ガスだまりによる下腹部の張り・痛みの原因と簡単ガス抜き方法

お悩み

ガス溜まりとは余分なガスが腹部に集まっている状態です。腸管がガス成分で大きく膨らむことでさらに蠕動(ぜんどう)運動などの働きが弱まり、悪循環に陥ることがあります。

お腹にガスが溜まることによって下腹部の張りや痛みといった症状にもつながります。ここではガスが溜まる原因や対処法について解説します。

下腹部の張り・痛みを引き起こすガスだまりの原因

ガスだまりとは、ガスが集まって大きな塊になった状態であり、ガスだまりができると、腸はガスで大きく膨らんでしまい、動きが弱まることでさらにガスをため込む悪循環におちいります。

お腹にガスがたまるのにはいくつもの原因があります。代表的な原因について見ておきましょう。

便秘

腸内が便内容物で渋滞して便秘を引き起こしている状態であれば、便そのものやガス成分も腸管内に滞留します。

ガス成分などは発酵し、きつい臭いに変化すると共に、溜まったガス成分を排出するために排ガスの回数が相対的に増加することになります。

また、便秘の状態が長く続けば滞留していた腸内ガス成分が腸管から自然に吸収されて、血管内を伝って肺や気道から放出される場合には、吐く息自体がおなら臭く変化することもあります。

腸内環境が悪い

日常生活でのストレスで自律神経系の働きが乱れると、腸内で悪玉菌が増えやすい環境に陥り、下腹部の張りや痛みを引き起こすガスが貯留しやすくなります。

また、日常的に高タンパク質、あるいは高脂肪成分の食事を摂取する機会が多く、過剰な食物繊維を取り入れている場合には悪玉菌が繁殖して腸内環境が悪化する危険性があります。

例えば、肉類、ニンニクなど臭いがきつい食べ物を食べ過ぎると、大腸の代表的な悪玉菌として知られているウェルシュ菌などが分解される過程で臭いガスが発生し、腸内環境が悪くなることがあります。

ガスがたまりやすい食品の摂取

お腹にガスが溜まってしまう原因のひとつとして、食事の時にガスがたまりやすい食物繊維が豊富に含まれる食品を摂取した場合に腸で異常発酵が起こってガスが発生することもあります。

具体的にはイモ類や豆類、ネギやキャベツ、キュウリなども食物繊維を多く含む食品の代表例であり、これらを摂り過ぎるとおならが出やすくなります。

また、食物繊維と並んで、炭酸飲料やビールなどもお腹にガスが溜まりやすくなる原因と考えられています。

ガス排泄量低下

腸内の内容物が異常発酵してガスが発生しやすくなると、胃腸の機能が低下します。また、ガスの排出能力や排泄量が低下することで、お腹にガスが溜まりやすくなります。

脂質の多い食事は消化吸収に時間がかかり、腸が動く力が減少するためガスを排出する力が弱まりますし、慢性的な便秘によって、大腸に便が溜まることで悪玉菌が増えてガスが発生しやすくなります。

普段から便秘傾向の方は、大腸の機能が低下していることが散見されるため、発生したガスが排出されにくくなり、ガス排泄量が自然と減少して腸内にガスが溜まります。

空気を飲みすぎている(呑気症)

私たちは飲食を通じて無意識に大量の空気を飲み込んでおり、飲み込んだ空気のほとんどは窒素成分なので体内で吸収されずにげっぷ、あるいはしゃっくりとして体外へ放出されます。

ところが、放出されなかった一部の成分は胃から腸管へ流れていき腸内ガスとして溜まることで「呑気症」となり、排ガスの回数が増えることがあります。

食事のときにしっかり噛まない

前述の呑気症は、普段から一気に大量に飲みこむ、あるいは一気食いを習慣的に行う早食いや、口呼吸を頻回に行う人に認められます。

早食いなど、食事の時にしっかりかまない人の場合には、食事と一緒に空気をたくさん飲み込んでしまって、腸内にガスとして溜まりやすくなります。

体内のガスの7割近くは無意識に飲み込んだ空気であり、食事中のおしゃべりや、早食いで意識せずに空気成分を飲み込んでしまい、それが原因でお腹にガスが溜まることがあるといわれています。

また、性格的に神経質でストレスを自覚しやすい方も、知らず知らずのうちに空気を多く飲み込むことで、腹部に溜まるガス量が比例して増加する傾向があります。

生理前症候群(PMS)

生理前症候群は月経が訪れる前に約3日から10日間程度継続する精神的あるいは身体的な自律神経不調に関連する症状です。

自律神経症状としては、全身のぼせ感や食欲不振、頭重感やめまい症状、倦怠感や疲労感などを自覚することもありますし、身体的症状として、腹痛、頭痛、腰痛、全身のむくみ、そして乳房や下腹部の張りなどの症状を自覚することもあります。

急な環境の変化や、ハードワークによる緊張状態が続いたときなど、ストレスがたまっていると、生理前症候群の症状を自覚しやすくなるとされ、特に生理前はホルモンバランスの変化に伴って腸管における蠕動運動が通常より弱くなると指摘されています。

女性はこのような生理に関連する不調にくわえて、日常的な冷え性、慢性的な運動不足などによって腸管の働きが鈍くなって、下腹部にガスが溜まりやすい人が多い傾向があります。

禁煙

禁煙すると、喫煙時と比べて腸内環境が変わってきてしまうため、おならが出やすくなる場合が想定されます。

普段から、喫煙している方が禁煙をするときには、腸内にプロテオバクテリアとバクテロイデスという細菌が増殖して、この細菌が増え過ぎると、腸に入ってきた内容物を分解し過ぎることで、体内に多くのガスが放置され、排ガスが頻発するようになります。

