女性特有の疾患かも?下腹部・鼠径部の「しこり」の原因

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下腹部や鼠径部に「しこり」があるように感じられるとき、どのような原因が考えられるでしょうか?

「しこり」というとがんを連想するかもしれませんが、大腸がんでしこりを自覚するのはある程度進行した後であることが多いといわれています。

ここでは大腸がんを含め、下腹部や鼠径部のしこりの原因について詳しく見ていきましょう。

大腸がんの進行の仕方

大腸は、約2mの長さをもつ消化管臓器です。

解剖学的には、結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)、次に直腸(直腸S状部、上部直腸、下部直腸)、そして肛門管に分けられます。

通常では、口から入った食べ物は、胃や小腸で消化および吸収された後に結腸に送られて、その次に、結腸に送られた食べものは、水分を少しずつ吸収して固形の便になったあとに、直腸へ行きます。

そのような大腸に形成された癌の発生は、生活習慣と関わりがあるとされています。

大腸の粘膜に形成された癌病変は、進行すれば大腸の壁に深く侵入して入っていきます。

やがて大腸の外に顔をだし、お腹のなかに散らばったり(腹膜播種)、リンパ液や血液の流れに乗って所属リンパ節、あるいは肝臓や肺などの他臓器に転移したりします。

大腸がんは進行しないと「しこり」を自覚しにくい?

大腸がんはある程度進行しないと腹部にしこりを自覚しにくいと考えられており、早期の段階では自覚症状はほとんどなく、進行すると多彩な症状が出現することが多くなります。

典型的な症状としては、腹部にしこりを触れる、血便(便に血が混じる)、下血(腸からの出血により赤または赤黒い便が出る、便の表面に血液が付着する)、下痢と便秘の繰り返し、便が細くなる、便が残る感じがする、腹痛、貧血、体重減少などが挙げられます。

下腹部・鼠径部の「しこり」の原因

下腹部・鼠径部の「しこり」の原因はいくつも考えられます。代表的なものを確認しましょう。

妊娠

女性で下腹部にしこりが触れる場合、まず妊娠の可能性を考えます。

妊娠初期には、あまりしこりとして触れる機会は少ないですが、ごく初期に着床痛としてチクチクしたような痛みやおなか全体が引っ張られるような張りを自覚する場合もあります。

また、妊娠の初期段階ではおなかの赤ちゃんが成長するにつれて、筋肉や靭帯が緩んで子宮が広がろうとして、左右どちらかの靭帯がひっぱられてチクチクした痛みが出ている可能性があります。

また、妊娠期においてはプロゲステロンというホルモンの影響で、腸のぜん動運動が起こりにくく、腸の働きが弱まることで、普段はお通じの良い人でも妊娠期には便秘になりやすく、便が排出されずに腹部全体が重く感じて腹部にしこりとして感じることもあります。

妊娠後期になるにつれて、妊娠子宮そのものの増大と子宮を包んでいる膜が膨らんでいくことによって腹部の突っ張り感が顕著となって、張りとなって感じられるとともに、子宮自体が腹部にしこりとして触れることがあります。

腹壁ヘルニア

腹壁ヘルニアとは、何らかの原因によって弱くなった腹部の前壁から、腹部の臓器が飛び出る病気のことを指しています。

腹部の臓器が飛び出すことで、腹部にしこりのような膨らみが生じますが、多くは軽い違和感が生じるのみです。

ただし、放置しておくと腸閉塞(腸の通り道が塞がる状態)を起こすことがあり、腸閉塞になると、主に突然の激しい腹痛や嘔吐、腹部膨満感などの症状が現れます。

子宮筋腫

子宮筋腫とは、子宮の中やその周りの筋肉に良性の腫瘍(こぶ)ができる病気のことで、30代以上の女性の2~3割にみられるといわれています。

子宮筋腫は、子宮の壁にできる良性の腫瘍であり、一度発症すると徐々に大きくなって下腹部痛や貧血などの原因になることも想定されます。

子宮筋腫は卵巣から分泌される女性ホルモンによって大きくなると言われており、複数個できることが多く、数や大きさはさまざまであり、筋腫ができる場所によって、子宮の内側(粘膜下筋腫)、子宮の筋肉の中(筋層内筋腫)、子宮の外側(漿膜下筋腫)に分類されます。

