潜伏期間も感染!アデノウイルスが引き起こす肺炎や胃腸炎などの病気
アデノウイルスという名前を聞いたことはありますか。インフルエンザやコロナウイルスなどと比べ、あまり耳にしない名前のウイルスですが、実はそれらのウイルスより多くの感染症を引き起こしているありふれたウイルスなのです。
ここではアデノウイルスが引き起こす肺炎をはじめとする病気について解説します。
目次
アデノウイルスとは
アデノウイルスは多くの病気を引き起こすウイルスで、感染力が強いことが特徴です。普通のウイルスは酸性の環境では生存しづらいのに対し、アデノウイルスは酸性環境でも生存し感染を引き起こします。
「アデノ」というのはもともと扁桃腺やリンパ節を意味する言葉です。ですから、人体の中では扁桃腺やリンパ節によく潜み、増殖するのが特徴です。ウイルスの種類としてはDNA構造を持っているDNAウイルスに分類されます。
アデノウイルスにはさまざまな型があり、それぞれの型によって引き起こしやすい症状が決まっています。人に感染するアデノウイルスは現時点で約50種類知られています。
最もよくみられるアデノウイルス感染症は風邪です。特に夏風邪の多くはアデノウイルスの感染によって引き起こされています。夏風邪というと、冬の風邪に比べてやや治りにくいものの重症化はしにくいという印象があるかもしれません。実際には肺炎に移行することもあり、決して楽観視してはならない感染症といえます。
アデノウイルスが引き起こす病気
アデノウイルスによって肺炎のほかに、胃腸炎、咽頭結膜炎、流行性角結膜炎、肝炎などが引き起こされます。
肺炎
アデノウイルスの中でも3型、7型、21型は呼吸器感染症を引き起こしやすいです。鼻炎や咽頭炎、扁桃炎などの症状を引き起こします。しかしその中でも7型は特に肺炎に移行しやすいウイルスです。
アデノウイルスによる肺炎は、5歳以下の乳幼児に多くなっています。また、ウイルスが血液に入り体内の別の場所に移行することが多く、髄膜炎や脳炎、心筋炎などを併発することがあり、注意が必要です。
治療は対症療法になります。対症療法というのは、1つ1つの症状に対し、症状を軽くするような治療を行うということです。アデノウイルスはウイルスを減らしたり、ウイルスの増殖を抑えたりする薬剤がないため、患者さん自身の免疫に頼ってウイルスを撃退するしかありません。ですから、自分自身の免疫力を高めるために安静にしながら、症状を抑えて経過を見ることになります。
胃腸炎
アデノウイルスは乳幼児の嘔吐下痢症の主な原因のひとつになります。特にアデノウイルスの31型、40型、41型に多いとされています。
この胃腸炎の特徴として腸重積を起こしやすいというものがあります。腸重積というのは、筒状をしている腸管の一部が肛門側の腸管の中にはまり込んでしまう病気です。腸重積を起こしてしまうと腸の中で便が通過障害を起こすだけでなく、そのまま放っておくと腸への血流が阻害され、壊死してしまうことがあります。とくにイチゴジャム様と言われる赤い便が出たときは腸重積を強く疑います。
腸重積を疑った場合はすぐに診断、治療が必要です。乳幼児の嘔吐下痢症で、嘔吐が激しい一方で、便が出てこなかったり便の色に異常があったりする場合にはすぐに受診が必要です。
咽頭結膜熱(プール熱)
主にアデノウイルスの3型、7型で引き起こされる感染症です。プールの水の中で感染が媒介されることが多いため、プール熱と呼ばれます。季節は夏に多く、流行する年代も学童年齢に多いのですが、乳幼児の罹患もあります。
症状としては急激な発熱からはじまり、頭痛や食欲不振、全身倦怠感に加えて、咽頭炎によるのどの痛みが起こるほか、目への感染によって結膜炎による充血、眼痛、流涙、羞明、眼脂を伴います。
治療はやはり対症療法となります。学校保健安全法により、感染した場合は主要症状が消えた後2日を経過しないと登校できないとされています。
多いのはアデノウイルスの3型による感染ですが、7型によるものは乳幼児や高齢者、持病を有している人など免疫機能が低下している人の場合は重篤になることがあるため注意が必要です。
流行性角結膜炎
流行性角結膜炎はいわゆる「はやり目」で、非常に感染力が強く眼球結膜(白目の部分)が強く充血するのが特徴です。アデノウイルスの8型、19型、37型が主な原因ウイルスです。
多いのは1歳から5歳くらいで、保育園内で広まることが多いのですが、成人での発症例も少なくありません。
結膜の充血だけで終わることも多いのですが、角膜まで感染を起こし、混濁してしまうと視力の低下を引き起こすこともあるので油断はできません。
こちらも感染力が非常に強く、学校などで広く流行することがありますから学校保健安全法で感染の恐れがなくなるまで登校禁止措置がとられています。
肝炎
アデノウイルスは肝炎を引き起こすこともあります。肝炎の原因ウイルスとしては非常に稀で、肝炎を見たときにまずアデノウイルスを疑うといったことはありません。
