人の視線が怖くなる社会不安障害(あがり症)の診断と治療

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大勢の人の前で話したり、初対面の人と会うときなど怖いと思うことはありませんか?

正常な人でも他の人と関わるさまざまな状況で強い不安を感じますが、これが日常生活に支障をきたすようになる病気を社会不安障害といいます。ここでは社会不安障害について詳しく見ていきましょう。

人の視線怖くなる社会不安障害(あがり症)とは

他人に自分がどう思われているのかについて不安になり、他人との交流や人前での行為などの不安が生じそうな状況を回避するようになります。そのことで日常生活に支障が生じる状態のことを社会不安障害といいます。

社会不安障害は女性に多く、男性の約2倍もみられます。国内での有病率は1.8%、アメリカでは12.1%と報告されています。さらに遺伝の素因が引き継がれる確率が28%となっています。

気質要因として行動抑制(慢性的に新しい人、場所や物を警戒したり、回避する傾向)がある人が挙げられます。環境要因としては幼少期にトラウマ体験をかかえた人が社会不安障害になりやすいとされています。

また、生物学的病態としては、不安な状況での脳の扁桃体の活動性亢進が報告されています。扁桃体は不安や恐怖などの感情をつかさどる中枢であり、人間が危機を感じることで、危機の信号が扁桃体に伝わります。この扁桃体の活動が過剰になることで不安や恐怖といった感情をより強く感じたり、身体症状があらわれたりするのです。

他者視線恐怖と自己視線恐怖

他者視線恐怖とは、他者からの視線が気になる状態です。

自己視線恐怖とは、自分の視線が他人を不快にさせるかもしれないと過剰に不安に思う状態です。

他者視線恐怖のみの場合と他者視線恐怖と自己視線恐怖を併せ持っている場合があります。

社会不安障害の診断

社会不安障害の診断には、DSM-Ⅳ-TRもしくは、ICD-10による診断ガイドラインが使用されます。DSM-Ⅳ-TRは、社会生活面に支障が現れていることを条件にしている点でICD-10より診断基準が厳密となっています。DSM-Ⅳ-TRの診断基準は下記となります。

・よく知らない人達の前で、他人の注視を浴びるかもしれない社会的状況、または行為をするという状況の1つまたはそれ以上に対する顕著で持続的な恐怖。その人は、自分が恥をかかされたり、恥ずかしい思いをしたりするような形で行動(または不安症状を呈したり)することを恐れる。

・恐怖している社会的状況への暴露によって、ほとんど必ず不安反応が誘発され、それは状況依存性、または状況誘発性のパニック発作の形をとることがある。

・その人は、恐怖が過剰であること、または不合理であることを認識している。

・恐怖している社会的状況、または行為をする状況は回避されているか、またはそうでなければ、強い不安または苦痛を感じながら耐え忍んでいる。

・恐怖している社会的状況、または行為をする状況の回避、不安を伴う予期、または苦痛のために、その人の正常な毎日の生活習慣、職業上の(学業上の)機能、または社会活動または他者との関係が障害されており、またはその恐怖症があるために著しい苦痛を感じている。

・18歳未満の人の場合、持続期間は少なくとも6か月である。

このようになっていますが、わかりやすく言い換えると次のようになります。

・他者から注目される状況や、他人が見ている場所で何かをするとき、また知らない人と交流するとき、他人の視線を浴びながら何かをする場面で、常に著しく恐怖感を抱く。面目を失ったり、恥をかいたり、おかしな行動や不安な姿を見せたりして、恥ずかしい思いをするのではないかと恐れる。

・恐怖感を抱くような状況にさらされると、いつも不安を感じ、その不安は、状況に深く結びついて、パニック発作を誘発することがある。

・自分自身が抱いている恐怖感や不安が、普通の人が感じているものよりも過剰であり、不合理であることを認識している。自分が思っているほど恐れなくてもよいとわかっているのに、そうなってしまう。

・恐怖感を抱く状況にならないように、それを避けようと行動してしまう。または、強い不安や苦痛を感じながらも耐え忍んでいる。

・これらの恐れている社会不安を避け、強い不安に苦しめられることで、日常生活や社会生活、人間関係に著しい支障をきたす。

・18歳未満の人は、このような状況が少なくとも6か月以上続いている。

社会不安障害の治療と対策

社会不安障害の治療は薬物療法と認知行動療法で行います。

薬物療法

抗うつ薬の一種であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を使用します。不安症状を和らげる効果が認められています。主な副作用としては嘔気、眠気がありますが、使用を続けるうちに慣れていくこともあります。

その他にも脳神経に作用し、不安や緊張を和らげる抗不安薬や、交感神経に作用し、動悸や震えなどの身体症状をおさえるβ遮断薬なども使用されることがあります。

認知行動療法

社会不安障害の人は物事を否定的にとらえる傾向があります。その不安や恐怖につながる否定的な認知(ものの考え方や受け取り方)の行動パターンの偏りを修正し、バランスをよくし、それにより症状を改善していきます。

治療以外にも、日常生活において以下のような工夫を行うことも、症状の軽減に役立ちます。

規則正しい生活

社会不安障害の人は、脳内のセロトニンの量が低下しています。セロトニンは、人間の体の生体リズムに合わせて分泌されるため、早寝早起きという人間本来の生体リズムに合わせて生活することが重要となります。

十分な睡眠

質のよい睡眠時は、交感神経を優位に導くアドレナリンやノルアドレナリンの分泌量が低下し、リラックス状態になります。

適度な運動

早足でのウォーキングや水泳などの有酸素運動を習慣的に行うことで効果を得られることがわかっています。

いかがでしたでしょうか。社会不安障害は受診率が低く、QOLの低下を伴うさまざまな影響が指摘されています。他の人よりも強い不安を感じて困っている方は一度精神科や心療内科に相談しましょう。


<執筆・監修>

九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師

九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。
日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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