気づいたきっかけは?大腸がんの初期症状となりやすい人の特徴

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大腸がんはある程度進行するまでは症状が現れにくいことが知られています。かといって、全く発見できないというわけではありません。大腸がんはどのようにして発見されることが多いのか、何がきっかけで気づくのか、ということをあらかじめ知っておくことは有益です。

ここでは大腸がんの発見につながる初期症状、検査、便の特徴などについて解説します。

大腸がんの初期症状、気づいたきっかけ

大腸がんは初期症状に自分で気づいたり、検査で発見されたりします。大腸がんに気づくきっかけとして多く見られるものを紹介します。

便潜血検査

大腸がんを罹患するリスクは年齢と共に増加し、その多くは60歳代から70歳代で発症すると言われていますが、40歳を過ぎた時点で定期的な検査を受けることが勧められています。

大腸がん検診は一般的に40歳以上の健常者が対象です。大腸がん検診の具体的な内容としては、問診、そして便潜血検査が主流となっています。

便潜血検査は、2日分の便を自ら採取して便中に血液成分が混入していないかを分析できる検査方法であり、この検査では便に混じっている肉眼では発見できない血液成分も検出することが可能となっています。腫瘍から由来する微小な出血も検出できる画期的な検査方法であり、万が一検査結果が「要精密検査」となった場合には、大腸内視鏡検査など医療機関で精査を受ける必要があります。

便潜血検査がきっかけで大腸がんが発見されるケースは少なくありません。

血便

大腸の腸管粘膜の内部に悪性腫瘍が形成された場合、がん組織は新生血管を張り巡らせて栄養分を身体から奪い取ろうと働きます。

その新生血管は、通常の血管組織と異なって脆弱であり、同部を便内容物が通過する際に血管を損傷して出血をきたすことによって「血便」症状が出現します。

大腸がんの早期段階では自覚症状はほとんどありませんが、がん病巣が進行すると血便(便に血が混じる)、あるいは下血(腸管からの出血によって赤または赤黒い便が出る)などの症状が認められます。血便がきっかけで大腸がん発見につながることがあります。

「便に血が付着した」という理由で消化器内科や大腸肛門科を受診されるケースはとても多く、肛門から血が出る場合には、何らかの異常が隠れていると考えて大腸全体をチェックすることが勧められています。

貧血

大腸がんに罹患し、がん病変部が進行すると慢性的ながん由来の出血に伴う貧血症状を認めることがあります。

「貧血」は、血液中のヘモグロビン量が減少することを意味しており、特に大腸がんの場合にはゆっくりと時間をかけて病変部から出血するケースが多いために、血中のヘモグロビン値が徐々に低下していく場合があります。

特に、便がまだ水様で固形になりきっていない盲腸、上行結腸、横行結腸に形成される大腸がんの場合は進行しても腹痛などを始めとする腹部症状が顕著に出現しないことも多く、ふらつきやめまいなどの貧血症状によって大腸がんが発見されるケースがあります。

腹痛

一般的に、大腸がんは早期のものは無症状で経過することが多いですが、いったん進行するとさまざまな症状が現れます。

その症状のひとつとして、「腹痛」が挙げられます。

例えば、硬便が通りやすい下行結腸やS状結腸、もしくは直腸部位におけるがん病変部を有する場合には、便の通りが悪くなることに伴って腹痛、あるいはそれに伴う嘔吐症状が引き起こされやすくなります。

腹痛を引き起こす原因疾患はさまざまですが、通常大腸粘膜は痛みを感じる神経が無いためポリープや初期大腸がんでは腹痛症状は出ないとされていることから、大腸がんが原因で腹痛を呈している場合にはかなり病状が進行していることが考えられます。

便秘・下痢

中高年齢層を過ぎてから、「最近便秘傾向である」、あるいは「普段から下痢と便秘を繰り返すことが多い」などの症状を認める場合には早めの大腸検査をお勧めします。

大腸がんがどのような症状がきっかけで見つかったかという過去の研究において、大腸がんと診断された1600人程度の初期症状を解析した結果、便通異常の変化を認めたケースが実に7割以上存在したという報告があります。

進行した大腸がんのケースでは、大腸の腸管内腔部ががん組織の存在によって狭くなるために排便がスムーズに行えなくなるために便秘症状になります。

また、大腸がんが進行すると、大腸が狭くなるにつれて便内容物が停滞して、数回に分けて便意を催すことに繋がり、頻回の排便症状を下痢と見立ててしまうことがあります。

体重減少

大腸がんを罹患すると、脂肪成分やたんぱく質を分解してがん病巣部が大きくなろうとするために、普段と同様に食生活を送っていても自然と体重が減少していくことが知られています。

場合によっては、2か月で8kg程度体重が減少することもあります。ダイエットをしていないのにもかかわらず体重が1か月で3~4kg前後減少する際には、大腸がんの可能性を否定できませんので、早期的に消化器内科など医療機関を受診するように心がけましょう。

腸閉塞

大腸領域の腸管ががん腫瘍によって完全に閉塞して詰まってしまった場合には、「腸閉塞」と呼ばれる状態に陥って、腹痛や嘔吐などの症状を自覚することになります。

大腸がんが進行して巨大化していくと、腫瘍自体が便の自然な流れを妨害して詰まらせてしまい、腸管内圧が上昇するに伴って腹痛、嘔吐症状が出現します。このように、腸閉塞の症状をきっかけとして大腸がんが発見されることがあります。

