膵性糖尿病とは?糖尿病と膵炎・膵臓がんの関係
糖尿病と膵臓の役割や機能は大きく関連しています。
膵臓は膵液と呼ばれる消化液を分泌する以外にも、生体にとって重要なインスリンというホルモン物質を分泌し、普段から血糖値の調節に貢献しています。
糖尿病を罹患している、肥満である、大量飲酒をしている、長期的に喫煙している、膵臓がんの家族歴を有するなどの場合には、膵臓がんを発症する危険度が上がります。
膵臓がんが認められると、インスリンの働きが通常よりも障害されて低下し、血糖値が急に上昇することがあります。
ここでは糖尿病と膵臓の機能の関係や、膵臓がんのリスクなどについて解説します。
糖尿病と膵臓の機能
糖尿病はインスリンが十分に機能しないために、血液中を流れるブドウ糖の成分が上手く処理できずに血糖値が増加する病気です。
膵臓の重要な役割のひとつはインスリンを分泌することです。インスリンによって糖成分を細胞内へとスムーズに移動させて、生体内でエネルギーとして活用すると共に、血中の糖濃度を常日頃から制御しています。
糖尿病は大きく分けると、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病、その他(薬剤、内分泌疾患、すい臓疾患、肝臓疾患など)の4種類に分類することができ、それぞれ発症原因や治療法が異なります。
1型糖尿病
1型糖尿病では、膵臓からインスリンがほとんど出なくなる(インスリン分泌低下)ことにより血糖値が高くなります。
生きていくために、注射でインスリンを補う治療が必須となる状態を、インスリン依存状態といいます。
2型糖尿病は運動や食生活などの生活習慣を改善することで治療が可能ですが、1型糖尿病はすい臓の機能障害や自己免疫などが原因となるため、インスリンを使用して血糖値をコントロールする必要があります。
適切にインスリン療法を行えば合併症の発症を抑えることができ、正常な場合と変わりのない生活が可能です。
2型糖尿病
2型糖尿病は、遺伝的な要因に運動不足や食べ過ぎなどの生活習慣が加わって発症すると考えられていますが、はっきりとした原因はまだわかっていません。
糖尿病患者のおよそ95%以上が2型糖尿病といわれていて、中高年に多く発症します。
2型糖尿病では、インスリンは分泌されているものの、働きが悪くて血糖値が下がらない場合や、分泌そのものが減っているケースがあります。
2型糖尿病は、インスリンが出にくくなったり(インスリン分泌低下)、インスリンが効きにくくなったり(インスリン抵抗性)することによって血糖値が高くなります。
2型糖尿病となる原因は、遺伝的な影響に加えて、食べ過ぎ、運動不足、肥満などの環境的な影響があるといわれています。
すべての2型糖尿病患者の方に生活習慣の問題があるわけではありませんが、血糖値を望ましい範囲にコントロールするためには、食事や運動習慣の見直しがとても重要です。
2型糖尿病に対する治療として、飲み薬や注射なども必要に応じて利用します。
妊娠糖尿病
妊娠糖尿病は、妊娠中に発見された耐糖能異常(血糖をコントロールする機能に異常があり糖尿病に近い状態)のことであり、まだ糖尿病には至っていない血糖の上昇をいいます。
糖は赤ちゃんの栄養となるので、多すぎても少なすぎても成長に影響を及ぼすことがあるため、お腹の赤ちゃんに十分な栄養を与えながら、細やかな血糖管理をすることが大切です。
妊娠中は絶えず赤ちゃんに栄養を与えているため、お腹が空いているときの血糖値は、妊娠していないときと比べて低くなります。
一方で、胎盤からでるホルモンの影響でインスリンが効きにくくなり、食後の血糖値は上がりやすくなります。
多くの場合、高い血糖値は出産のあとに戻りますが、妊娠糖尿病を経験した方は将来糖尿病に罹患しやすいといわれています。
治療薬などの影響による糖尿病
ステロイド薬は、抗炎症作用、免疫抑制作用をもつため、炎症性疾患、免疫系疾患、アレルギー性疾患などに対して幅広く用いられています。
例を挙げると、膠原病、ネフローゼ、関節リウマチ、重い喘息、ひどいアレルギー症状など、多くの疾患に使われる薬です。
このステロイド薬の主な成分はグルココルチコイド(糖質コルチコイド)です。
