治療期間は長引く?蜂窩織炎のリスクが高い人の特徴と予防法

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蜂窩織炎(ほうかしきえん)は皮膚に症状が現れる感染症です。症状には特徴があり、比較的容易に判別できます。

ここでは蜂窩織炎を取り上げ、皮膚のどの部分に感染するのか、症状にはどのような特徴があるのか、そして治療期間の目安や予防法について詳しく解説していきます。

蜂窩織炎とは

蜂窩織炎というのは、皮膚におこる感染症のことです。普通皮膚は生体にとって大事なバリアとして働いています。しかし一方で、皮膚の表面には常在菌といって、常に多くの細菌が生息しています。

通常であれば、この細菌が皮膚の中に入り込むことはありません。しかし、怪我をしたり、全身の状態が悪くなったりすると、皮膚に生息しているそれらの常在菌が皮膚のバリアを通過して皮膚の下に入ってきたり、外界に存在する細菌が侵入してきたりします。それによって、皮膚の下で細菌が急激に増殖し、炎症が起こるのが蜂窩織炎です。

蜂窩織炎について理解するには、まずは皮膚と皮下組織の構造を知っておく必要があります。

皮膚や皮下組織はどのような構造をしている?

皮膚や皮下組織には大きく分けて3つの層があります。

一番表面に存在するのが、表皮です。表皮は、表皮の中でも一番深い層にある基底層という層にある細胞が分裂して産生され、浅い層へとどんどん移動していきます。そして一番浅い層までたどり着くと、垢となって剥がれ落ちます。表皮の最大の機能はバリアとして体を守ることで、ほとんどの物質は表皮を通過することができません。

二番目に深い層は、真皮です。真皮には毛包や汗腺、皮膚の感覚を検知するセンサーなどが有ります。言うならば、皮膚の様々な機能を維持する「臓器」としての皮膚と言えます。

一番深い層が皮下組織です。皮下組織は脂肪や線維組織など、クッションとしての役割が主な役割になります。この皮下組織はやや密度が低い組織になっています。細胞と細胞の隙間が空いていてスカスカで、スポンジのような構造です。

そのため、心不全で血液の巡りが悪くなったり、ホルモンの異常で代謝が悪くなったりすると、この皮下組織に水分が貯留して浮腫となります。足がむくむのも、この皮下組織に水分が貯留することによります。

最後に皮膚の血流について解説しましょう。皮膚に至る血管は、やや太めの血管が皮下組織に通っています。そこから真皮の中に枝を伸ばすことで、さまざまな組織に栄養を送ります。一方で表皮には血管が届いていません。皮膚の表面だけを怪我しても出血がないのはこのためで、逆に怪我をして出血をしている場合は真皮層より深い層に傷が至っているということになります。

重症化することも? 蜂窩織炎の症状

さて本題の蜂窩織炎です。蜂窩織炎は、皮膚の中でも皮下組織の層に起こる感染症です。細菌が皮下組織に侵入すると、最初は皮膚の発赤や腫脹、熱感が見られます。また、触ると痛みを感じます。

皮下組織は先ほど説明した通り、やや密度の低いスポンジのような組織ですから、感染が起こるとスポンジに水がしみこんでいくように、感染が周囲に広がりやすいという特徴があります。

そのため、治療を行わないと早期に深い層にいたって筋膜に炎症を起こして壊死性筋膜炎となったり、血液に細菌が侵入して全身に細菌が巡って全身の状態が一気に悪くなったりします。

全身状態にもよりますが、ひどいときには皮膚の発赤を見つけてから1日も経たずに多臓器不全に至ることもあります。

蜂窩織炎の原因になる細菌

蜂窩織炎の原因になる菌は、ほとんどが黄色ブドウ球菌です。まれにA群β溶連菌で起こることもあります。これらの菌は、さきほど出てきた皮膚の常在菌です。つまり、皮膚に傷がつくことで、皮膚の表面にいる細菌が皮下組織に移動することで感染が起こってきます。

これらの細菌は、周囲の温度と栄養分が豊富にあると、非常に速いスピードで増殖をするという特徴があります。そのため、ひとたび蜂窩織炎となって細菌がその組織で増殖を始めたらあっという間に数を増やし、感染が広がっていくのです。

蜂窩織炎のリスクが高い人とは 

蜂窩織炎はどのような人でもなりうる疾患ですが、下記に該当する人は特にリスクが高いと考えられます。

皮膚にダメージがある人

まず1つ目はアトピーなど皮膚にダメージがある人です。蜂窩織炎の原因となる細菌は、正常な皮膚からはなかなか皮膚の中へと進入してくることはありません。何らかの原因で皮膚にダメージがある場合に、中に入ってきやすくなるのです。 

アトピーなどの場合には、もともと皮膚が弱くなっている上に、かゆみによって皮膚を引っ掻き、皮膚に傷ができやすくなります。出血をしなくても皮下組織に傷ができることもあり、そこから細菌が侵入して蜂窩織炎になることもあります。

むくみが強い人

2つ目の原因は、むくみが強い人です。皮下組織は、表皮や真皮に比べて密度が低い組織になりますが、それでもある程度の密度はあり、細菌はなかなか入ってきにくくなっています。 

しかし、むくみがある人の場合は、皮下組織の組織と組織の間に水分が溜まり、密度が低くなっています。そのような場所に細菌が入り込んでくると、どんどんと増殖した細菌が広い範囲に広がっていき、蜂窩織炎がひどくなってしまうのです。

