食べると治る胃の痛みは心配ない?空腹時の胃痛の原因と効果的な薬
空腹のときにだけ胃の痛みを感じることがあります。これにはどのような理由があるのでしょうか? また、空腹時に感じた胃の痛みが何かものを食べることで治る場合は、特に気にしなくてもよいのでしょうか? ここでは空腹時の胃痛について詳しく取り上げ、効果的な薬の種類を紹介します。
胃粘液の役割
胃の主な働きは、胃液と蠕動(ぜんどう)運動による消化です。
食べ物の消化にかかわっている胃液には、pH1~2の強力な胃酸や、消化酵素などが含まれていて、健康な胃では、粘液が胃を守るバリアーとして働き、強酸による障害は生じません。
胃粘膜は、胃の内側全体を守る粘液を分泌する役割と、食物を消化する胃酸や消化酵素を分泌する役割をもっていて、胃粘液は、1回の食事で0.5~0.7リットル分泌され、1日ではなんと1.5~2.5リットルも分泌されています。
胃粘液は、胃粘膜を0.5~2.5mmの厚さでヴェールのように覆うことで、食べ物の移動をスムーズにしたり、胃酸などから胃粘膜を保護したりする役割をもっています。
胃粘膜は自らを再生する能力がとても高いため、胃酸が強くなって胃粘膜が荒れた場合でも、粘膜の血流が正常であれば、すぐに回復することができます。
空腹時に胃痛になる理由
空腹のときに胃が痛くなりやすい理由としては次のものが考えられます。
空腹時は胃液による刺激が強まる
胃酸とは非常に強力な酸で、胃の中を一定以上の酸性に保ち、食物の消化の他に、食物と一緒に体内に取り込まれた菌の殺菌を行う働きがありますが、胃そのものは胃酸にさらされながらも溶けることはありません。
これは、粘液で胃の内側に膜を作ることで胃酸が直接触れ合わないようにして胃を守る仕組みが存在するためです。
胃液は、常に分泌されているわけではなく、空腹時においしそうな食べ物を見る、おいしそうなにおいをかぐ、実際に胃に食べ物が入ってくることで、その刺激を受けて胃液が分泌され、食物が消化されるのです。
胃酸は通常、胃の中に食べ物があるときに分泌されますが、ストレスが溜まると、自律神経が乱れ、胃酸の分泌が過剰になることがあります。
自律神経を乱す原因として、それ以外にも生活リズムの乱れ、睡眠不足などが挙げられます。
自律神経の乱れなどによって空腹時に過剰に胃酸が分泌されると、胃の粘膜が刺激され、痛みが出ることがあります。
胃酸過多と胃痛の関係
胃酸が必要以上に分泌される状態が「胃酸過多」です。
胃への攻撃因子である胃酸と、胃の防御因子である胃粘膜の作用のバランスが崩れて攻撃因子が優勢になると胃酸過多となり、胃酸によって胃粘膜が傷つけられてしまい、胃炎や胃潰瘍などの発症につながります。
胃酸過多になると、食べ物が入っていない空腹時にも胃酸分泌がさかんになり、胃粘膜を傷つけ胃痛の原因になりますし、胃痛のほかにも、胃もたれや胸やけなどの症状を起こします。
食べ物との反応で、げっぷが出やすくなったり、胃酸が食道まで上がってきたりする胃酸逆流などが起こったり、それが原因で口臭が起こることもあります。
空腹時や夜間、早朝に、胃が痛くなる、胸やけやげっぷが出る、胃酸逆流などの症状があったら、胃酸過多を疑うことになります。
空腹時の胃痛に役立つ薬の種類
空腹時の胃痛の改善に役立つ薬には次のような種類があります。
H2ブロッカー
胃酸の分泌には、「アセチルコリン」、「ガストリン」、「ヒスタミン」という3つの神経伝達物質が関係しています。
食事の際の「おいしい匂い」などの刺激によって「アセチルコリン」が放出され、さらに食べ物が実際に胃に入ると物理的な刺激により「ガストリン」が放出されます。
そして、アセチルコリンやガストリンが胃粘膜にある細胞を刺激してヒスタミンを放出させ、放出されたこれらの物質が、それぞれ受容体と結合することで、プロトンポンプに作用して胃酸が分泌されるのです。
ヒスタミン(H2)受容体拮抗剤(H2ブロッカー)は、ヒスタミン(H2)受容体を阻害し、胃酸分泌抑制作用を発現します。