子宮筋腫は女性ホルモンの影響を受けて大きくなることが知られており、女性ホルモンの分泌が盛んになる20歳代頃から発症しやすくなる一方で、閉経を迎えて女性ホルモンの分泌量が激減すると徐々に小さくなります。

子宮筋腫が巨大化すると日常生活に支障をきたすような強い腹部症状が現れる、あるいは不妊症の原因になることもあります。

子宮筋腫は腫瘍の大きさや腫瘍ができる場所によって症状は異なりますが、経血量の増加、それに伴う貧血、月経困難症(生理痛がひどくなる)がみられることがあります。

また、不正出血(月経ではないのに出血する)や頻尿、尿が出にくくなるなどの症状が現れることもあります。

腫瘍が小さいうちや出現部位によっては無症状であることも少なくありませんが、腫瘍自体が大きくなればお腹の上から硬いしこりを触れる場合もあります。

筋腫が小さくて、無症状の場合は特別な治療の必要はありませんが、巨大化して貧血や下腹部痛が悪化すれば、手術治療や薬物療法を実施します。

卵巣がん

卵巣がんは卵巣に発生する悪性腫瘍です。卵巣という臓器は女性ホルモンを分泌して卵子を成熟させて排卵を起こす重要な機能を有しています。

日本において卵巣がんは女性性器悪性腫瘍の中でも最も死亡数の多い癌腫であり、その死亡率や罹患率は近年増加傾向を示していると指摘されています。

腫瘍性の病変は良性・悪性問わずに体のさまざまな部位に発生し、卵巣を含めて肝臓や膵臓、胆のう、脾臓、腎臓、胃、大腸、子宮、膀胱などの腹部の臓器に発生することもあります。

卵巣部に悪性腫瘍が発生しても直後に自覚症状が出現することはほとんどありませんが、かなり進行すると大きな腫大性病変を形成するに随伴して、特に下腹部中心が張って腫瘤を触れるなどの症状が顕著に認められるようになります。

腫瘍が小さい初期は無症状であることが多いですが、しこりが触れられる頃にはすでに病状が進行していることが予想されます。

病状が進行している場合には、腹痛や嘔吐、食欲不振、貧血など、腫瘍の発生部位に応じた症状が伴うことも見受けられます。

腹部大動脈瘤

腹部大動脈瘤が大きく腫れると拍動するしこりとして触れます。

腹部大動脈瘤は、腹部大動脈壁の一部が脆弱化し、その部位が限局的に拡張する病気です。腹部大動脈の直径は正常であれば約2㎝ですが、3㎝以上に拡張した部位がある場合に腹部大動脈瘤と診断されます。

大動脈は、心臓から全身に向かって送り出された血液が通る非常に太い動脈であり、心臓から出て、まずは上方に走行して頭頚部や上肢に枝分かれし、カーブを描くように彎曲して下方へ向きを変えて走行します。

心臓から上方へ走行する部位を上行大動脈、カーブを描く部位を弓部大動脈、下方へ走行する部位を下行大動脈と呼称しており、下行大動脈は横隔膜を通って腹部を走行し、この横隔膜から下方の部位を「腹部大動脈」と呼びます。

腹部大動脈は、肝臓や胃、腸管、腎臓などに血流を送る動脈に枝分かれし、さらに左右に分かれて下肢に血流を供給しています。

腹部大動脈瘤は全大動脈瘤の約3分の2を占めるとされており、初期には自覚症状は少ないですが、瘤が大きくなると破裂する危険が高く、突然死する可能性もあります。

鼠径ヘルニア

鼠径ヘルニアとは、鼠径部(足の付け根あたり)に生じるヘルニアの総称です。

「脱腸」とも呼ばれている病気であり、ヘルニアは体の組織や臓器が本来あるべき部位からはみ出した状態です。

鼠径ヘルニアでは、腸や腸を覆う脂肪組織、卵巣、膀胱などが腹壁に生じた欠損部を通して飛び出すことが知られていて、腹部に生じるヘルニアの約80%は鼠径ヘルニアと言われています。