大腸がんになりやすい人の特徴

大腸がんの発症は年齢や体格、生活習慣、遺伝などの影響を受けます。どのような人が大腸がんになりやすいのか確認しておきましょう。

年齢

2018年の人口動態統計によると、日本において一生のうちにがんと診断される割合は男女ともに50%を超えています。

つまり、2人に1人はがんを経験するということであり、がんで亡くなった人の数のうち、大腸がんが原因だった人は、女性が1位、男性で3位と、がんの中でも身近ながんといえます。

この20年で大腸がんによる死亡数は1.5倍に増加しており、大腸がんにかかる年齢は、30代まではほとんどみられませんが、40代から少しずつ、そして50代から増加しはじめ、高齢になるほど罹患しやすくなります。

大腸がんは男性に多い傾向がみられますが、女性のがん死亡原因第1位であるので、男女ともに注意が必要です。

身体的な特徴

体脂肪過多、腹部肥満、高身長といった身体的特徴をもつ人では大腸の癌化を発生する危険性が高いといわれています。特に、体脂肪が多い肥満体型の人は十分注意が必要です。

肥満は、WCRF(世界がん研究基金)2011年の改訂版では、男性でBMI30以上で結腸がんのリスクが1.4倍、直腸がんは1.16倍という結果でした。

痩せている人に比べて太っている男性は、2.0倍結腸がんに、1.4倍直腸がんになりやすく、女性は、1.3倍結腸がんに、1.3倍直腸がんになりやすいことが分かっています。

また、女性では閉経後の肥満がリスクになります。大雑把に言えば、肥満であることは、約30%大腸がんになりやすくなるということです。

生活習慣

赤肉や加工肉などの摂取、飲酒、喫煙習慣により大腸がんの発生する危険性が高まると言われています。

大腸がんのリスク要因としてはほかにも、運動不足、野菜や果物の摂取不足、肥満、飲酒などが考えられています。

この20年で大腸癌による死亡数は1.5倍程度に拡大していて、いわゆる食生活の欧米化(高脂肪・低繊維食)が関与していると考えられています。

多くのがんに言えることですが、がんを引き起こす要因に生活習慣は深くかかわっています。

特に、「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」の5つの生活習慣はとても大切です。

国立がん研究センターの報告によると、年齢40歳から69歳の男女で行った調査において、この5つの健康習慣を実践する人は、0または1つ実践する人に比べ、男性で43%、女性で37%がんになるリスクが低くなるという推計を示しています。

中でも大腸がんでは、特に生活習慣の影響が大きいと言われていて、赤肉(牛、豚、羊など)や加工肉(ベーコン、ハム、ソーセージなど)の摂取、飲酒、喫煙により大腸がんの発生する危険性が高まります。

遺伝・家族歴

割合としては少ないものの、大腸がんの一部においては遺伝的要因で発生することが明らかになっている大腸がんもあります。

大腸がんの家族歴がある方はリスクが増加すると言われており、特に潰瘍性大腸炎を長期間患う事でも大腸がんのリスクを高めることが分かっています。

大腸がんの発症は、時に家族の病歴との関わりもあるとされており、家族性大腸腺腫症やリンチ症候群の家系では近親者に大腸癌の発生が多くみられます。

大腸がんが疑われる便の特徴

早期段階における大腸がんでは有意な自覚症状はほとんどありませんが、がん組織が進行して成長すると、血便、便秘や下痢などの便通異常、あるいは便そのものが細くなる狭小化といった所見が認められるようになります。

例えば、直腸部位からS状結腸部の周辺でがん組織が成長すると、排泄される便が普段より細くなる傾向があります。

特に、直腸がんの場合には、便に比較的鮮血に近い血液が付着して発見されることが多いですし、がん腫瘍によって直腸内が圧迫されて狭くなると、便が狭小化して細くなるのみならず排便後も残便感や違和感が残存することになります。

また、下行結腸やS状結腸でがん病変部によって腸管内腔が狭くなると、便が通過しにくくなり便秘と下痢を繰り返す便通異常、あるいは間歇的腹痛や腸閉塞などの症状を呈することもあります。

まとめ

これまで大腸がんにおける初期症状、気づくきっかけ、便に特徴はあるかなどを中心に解説してきました。

便潜血検査は大腸がんを早期的に発見できる検査のひとつであり、高精度で血液成分を検出することができますので、有効的な検査手段と考えられます。

大腸がんは早期的な段階ではほとんど自覚症状は乏しく、病状が進行するにしたがって有意に多彩な症状が認められるようになります。

代表的な症状としては、腹痛、便秘や下痢、血便、貧血などが挙げられます。

それ以外にも、便が詰まって腸閉塞になる、通常よりも便が細くなる、あるいは残便感を自覚するなどの症状が認められることも考えられます。

万が一、血便など自覚症状を呈する場合には、自己判断をして放置すると大腸がんの発見が遅れることも心配されますので、心配な症状を認める際には早めに医療機関を受診することをおすすめします。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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