太ももの外側の痺れ・痛みの原因は?外側大腿皮神経痛や脊柱疾患の特徴

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太ももの痺れは腰痛とともによくある症状です。ビリビリ、ジンジンとした痛みがはしることもあり、不快な症状です。

ここでは、そんな太ももの痺れについて、どのような原因で起こるのか、どのように対処するのかについて解説します。

そもそも痺れとは?痺れが生じる理由

痺れと聞くと、どのような症状が思い浮かぶでしょうか。医学的には痺れは次の3種類に分かれます。

麻痺

1つ目は、いわゆる「麻痺」です。筋肉に脳や脊髄から命令を送る運動神経が、何らかの原因で情報を伝えられなくなることによって、体の特定の部分を動かすことができなくなってしまうことを麻痺といいます。

麻痺は脳梗塞や脳出血といった脳の病気、脊柱管狭窄症や多発性硬化症といった脊髄の病気の他、末梢神経の圧迫やさまざまな病気によって起こりえます。

感覚脱失

2つ目は、「感覚脱失」です。簡単にいえば感覚を感じなくなることをいいます。これも、麻痺と同じように脳や脊髄、末梢神経のどこかに異常が生じて情報の伝達がうまくいかないことによって起こります。

異常感覚

3つ目は「異常感覚」です。「ビリビリ、ジンジン」といった、正座をした後の足の痛みのような痛みが見られます。この痛みは神経自体が損傷を受けたときにも感じるのですが、主に神経が修復されるときに起こってくる痛みです。

正座のときを思い出してみてください。正座をし続けているとだんだんと痺れてくる感覚があると思いますが、正座をやめて立ち上がると途端にジーンとした痛みが強くなる記憶はないでしょうか。あれこそ、圧迫から解放されて神経が元通りになろうとするときに感じる症状なのです。

多くの場合、「痺れ」というと3つ目の「異常感覚」をさし、ビリビリジンジンといった痛みを指します。しかし、その他の症状も痺れと表現する人も多いので、注意が必要です。

太ももに痺れをきたす疾患は多くありますが、その中でも太ももの外側に限局する痺れの場合、外側大腿皮神経痛の可能性があります。

太ももの神経支配

太ももの神経支配を確認しておきましょう。

首から下の体の筋肉や感覚を司る神経は全て脊髄から出ています。特に足を支配する神経は、腰椎のあたりから出ています。

腰椎を出た神経のうち、足へ向かう神経はおもに3本あります。大腿神経、外側大腿皮神経、坐骨神経です。筋肉を支配し、運動をコントロールする機序は複雑なので、それぞれの神経が足の感覚をどのように感知しているのかをまとめましょう。

大腿神経

足へ向かう神経のうち、太ももの前面と、膝から下の外側を支配するのが大腿神経です。大腿神経は腰椎を出た後、骨盤の中を走行して足の付け根のところで鼠径靱帯という靱帯の下を通過して太もものところに出てきます。そして細い神経に分岐し、大腿の広い範囲の皮膚に至ります。一部の神経だけは、伏在神経という名前に変わり、膝の外側を通って膝下へと至ります。

坐骨神経

太ももの後ろ側と、膝下の伏在神経領域以外、足も含めて全てを支配するのが坐骨神経です。坐骨神経は脊髄から出た後、骨盤の後ろの方を走行し、お尻のところから骨盤を出て太ももの後ろ側を走行します。

膝の手前辺りで総腓骨神経と脛骨神経という神経に分かれますが、いずれも膝下から足まで走行します。この経路は非常に長く、最も長い神経で1メートル以上の長さとなり、人体で最も長い神経となります。

外側大腿皮神経

外側大腿皮神経は、太ももの外側だけの感覚を司る神経です。脊髄から出た後、大腿神経より外側を走行し、鼠径靱帯の下から太ももに至ります。

このように、さまざまな経路を通って脊髄から足へと神経は至っています。

太ももの痺れの原因になる外側大腿皮神経痛

足に至る神経はそれぞれ固有の場所を通って骨盤から足へと出てきます。しかしそのなかでも、外側大腿皮神経が通っているところは非常に狭い場所を通ります。ですので、周囲の炎症や外傷、神経自体の変性によってダメージを受けやすくなっています。

