低血糖や睡眠不足が原因に?異常な空腹感を感じるメカニズム

お腹を抑える女性 腹痛イメージ
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「長時間運動を続けていたら、激しい空腹感と吐き気が出てきた」、「食事が遅れたら、ふらふらして気持ち悪くなってきた」といった低血糖の症状を経験したことはありませんか?

または、「睡眠不足が続いているときに食欲が抑えられず、食べ過ぎてしまった」といった経験をした方もいらっしゃることでしょう。

ここでは異常な空腹感の原因になる低血糖や睡眠不足について詳しく見ていきましょう。

低血糖による異常な空腹感

スマートウォッチと血糖測定器

高血糖は血糖値が正常値よりも高くなることをいいますが、逆に低くなることを低血糖といいます。

低血糖状態になると、発汗、疲労、脱力感、思考力の低下などさまざまな症状があらわれ、空腹感もそのひとつに含まれていますので、糖尿病を患っていて空腹を感じた場合は低血糖になっている可能性もあります。

低血糖の目安と代表的な症状

通常、血糖値は空腹時でも70~110mg/dLで維持されていますが、一部の薬を服用したり運動量が多すぎたりする場合には低血糖が起こることがあります。

血糖値が60~70mg/dL未満になると、冷や汗や動悸、頭痛、寒気、悪心、脱力感などが出現して、強烈な空腹感を覚えたり、手足の震えや目のちらつき、気持ち悪くなったりするのも代表的な症状です。

これらの症状は、下がりすぎた血糖を上げるために、グルカゴンやアドレナリンといったホルモンが分泌されて起こります。

さらに、血糖値が低下して50mg/dL未満に至ると脳の機能が低下して、意識がぼんやりしたり、うとうとしたり、目の前が暗くなって倒れる、あるいは呂律が回らなくなる、異常行動を起こす場合もあります。

インスリンと血糖値の関係

血糖値とは「血液の中のブドウ糖の量(濃度)」のことであり、すい臓から分泌されるインスリンは血液の中のブドウ糖の量を下げるホルモンです。

血液中に分泌されたインスリンは肝臓、筋肉など全身の細胞の表面にある鍵穴(受容体)に付着して、その細胞は血液の中のブドウ糖を細胞の中に取り込むことで血糖値が下がるという仕組みになっています。

主に、細胞の中に取り込まれたブドウ糖は、細胞のエネルギー源となります。

肝臓や脂肪組織、筋肉などに取り込まれたブドウ糖もエネルギー源となりますが、余ったブドウ糖は、中性脂肪、グリコーゲンなどに姿を変えて、 肝臓、脂肪組織、筋肉に貯めこまれます。

これらの貯め込まれた中性脂肪やグリコーゲンは、食事をしていないときや、運動をするときなど、必要になったときに使用されます。

血糖値スパイクを予防しよう

食後の短時間に血糖値が急上昇する「血糖値スパイク」が最近注目されています。

この状態をしばらく放置しておくと動脈硬化が進み、血管がいたみやすくなり、炎症や酸化ストレスを起こりやすくなりますし、最近の研究では認知症の進展にも関連があることが判明してきました。

特に、糖尿病は慢性的に血液中のブドウ糖が増え過ぎて、血糖値が高い状態が続くことで体に不調をもたらす病気であり、予防のためには自分の血糖値の変動を知ることが重要になります。

血糖値は日常的に常に変動していて、糖尿病と診断されていない人でも食後の血糖値が140mg/dL以上になることは珍しくなく、こうした食後1~2時間程度の血糖値の上昇は血糖値スパイクと呼ばれています。

食後にぐったりして椅子で座ったままになる、あるいは眠気を感じるほど疲労感があるなどの場合には、血糖値スパイクを疑いましょう。

睡眠不足による異常な空腹感

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睡眠不足によって食欲が増進すると、空腹感を感じやすくなることが知られています。これには「レプチン」と「グレリン」というホルモンが関係しています。

食欲を抑えるホルモン「レプチン」

食欲は、実はホルモンの働きによって増進したり抑制したりされています。

主に、満腹を感じる満腹中枢は、レプチンというホルモンの影響を受けていて、食事をすることにより、血糖値が上昇し、脂肪細胞が刺激されることでレプチンというホルモンが分泌されます。

このレプチンは、満腹中枢を刺激するレプチン受容体に反応して、食欲を抑制する作用があり、食べることでレプチンが働き、食欲が抑えられ、満腹を感じるという仕組みになっています。

食欲を高めるホルモン「グレリン」

レプチンとは逆に、食欲を増進させるホルモンがグレリンです。

グレリンは空腹時に分泌されるホルモンであり、分泌されたグレリンが、空腹中枢を刺激することで空腹を感じると言われています。

グレリンの分泌を抑える方法のひとつは、レプチンが適切に分泌されることであり、このふたつの食欲を司るホルモンは、レプチンが分泌されるとグレリンが抑えられて、レプチンが減少するとグレリンが働いて、食欲が増すという相関関係にあります。

レプチンが過剰に分泌されないことが、グレリンの抑制にも繋がるということになります。

睡眠不足と食欲の関係

慢性的な睡眠不足は体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を及ぼすことが知られており、それは食欲だけでなく、メタボリックシンドロームなどを含めて生活習慣病発症につながります。

一般的に、睡眠不足になると食欲を抑えるホルモン(レプチン)の分泌は減少し、食欲を高めるホルモン(グレリン)の分泌が亢進するため、食欲が増大することが分かっています。

睡眠不足の日が続くと、食べても食べてもお腹が空いて、ついつい無意識に食べてしまうということが見受けられますし、アンチエイジングにかかわる成長ホルモンの分泌不足が本来の睡眠中の新陳代謝を乱すために、メタボリック体質が進む可能性があります。

異常な空腹感が肥満や糖尿病につながることも

糖尿病はあまり自覚症状がない病気ですが、代表的な自覚症状として挙げられるものは、尿糖が出はじめる、皮膚が乾燥してかゆくなる、疲労感、傷が治りにくい、手足に刺すような痛みがあり感覚が乏しい以外にも、「空腹を感じる」というものがあります。

空腹に限らず、これらの症状を感じることが多くなってきた場合には、糖尿病がある程度進行していると考えられますし、場合によっては、異常な空腹感という症状が糖尿病を発見する契機になることもあります。

また、食事の時間が4時間ずれただけで、空腹感、食後のカロリー燃焼、脂肪蓄積などに大きな変化があらわれることが判明し、夜遅い時間帯に夕食をとると、空腹感が増して、消費カロリーが減少し、脂肪が体に貯留しやすくなることが知られています。

それ以外にも、これまでに多くの研究で、遅い時刻に食事をとると、体脂肪が増えて肥満リスクが上昇することが示されています。

肥満は、2型糖尿病・高血圧・脂質異常症などのリスクを高める状態であり、肥満のある人が、肥満を改善することは、脳卒中・心筋梗塞・腎臓病などの深刻な病気の予防につながると考えられています。

まとめ

これまで、低血糖や睡眠不足が原因になり得る異常な空腹感を感じるメカニズムなどを中心に解説してきました。

空腹感と満腹感は、ごく単純な感覚に思えるかもしれません。

何時間か食べずにいれば空腹になり、十分な量を食べれば満腹になるだけではないかと考える人もいるかもしれませんが、実際にはもっと複雑なことが身体の中で起きています。

レプチンやグレリンなどのさまざまなホルモンが空腹感や満腹感、脂肪の蓄積を調節し、体重や健康に影響を及ぼしていることを知っておきましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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