下痢が続くのに腹痛がない!?原因になる病気と対処法

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下痢は身近な病気であり、下痢を引き起こす原因としては細菌などに汚染された水や食べ物を摂取する、あるいは日々の生活で過度の緊張やストレスを抱えるなどが挙げられます。

また、下痢の原因となるいくつかの疾患は腹痛を伴わないこともあります。ここでは下痢の原因や関連する病気について詳しく見ていきましょう。

腹痛なしの下痢が続く原因

腹痛を伴わない下痢が続くときはどのような原因が考えられるでしょうか? 代表的なものを見てみましょう。

お腹の冷え 

冬場など寒くなるとお腹が冷えて、ひどいときには下痢を伴うことを経験された人もいらっしゃることでしょう。

お腹が冷たい感じがして、冷たい食べ物を摂取するとすぐに下痢になる場合には、体質的にお腹が深部から冷えているかもしれません。

慢性的なお腹の冷え症状に対して、厚着を着用してカイロで腹部を温めても症状が緩和するのは一時的であり、なかなか根本的に良くならないという際には体質を改善させるために生活習慣からしっかりと見直す必要があるでしょう。

慢性疲労や虚弱体質、老化や病気による免疫力低下などから由来するお腹の冷えも考えられます。身体の体力が弱ると全身を温める力そのものが衰弱しておなかも冷えやすくなって、下痢だけでなく、下半身の冷えによる頻尿や腰痛などのトラブルも合併します。

ストレスや緊張

日々の生活のなかで緊張を感じて、不安になることがあると、腸全体の働きが影響を受けて、下痢などの症状が出現することがあります。

腸の蠕動運動は自律神経によって制御されており、口から入った食べ物は胃を通って小腸、大腸と通過しながら消化、吸収された後に残った残渣物が、腸の蠕動によって直腸に運搬されて便意が起こるという流れになっています。

多大なストレスや過度の緊張などに伴って自律神経のバランスが崩れて、腸の動きが過剰に亢進すると、便内容物が腸管を通過するスピードが速くなり、水分の吸収が不十分になることによって下痢症状を引き起こすと考えられています。

ストレスや緊張によって自律神経が乱れると、腸管にけいれんが起きて排便のリズムが崩れ、下痢などの便通症状がもたらされることにも繋がります。

食あたり・水当たり

食あたりで細菌感染した場合には腸管の粘膜組織に障害が起こり、腸管内の分泌液が過剰に多くなって下痢症状を引き起こすと考えられます。

また、水の性質が合わないなどが原因となる水あたりにおいては、下痢や軟便、倦怠感などの症状が見受けられます。

体質に合わない水を飲まなければ症状は改善することが多いですが、合わない水を飲み続けた場合、あるいは雑菌が含まれている汚染水を摂取した際には、短期間で症状が軽快しないこともあります。

薬の副作用

薬は全身に影響を及ぼすため、予期しない副作用が起こる可能性が考えられます。薬によって症状は若干異なりますが、薬剤性の消化管症状として、下痢、消化管出血などが挙げられます。

これらの薬剤の副作用としての消化器症状は、原因薬の服用を中止することで改善しますが、薬剤によっては自己判断で使用中止しないほうがよいタイプもあります。心配な症状がある方はかかりつけ医師に相談しましょう。

痛みを伴わないこともある?下痢の原因になる病気

次に挙げる疾患は下痢の原因になり、腹痛を伴わないこともあります。

胃腸炎

胃腸炎は、ウイルスや細菌などの病原体が胃腸内に感染することによって引き起こされる疾患であり、その多くは雑菌を含む食品や汚染水を摂取することで感染します。

一般的に、夏は細菌が繁殖しやすいため細菌性が多く、冬はウイルス性が流行すると伝えられており、代表的な原因ウイルスとしてはノロウイルス、ロタウイルスなどが挙げられます。そのなかでも頻度的に多いのは感染力が強いノロウイルスです。

胃腸炎の症状は病原体によって多少は違いますが、典型的な症状は下痢、悪心、嘔吐などの消化器関連が主流であり、特に下痢症状は必発と考えられています。

病原体によっては、血便が合併して認められることもありますし、感染初期には発熱症状がまずは先行して、その後に嘔吐や下痢などの腹部症状が出現するタイプもあります。

また、乳幼児や高齢者が胃腸炎に罹患する際には、脱水症状に陥るケースも多くあり、重症化の可能性もありますので、ひどい脱水症状を引き起こさないために点滴などの処置も含めた水分補給が重要になります。

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群は、小腸や大腸に器質的な異常所見が指摘されないのにもかかわらず下痢や便秘などの便通異常を伴う腹部不快感が、慢性的に長期間にわたって繰り返される病気を指しています。

