女性に多い疾患も?首筋のしこりとリンパ節の関係、原因になる病気
首の横や後ろ、付け根などを触るとコリコリとしたしこりのようなものに触れることはありませんか?
こうしたしこりは硬いものから、比較的柔らかいものまで、押すと痛いものから痛くないものまでさまざまです。形状も丸いもの、細長いものなどがあり、可動性のものや動かないものなど多種多様となっています。
首には、甲状腺、リンパ節、血管、神経などの臓器・組織が集中しており、このような組織が腫れた場合にしこりとして触れることができるのです。
ここでは首のまわりのしこりの原因や病気との関係について詳しく見ていきましょう。
目次
首筋のしこりの原因になるリンパ節炎とは
首のまわりだけでなく、耳の後ろや鎖骨付近、脇の下、足の付け根など、さまざまなところにリンパ節は分布しています。
リンパ節はこのように体の表面近くで触れる部分に存在する表在リンパ節と、体の深部(胸やお腹の中)に存在するリンパ節があります。リンパ節には免疫反応を調節する働きがあり、通常のリンパ節は小さく、触っても触れないですが、大きくなると触れることがあります。
リンパ節の腫れで一番多いのがリンパ節炎です。ウイルスや細菌のリンパ節への感染が原因となります。急性咽頭炎や扁桃炎、虫歯などから波及して感染する場合が多いです。
ウイルスや細菌、真菌などの感染によってリンパ節炎を引き起こすと、直径1センチほどの腫れが生じ、しこりを押した時の痛みや喉の痛み、発熱、鼻汁などの症状が出ます。慢性化すると首の腫れが数か月続くことがあります。
女性に多い亜急性壊死性リンパ節炎
4歳から75歳まで幅広くみられ、比較的若年層に多い病気です。男性と女性では1対3の割合で女性に多い病気となります。
原因は今のところ不明となっており、原虫のトキソプラズマや、エルシニア菌、種々のウイルス抗体価が上昇したという報告や、アレルギー、局所の異常免疫反応などさまざまな報告があります。
亜急性壊死性リンパ節炎の症状
亜急性壊死性リンパ節炎の症状としては発熱、リンパ節の腫れ、その他皮膚の発疹があります。38℃以上の発熱が1週間続き、風邪のような症状を伴います。熱は下がらないこともあり、1か月も症状がひかないこともあります。
リンパ節が腫れる部位は、首のリンパ節が圧倒的に多く、ついで腋下のリンパ節があります。リンパ節の腫れは主に1個であり、周囲のリンパ節とくっつくことはありません。高熱が持続するときに発疹が一過性に出現することがあります。また、扁桃腺が腫れることもしばしばあります。
治療としては、一般的に抗生物質は効果がなく、ステロイド薬や消炎鎮痛剤による対症療法しかありません。しかし、一過性の免疫不全状態を伴うことが多く、細菌感染などの二次感染に対する予防、治療が重要となります。
1~3か月程度で改善し、治療後の経過は良好です。しかし、まれに血球貪食症候群を伴う例もあるため、再発を繰り返すときには注意が必要です。
甲状腺腫瘍による首筋のしこり
首筋のしこりの原因としてリンパ節だけでなく、甲状腺の可能性もあります。甲状腺の細胞が変化し、結節や腫瘍といったしこりが生じることがあるのです。ほとんどが良性のものですが、10%程度で悪性腫瘍がみられます。
甲状腺腫瘍の症状
甲状腺は首の真ん中に存在しており、この腫瘍が大きくなれば、首の正中部分にしこりや甲状腺全体の腫れ、首の前のあたりの違和感などを感じることがあります。
良性腫瘍から甲状腺ホルモンが過剰産生される機能性甲状腺結節の場合には、甲状腺ホルモンが多く分泌されることで甲状腺の機能が亢進されるため、動悸、発汗過多、体重減少などの症状が出現します。
良性腫瘍であれば、原則的に治療はせず経過観察となります。しかし、機能性甲状腺結節の場合は症状が出ているため、手術を検討します。表面から針を刺して腫瘍内にエタノールを注入して腫瘍を壊死させる、PEIT(percutaneous ethanol injection therapy)という治療が行われることがあります。
悪性腫瘍の場合には、手術による腫瘍摘出が原則となります。術後再発や、遠隔に転移している場合には、手術後に放射線ヨウ素内用療法を行います。
悪性リンパ腫による首筋のしこり
悪性リンパ腫とは血液のがんの1つで、白血球の中のリンパ節がガン化したものとなります。リンパ球には、B細胞、T細胞、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)などの種類があり、これらががん化して無制限に増殖することで発症します。
リンパ節をつなぐリンパ管やその中を流れるリンパ液、胸腺、脾臓、扁桃などの組織や臓器に発生する場合と、胃、腸管、甲状腺、骨髄、肺、肝臓、皮膚などのリンパ外臓器に発生する場合があります。つまり、悪性リンパ腫は全身の部位で発生する可能性があるのです。
悪性リンパ腫の症状
症状としては、首や腋下や足の付け根などリンパ節が多いところに、痛みのないしこりとしてあらわれ、数週から数か月かけて持続的に増大していきます。他の疾患の場合は、改善に伴いリンパ節は縮小しますが、悪性リンパ腫は縮小せず増大するのです。
病気が進むと、しこりや腫れが全身に広がり、全身的な症状(発熱、体重減少、著明な寝汗)がみられるようになります。また、腫瘤により気道や血管、脊髄などの臓器が圧迫されると、気道閉塞、血流障害、麻痺などの症状があらわれ、緊急で治療が必要な場合もあります。
悪性リンパ腫の治療は化学療法と放射線治療を中心に行います。治療効果が十分でない場合は、さらに強い化学療法や、適応がある場合は造血幹細胞移植などが行われます。治療法は、悪性リンパ腫の病期や全身状態を考慮して決定されます。最近ではこれに加え、分子標的薬という薬もでてきています。
首筋のしこりは何科を受診するのがいい?
首筋のしこりに気づいたときは、何科を受診するのがよいのでしょうか。
しこりが何の原因で生じているかで違ってきますが、首の腫れやしこりは耳鼻咽喉科の領域であり、まずは耳鼻咽喉科を受診するのがいいと思います。
原因として一番多いリンパ節炎などは耳鼻科領域ですし、もし悪性リンパ腫や甲状腺腫瘍などの可能性があれば、耳鼻咽喉科から血液内科や内分泌内科への紹介となります。迷ったら耳鼻咽喉科を受診すれば問題ないでしょう。
いかがでしたでしょうか。首筋のしこりといっても多種多様です。大部分は様子をみていていいものですが、まれに悪性リンパ腫や甲状腺腫瘍などの治療が必要な疾患もあります。ご自身で判断せず、気づいたらまずは病院(耳鼻咽喉科)で検査や診察を受けましょう。
<執筆・監修>
九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師
高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医