診断がでないことも?大人・子どもの隠れアスペルガー症候群の特徴と対応方法
アスペルガー症候群は「対人関係の障害」「パターン化した興味や活動」「コミュニケーションの障害」の3つの特徴をもちます。アスペルガー症候群の発生率は約4,000人に1人で、男女比は3:1で男性に多いものとなっています。ここではアスペルガー症候群の特徴や対応方法について解説します。
目次
アスペルガー症候群の診断
アスペルガー症候群の診断基準としては、アメリカ精神医学会のDSM-IVが使用されます。
対人的相互作用の質的な障害
次のような特徴が該当します。
・目と目で見つめ合う、顔の表情、体の姿勢、身振りなど、対人的相互作用反応を調節する多彩な非言語性行動の使用の著明な障害
・発達の水準に相応した仲間関係を作ることの失敗
・楽しみ、興味、成し遂げたものを他人と共有すること(例えば、他の人達に興味あるものを見せる、持ってくる、指差す)を自発的にもとめることの欠如
・対人的または情緒的相互性の欠如
行動、興味および活動の、限定され反復的で常同的な様式
次のような特徴が該当します。
・その強度または対象において異常なほど、常同的で限定された型の1つまたはそれ以上の興味だけに熱中すること
・特定の、機能的でない習慣や儀式にかたくなにこだわるのが明らかである
・常同的で反復的な奇妙な運動(例えば、手や指をぱたぱたさせたり捻じ曲げる、または複雑な全身の動き)
・物体の一部に持続的に熱中する
・その障害は社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の臨床的に著しい障害を引き起こしている
・臨床的に著しい言語の遅れがない(2歳までに単語を使い、3歳までに意思伝達的な句を使う)
・認知の発達、年齢に相応した自己管理能力、(対人関係以外の)適応行動、および少年期における環境への好奇心などについて臨床的に明らかに遅れがない
・他の特定の広範性発達障害または精神分裂病の基準を満たさない
上記の診断基準をもとに、生育歴・家族・周りの環境、現在の困りごとなどの情報を統合して、診断をしていきます。
隠れアスペルガー症候群とは
上記にあげたような診断基準がありますが、統合的な診断となっていくため、アスペルガー症候群と明確に診断がつくケースは少ないです。
その理由としては、話も勉強も、人並みもしくはそれ以上にできるというケースがほとんどであり、障害があるようには見えづらいということです。
そういった隠れアスペルガー症候群のせいで、周りから変わり者と思われていても、自分自身では無自覚のため、敬遠されている理由がわからないままストレスを抱え、うつ状態、神経衰弱状態、強迫性障害につながってしまう場合もあります。
アスペルガー症候群の特徴
アスペルガー症候群の主な症状は「社会性の障害」、「言語コミュニケーションの障害」、「想像力の障害」です。それぞれについて見ていきましょう。
社会性の障害
相手の気持ちを汲み取ったり、その場の空気を読んだり、暗黙のルールに気づきにくかったりといったことがあります。
そのために、よく周囲とトラブルになってしまいます。また、自分の感情を表現したり、自分の発言や行動が他人に与える印象を想像することが苦手で、率直に発言してしまい、雰囲気を壊してしまうこともあります。
無神経な人と誤解されてしまいますが、本人に悪意はないため、このような評価を受ける理由が理解できないのです。
言語コミュニケーションの障害
言葉の理解や使い方に独特の特徴があるため、他人とのコミュニケーションを取ることが難しくなります。
本などで覚えた難解な言い回しを日常会話でも使うことがあったり、お世辞や社交辞令を言葉通りに受け取ってしまったり、冗談が通じないなどがあります。
想像力の障害
決まった手順やスケジュールに強いこだわりを持つため、新しい人や状況に慣れることが困難であり、予想外の事態に対して臨機応変に対処することができず、不安に駆られたり、時にはパニックに襲われてしまうことがあります。
自分だけのルールに強いこだわりがあり、他人からは融通が利かない、わがまま、自己中心的などと思われてしまいます。
以上3つの特徴のあらわれ方は人によりさまざまです。
アスペルガー症候群で困ることは?
子どものころや学生時代では、生活においての問題や困りごとなどが目立ちにくく、受診に至らないままとなることがあります。
大人になり仕事を始めると、人との多様な関わり方や臨機応変な対応、マルチタスクなどが求められることが多くなり、その場に合わせたコミュニケーションが難しく、対人関係の困りごとが出やすくなってしまいます。
そのため、1人でできる仕事、タスクが明確な仕事、集中力や記憶力が求められる仕事、ノルマがない仕事など、仕事の面でもできることに制限がかかってきます。
言葉の遅れは見られず、知的能力も平均的またはそれ以上な場合も多いため、未就学の幼児期など発達の早い時期には周囲がその特徴に気づきにくい面が見られます。しかし、学齢期に入ってくると、日常生活の対人場面にて困難さを抱えてしまうケースも見られます。
アスペルガー症候群の治療
アスペルガー症候群そのものを完治する治療法はなく、アスペルガー症候群の特性によって生じる、困りごとを少しでも軽減させるようにします。
カウンセリングなどを通じて、自分の特性に対する理解や自分にあった対処法、環境調整などを中心に行うことが多いです。
個々の特性に合わせたトレーニングや療育を積むことで実生活を過ごしやすくなり、コミュニケーションがスムーズに取れるようになったりします。
ただし、生活に支障をきたしている場合には、薬物治療が検討されることがあります。
周囲の人ができること
周囲の人は、まず正しくアスペルガー症候群について理解をすることです。コミュニケーションを苦手とし、対人関係を築くのが不得意なので、小さなことでも話し合い、一緒に解決していく姿勢が重要です。
また、人の気持ちを理解することが不得意なため、悪気なく直接的な発言もみられます。しかし、そこで怒っても、本人はなんで怒られているのか理解できません。
そういう場合は、はっきりと言ってはいけないことだと伝えることが必要です。指示をわかりやすくはっきりと、複数業務を指示しない、明確な目標を指示するなど伝え方を工夫することで本人が過ごしやすい環境をつくることができます。
いかがでしたでしょうか。アスペルガー症候群は他の人にはなかなか理解されず、変わった人とレッテルを貼られてしまうことが多いです。しかし、本人としてはなぜそのように言われるのかが理解できません。
周りが一つ一つ丁寧に説明することで解決できることがほとんどであり、突き放すのではなく、正しく理解して寄り添うような対応が必要となってきます。
<執筆・監修>
九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師
高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医