過敏性腸症候群は、人口の約15%程度に認められるとされており、特に女性に引き起こされやすい疾患です。また年齢を重ねるごとに罹患頻度は減少していくことが判明しています。

日々の腸管運動は自律神経によってコントロールされており、自律神経のバランスを乱す主な原因には、緊張や不安感情といったストレスがあります。脳が強いストレスを検知すると、腸管の蠕動運動に異常が生じて下痢や便秘症状を引き起こします。

過敏性腸症候群を一度経験すると、また症状が再発して起こるかもしれないという不安感に襲われ、再度同様の症状を呈するという悪循環に陥りがちです。長い期間に渡ってくり返して下痢を始めとする便通異常の症状に悩まされることに繋がります。

身体的な原因としては、日常的に溜まった過労や睡眠不足が影響するだけでなく、食事が不規則な生活が長期的に継続されると身体がストレスを感じて、腸管運動が異常に活発化して下痢を引き起こすことになります。

これらの便通異常の症状を対症療法的に抑えることも悪くありませんが、根本的に腹部症状を引き起こす原因となっている日々のストレスを解消する対策を講じることが重要です。

大腸がん

早期の大腸がんは無症状のことが多く、大腸がんそのものでは腹痛症状や腹部違和感が出現することはありませんが、がんが進行して巨大化すると腫瘍が便の流れを妨害する、あるいは腫瘍から直接的に出血をきたすことで血便症状などが認められることがあります。

大腸がんは早期のタイプではほとんど症状を自覚しないといわれていますが、がん病変部のサイズが大きくなって、腸管の内腔のスペースが狭くなると、便が通過しにくくなり、便秘や間欠的な下痢などの便通異常がみられることがあります。

大腸がんの病状が進行すると、代表的には血便、便が細くなる、残便感、貧血、腹痛、下痢、嘔吐などの消化器関連症状が認められます。大腸がんの存在する部位によって典型的な症状は異なります。

例えば、硬い便が通過する下行結腸やS状結腸、直腸に位置する大腸がんのケースでは、便の通りが悪化することによって腹痛や嘔吐症状、あるいは血便や便の狭小化所見も認められやすくなると考えられます。

その一方で、便がまだ水様で硬く固まりきっていない状態が認められる盲腸、上行結腸、横行結腸に形成される大腸がんの場合には、病状が進行してがん組織がサイズアップしても腹部症状が目立たずに、貧血や腹部違和感などの症状によって発見されることもあります。

下痢の種類による違いとは

下痢にはいくつもの種類があり、症状の出方も異なっています。下痢の種類を確認しておきましょう。

浸透圧性下痢

腸内に浸透圧(水分を取り込もうとする力)の高い成分があると、便の水分を吸収する腸の働きが妨げられて下痢になるのが浸透圧性下痢です。

人工甘味料など摂取した食べ物の浸透圧が高くて、小腸などで水分が吸収されにくいことが直接的な原因です。

浸透圧の高い食べ物以外にも薬剤が原因で腸管内の浸透圧が上昇して、水分と電解質の相互バランスが崩れて下痢が引き起こされます。

代表的な食べ物としては、一部の豆類、果物や濃いジュース、砂糖の代替品などが挙げられます。

また、乳糖を分解する酵素であるラクターゼが欠乏している乳糖不耐症の場合には、乳製品を取り入れると乳糖が胃腸で十分に消化されずに下痢症状が引き起こされます。

それ以外にも、抗生物質や鉄剤などを服薬すると腸内の正常な細菌叢が乱れて、下痢症状を呈することがあり、誘引物質を除去すると症状が次第に改善していくことが知られています。

分泌性下痢

細菌やウイルス感染による粘膜の炎症、アレルギーによる粘膜のむくみなど、腸の粘膜になんらかのダメージが加わると、腸から分泌される水分量が過剰になって下痢が起きるタイプが分泌性下痢です。

分泌性下痢とは、細菌毒素やホルモンの影響などによって腸管からの水分の分泌量が増える状態を指しています。

コレラ菌や腸管出血性大腸菌などの細菌が有する毒素が腸管内で取り込まれると、セロトニンと呼ばれるホルモンが自然と放出されて、小腸と大腸から便内容物として過剰に水分と塩分が分泌されて下痢が引き起こされます。

ウイルスや細菌の毒素以外にも、ヒマシ油などの下剤や胆汁酸の影響などによって下痢症状が起こりますし、WDHA症候群、ガストリノーマなどホルモン分泌産生腫瘍などでも大量の下痢便が認められやすくなります。