このように、外側大腿皮神経がその経路中でダメージを受けることで、痺れをはじめとした症状が出現することを外側大腿皮神経痛と呼びます。

外側大腿皮神経痛の症状

外側大腿皮神経痛の症状は、神経の特徴によって説明されます。

外側大腿皮神経はもともと感覚のみを伝える神経で、筋肉を動かす運動神経としての働きはありません。そのため、外側大腿皮神経の障害では運動障害は起こりません。

また、外側大腿皮神経は太もも外側の皮膚感覚を伝える神経ですから、同じ場所の症状を認めます。

神経自体が障害を受けて、さらに修復も同時に起こるため、神経障害性疼痛に特徴的なジンジン、ビリビリした異常感覚を呈します。

まとめると、太ももの外側にビリビリ、ジンジンした痛みが起こり、運動障害はないのが外側大腿皮神経痛の特徴ということになります。

ただし、神経障害が起こるといっても普通は神経が強くダメージを受けてしまうのではなく、長期間の圧迫によってだんだんと神経がダメージを受けるという程度ですから、痛みまではいたらず軽度の違和感があるという症状の人が多いのも特徴です。

外側大腿皮神経痛を発症しやすい人

外側大腿皮神経痛は、外側大腿皮神経が鼠径靱帯の下を通行するところで圧迫されて障害が起こることがほとんどです。

この場所は、ベルトや下着によって圧迫されやすい場所になりますので、きついベルトや下着を着用している人に症状が起こりやすくなります。

また、肥満の場合は脂肪が神経を圧迫しやすくなりますから、症状が起こりやすくなるといえます。

太ももが痺れるその他の疾患

変形性股関節症の解説イラスト

太ももにビリビリとした痛みの症状が現れる場合、外側大腿皮神経痛の次に考えやすいのは脊柱の疾患です。一方、太ももの痺れや痛みのほかに症状がなければ、変形性股関節症や坐骨神経痛が原因になることは少ないといえます。

変形性股関節症の可能性は?

足が痛いとなると、変形性股関節症の関与を考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。変形性股関節症とは、長年の股関節に対する負担によってだんだんと軟骨がすり減り、骨が変形してくることによって起こってくる症状を言います。

症状としては関節部分の痛みで、動かしたり曲げたりすると痛みを感じます。一方で、神経には関係しませんから太ももの痛みやしびれといった症状には関与しません。

もし太ももの痛みやしびれがあるのであれば、変形性股関節症以外の原因を考えた方が良いでしょう。

坐骨神経痛の可能性は?

大腿神経や坐骨神経が圧迫されたり引き延ばされたりすることによって太ももに痺れが起こることもないわけではないですが、大腿神経は鼠径部を通過するときにそこまで狭い場所を通るわけではありませんから、外側大腿皮神経のように傷害されやすくはありません。

また、神経障害による痛みは、神経の中でもより先端の方で症状が起こりやすく、坐骨神経痛の症状が太ももだけに起こることはあまりありません。

そのため、太もものみに症状がある場合は、外側大腿皮神経痛か脊柱の疾患を疑います。

脊柱の疾患による痺れ

脊髄の解剖について簡単に説明しましょう。脊髄からは頸椎から8対、胸椎から12対、腰椎から5対、仙椎から5対の脊髄神経が出てきます。それぞれの神経には運動、感覚のそれぞれの役割を担った神経が含まれています。

このうち、下肢の感覚を伝えるのは腰椎からの神経です。それぞれ鼠径部付近の感覚を腰椎1番、太ももの真ん中辺りを2番というように、順番に伝えています。

脊柱管にゆがみやズレがあると、脊髄が直接、あるいは脊髄から出てきた神経が圧迫されてしまいます。すると、この神経支配に沿って痺れの症状が出現してくるのです。

脊柱管のゆがみやズレをきたす疾患としては、腰椎椎間板ヘルニア、腰椎すべり症、腰椎圧迫骨折などがあります。

脊柱の疾患による痺れの特徴としては、外側大腿皮神経、大腿神経、坐骨神経といった末梢神経の分布ではなく、先ほど説明した脊髄神経の大元がそれぞれ支配する領域に一致した症状が出ること、痺れの症状が異常感覚だけではなく麻痺や感覚低下などの症状も伴うこと、があります。

