ウェルニッケ脳症とは?アルコール性認知症との関係と治療法

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みなさんお酒は好きですか?毎日飲んでいる方もいると思います。お酒を飲むとどうしても食事が偏っていきます。翌日は二日酔いでご飯が食べられないなどもありますよね。

たまにならいいですが、毎日このような状態ですとビタミンが不足していきます。今回はビタミンが欠乏することで生じるウェルニッケ脳症について詳しく見ていきましょう。

ウェルニッケ脳症とは

ウェルニッケ脳症は、ビタミンB1が欠乏することによって、意識障害や失調性歩行、眼球運動障害などが引き起こされる脳の病気です。この病気を報告したドイツ人医師であるカール・ウェルニッケの名前にちなんで病名がつけられました。

ビタミンB1は、細胞内でブドウ糖を分解してエネルギーを作る際に必要な栄養素となっています。特に脳の神経細胞はエネルギー源としてブドウ糖だけを利用します。他の臓器などはブドウ糖がない場合は、脂肪などから分解してエネルギーを作りますが、脳はそうはいきません。そのため、ビタミンB1の欠乏は脳に障害を与えるリスクを高めます。

通常、ビタミンB1は、食物から摂取されますが、さまざまな原因でビタミンB1が欠乏すると発症します。

アルコール依存症の人は、食べ物を摂らない傾向にある上、アルコールによって消化管からのビタミンB1吸収機能が低下しています。さらに、アルコールを分解するためにビタミンB1の必要量が増加することで、ビタミンB1欠乏を助長してしまいます。

妊娠悪阻では、食物摂取量が減るためブドウ糖を含む点滴で治療をするのですが、このブドウ糖を分解するのにビタミンB1が必要となります。そのため、必要量が増加して欠乏を招きます。

その他栄養失調状態になるとき、偏食、消化管切除後、胃バイパス術後、授乳、激しい運動、高齢者、甲状腺機能亢進症、長引く下痢、肝機能不全、がん、エイズ、透析などが挙げられます。

ビタミンB1の欠乏の程度が重度になると、脳幹部や視床、乳頭体といった脳の中枢部分に小さな出血を伴う病巣が生じます。それにより、意識障害や失調性歩行、眼球運動障害などの症状が急激に現れます。

ウェルニッケ脳症の症状

ウェルニッケ脳症の代表的な症状は下記の3つになります。

意識障害

重度の場合は昏睡状態に陥ります。軽度の場合では、意識はあるものの、無関心や無気力の状態がみられます。

眼球運動障害

眼球が細かく揺れたり(眼振)、眼球の動きが制限されたりします(眼球運動障害)。特に眼振が多くみられます。

小脳性運動失調

小脳の機能に障害が生じるため、体のバランスをコントロールできなくなります。軽度の場合は歩行時にふらつきが見られる程度ですが、重度になると歩行ができなくなります。

このような代表的な症状がありますが、3つの症状が同時にみられることは少なく、約8割の人には3つのうち1つまたは2つの症状が現れます。これらのほかにも、振戦(意思とは関係なく体の一部が規則的に震える)、興奮、起立性低血圧、低体温、失神などを起こすこともあります。また、脚気(末梢神経の障害)がみられることがあります。

早期治療が大事ですが、治療が遅れるとコルサコフ症候群に移行します(移行率56〜84%)。コルサコフ症候群は、記銘力障害(最近の出来事を忘れる)、作話(覚えていないことを隠そうとして話を作ろうとする)、失見当識(自分が置かれた場所や状況、時間が認識できない)などの症状が現れます。

コルサコフ症候群へ移行後は回復が難しくなるため、ウェルニッケ脳症の段階で早期発見し、早期治療を行うことが重要となります。

ウェルニッケ脳症の検査・診断

診断には病歴と診察所見が最も大切となります。経過からビタミンB1欠乏の可能性が考えられる場合、血液検査でビタミンB1の欠乏を確認します。

他の病気との鑑別のために血糖値や電解質、血算、肝機能などもチェックします。また、頭部MRIで第三脳室周囲、中脳水道周囲、乳頭体、視床内側に左右対称の白い影が特徴的な所見であり、確定診断に役立ちます。

アルコール性認知症との関係

アルコール性認知症とは、アルコールの大量摂取が原因と考えられる認知症のことをいいます。大量に飲酒する人やアルコール依存症の人は、高い割合で脳萎縮が起きることがわかっており、大量に飲酒をすることで認知症になるリスクを高めてしまいます。

このアルコール性認知症と診断された人の中には、ウェルニッケ・コルサコフ症候群の人が多いとされています。アルコールを大量に摂取することでビタミンB1が不足して、ウェルニッケ脳症になっていることに気がつかず、その後遺症として健忘を特徴とするコルサコフ症候群が残ってしまうのです。

ウェルニッケ脳症の治療

ウェルニッケ脳症の原因はビタミンB1の欠乏です。そのため、治療法はビタミンB1を大量投与します。具体的には、1日あたり100mg以上のビタミンB1を静脈注射で投与します。成人のビタミンB1の体内貯蔵量は25〜30mgであり、余ったビタミンB1は尿で排泄されるため、過剰摂取による副作用はありません。

ウェルニッケ脳症は治療開始が遅れるとコルサコフ症候群を発症してしまいます。そのため、早期発見・早期治療が非常に重要となります。副作用の影響がないため、診断の確定を待たずに、ウェルニッケ脳症が疑われた時点でビタミンB1の投与を開始します。

ウェルニッケ脳症の患者は低栄養になっていることもあるため、ビタミンB1だけでなく、その他のビタミンや電解質、糖質などを同時に投与することもあります。原因がアルコール依存症である場合には、飲酒を止める必要があり、リハビリなどによる改善も同時に行います。

いかがでしたでしょうか。ウェルニッケ脳症は早期発見し、早期治療を行えば特に後遺症もなく改善します。しかし、アルコール依存の人や毎日大量飲酒をしている人は、このような症状に早期に気づくことができません。気づいた時にはコルサコフ症候群となっており、改善できないという状態になることも多いです。アルコールを常用している人は食事などにも気を配っていきましょう。


<執筆・監修>

九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師

九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。
日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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