蠕動運動性下痢

通常、腸内で形成された便の内容物は、腸のぜん動運動によって収縮と弛緩を繰り返しながら肛門から体外へ排出されます。

ところが、何らかの要因で腸のぜん動運動が過剰になると、大腸内の便は十分に水分を吸収されない状態のままで肛門まで運ばれてしまうため、過剰なぜん動運動によって水分量の多い下痢が生じるタイプを蠕動運動性下痢と呼びます。

蠕動運動性下痢は、過敏性腸症候群や甲状腺機能亢進症などに伴って下痢症状が引き起こされる状態であると考えられます。

一般的に、腸管は伸び縮みしながら水分を吸収しゆっくりと肛門部まで便内容物を送る蠕動運動を日常的に行っていますが、こうした蠕動運動機能が低下し、大腸を速く通過すると排泄物が固まらずに水様の性状に変化してしまいます。

また、蠕動運動が妨げられると、腸管内に増殖した腸内細菌が悪影響を及ぼして下痢症状を引き起こすことが考えられます。

いわゆる日々の暴飲暴食やストレスなどに伴う自律神経の変調によって下痢症状に繋がりやすいと知られています。

また、緩下剤やマグネシウムを含むサプリメントの過剰な使用によって下痢が発症することもあります。

滲出性下痢

クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患に伴う身体の炎症によって水分がしみ出して下痢を起こすタイプを滲出性下痢と呼んでいます。

腸管粘膜に炎症や潰瘍性病変があると、腸管からの水分吸収能力が低下して、便の量と水分が増加することによって下痢症状を引き起こします。

このタイプを引き起こす要因としては、炎症性腸疾患以外にも腸結核、虚血性腸炎、細菌性腸炎やウイルス性腸炎、放射線性腸炎などが挙げられます。

特に、腸管の中でも直腸粘膜に炎症が惹起されると、便内容物による直接的な刺激で、より排便回数が多くなり、症状に伴う苦痛が助長されます。

下痢が続く場合の対処法

下痢が続くときに取り入れるとよい対処法を紹介します。

水分をこまめに補給する

下痢になると体内から水分やミネラル類など必要な栄養素が大量に失われてさらに胃腸が弱りやすくなるため、下痢症状が悪化する負のスパイラルに陥ることも少なくありません。

下痢症状の悪化を早期的に予防するためにも、喪失した水分やミネラル栄養素を補給する必要があり、水分補給する際におすすめなのは経口補水液やスポーツ飲料になります。

特に、経口補水液は人体に必要なミネラル成分や糖分が含まれており、水よりも吸収効率が良好であるため、効率よく水分やミネラル類を補給することができます。

スポーツ飲料水もミネラル栄養素や糖分が豊富に含まれていますが、経口補水液と比較すると、糖分量が多い傾向が認められるため、肥満の場合や糖質制限が必要な方には経口補水液での水分補給をおすすめします。

胃腸に負担のない食事をする

下痢症状を引き起こすと腸内での栄養素が吸収されにくくなる結果、体力が低下して自然と腸管機能も減弱しやすくなり悪循環となります。

下痢症状を改善するためには、胃腸機能を正常に保つ必要があり、消化管の健康を保つという観点からも下痢を引き起こしている際には栄養バランスが優れた食事を摂取して、胃腸に負担をかけない消化の良い食べ物を取り入れることが大切です。

例えば、おかゆや重湯、やわらかく調理された煮込みうどん、すりおろしリンゴ、野菜スープなどは胃腸に優しい食べ物といえます。

漢方を服用する

下痢をしている際に活用される漢方薬を紹介します。

ひとつは、五苓散(ごれいさん)です。体力の程度に関わらず服用することができる漢方薬で、特にのどが渇いて尿量が少なく水様性下痢を呈している際に推奨されています。

もうひとつは、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)です。体力レベルが中等度であり、みぞおちがつかえた感じがあり、ときに悪心、嘔吐があり食欲不振で下痢傾向を認める場合に、症状改善を目的として服用することが推奨されています。

ただし、麻黄(まおう)や地黄(じおう)などの生薬(しょうやく)が含まれた漢方薬は、副作用として下痢が引き起こされやすいことが報告されていますので、これらの生薬が含まれているかどうかを事前に確認するようにしましょう。

まとめ

これまで、腹痛なしの下痢が続く原因、その対処法と病気の可能性などを中心に解説してきました。

下痢そのもので亡くなることは稀ですが、下痢症状に伴って脱水症状が合併すると、体内の水分と電解質のバランスが崩れて人体の機能維持に支障をきたします。

また、下痢症状が長期間に渡って継続する場合には、大腸がんなど重大な疾患を見逃さないためにも、専門医療機関を受診するように心がけましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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