アデノウイルスが肝炎を引き起こすのはほとんどの場合、臓器移植後など免疫抑制薬を使用し、自分自身の免疫が弱まっている人です。しかし稀に持病のない健康な子どもにも発症例があります。
アデノウイルス感染症が元々ある場合に広く全身症状が起こった場合や、一部の解熱薬を使用し体内の免疫バランスが崩れた場合などに肝不全が認められたという報告もあります。
2021年末からイギリスをはじめとした海外で子どもの原因不明の肝炎症例が報告され始め、日本でも数例の発症者が認められました。このとき、アデノウイルスが原因ではないかといわれ、実際にアデノウイルスが検出された子どももいます。しかし、アデノウイルスが検出されていない子どももおり、現時点(2022年6月上旬現在)では原因がはっきりしていない状況です。
出⾎性膀胱炎
出血性膀胱炎とは膀胱粘膜から肉眼的な出血をきたす、非細菌性の膀胱炎のことを言います。細菌感染によって起こってくる膀胱炎とは区別してこう呼ばれます。
症状としては、排尿時の痛みが特徴的です。血尿は少し色がつく程度ではなく、真っ赤になることも珍しくありません。重症になると血の塊が見られるようにもなります。膀胱が刺激されることによる尿意頻発や残尿感の症状もよくあります。
大人の場合には、シクロホスファミドという薬を内服した際に起こってくることがほとんどです。他には抗アレルギー薬や抗生物質、漢方薬でも起こってくることがあります。また、膀胱がんに対して膀胱への放射線治療を行うことによっても起こります。
小児の場合には、アデノウイルスによる出血性膀胱炎が最も多く起こってきます。
治療としては基本的に対症療法を行います。薬剤によるものと考えられる場合には薬剤を中止しますが、アデノウイルス感染症によるものと思われる場合には、そのまま様子を見ることで改善してくることがほとんどです。多くの場合、2~3日程度で症状は良くなります。 血尿に関してはしばらく残ることがありますが、それでも10日ぐらいで改善してきます。
アデノウイルスの潜伏期間
感染症には潜伏期間があります。潜伏期間とは、感染症の原因となる病原体が体の中に入ってから、症状が出てくるまでの期間を指します。アデノウイルスの潜伏期間について確認しましょう。
潜伏期間の目安
アデノウイルスの潜伏期間は、感染してから約5~7日と言われています。ただし、これはプール熱の場合で、流行性核結膜炎を引き起こすタイプのものだと1週間以上潜伏期があるとも言われています。
潜伏期間中の感染に注意
潜伏期間中は症状がないので感染しているとは気づかずに周りの人にうつしてしまうことがあります。
感染の疑いがある人と接触した場合には、概ね1週間は症状が出ないか注意する必要があります。
アデノウイルスは非常に感染力の強いウイルスですから、一緒の空間で生活をしただけでも感染する可能性があります。
プール熱という名前がついているのも、プールを利用する際の環境によって感染が成立しやすいからです。プールの中で感染するほか、プールの後に使用したタオルを使いますことによっても感染が起こります。普段からタオルの使い回しはしないようにしましょう。
登校・登園禁止期間
アデノウイルスは感染力が強いですから、感染が分かった場合には出席停止となります。 感染のタイプによって出席停止期間が変わってきます。
咽頭結膜炎(プール熱)の場合には、主な症状がなくなってから2日経過するまで出席停止となります。だいたい1週間程度が目安になります。
流行性角結膜炎の場合には、感染の恐れがないと医師が認めるまで出席停止とされています。通常は1~2週間程度かかります。
上記以外については、決められた出席停止期間はありません。それでも体調不良で保育園や小学校を休まなければならないと思われます。5日から1週間程度の休みが必要になることが多いです。
アデノウイルス感染症の予防方法
アデノウイルスは前述の通り、酸性環境などでも生き残るなど、非常にタフなウイルスで、感染力が強いウイルスといえます。
感染経路は主に飛沫感染です。鼻水やくしゃみなど、感染者から分泌された粘液に触れた人に口や目などの粘膜から入ることで感染します。しかし、プール熱などでも分かるように、環境中でもある程度生存し、その物質に触れることで感染することもあります。
感染を防ぐためには、感染者の分泌する体液に触れないことはもちろん、手洗いをしっかりすることです。また、アルコール消毒も有効です。手にウイルスが付着することは防げないことが多いため、付着したウイルスが口や目に入らないようにしっかりと洗い落とすことが予防となります。
一方で、他の人に感染させないことも重要です。アデノウイルス感染症と診断されたら、それぞれの病気に応じて登校・出勤禁止を守り、同居家族にうつさないようにタオルは別のものを使うなどの工夫が必要となります。