痩せる?感染しやすい?COPDでさまざまな不調が起きる理由

お悩み

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は喫煙などの影響で肺や気管支に損傷が起こり、息苦しさを感じる病気です。基本的には原因物質への暴露が続く限りどんどん悪化していく病気で、治療の第一歩は禁煙をはじめとして原因物質への暴露を避けることから始まります。

COPDは肺や気管支など、呼吸器の病気です。しかし、COPDが進行すると全身にさまざまな影響が出現します。ここではそのようなCOPDを原因として全身に起こる症状と、その理由について解説します。

COPDで感染しやすい理由

COPDの患者さんは色々な感染症にかかりやすくなります。元々気管支には細菌やウイルスなどが侵入すると、その場で撃退したり、気管支から気管、咽頭、口へと排泄したりする機能があります。

痰が出るのはその最もわかりやすい例です。痰は気管支に侵入した病原体と自分自身の免疫の要である白血球とが混ざったもので、撃退した異物を痰として排出しているのです。

しかし、COPDの患者さんは長年の喫煙などによって、肺を構成する肺胞という構造の壁が壊れてしまい、十分に呼吸をすることができなくなっています。そのため、気管支から肺胞まで異物が入ったとしても、十分に免疫が働かなかったり、外への排泄ができなくなったりします。

さらに、COPDの患者さんは気管支も障害を受けています。気管支の内側は、細い毛の様な線毛が無数に生えている構造をしています。この線毛は自分自身で動くことができる構造体で、異物が気管内にある場合は異物を口の方へと移動させるように動いているのです。しかし、COPDの患者さんはこの線毛の機能が非常に低下していますから、異物を外に押し出す能力が下がってしまいます。

このようにCOPDの患者さんは、細菌やウイルスなどの病原体が体内に入ってきてもなかなか退治できない上に、外へ排出することも困難になってしまっているのです。

さらに、COPDの患者さんは常に肺や気管のダメージを修復しようとして炎症反応が起こっています。炎症というのは白血球などのさまざまな物質が集まり、組織を修復したり、異物に対して攻撃をしたりする反応のことです。炎症が肺や気管支で起こっていると、そちらに白血球などの炎症物質が使われてしまい、感染症に対抗する能力が落ちてしまうのです。

COPDの患者さんは肺炎や風邪、インフルエンザなどにもかかりやすく、また治りにくい状態にあります。また肺や気管支などの呼吸器に限らず、全身どこでも感染症にかかりやすくなります。

COPDで痩せやすい理由

COPDの患者さんは非常に痩せた人が多いです。

先ほど述べたとおり、COPDの患者さんは長期にわたって炎症反応が起こっています。炎症反応が起こる場合、白血球やその他の物質が体内で活動しますから、多くのエネルギーを消耗します。COPDの患者さんは同じ体格の同じ年齢の人に比べ、約1.5倍も必要エネルギーが多いともいわれています。

一方で、常に炎症状態があると空腹感もなくなります。風邪を引いた際に食欲がなくなるのは誰もが経験することですが、そのような状態が常に続いているようなもので、自然と栄養摂取量が低下します。息苦しさも原因となり、食欲が低下します。さらにCOPDでは肺が膨張しているため、横隔膜が押し下げられ、腹部が押され、胃も圧迫されます。そのため、食事も少量ずつしか摂取できません。

このように、COPDでは必要エネルギーが大量になるのに、栄養の摂取量が低下するため痩せていきます。

また、COPDの患者さんは呼吸苦症状があるため、十分に運動ができず、安静にしている時間が長くなります。そうなると、筋力が衰えてしまいます。筋肉が萎縮することも、痩せる原因になります。

COPDでむくみやすい理由

COPDの患者さんでは足を中心にむくみを訴える人が多くいます。

COPDの患者さんの肺ではさまざまな原因物質への暴露によって炎症が起こり、肺胞が壊れてしまいます。肺胞はちいさな風船のような構造で、肺胞の壁の中には毛細血管が通っており、肺胞の中の空気と酸素や二酸化炭素のやりとりをします。

しかし、この肺胞が壊れてしまうと、毛細血管も壊れてしまいます。少し毛細血管が壊れるだけでは特に問題が無いのですが、肺のあちこちでたくさんの毛細血管が壊れてしまうと、肺の中で血液が流れることができる毛細血管が減少してしまいます。すると、残った毛細血管に血液が流れていくのですが、それにも上限があります。

血液がなかなか肺に流れていかないため、肺に血液を送る心臓の右心室には血液がだんだんとうっ滞していきます。右心室に血液が流れなければ、右心室に血液を送る右心房に血液がうっ滞し、右心房に血液がうっ滞してしまうと右心房に流れ込む静脈に血液がうっ滞してしまいます。

このように、COPDの患者さんでは、全身から血液が心臓に戻りにくくなります。このとき、特に足など体の下の方にある場所では静脈の中の圧力が高くなり、静脈の中から静脈の外に水分が漏れ出てしまいます。これがむくみの原因となるのです。

また、先に説明した通り、COPDの患者さんは慢性的に栄養不足になっています。栄養不足の場合、他のさまざまな栄養素を作ることを優先し、血液中のアルブミンという物質を合成することが後回しになってしまうため、濃度が下がります。

アルブミンは血液中に存在し、水分を引きつける能力を持っています。このアルブミンが減少してしまうと、血液中に水分をとどめておくことが難しくなり、やはり血管の外に水分が漏れ出てしまうのです。

このようにして、COPDの患者さんはむくみをよく引き起こすのです。

COPDで貧血になりやすい理由

COPDの患者さんは貧血にもなります。

血液中の成分は常に生産と破壊を繰り返しています。貧血というのは血液中の成分のうち、とくに赤血球の量が減少することをいいます。赤血球はだいたい寿命が3か月程度といわれ、古くなった血液は破壊されます。そして不足しないように、常に赤血球を作り続けているのです。

しかし、さまざまな原因で赤血球の破壊が増えたり、赤血球の生産が減ったりすると、血液中の赤血球が減少してしまい、貧血になります。

COPDの場合、炎症が続くと説明しました。実は慢性的に炎症が持続すると、貧血を引き起こします。

炎症が起こると、体内にさまざまなホルモンが分泌されます。その中のヘプシジンという物質が増加すると、十二指腸での鉄の吸収が減少したり、体内で鉄を貯蔵している網内系という組織からの鉄の放出が阻害されたりすることで、血液中の鉄が減少します。赤血球は鉄を材料に産生されるため、材料が少なくなれば赤血球も減少してしまいます。

また、炎症には赤血球の合成そのものを阻害したり、赤血球の破壊を多くしたりする作用もあり、これによって貧血が進行してしまうのです。

このように、COPDでは全身にさまざまな影響を及ぼしてしまうのです。


<執筆・監修>

郷正憲先生プロフィール画像

徳島赤十字病院
麻酔科  郷正憲 医師

麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。
麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。
本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。
「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

プロフィール

関連記事