このような点を確認しながら、症状の原因がどこにあるのかを推定していきます。

妊婦さんの太ももが痛くなりやすい理由

お腹が目立ってきた妊婦

妊婦さんに太ももの痛みやしびれが出てくることがあります。どのような理由があるのでしょうか。

女性ホルモン「リラキシン」の影響

妊娠中は体内のホルモンのバランスが様々に変化します。その中でもリラキシンというホルモンが太ももの痛みに関与する場合があります。

リラキシンは、妊娠中に増加するホルモンで、主に子宮の筋肉を緩めます。子宮が収縮すると陣痛が始まり、胎児が圧迫されて危険なので筋肉を緩めるためにリラキシンが分泌されます。

しかし、ホルモンは子宮だけに向かうのではなく、体中の血液中に存在します。リラキシンは子宮の筋肉だけを特異的に弛緩させるのではなく、ほかの多くの筋肉も同様に弛緩させてしまうのです。

とくに足の痛みとの関連では、骨盤の関節、特に仙腸関節という関節に作用します。この関節を支える筋肉が緩むと、骨盤全体が緩んでしまいます。すると反対に骨盤を支えようとして梨状筋と呼ばれる骨盤の筋肉が収縮して骨盤全体のバランスを保とうとします。

この梨状筋のすぐ下には坐骨神経という神経が通っています。坐骨神経が圧迫されると坐骨神経痛と言ってお尻から太ももにかけての痺れ、痛みが出現してくるのです。このようにして、妊娠してリラキシンが分泌されると太もものしびれや痛みが出てくるのです。

反り腰の影響

また、妊娠中の太ももの痛みには反り腰も関係してきます。

妊娠が経過してお腹が大きくなってくると、だんだんと重くなったお腹を支えようとして腰をそらせたり、背中を丸くしたりすることでバランスを保とうとします。

正しい体勢では背骨はS字を描く緩やかなカーブをしています。そのようなバランスで保たれていることによって筋肉も適切に緊張し、働く事ができます。しかし、そのバランスが崩れると、崩れたバランスを保とうとして筋肉が緊張し、痛みを生じることがあります。特に腰回りや腰を支える足の筋肉の痛みはよく起こってくる症状です。

さらに腰をそらせた状態は、神経の圧迫にも関与してきます。前述の坐骨神経も梨状筋による圧迫によって痛む場合がありますし、背骨の辺りで脊髄神経や脊髄から出てきたばかりの神経が骨や椎間板によって圧迫され、様々な症状が出てくる場合もあります。

このような妊娠中の下腿の痛みに関しては、骨盤ベルトを使用する事で改善が見込まれる場合がありますので、痛みで困っている方は検討してみるとよいでしょう。

病院で行う治療

太ももの痺れに対して病院で行う治療には手術、薬物療法、神経ブロックなどがあります。

手術

足の痺れがおこっているのであれば手術を行う、と考える方も多いと思いますが、「ビリビリ、ジンジン」といった異常感覚だけで手術を行うことは意外と少ないのです。

というのは、神経付近を治療する手術は常に神経を損傷してしまうリスクを負った手術だからです。神経の痛みを取るために手術をした結果、運動神経まで損傷してしまって足が動かなくなる、といったことは決してあってはなりませんから、手術の適応は非常に慎重になります。

ですので、下肢の痺れで手術になるとすれば運動障害が併発してきて手術をしなければ下肢麻痺となってしまう可能性がある場合や、明らかな病変がはっきりしていて手術をすることで確実に症状の改善が期待できる場合に限られます。

