胆石をほっとくとどうなる?悪化すると発症する病気とがんのリスク

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胆石は無症状のことも多く、積極的な治療を行わずに経過観察をすることも少なくありません。ただし、定期的な検査もまったく行わないというように、完全に放置してしまうことにはリスクが伴います。

ここでは胆石が悪化するとどうなるかや、たとえ無症状であったとしても放置すべきではない理由について解説します。

無症状のことも多い胆石

成人においておよそ10人のうちで1人か2人は胆石を保有しているといわれています。胆石を抱えていても日常的に支障なく社会生活を送ることができるのは、ほとんど症状が現れない無症候性の胆石病変が多いからです。

検診や人間ドックなどで腹部超音波検査が簡便に施行できるようになったことで、特に症状を認めなくても偶然に胆石病変が発見されることが多くなっています。

実際のところ、腹痛などを自覚する有症状を呈する割合は年に数%とされており、胆石病変を保有している方の8割程度は無症状のまま経過するといわれています。

無症状でも注意が必要なケース

無症状の胆石に対しては積極的な治療をせずに様子を観察することも妥当な対応です。ただし、症状が乏しい胆嚢(たんのう)結石を有する場合にも胆嚢がんの合併が完全否定できないケースなどに対しては、予防的に胆嚢摘出処置を行うこともあります。

例えば、胆嚢内部に結石病変が多数に渡って充満している、あるいは胆嚢自体の萎縮性変化や変形所見が顕著である、家系的に胆嚢がんを発生するリスクが高いなどの場合には胆嚢摘出術を積極的に検討することもあります。

また、胆嚢壁が明らかに石灰化している所見を呈している場合、もしくは先天的に胆道や胆管において形態異常を認める際には前向きに治療を検討します。

胆石があるからといって必ずしも胆嚢がんの発生頻度が有意に上昇するわけではなく、胆石病変そのものが胆嚢がん発症の直接的なリスク因子であるとは考えられていません。

一方で、これまでに胆嚢がんの手術を受けた患者さんの約4割程度が胆石を合併していることから、胆石による症状が乏しくても病変を放置せずに、年に1回あるいは2回程度腹部エコー検査を受けて経過を慎重にフォローすることが大切です。

胆石が悪化したときの怖い病気

胆石が悪化して重篤な状態になることがあります。ここでは代表的なケースを紹介します。

胆石発作

胆石発作とは、胆嚢にある胆石病変が移動して胆嚢出口部にはまり込んで嵌頓することによって引き起こされる疝痛発作のことです。

胆石発作では、例えば油成分の多い食事を摂取した直後などに急に右上周辺の腹部領域に周期的に腹痛を感じる、もしくは背部や右肩周囲部に関連痛を生じることがあります。

特に、油成分の多い食事を食べると、コレステロールの代謝を促進するために自然と胆嚢が収縮して胆汁を大量に分泌し、その際にもともと存在する胆嚢結石が胆汁を流し出す胆嚢の出口に該当する部位に嵌頓し、胆汁成分が順調に流出しなくなります。

胆石嵌頓状態に陥ると、胆嚢が十分に収縮できずに緊張に張り詰めた胆嚢が疝痛的に腹痛発作を起こすようになり、一般的には夕食を摂取した後に発症することが多いといわれています。

就寝した後に腹部の違和感や疼痛症状によって目が覚めてしまうケースも少なくありませんが、通常では数時間以内で収縮反応が落ち着いて、出口部を塞栓していた結石が外れると腹部症状は改善します。

自然に腹痛症状が改善しない場合には、胆嚢収縮運動を抑制する作用を有する薬物を投与することで嵌頓胆石(かんとんたんせき)が自然と解除されて治癒することもあります。胆石を抱えた方に右上腹部周辺の腹痛が生じた場合には、すぐに医療機関を受診しましょう。

急性胆嚢炎

胆石に伴う疝痛発作を発症した場合に、短時間で自然と胆嚢出口部の胆石病変が解除されずに長時間に渡って胆嚢出口が塞がった状態が続くと、胆嚢内部が緊満して胆嚢に強い炎症が引き起こされて「急性胆嚢炎」という状態に陥ります。

急性胆のう炎を起こした際には、腹痛を始めとする腹部症状を呈するのみならず、胆嚢内部で細菌が増殖して重篤な敗血症を合併するリスクがあるため、早急に病院受診して抗生物質投与、胆嚢ドレナージ、外科的手術などの治療を実践する必要があります。

急性胆管炎

胆嚢結石が胆道を介して総胆管部に落石して生体に悪影響を及ぼす問題に発展することがあります。

落石した結石病変が総胆管の通路を塞ぐことによって、胆汁が胆管を通じて十二指腸乳頭部へ自然と流れ出ることができなくなると、胆汁の成分に含まれるビリルビンが血液中に貯留して皮膚表面や眼球、尿が黄色く変化して黄疸所見を呈することになります。

さらに、胆管内部で細菌が感染して増殖すると胆管炎を引き起こして、細菌叢が肝臓方向に侵入して血中に入り込むことで容易に敗血症を合併して重篤な状態に悪化する危険がありますので、迅速に治療介入する必要性が高いと考えられます。

