女子に多い脊柱側弯症とは?脊柱検査のやり方とよくある疑問点
脊椎側弯症は端的にいうと背骨がゆがんでしまう病気です。体の発達に悪影響を及ぼすことがあるので進行を予防することが重要となります。ここでは脊柱側弯症の特徴と検査方法について解説します。
目次
脊柱側弯症とは
脊椎側弯症とは脊椎が横方向にゆがんでしまう病気です。
横方向に、とわざわざつけているのは、元々脊椎は前後方向に彎曲(わんきょく)をしているためです。
人のからだは重い頭を一番高いところに置いています。人の頭はボーリングのボールのように重いものです。そのため、もし脊椎が直線形だと力が垂直にかかってしまい、一番下の脊椎に多大な力がかかってしまいます。
さらに、もし脊椎が直線形だと頭を前後に動かすとその力の動きを支えきれず、脊椎やその他の体の部分に大きな負担がかかってしまいます。そのため、脊椎は首で前方、胸部で後方、腰部で前方と、3か所で大きなカーブを描くような彎曲をしているのです。
このように生理的に彎曲をすることで安定している脊椎ですが、何らかの原因で横方向にも彎曲をしてしまうことがあります。これが脊椎側弯症です。
では、脊椎側弯症にはどのようなものがあり、どのような影響が出るのでしょうか。
脊柱側弯症の種類
脊椎側弯症は、その原因からいくつかに分かれます。
特発性側弯症
特発性側弯症は側弯症の70%を占める側弯症で、成長中のいずれかの時期に発症してきます。
特発性側弯症は発症時期によって分類されており、1歳までに発症するのが乳児期側弯症です。男児に多いのが特徴で、左に側彎するのが特徴です。大多数は自然に軽快します。
4〜9歳に発症するのが学童期側弯症です。性別差はないのが特徴です。
そして特発性側弯症の中でも80%を占めるのが、10歳以降に発症する思春期側弯症です。圧倒的に女子に多いのが特徴で、胸椎に右側の側彎をするのが特徴となっています。そして、若いうちに発症するほど症状が重症化しやすいという特徴もあります。
特発性側弯症以外の側弯症としては、先天性側弯症、神経筋性側弯症(麻痺性側弯症)などがあります。
先天性側弯症
先天性側弯症は椎骨の先天的な異常によってもともと脊椎がゆがんでいるという特徴があります。
神経筋性側弯症(麻痺性側弯症)
神経筋性側弯症は筋肉や神経の病気によって起こります。体幹部を支える筋肉が弱ったり、もしくは筋肉が異常に収縮したりすることによって骨が引っ張られ、側弯症になります。
その他の脊柱側弯症
他には神経線維腫症という病気に合併する脊柱側弯症や、Marfan症候群といって骨や皮下組織の構造に異常を起こす病気に合併する脊柱側弯症などもあります。
脊柱側弯症の症状は?
脊椎側弯症にはいくつもの症状が伴います。まずは脊椎が彎曲することで、痛みが生じます。脊椎が圧迫されることで支える筋肉が痛むこともありますし、脊髄や脊髄から出てくる神経を脊椎自体が圧迫することで痛みを感じることもあります。
さらに重要なのは、脊柱の側彎によって影響が出てくるのが肺と心臓という点です。特に胸の脊椎が変形することによって、肺が圧迫され変形したり、肺が広がりにくくなったりすることで肺活量が低下し、換気に影響が出ます。
肺での換気に影響が出ると、肺に血液を送る心臓への負担が増大しますから、心不全をきたすことがあります。
腹部の内臓には影響が出ることはあまりありませんが、重度の場合には消化器の変形や圧迫から機能不全を起こすことがあります。
このように、側弯症は非常に重要な悪影響を起こすことがあるため、適切に治療する必要があるのです。
脊柱側弯症の検査方法
脊椎側弯症の診断は、まずは視診で行います。視診によって異常を見つけた場合、異常の程度がどのぐらいなのか、治療はどのようにするべきなのかを確定していくためにレントゲン検査などの種々の検査を追加で行っていくことになります。