免疫力が弱い状態の人

3つ目の原因は、免疫力が弱い状態の人です。ステロイドを使用している場合や、抗がん剤治療をしている人、糖尿病や腎臓病で透析をしている人などが当たります。

通常の場合でも皮膚から細菌は入ってくることはありますが、免疫が正常であれば免疫によって細菌は排除されます。しかし、免疫力が弱いと偶然に入ってきた細菌が増殖して蜂窩織炎になってしまうのです。

視診や問診による蜂窩織炎の診断

蜂窩織炎の診断は比較的容易です。先ほど述べたとおり、皮膚に赤みや熱感、痛みがあれば皮膚の感染症であることが強く疑われます。

そして蜂窩織炎の発赤の特徴は、正常な皮膚との境目が不明瞭で、病変部付近がもやっと赤みを帯びている様子となります。スポンジのように密度の低い組織の中を炎症が広がっていくため、どこまでが感染が起こっている組織でどこからが感染が起こっていない組織なのか、境界が曖昧になるからです。

同じ皮膚の感染症でも、丹毒(たんどく)という病気は真皮の感染症で、境界が明瞭に見られるのが特徴です。皮膚が赤くなる病変というのは同じなのですが、正常な皮膚と発赤との境界線がはっきりしているのが特徴です。

蜂窩織炎の診断は、視診でほぼつきますが、補助的に問診も行います。周囲の怪我をしていないか、感染を起こしやすくなるような持病はないか、発赤などの症状が出現したのはいつか、などの情報を元に、蜂窩織炎であるかどうかの診断ももちろん、重症化のリスクが高いかどうかについても情報を得ます。

抗菌薬を用いた蜂窩織炎の治療

蜂窩織炎は細菌の感染症ですから、抗生物質による治療が行われます。特に原因菌である黄色ブドウ球菌や溶連菌はグラム陽性球菌というグループに属する細菌で、抗菌薬がよく効く細菌です。

しかし、感染の広がりが非常にはやい病気ですから、抗菌薬で治療を行っても増殖のスピードに追いつかず、なかなか抗菌薬が効かないことがあります。

特に膿瘍を形成した場合、すなわち膿となって感染を起こした細菌の塊を形成した場合は、その膿瘍の中には血流がないので抗菌薬が十分に届きません。他にも、関節の近くや筋肉の近くなど、血流が少ない組織に感染した場合にも、抗菌薬がなかなか届かないことがあります。

特に膿瘍を形成した場合、抗菌薬が届きにくい上に内部で菌の増殖が盛んに行われてしまうことから、皮膚を切開して膿瘍を排膿する必要があります。これにより菌の量を減らし、血流を多くすることで抗菌薬を十分に効かせることができます。

長引くこともある?蜂窩織炎の治療期間の目安

蜂窩織炎は、これまで説明した通り皮下組織の感染症です。そして、非常に広がりやすいという特徴があります。そのため、赤みが引いたとしても中では細菌がまだ残っていて感染が周囲に広がっていっているという場合もあり、少し抗菌薬による治療を行っただけでは治療をやめるとまた悪化することがあります。

さらに、治療を中断して悪化した場合、抗菌薬に対する耐性を持った細菌が増殖して悪化する場合もあり、より治療が難しくなり重篤化する場合もあります。ですので自己判断で治療を中断してはいけません。

全身状態にもよりますが、最低でも5日間は抗菌薬による治療が行われます。一般的には約14日程度の抗菌薬治療を行うことになります。

もともと糖尿病があったり、さまざまな病気や治療で免疫力が低下していたりする場合には、さらに長い期間の抗菌薬治療が行われる場合があります。特に膿瘍を形成した場合や筋膜まで炎症が至った場合は、1か月以上治療が行われることもあります。

蜂窩織炎を予防するには?

蜂窩織炎を予防するにはどのような対策をすれば良いのでしょうか。

肌を清潔に保つ 

すぐにできることとして、肌を清潔に保つことが挙げられます。皮膚には常在菌と言って 常日頃から細菌が生息しています。皮膚が不潔になってしまうと常在菌が増殖してしまい、 ちょっとした傷でも多くの細菌が皮下組織に到達してしまうようになります。

なるべく肌をきれいに保ち、常在菌の数を適切に維持することで、蜂窩織炎になりにくい状態を作ることができます。

皮膚疾患を治療する 

蜂窩織炎が起こるためには 、細菌が皮下組織にまで入ってこなければなりません。皮膚のバリアが破綻するような、何らかの皮膚の病気、例えば水虫やアトピーがあると、そこから 細菌が入ってきてしまいます。

皮膚疾患は治りにくいものが多く、なかなか完治を望めないかもしれません。それでも治療をすることで、皮膚のバリア機能を維持することが可能となり、細菌が皮下組織にまで入ってくるのを予防することができます。皮膚の病気は放置せず、治しておくようにしましょう。

免疫力を下げない 

免疫力が下がると感染が起こりやすくなりますから、免疫力が下がりにくいような対策をしておくことも大切です。

例えばバランスの良い食事を心がけるとか、睡眠をしっかり取るとか、運動するなどの一般的に体に良いと言われる生活をすることは大事です。また免疫を低下させる病気がある場合は、その病気をしっかりとコントロールできるように治療しておくことが重要です。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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