グルココルチコイドはインスリン拮抗ホルモンでもあり、肝臓での糖新生(蛋白質を糖に変換すること)を促進し、インスリンに対する感受性を低下させて末梢組織での糖利用を妨げる働きをもっています。
すなわち、ステロイド薬は血糖値を上昇させる作用をもつので、高血糖をきたして糖尿病を悪化させる懸念性があるため、糖尿病を有する人がステロイド薬を使用するときには、血糖値の上昇の可能性が高くなる恐れがあります。
膵性糖尿病とは
急性膵炎、慢性膵炎、膵癌、粘液産生腫瘍、先天性膵形成不全などの膵臓疾患に伴って、インスリン分泌能が相対的に低下して、糖尿病を発症する状態を「膵性糖尿病」と呼称しています。
膵性糖尿病では、1型糖尿病の典型的な症状である口渇、多飲、多尿などが現れます。膵性糖尿病の方は一般的に痩せ型の体形を呈している場合が多いのが特徴的で、膵外分泌機能不全のために吸収不良症候群や慢性的な下痢症状を呈することもあります。
膵性糖尿病の治療
膵性糖尿病に対する主な治療策は、基本的に1型糖尿病に準じてインスリン療法が適応となります。
軽症の場合には、経口血糖降下薬が有効的に働くこともありますが、膵性糖尿病ではインスリン依存状態に陥る可能性が高いと指摘されていますので、一定の注意を払う必要があります。
また、病状が進行するとインスリン分泌のみならず、グルカゴンの分泌量も低下するために容易に低血糖に陥りやすく、糖成分を補充するためにブドウ糖を常に携帯しておく必要があります。
さらに膵臓から分泌される消化酵素が不足して、吸収不良の兆候を併発している場合には、パンクレリパーゼを始めとする消化酵素の補充が必要になるケースもあります。
慢性膵炎と糖尿病
慢性膵炎を罹患している場合に糖尿病が発症することが指摘されており、過去の調査では慢性膵炎の患者例のなかで約40%前後の方が糖尿病を合併していると伝えられています。
慢性膵炎では膵外分泌組織の萎縮や間質組織の線維化などに伴って膵外分泌機能の低下が直接的に引き起こされるとともに、血流障害によって膵ランゲルハンス島も障害され、インスリン分泌不全の状態を引き起こすと考えられています。
慢性膵炎の原因としては、アルコール性、特発性、胆石性の順番で多く、アルコールに伴う慢性膵炎は糖尿病を発症させるリスク因子であることが認識されています。
また、膵臓に石灰化病変を伴う慢性膵炎では概ね80%と高率な頻度で膵性糖尿病を発症することが知られています。
膵臓がんと糖尿病
膵臓がんも高率に糖尿病を発症することが知られています。
近年においては、糖尿病と癌疾患の合併に関して注目されており、特に膵臓がんは糖尿病患者では糖尿病ではない場合のおよそ2倍の発症率となることが示されています。
膵臓がんによって膵ランゲルハンス島が破壊されて膵管閉鎖に伴う膵炎を合併するだけでなく、インスリン抵抗性そのものを惹起して糖尿病に罹患することが指摘されています。
平常時よりも高いインスリン濃度が認められること、あるいは高血糖状態や2型糖尿病による長期の炎症などいくつかのメカニズムが関連して、長期にわたり糖尿病を罹患した場合には、膵臓がんの発症リスクを高めると指摘されています。
膵臓がんの危険因子には、大量飲酒歴、喫煙習慣、慢性膵炎、肥満体形、膵臓がんに関連する家族歴、特定の遺伝子変化を伴う症候群などが挙げられています。特に糖尿病患者では、膵臓がんの発症リスクが通常の場合と比較して増加することが知られています。
そのため糖尿病と新たに診断されると同時に、膵臓がんがあわせて指摘されるケースも少なくありません。
肥満などインスリン抵抗性の状態においては、膵臓のインスリン産生細胞はインスリン抵抗性を改善するためにより多量のインスリンを産生する一方、膵臓がんではインスリン産生細胞がインスリン抵抗性に適切に反応するのを妨害する反応を示すと考えられています。
まとめ
糖尿病は様々な膵疾患の存在を疑わせる重要なサインともなります。初めて糖尿病と診断された場合、あるいは糖尿病の症状が突然悪化傾向を示した際には、その背後に慢性膵炎や膵臓がんが隠れている可能性もあります。医療機関を受診して相談することをおすすめします。
今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。