ストレス

ストレスが溜まることで、胃腸の働きをコントロールしている自律神経のバランスが崩れてしまってお腹にガスがたまりやすくなります。

緊張してストレスを抱え込んでしまうと、唾を飲み込むとともに空気成分も一緒に飲み込んでしまいます。ストレスにより自律神経の働きが悪くなり、悪玉菌が増えてしまうことも考えられます。

ストレスがたまると、自然と自律神経(特に副交感神経)の動きが乱れて、悪玉菌が増えやすい腸内環境になって、ガスがたまりやすくなるといわれています。

また、慢性的に運動不足でストレスを抱えている方の場合やデスクワークが多い方は、腸の動きが鈍くなっている可能性が高く、運動量が少ないと、腸の蠕動運動が妨げられてしまって、お腹にガスが溜まりやすくなると考えられます。

ガスが溜まりやすい体質と生活習慣

普段から、早食いを習慣化しているような場合、あるいは寝不足が重なってストレスフルな状況が繰り返されるときには、不規則なライフスタイルに伴って胃腸の働きを支配している自律神経の機能も乱れて、腸内環境が悪化することが知られています。

また、イモ類や豆類など多くの食物繊維を豊富に含有している食べものを過剰に摂取すると、食物繊維成分が小腸ですべて分解できずに大腸で分解されて発酵した結果、水素やメタンなどの成分が生成されて腸内ガスが溜まりやすくなります。

肉類などの食べ過ぎによっても、肉成分のすべてを小腸で分解しきれずにその残渣が大腸で分解されると、悪玉菌のひとつであるウェルシュ菌などの腸内細菌の働きによってタンパク質が分解される際に、アンモニアや硫化水素を発生させて腸内ガスが臭くなります。

体幹筋には腹圧を高めてガスを押し出す役割があることが知られています。デスクワークなど普段の姿勢が前かがみになる機会が多い人や、自分の体をまっすぐ支えるために必要とされている腹筋や背筋などの筋力が脆弱な人は、ガスがたまりやすくなります。

下腹部の張りや痛みをとる方法

お腹にガスがたまることで下腹部に張りや痛みを感じるときは、どのように対処するのがよいのでしょうか。ここではセルフケアの方法と漢方薬の活用について紹介します。

セルフケア

便秘はガスが溜まって腹部膨満感を自覚する原因となるため、日常生活で便秘にならないように便意を我慢しない、水分を充分に摂る、適度な運動を行う、などを意識しましょう。

胃腸などの消化管もストレスの影響を受けることが知られており、人前でおならなど絶対にできないと心配になればなるほど腹部の張りなどの症状が気になりますので、できるだけリラックスできる時間を設けて心身のリフレッシュができるように努めましょう。

運動に関しては、例えば短距離のウォーキング、あるいはその場で実行できる足踏みなど軽い動作で毎日続けられるエクササイズを選択するとよいでしょう。休日に旅行に出かけたり、趣味のスポーツで汗を流したりするのも有効です。

また、ヨーグルト、はちみつなどオリゴ糖を多く配合している乳酸飲料などは便秘の予防に効果的です。

日常的にデスクワークが多く、座っている時間が長い場合には、物理的に腸管が圧迫されて蠕動運動など本来の機能を鈍らせてガスが溜まってしまうこともあります。そのような場合に、身体の内部にある不要なガスを排出して腸内環境を整える効果がある簡便なガス抜きポーズがあるので紹介します。

まず、仰向けになって、両手を体のサイドに置いて、両膝を立てる姿勢を取ります。

次に、両膝を胸のほうに近づけて、両手で抱えこむようにして、吸う息で腹部をふくらませて、吐く瞬間に太ももを胸部の方に寄せる姿勢動作をおよそ5呼吸程度無理なく繰り返します。

最後は吐く息で手足を解放してゆっくりと仰向けの状態に復帰していきます。

このようなポーズを実践するときや、普段の生活の中でも、呼吸様式を意識して行うことが大切です。呼吸は自律神経と大きく関わっており、深い腹式呼吸を行うことで、胃腸の機能を支配している副交感神経を優位な状態に導くことが可能となります。

漢方薬

セルフケアを試しても、まだ下腹部の張りやガスの溜まりがつらい場合には我慢せずに、漢方薬を含めた治療を検討しましょう。

普段から比較的体力が低下して、腹部膨満感や腹痛、下痢症状が多く、冷え傾向を認めると同時に腹部のガスが溜まりやすい場合には、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)が有用です。

同様に、冷え症はあるものの、下痢ではなく便秘傾向が続いて腹部が張ってしんどい場合には、桂枝加芍薬湯に下剤効果を有する大黄成分を加えた桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)がよいでしょう。

また、体力が低下して腹部や手足などにおける冷え症状が強く、腹部の膨満感が伴うケースに対しては、大建中湯(だいけんちゅうとう)をとることで体を温めて、冷えによって低下した腸管の動きを改善する効果を期待できます。

体力中程度で、食後に胃がもたれて消化不良を起こして、腹部が張ってガスが溜まりやすい場合には、漢方の代表的な胃腸薬である平胃散(へいいさん)を服用することで胃腸の働きを良好にして、消化を改善する作用が期待できます。

まとめ

これまで下腹部の張り・痛みを引き起こすガスガスだまりの原因と簡単なガス抜き方法などを中心に解説してきました。

たかがガスと思わずに、普段から排ガス回数が多くて臭いがきつい、腹部膨満感のみならず下痢や腹痛などの症状を合併している場合には、何か病気などが隠れている可能性も否定できませんので、最寄りの内科や消化器科など医療機関を受診して相談しましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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