側頭型認知症(ピック病)

理性を司っている脳の司令部である前頭葉や側頭症が萎縮することで起こる認知症です。このため、静かにしなければいけない場面で大声を出す、スーパーで欲しいと思ったものをそのまま持ち帰ってしまうなどの反社会的な行動が現れることがあります。また、同じ行動を繰り返す常同行動も特徴の一つとなります。

病気による物忘れ

脳の疾患によっても物忘れを引き起こすことがあります。代表的なものを見ていきましょう。

水頭症

脳を保護する髄液は、脳の中にある脳室というところで分泌されて脳室を通って、髄膜で吸収されます。これが何らかの原因で通路に流出できず、分泌された髄液が溜まって、脳圧の上昇によって脳室がふくらんだ状態を水頭症といいます。

この水頭症の一種で、脳圧の上昇を伴わないタイプを正常圧水頭症といいます。物忘れなどの記憶障害や意欲の低下、尿失禁、左右の足の幅が広く、小刻みで不安定な歩行をすることが特徴となります。

脳腫瘍

頭蓋内にできた腫瘍が大きくなることによって、周囲の脳組織と神経を圧迫して、脳機能に障害をもたらす疾患です。特徴的な症状は頭痛と吐き気、嘔吐となります。

頭痛は早朝に痛みを強く感じ、日中にかけて次第に弱くなりますが、経時的にどんどん痛みが強くなります。さらに腫瘍の発生部位によって、記憶力や判断力の低下による物忘れ、手足の麻痺やけいれんなどのさまざまな症状が現れてきます。

慢性硬膜下血腫

頭部の打撲などが原因となり、脳を包む硬膜と脳の間に徐々に血液が溜まります。特に高齢者に多く、転倒や交通事故などからおよそ1~数か月でできることが多いです。

血液が溜まって大きな血液の塊になり、それが脳を圧迫して、頭痛、記憶力の低下、手足の麻痺や意識障害などの症状を引き起こします。本人はぼーっとして気づかず、家族が気づく場合が多いです。手術で血腫を取り除くとこれらの症状も改善し、手術後に自分が置かれている状況に気づく患者さんも多いのが特徴です。

うつ病

特別な疾患がないのに、だるさや疲れがとれず気力が低下したり、落ち込んだりして興味や楽しい気持ちを失って、それを自分の力で回復するのが難しくなる病気です。多くの場合、食欲が減退し、食事の量が低下して体重が減少します。

うつ病でも物忘れが現れます。うつ病の物忘れは、記銘力の低下が特徴となります。新聞を読んでもなかなか頭に入らず、時間をかけて読んだのに内容を覚えていなかったり、仕事の打ち合わせをしたのに聞いたことが頭に入らず、結局覚えていなかったりします。

うつ病の原因としてストレスが誘因となることが多いです。大切な人やものを失う喪失感、環境の変化、人間関係のトラブル、健康面や経済的な不安などです。真面目で几帳面、責任感が強い人ほど、ストレスを感じやすく、うつ病になるリスクが高いです。

ビタミン不足による物忘れ

ビタミンは、バランスのとれた食生活をしていれば不足することはありません。しかし、偏った食生活、アルコールや清涼飲料水の飲み過ぎ、加工食品のとりすぎによって不足することがあります。ビタミンB1、ビタミンB12、葉酸が不足すると、イライラ感や軽度のうつなどが起こり、さらに進行すると記録力の低下や錯乱、せん妄などの症状が表れ、認知症と間違えられることもあります。

ここでは物忘れについて見ていきました。病的な物忘れなのか、老化にともなう物忘れなのかは自覚があるのかどうかが一つの目安となります。心配な場合には生活に支障が出てくる前に、早めに医師の診察を受けましょう。


<執筆・監修>

九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師

高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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