ですので、手術を行う前には非常に慎重に検査が行われます。

CT検査で骨の状態を確認することはもちろん、MRI検査を行うことで椎間板や脊柱管周囲の状態を確認し、神経が明らかに圧迫されている状態ではないかを確認します。そしてその状態が様子見をすることで改善が期待できず、また悪化の可能性があると判断された場合には手術となります。

手術は椎間板ヘルニアであればヘルニアの摘出術、腰椎すべり症や圧迫骨折では脊椎固定術や椎弓切除術などが行われます。

一方で、外側大腿皮神経痛の場合は、手術となる割合はさらに少なくなります。前述の通り、外側大腿皮神経は感覚のみを伝える神経ですから、先ずは後述の薬物療法や神経ブロックを試します。それでも症状が改善せず強い症状がある場合に、神経を圧迫する部位の圧迫を解除する手術などが行われます。

薬物療法

痛みに対しては痛み止め、と思われるかもしれませんが、神経障害性疼痛に対しては一般的な内服の痛み止めは効果が薄いです。

というのは、一般的な痛み止めは痛みを感じにくくすることで痛みを抑えますから、痛みを伝える神経自体が傷害されている神経障害性疼痛に対してはほとんど効果が無いのです。

そのため、神経障害性疼痛の場合には特殊な受容体の阻害薬や、神経の興奮を抑えることで痛みを抑えるために抗痙攣薬や抗うつ薬などが使用されます。

これらの処方は一般の内科医や外科医にとっては不慣れなものであることが多いため、主に神経障害性疼痛に詳しい医師によって行われています。

神経ブロック

神経ブロックは神経障害性疼痛に対して非常に効果的な治療法です。障害を受けていると考えられる神経の、障害部位より脊髄側の部分に局所麻酔薬を注入することで神経を麻痺させ、痛みを改善させます。

そもそも神経の痛みは、神経が修復される際に感じる痛みと説明しました。確かに最初はその神経からの情報を脳が検知することで痛みを感じているのですが、痛みがずっと続くと脳は痛みがある状態を普通と感じるようになってしまい、小さな刺激があっても大きな刺激ととらえて強い痛みを感じてしまいます。これを「アロディニア」といい、長期間にわたって神経障害性疼痛を感じている人によくおこるやっかいな症状です。

アロディニアにも有効

神経ブロックは、このようなアロディニアを起こしているときにも非常に有効に働きます。神経周囲に局所麻酔薬を散布して神経を麻痺させることで、痛みがない正常な状態を脳に思い出させます。

局所麻酔薬自体の効果は数時間から長くても十数時間で消えてしまいます。すると確かに痛みがまた出てきてしまいますが、このブロックを何回か繰り返すたびに痛みが無い状態を脳にインプットすることが出来、だんだんと痛みが弱まっていくのです。

神経ブロック自体は神経損傷の根本的な治療ではありませんから、神経損傷の原因がまだ残っている場合は効果が不十分となってしまうことが多いのです。そのため、根本原因の対策と併用して行われます。

例えば外側大腿皮神経痛であれば圧迫しないようにベルトや下着を緩いものとしたうえで神経ブロックを行うのが効果的といえます。

病院を受診するかどうかの目安

症状がときどき起こる場合、例えば服装や日によって症状が起こったり起こらなかったりする場合には、日常生活で症状が起こらない条件を探すことで経過観察が可能です。

しかし疼痛が持続的となった場合や、疼痛以外の感覚脱失や麻痺といった症状が併発した場合には早期の治療を行わなければ永続的な障害が残ってしまう可能性があり、病院受診が必要です。

また、永続的ではなくても、生活のうえで必要な体勢のときに症状が出現して困るなど、何らかの不都合がある場合には病院を受診して内服などの相談をしても良いでしょう。

少なくとも、神経障害性疼痛らしい疼痛であれば市販の痛み止めは効果がありませんから、薬などの治療が必要かな、と思ったら病院を受診しましょう。

病院を受診する場合は整形外科か、もしくは受診できるペインクリニックが思い当たるのであれば最初からそちらを受診しても良いでしょう。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

プロフィール

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