鼠径ヘルニアはあらゆる年齢で起こり得る病気ですが、子どもと高齢者に多くみられる傾向があります。

鼠径ヘルニアの原因には、先天性(生まれつき)、および後天性(生まれた後に起こる)の要素が考えられていて、子どもに生じる鼠径ヘルニアのほとんどが先天性、大人に生じる鼠径ヘルニアの多くは加齢、あるいは生活習慣など後天性のファクターによって発症します。

子どもの鼠経ヘルニア

子どもの鼠径ヘルニアの多くは生後1年以内に発症します。

特に、子どもの鼠径ヘルニアの場合は、腹膜の出っ張りである腹膜鞘状突起(胎児が生まれる前に、腹膜の一部が鼠径部に突出することで生じる小さな袋状の突起)という構造が鼠径部に残存していることが原因と考えられています。

この腹膜鞘状突起は、通常では出生前に自然に閉鎖しますが、出生後も閉鎖せずに残った状態で、過剰な腹圧などによって腹膜鞘状突起の内部に内臓が入り込むことで鼠径ヘルニアを発症すると言われています。

特に幼少期女児鼠径ヘルニア例の約20%程度に子宮付属器が脱出する滑脱ヘルニアが起こることがあり、卵巣の捻転壊死を合併することもあると言われています。

成人の鼠経ヘルニア

成人の鼠径ヘルニアの原因は、主に加齢に伴って腹壁が脆弱になることであり、腹壁部分が弱くなると咳嗽や重いものを持って腹部に圧力がかかることによって腹圧が上昇して内臓が飛び出すようになります。

鼠径ヘルニアには通常、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアの3種類が存在し、鼠径部のどの部分にヘルニアが発生するかによって、分類されています。

立位時や腹部に力が入って加圧された際に、鼠径部の皮膚の下から柔らかい腫れが出て、その腫大部を用手的に押さえて簡単に引っ込むようであれば初期症状と考えられます。

ただし、柔らかかった腫れが急に硬くなり、押さえても引っ込まなくなれば、嵌頓(かんとん)という状態を起こして、鼠径部の強い痛みや嘔吐症状などが出現し、緊急手術が必要になることもあります。

ヌック管水腫

ヌック管水腫とは、胎生期に子宮円索の形成に伴って鼠径管内に入り込んだ腹膜鞘状突起(ヌック管)が生後も閉鎖されずに遺残して、内部に液が貯留した病態です。

女性の鼠径部から外陰部にかけての嚢胞性腫瘤として確認できます。

ヌック管水腫とは、20代~40代の女性に多く見られる鼠径ヘルニアと似た疾患であり、鼠径部に膨らみが起こり、その見た目は鼠径ヘルニアとほとんど変わりません。

ヌック管とは、女性の胎生期に存在する鼠径部(腿の付け根)の構造のことであり、本来は出生とともに消失するものですが、その構造物が残存して、嚢腫(のうしゅ)や水腫(すいしゅ)と呼ばれる袋となり、内部に液体を伴うようになります。

ヌック管が大きくなるとふくらみができ、鼠径部のしこりとして症状に気付くようになります。

リンパ節腫大

鼠径部のしこりの形状がはっきりとしていて、押すと左右に動き、また圧痛を伴うことがあれば、鼠径リンパ節の腫大の可能性が考えられます。

足の付け根である鼠径部、あるいは腕の付け根である腋窩部はリンパ節が多く集まる場所として知られています。

リンパ節にはリンパ液が流れ込みますが、細菌やがん細胞をせき止める役割をしています。

患部の痛みを伴っていれば、感染症によるリンパ節炎の可能性が高く、無痛性なら悪性リンパ腫などのがんの可能性があります。

まとめ

これまで、下腹部・鼠径部の「しこり」の原因などを中心に解説してきました。

下腹部にしこりを感じる場合には、便秘や妊娠、子宮筋腫以外にもさまざまな原因が考えられ、中には大腸がんや腹部大動脈瘤など注意が必要なものもあります。

万が一、お腹に違和感があってその部分を押すとしこりのような硬いものがあった、数日前からお腹にプクっとしたしこりができて、徐々に大きくなっている、あるいはお腹の一部が不自然に膨らむなどがあれば、医療機関を受診してください。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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