大人の知恵熱の正体は?原因不明の熱の種類や心因性発熱について

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よく深く考えたり、頭をつかった後に「知恵熱が出た」ということがあります。知恵熱はどのような原因で起こるのでしょうか?

ここでは大人の知恵熱を取り上げ、考えられる原因や対処法について解説します。

「知恵熱」という病名はない?

そもそも知恵熱という病名はありません。知恵熱はもともと近代医学がない時代に生まれた「乳幼児期に突然起こる発熱」という意味で使われていました。

生後6~7か月頃は母体からの免疫がちょうどなくなる時期です。その時期に風邪や突発性発疹、その他のウイルス感染などの感染症や環境温度による体温の上昇などの原因によって熱が出ます。

昔の熱の分類には、はしかやみずぼうそうの他に、「知恵づきの時期」に突然熱を出し、短期間で治ってしまう知恵熱という分類があり、それが現代も形を変えて残っているのです。

大人に見られる原因不明の熱の種類

「知恵熱」という病名はないと述べましたが、「不明熱」という病名はあります。これは、3週間以上続く原因不明の38.5度以上の発熱のことをいいます。

原因としては、感染症が約40%、がんなどの悪性腫瘍が約20%、膠原病が約20%を占めるといわれています。

感染症による発熱

感染症による発熱である場合は、発熱以外に咳や痰、動悸、息苦しさ、悪寒などの症状があります。胸膜炎などを併発している場合は、息を吸ったときに胸の痛みを感じることがあります。

原因不明の感染症の種類としては、新型コロナウイルス、HIV感染症、結核、心内膜炎、化膿性椎体炎、梅毒、動物原生感染症(ブルセラ症、ライム病など)、マラリア、日本紅斑熱などが挙げられます。

悪性腫瘍による発熱

リンパ腫や腎細胞がん、心房粘液腫などの腫瘍は発熱を認めます。腫瘍の場合は、消耗熱(最高値と最低値の差が1.5℃以上)がみられます。悪性腫瘍による場合は、発熱の他に倦怠感や、食欲不振、気分不良、不正出血などがみられます。

膠原病による発熱

巨細胞動脈炎、全身性エリテマトーデス、血管炎、リウマチ熱、Still病などの膠原病によって発熱がみられます。中でも多く見られる関節リウマチによる発熱は、夜間に日中の疲れが出て発熱することもあります。関節リウマチには発熱の他に関節痛、倦怠感、関節の腫れ、関節の変形があります。

心因性発熱

上記の他にストレスによって発熱する心因性発熱があります。心因性発熱とは、急性もしくは慢性的なストレス状況下に置かれたとき、その人の平熱以上に体温が上昇することをさします。

心因性発熱という病名そのものは1900年代から存在しており、ひとつの疾患として認識されていたものの、当時は風邪による発熱とのメカニズムの違いは解明されていませんでした。

現在は、心因性発熱は風邪による発熱と全く異なるメカニズムで生じることが知られており、交感神経機能の亢進が体温上昇に大きく関係することから、機能性高体温症とも呼ばれています。

心因性発熱は性別や年齢を問わず、子どもから高齢者まで起こる可能性があります。特に子どもの場合は、高熱になりやすい傾向があります。なぜなら、幼少期は熱産生の機能が大人に比べて発達している時期であるため、些細な刺激でも体温を上げる機能が大きくはたらくからです。

大人の知恵熱は心因性発熱の可能性も

心因性発熱は、自律神経のうちの交感神経が活発になり、熱を発生する細胞である褐色脂肪細胞が刺激を受けることで発熱します。

通常風邪にかかった際、人の体内でまず、マクロファージという免疫機能が動きます。これは白血球の一種で、体内に侵入したウイルスや細菌と闘うためにサイトカインという物質を放出します。

サイトカインは免疫機能の活性化以外にもさまざまな作用をもたらし、脳の血管内皮細胞のサイトカイン受容体に作用し、プロスタグランディンE2(PGE2)という発熱のメディエーターとなる物質の産生を促します。この働きにより熱産生反応が亢進し、発熱します。

しかし、心因性発熱の場合はこれらの物質が関わっていないのが特徴です。そのため、解熱剤など炎症を鎮める薬を使用しても熱は下がりません。心因性発熱は大きく二つのタイプに分かれ、高い熱が出るものの回復が早いタイプと、37℃を少し超える程度の軽い熱がずっと続くタイプがあります。

急激に高体温を示すが、回復が早いタイプ

精神活動(授業に出る、仕事をする、人に会う、プレゼンや発表前に極度に緊張する、交通事故にあうなど)に伴って急に体温が上がることがあります。

これは子どもによくみられるタイプですぐに解熱しますが、ストレスの原因が解決しないと何度でも繰り返すことがあります。まれに40℃以上になることもあります。

微熱程度の高体温が続くタイプ

残業が続く、緊張状態に常にあるなど慢性的なストレスが続いている状況や、いくつかのストレスが重なった状況で、37〜38℃の微熱程度の高体温が続くタイプは働き盛りの成人によくみられます。

微熱はしばしば頭痛、倦怠感などの身体症状、不眠を伴います。このタイプの微熱を呈する人は、ストレス状況が改善すれば自然に治ることもありますが、原因が解決した後もしばらく続く場合もしばしばあります。

このタイプでは、微熱そのものというよりも、微熱によって倦怠感が増強したり、頭がボーっとすることで日常生活に支障が出る人が多いです。

心因性発熱の対処法

心因性発熱が認められるときは、ストレスに適切に対処すること、日常生活で無理をせずに心身を休ませることが重要になります。

ストレスへの対処

ストレス性の発熱である心因性発熱は、解熱剤では解熱しません。その人の個別的なストレスに対する対処が必要となってきます。

何がストレスとなっているのかを個別に見出し、心理療法や自律訓練法、薬物療法などを状況に応じて行なっていきます。ストレスに対する薬としては安定剤や抗うつ薬、十分な睡眠がとれていない人には睡眠薬などがあります。

日常生活で無理をしない

心因性発熱が続いている時期の生活上の注意点としては、日常生活のペースダウンと、睡眠時間を十分に確保することが何よりも大切となってきます。その日にすることの優先順位を決めて、全てをやろうとせず、70%くらいの力で行いましょう。

心身を休ませることが大切

また、こまめに休憩しましょう。仕事や家事をしていて、疲労を感じ始めたら体が休憩を求めているサインです。その場合は、少しでもいいので休みましょう。

休息するときは、体を横にして目を閉じることで、立った姿勢や座った姿勢より筋肉の緊張や交感神経の緊張もとれます。このように自分なりのエネルギーをなるべく消費しない方法を見つけて実行していきましょう。

大事なのは、心因性発熱が出るのは、心身が鍛えられていないからだと考えてしまわないようにすることです。心身が弱いからと、無理をすることでさらに体に鞭を打ってさらに悪化させる恐れがあります。何よりまず心身を休ませてあげることが大切です。

「知恵熱」について思い違いをしていたという方も多かったのではないでしょうか。考えることでストレスを体が感じて、心因性の発熱が出ていた可能性も考えられます。しかし、発熱した際に心因性と決めつけるのはよくありません。まずは病院を受診して内科的疾患がないかを確認するようにしましょう。


<執筆・監修>

九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師

九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。
日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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