医療用だけでなく、OTC医薬品にも転用されており、第1類医薬品に分類されています。
胃粘膜保護薬
胃は胃酸を初め様々な攻撃因子が存在する臓器です。
通常、胃の表面は粘膜で覆われており、粘液を分泌することで攻撃因子から組織を守っていますが、この粘膜が様々な影響により、障害されることで、組織が傷つき、胃炎や胃潰瘍等の症状が引き起こされます。
また、痛み止めや解熱剤として汎用されている非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)によっても胃炎や胃潰瘍等が誘発されることが報告されているため、胃炎の治療では、損傷組織を保護して、組織の修復や再生を促す防御因子の増強が必要となります。
胃粘膜保護薬は、胃酸の分泌を調節するのではなく、胃の粘膜を保護することで胃の防御機構を回復させる薬剤です。
例えば、ムコスタ(レバミピド)は胃炎や胃潰瘍の治療に用いられる胃粘膜保護薬のひとつであり、胃粘膜の内因性プロスタグランジンを増加させる作用があります。
なおムコスタ(レバミピド)という名称は、Gastric Mucosal(胃粘膜)+Prostaglandin Inducer(プロスタグランジン誘導物質)に由来しています。
その他にも胃粘膜障害の発症因子であるフリーラジカルを抑制する作用があり、粘膜の状態を安定化させることからMucosal(粘膜)+ stabilizer (安定化)という意味も込められています。
制酸薬
制酸薬は胃液を中和して胃の粘膜を保護する効果がある薬であり、医療機関で処方されるほか、市販薬を購入できます。
基本的には、食生活の乱れやストレス、ヘリコバクター・ピロリ感染などによる、胃炎・胃十二指腸潰瘍によるみぞおちの痛みや重苦しさに対して使用します。
薬を服用することにより、抗生物質の効果を減弱させることがありますし、便秘や下痢など便通異常の副作用の出現に注意しましょう。
アルミニウム、カルシウム、マグネシウムなどの金属を含む薬の一部は酸を中和する作用を持つ制酸薬は胃液を中和して胃の粘膜を保護する効果がある薬です。
食べると治る胃痛は心配ない?
食べて胃の痛みが治まるといったんは安心しますが、痛みは身体からの異常のサインです。
一過性のものであっても、繰り返す場合などは胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの疾患が疑われます。
特に、空腹時の胃痛・腹痛が繰り返されてだんだんと痛みが強くなる、症状によって日常生活に支障が出ている、吐き気・嘔吐、発熱、黒い便(タール便)を認める、市販薬を飲むと治まるが、飲むのをやめると再発するなどの兆候があれば、医療機関を受診して精密検査を受けましょう。
まとめ
これまで、食べると治る胃の痛みは心配ないか、空腹時の胃痛の原因と効果的な薬などを中心に解説してきました。
胃の粘膜から分泌される胃液には胃酸、蛋白質を分解する酵素のペプシン、粘液が含まれていて、胃酸はpH1~2の強い酸性を示し、外部から食物などと一緒に取り込まれた細菌の殺菌や腐敗防止にあたります。
胃粘液は胃のすべての場所でつくられ、粘膜表面を覆って潤滑性を保ち、摂取した食べ物との接触によって起こる粘膜の損傷を防いでいます。
胃の痛みやむかつきなどの症状は、胃を攻撃する因子と守る因子とのバランスが崩れることが原因となって起こり、胃薬には攻撃因子抑制薬・防御因子増強薬・胃粘膜保護に役立つプロスタグランジン製剤などがあり、どれも胃の中の粘膜の状態を整えるのに役立ちます。
みぞおちあたりの胃の痛みが薬剤を服用してもあまり改善しない場合には、かかりつけ医と相談するか、消化器内科など専門の医療機関への受診が必要になる場合があります。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。