腹膜炎

胆嚢内部に存在する胆汁に細菌が感染すると、胆嚢臓器は炎症に伴って浮腫を起こして腫大性変化を認めて胆嚢炎の状態に陥ることが知られています。

炎症が軽度である初期段階では、浮腫性変化のみ認める状態ですが、さらに病状が進行すると胆嚢が顕著に腫大すると同時に、胆嚢壁が肥厚して壊死を起こすことによって壊疽性胆嚢炎と呼ばれる重篤な状態に悪化します。

そうなれば、腹痛症状が悪化して強くなるにつれて、発熱や嘔気などの多彩な症状を認め、胆嚢壁が壊死して腐ってしまうことで胆嚢が破裂して「腹膜炎」と言われる生命の危機状態に陥ります。

腹膜炎は、敗血症を合併しやすく極めて重篤な状態になることが多いですので、適切な診断のもとで迅速に治療を受けることが重要です。

胆嚢がんのリスクも?

肝臓で合成された胆汁は脂肪の消化を補助する消化液であり、通常では胆のう内で蓄えられており、この胆汁を貯留している胆のうにできる悪性腫瘍が胆嚢がんになります。

胆嚢がんは胆石と関連性があるといわれており、胆石が胆嚢内に存在することで慢性的な刺激になって炎症を長期に引き起こす、あるいは胆石病変に伴って胆汁成分が変化することで胆嚢がんの発症を誘発していると考えられています。

諸説ありますが、胆嚢がんの患者例の約半数程度は胆石を合併していると指摘されています。胆嚢炎が疑われる際に胆嚢摘出術を施行して、摘出した切除標本を術後に病理組織検査にかけることで初めて胆嚢がんかどうかの診断が可能です。

胆石を悪化させないための生活習慣

胆石を悪化させないための生活習慣を確認しましょう。

水分を摂取する

水分が不足すると胆汁の濃度が濃くなり、結石ができやすくなります。

水分の摂取は便秘の予防や改善も期待できるため、こまめに水分補給をしましょう。

同じ水分でもコーヒーなどの刺激物は、胆石症を悪化させる可能性がありますので、できるだけ水を摂取しましょう。

暴飲暴食をしない

胆石症の予防には、規則正しい生活とバランスの整った食事が重要ですので、適度な運動習慣をつけ、胆石予防にいい食品とよくない食品を意識しながら胆石症を予防しましょう。

すでに胆石がある人は生活環境や食事内容を見直して、悪化しないように心がけてください。

食事を抜くことが多かったり食事時間が不規則だったりする場合、1度に大量の食べ物を摂取すると大量の胆汁が排出される結果、胆汁濃度が濃くなり胆石ができてしまう場合があります。

日常的に3食を決められた時間に摂取することにより、バランスよく胆汁が排出されます。

無症状の胆石症は治療する必要はなく、経過観察を行いながら自然に胆石が体外へ排出されるのを待ちます。

無症状だからといって不規則な食生活を続けると胆石が大きくなり、症状が出てしまう場合もありますので、胆石があると診断された場合は生活環境の見直しをはかり、規則正しい食生活に改善しましょう。

動物性の脂肪を控えめにする

コレステロールや脂肪分が高く脂っこい食品を多く摂ると、脂質を消化吸収するために胆汁酸を多く必要とし、胆汁酸が必要以上に分泌されると胆石ができやすくなってしまうため、揚げ物や脂身が多い肉類など動物性脂肪の摂取は控えましょう。

脂肪やコレステロールの摂りすぎは結石を形成しやすく、胆石症になりやすい、あるいはすでに胆石がある場合は、大きくなる可能性がありますので控えましょう。

魚介類や野菜を摂取する

胆石を悪化させないように、普段から和食中心の、バランスのとれた食事を摂取しましょう。

洋食中心の食生活は、無意識のうちに糖質や脂質を摂りすぎる可能性がありますので、脂身の少ない魚介類や野菜、あるいは豆類、乳製品、食物繊維を多く含む野菜やきのこ、海藻類などをバランスよく組み合わせて摂取しましょう。

発作の痛みが強く通常の食事が取れない場合は、お粥などの消化にいい流動食から始めましょう。

脂肪が多く消化の悪いものや刺激物は避けて、ほうれん草や白菜などの葉物野菜、りんごのすりおろし、豆腐などを摂取するのがおすすめです。

胆石を放置すべきではない理由

万が一胆石を認めた際に放置すれば、胆石発作や急性胆嚢炎を発症する、また重症化して腹膜炎や急性胆管炎を合併するなどによって命に直結する状態に陥るリスクが考えられます。

また、病変を放置することで、胆嚢がんをはじめとする重篤で生命予後を規定する可能性がある疾患を見逃してしまう危険性も懸念されますので、仮に胆石症と診断された場合にはたとえ無症状であっても医療機関を受診して相談するようにしましょう。

胆石を有していてもまったく症状を感じない人もいますので、無症候性の胆石を認める場合には慌てて治療を急ぐ必要性はありません。

胆石を放置する危険性、胆石に合併する病気、胆石と見間違えられる可能性がある胆嚢がんの存在、病状が悪化した際の対応などについてはよく理解しておく必要があります。

無症状の胆嚢結石を抱えている場合には、消化器内科など専門医を受診して、年に1~2回程度腹部超音波検査を受け、胆嚢や胆石の状態を評価してもらえば安心につながるでしょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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