立位検査
立位検査は立った状態で、体のゆがみを見ていく検査になります。
まっすぐ立ってもらったときに、
①両肩の高さの左右差
②両肩甲骨の高さの左右差
③ウエストラインの左右差
の3つを確認します。
この3か所で左右に高さの違いがあった場合、側湾症の可能性が高いと考えます。
ただし、しっかりとまっすぐ立てているかというのは難しい問題になりますから、次の前屈検査を合わせて判断することがほとんどです。
前屈検査
前屈検査はその名の通り前屈をさせることで体のゆがみを確認する方法です。とくに、脊椎に側彎があって左右にゆがんでいると、脊椎に付着している肋骨や、脊椎を支えている骨盤に左右差が出てきますから、そこを確認していきます。
具体的には、まず肋骨を確認します。体を前屈させて正面から見ると、ゆがんでいる方の肋骨の方が高く突出してくるようになります。これは、側彎している側の椎体に伴って肋骨が後方に突出しているために見られる現象で、一般に肋骨隆起(rib hump)と呼ばれます。
また、前述の通り椎骨のゆがみは骨盤にもゆがみをもたらしますから、同じように前屈をしたときに骨盤の部分で側彎しているほうの骨盤が高く見られる腰部隆起(lumbar hump)が認められます。
これらの所見は同時に診られることもありますし、側彎がおこっている場所によっては片方だけが認められることがあります。
そして立位検査と前屈検査の両方の所見から側弯症と診断し、次の検査へと進んでいきます。
デジタルモアレ法
デジタルモアレ法は機械を使って測定します。具体的には、背中を機械に向けて立ちます。そして、機械から被爆の心配の無い赤外線3Dセンサーを使用して体の表面をスキャンし、コンピューター上に体の表面の隆起を表示します。それによって左右で高さの異なる場所がないかを確認していく方法です。
測定は迅速で、かつ放射線も使用しませんし、客観的な指標ですから、近年導入される場合が増えています。
X線撮影
上記の検査で体のゆがみがありそうだと思われた場合に、X線撮影を行うことで実際に骨がどの程度ゆがんでいるのかを測定します。
X線を撮影した場合には、具体的にどの程度骨がゆがんでいるのかを数値化するために、コブ角という角度を測定します。コブ角というのは、脊柱の上下で最も曲がりの強い椎体からそれぞれ垂直な直線を伸ばし、その 2 本の直線の交差する角度のことです。このコブ角が10度以上の場合、側弯症と診断します。
また、このコブ角を測定した場合、成長や治療に伴って経時的にどのように変化していくのかという効果判定を行うこともできますし、実際にどのように治療を行うのかという方針決定にも生かされます。
側弯症のよくある疑問点
側弯症と診断されると、どのように治療を行っていくのか、生活でどのような制限があるのかなど、さまざまな疑問が生じると思います。
ここではそのような側弯症に対するよくある疑問にお答えします。
やってはいけないことや、避けた方がよいスポーツは?
側弯症の場合、脊椎がゆがんでいますから、無理な体勢をしたり、ハードなスポーツをしたりすると症状が悪化するのではないかと思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし現在のところ、スポーツを行ったり、体勢を維持したりすることで側弯症が悪化しやすくなったとされる研究結果はありません。
また整体やカイロプラクティックなどの手技によって側弯症が改善することはなく、無理に力を加えることで周辺の筋肉や腱などを痛める可能性があります。
ただし、側弯症があると体を支えようとして無理に筋肉を使ったり、靱帯に強い力がかかったりすることがあります。そのような筋肉や靱帯に対するストレスによるこりをほぐす様な整体などは問題が無いと考えられます。
妊娠への影響はある?
