新型コロナウイルスと似ている?RSウイルス感染症の症状と予防方法

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新型コロナウイルス感染症が広がりを見せる一方で、RSウイルスによる感染症症状を示す子どもが増加しているとの報告がありました。ここでは、RSウイルスの特徴について解説します。

RSウイルス感染症とは

RSウイルス感染症とは、その名の通り、RSウイルスというウイルスに感染することで引き起こされる病気のことです。いわゆる「かぜ」の中にはこのRSウイルス感染症が含まれていることが多く、比較的一般的な感染症といえます。

原因となるRSウイルス

RSウイルスのRSは、Respiratory systemの略です。Respiratory systemとは呼吸器のことですから、呼吸器感染症を引き起こすウイルスの意味になります。RSウイルスは、ウイルスの中でもRNAウイルスと言うカテゴリーに分類されるウイルスです。

感染症の原因は主に細菌、真菌、ウイルスに分かれます。このうち、細菌や真菌は一つの細胞からなる生物で、細胞膜とよばれる隔壁を持っており、細胞の中にさまざまな構造を有しています。増殖が可能な環境下で細胞分裂をし、増殖していきます。

しかしウイルスは細菌や真菌とちがい、細胞としての形をもっておらず、自分自身の力では増殖することができません。ウイルスは自分自身の構造を規定する設計図であるDNAやRNAを基本として、そこに種々の構造体がひっついているだけの非常にシンプルな構造をしています。

このようなウイルスが人やその他の動物の体内に入ると、その動物の細胞に入り込み、その細胞の中にあるさまざまな構造物を利用してDNAやRNAを複製したり、その設計図を元にしてさまざまなタンパク質を生成します。そして増殖したウイルスが細胞から出て他の細胞にさらに感染したり、その動物からでて他の動物に感染することで増殖を続けていきます。

RSウイルスはRNAウイルスという名の通り、RNAを基本とした構造体です。そして、Respiratory systemの名の通り、呼吸器を構成する細胞によく感染し、そこで増殖をします。

人の体はウイルスが侵入、増殖すると免疫反応によってこれに対処します。免疫反応が起こりやすいように体温を上げて、ウイルスを体の外に排出しようと痰、咳、くしゃみなどを駆使します。これが、RSウイルスが侵入してきたときの基本的な症状につながります。

感染経路

RSウイルスは、感染者の唾液や鼻水に多く含まれています。くしゃみをしたり咳をしたりすることでそれらの感染物質が飛沫という形で体外に排出されます。そしてその飛沫を直接鼻や口から吸入したり、飛沫が付着した場所を触った手で鼻や口を触ったりすることで体のなかに侵入してきます。

体の中に侵入したウイルスは増殖しながら徐々に鼻の中からのどへ、のどから気管へと進展していきます。

発症しやすい年齢

RSウイルスは非常にありふれたウイルスで、1歳までに70%、2歳までにほぼ100%が感染するといわれています。

感染すると体の中に抗体という感染症に対抗するためのタンパク質が作られます。抗体があってもRSウイルス感染症は引き起こされますが、抗体がないときに比べて症状が軽く済みます。そのため、感染を繰り返すにつれてだんだんと症状が軽くなります。

ですから、RSウイルス感染症による症状は、小さい子どもほど重篤なものとなってしまうのです。

発症しやすい季節

RSウイルスは一般的な風邪のイメージと同じく、気温が低く、乾燥した空気の中で感染力が強まります。その結果、冬に流行しやすくなります。ただし、新生児や乳児が夏に感染するケースも報告されています。

RSウイルス感染症の症状

RSウイルスの症状の特徴について見てみましょう。

潜伏期間

潜伏期間というのは感染症が体の中に侵入してから、症状が実際に出てくるまでの期間をいいます。RSウイルスの潜伏期間は4~6日程度といわれています。

主な症状

いわゆる風邪のような症状を呈します。すなわち、弱ければ鼻水が多く出る程度で症状は治まりますが、重症化すると急性上気道炎や気管支炎として咳やくしゃみ、のどの痛み、単に加えて熱が出てきます。

さらに重症化してくると呼吸困難感を起こしたり、ヒューヒューいったりします。肺炎を起こし、酸素の取り込みが不十分となって動けなくなることもあります。

また、新生児の場合は呼吸をする命令を出す脳の機能が未熟であることもあり、呼吸器の異常と相まって呼吸が止まってしまい、突然死に至ることもあります。とはいえ前述のように年齢を重ねるにつれて感染しても症状は軽くなり、年長児ぐらいになるころには感染してもほとんど症状がないか、鼻水程度で済むことのほうが多くなります。

新型コロナウイルス感染症の症状と似ている?

RSウイルス感染症と新型コロナウイルス感染症との鑑別が問題になりました。というのも、いずれの感染症もウイルス感染症で、RNAウイルスです。感染経路も同じように飛沫を中心とした感染ですから、感染を起こす体の部位も同じで、反応も似通ってきます。

すなわち、軽ければ無症状から軽い風邪のような症状をきたしますが、重症化してくると気管支炎や肺炎を起こします。もちろん発熱も呈します。

このように、新型コロナウイルス感染症とRSウイルス感染症は症状が似ているため、症状だけで鑑別するのは困難です。

重症化の危険は?

前述の通り、特に年齢が低いほど重症化の可能性があります。ただの発熱と思っていても、だんだんと呼吸状態が悪くなってきます。

しかも、重症化する場合は非常に早い経過をたどりますので、短期間の内に酸素の取り込みが悪くなって全身の状態が悪くなってしまうことも時折みられます。

新生児が発熱した場合はしっかりと観察をし、呼吸状態がおかしいと感じた場合はすぐに病院を受診しましょう。

RSウイルス感染症の検査と治療

RSウイルスの検査は、抗原検査が確立しています。インフルエンザの検査と同じように綿棒で鼻の奥をこすることで検体を採取し、検査を行います。約30分で検査結果が出て、精度もかなり高いものです。

検査で陽性となり、さらに重症化のリスクが高いと思われる場合には特殊な薬剤(パリビズマブ)という薬が使われることもありますが、基本的には様子見で自然に軽快します。種々の症状で十分に寝られないなど、症状を消失させた方がよいと思われる場合には症状を抑えるような薬剤を使用することもあります。

RSウイルス感染症の予防方法

新型コロナウイルスが流行し、皆が手洗い、うがいをしっかりとしてマスクを装着し、飛沫感染の対策をしっかりするとRSウイルス感染症も激減しました。ですので、感染予防の方法はこのような対策につきます。

ただし、新生児はマスクをつけるわけにはいきませんし、手洗いやうがいをすることも無理ですから、周囲からの感染に気をつける必要があります。新生児を触る前には手をしっかり洗い、咳やくしゃみがある場合は基本的には新生児に近寄らないようにしてあげることが必要です。接する必要がある場合はマスクをつけるなど、飛沫対策をしましょう。


<執筆・監修>

郷正憲先生プロフィール画像

徳島赤十字病院
麻酔科  郷正憲 医師

麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。
麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。
本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。
「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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