側弯症は子供の頃に発症し、そのまま大人まで継続しますから、妊婦に側弯症があることも珍しいものではありません。軽度であれば、妊娠している時に初めて側弯症があることに気づくことも時々あります。
側弯症であっても、基本的には側弯症のない女性と変わらずに妊娠出産が可能です。少なくとも側弯症が、流産や早産、その他の出産に関わるトラブルの原因となるという報告は今のところありません。基本的には側弯症は妊娠出産に影響しないものであると考えていいでしょう。
ただ気をつけなければならないのは、自然分娩には影響がある可能性があるということです。脊椎が歪んでいることによって、いきみがしにくかったり、分娩の体勢を長時間取ることが難しかったりといった影響がある可能性があります。そのため、側弯症の妊婦の半数程度は帝王切開を要するという報告もあります。一般的な帝王切開の頻度が約25%ですから、側弯症であると帝王切開の確率が高まるということはあるかもしれません。
出産においては、無痛分娩という方法もあります。無痛分娩というのは、背骨の隙間から脊髄の近くにチューブを通しておき、そちらから痛み止めの薬を流すことで、出産における痛みを抑える方法です。しかし側弯症がひどいと、針をなかなか目的のところまで届けることができなかったり、目的のところまで届いてもチューブが留置できなかったり、あるいはチューブから薬を入れても広がりが悪かったりして、思ったような効果が得られないことがあります。
また、側弯症の治療で手術をしている場合には、目的の場所が閉じてしまっていることもあり、そもそもチューブを入れること自体ができないこともあります。このようなことから、側弯症がある場合には無痛分娩ができない場合もあります。
大人が発症することもある?
側弯症は多くの場合、成長に伴って骨が歪んでくることによって起こってきます。そのため、子供の病気というイメージがあるかもしれません。
しかし、大人にも側弯症は起こってきます。とはいえ20~30歳代のような、元気な時期には起こってくることはほとんどありません。だいたい50~60歳代ぐらいの、骨粗鬆症が進んでくるような時期に起こってきます。
この頃は、変形性ひざ関節症や、変形性股関節症など、加齢に伴って骨が変形することによって起こってくる病気も増えてくる時期です。これらの病気と同じように、背骨もだんだんと骨が変形してくることによって、側弯がひどくなってきます。このような側弯のことを、変形側弯と言います。
子供の頃の側弯症であれば、胸椎あたりの変形が大きいことが多いのですが、変形側弯の場合には腰椎に多く起こってくるのも特徴です。
痛みに関しても違いがあります。子供の頃の側弯は痛みや不調を伴わずに骨のズレや神経などの圧迫を起こさずに成長していくので、痛みがないというのが特徴です。一方で、変形側弯の場合には、歪みが出てくることになりますから、筋肉の緊張がアンバランスになることによって骨や姿勢の悪さ、内臓の位置異常などによって、体の各部分に力学的な負担がかかり、痛みやしびれなどの障害を起こしてきます。
遺伝の影響はある?
側弯症の発症や進行には、複数の遺伝子が関係していると考えられています。特に、発症に関係していると思われる5つの遺伝子(LBX1、GPR126、PAX1、BNC2、SOX9)と、進行に関連していると思われる1つの遺伝子(MIR4300HG)が発見されています。
そのため、両親のいずれかが側弯症の場合には、子供の背中をしっかり見ておく必要があると言えます。また兄弟姉妹に発症している可能性もありますので、そちらも要チェックです。
放っておくとどうなる?
脊椎側弯症は前述の通り、側彎の程度がひどくなると痛みを生じるだけではなく、内臓への影響をきたす可能性があります。
側彎の程度が軽度であれば治療による利益よりも不利益の方が大きいと考えられる場合が多いため、経過観察が選択される場合が多くなります。
ただし、経過観察というのは放置するということではなく、定期的な診察を行い、その間は特に治療を行わないことをいいます。かならず定期的に受診し、変形が進行していないか確認し、進行しているようであれば適切な治療を行っていくようにしましょう。
積極的な治療が望ましい場合とは?
側弯症が重度となってきた場合、積極的な治療へと入ってきます。
前述の通り、治療が必要かどうかの指標としてX線撮影をした際のコブ角で判断します。
コブ角が15度を超えると重点的な経過観察となります。そしてコブ角が25度を超えてくると積極的な治療へと舵を切ります。
まずおこなわれるのは装具の着用です。装具の着用によって脊椎の変形を抑えるとともに、可能であれば矯正することで脊柱の変形を可能な限り元に戻します。
しかし装具で改善がない場合には、手術へと移行します。出血や痛みを伴う手術は負担が大きいため、可能な限り装具で対応しようとします。手術を必要とするということは、側弯症がそれだけ重症で内臓への影響が心配される状態と考えられます。