氷ばかり食べるのは病気?鉄欠乏性貧血からくる「氷食症」とは

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冷たい氷が無性に食べたくなることありませんか?

暑い季節に毎日かき氷やアイスを食べる、つわりで水分を摂れないために氷の欠片だけを食べるといった場合は医学的に問題はありません。

もし暑くない状況でも無性に氷を食べずにはいられない、氷を食べる量が多いといった場合は氷食症という病気の可能性があります。

氷ばかり食べる氷食症

氷食症の定義はあいまいですが、製氷皿1皿以上食べたり、強迫的異常行動としてみられる場合を氷食症と呼びます。

氷食症は異食症の一種とされています。異食症とは、栄養にならないものを毎日持続して1か月以上食べる病気です。通常、異食症は子どもに多いですが、思春期以降の成人や妊娠中に見られることもあり、医学的に危険なほど栄養にならないものを摂取する場合に異食症と診断します。

鉄欠乏性貧血などの原因

血液の赤血球中にあるヘモグロビンは、ヘム鉄とグロビン(タンパク質)で構成されています。そのうちヘム鉄は、鉄を用いて酸素を身体全体に運ぶ役割を担っています。鉄欠乏性貧血になると、血中に鉄分が不足することで赤血球の量が減り、働きが低下することで酸素を身体全体に運べなくなり、自律神経の働きが悪くなり、体温調節がうまくいかなくなることがあります。

そうすると、口の中の温度が上がってしまうため、熱くなった口の中を冷ますために氷を食べたくなってしまいます。また氷食症になって氷を大量に食べていると、氷以外の食事量が減ることがあります。

食事量が減ることで摂れる鉄の量が減り、鉄不足が進んで悪循環に陥ってしまいます。ヘモグロビンをつくるために必要な鉄が不足すると、顔色が悪くなったり、動悸や息切れ、めまい、頭痛、疲れやすいなどの症状が現れてきます。

妊婦や子どもが氷食症になることも

妊娠中や授乳中は鉄の需要が増えるため、一時的に無性に氷が食べたくなる場合があります。妊娠初期(妊娠16週ごろまで)は、つわりによって十分な食事を摂れないことで、鉄分が不足して貧血が起こりやすい時期です。

妊娠時の月経時の血液量が多い過多月経のため、日常的に鉄分不足があった女性が妊娠した際は、妊娠初期から鉄欠乏性貧血が起こることがあります。

妊娠中期以降(妊娠20週以降)は、母体の循環血液量が増加することにより血液が薄まった状態となります。赤血球を作るために必要な鉄分や葉酸の量が増加するため、生理的に貧血が起こりやすい時期となるため、氷食症になるリスクが高まります。

また、急激に身体が成長する乳児期後期から2歳や、思春期の子どもは鉄が不足しやすい時期となります。そのため、氷食症になる場合があります。この時期は脳の成長に多くの鉄分を要する時期です。

この時期の鉄欠乏は子どものその後の発達や性格形成に不可逆的な影響を及ぼす可能性もあります。思春期の場合は、生理の始まりや、部活動での激しい運動が鉄不足につながり、氷食症になる可能性があります。

氷食症を防ぐ食事のポイント

鉄不足による鉄欠乏性貧血は氷食症の原因になります。そのため、鉄不足にならないために食事から鉄を摂取することが大切です。

鉄分の推奨量は、成人女子で月経なしでは1日6.0〜6.5ミリグラム、月経がある方は10.5〜11.0ミリグラム、成人男子では7.0〜7.5ミリグラムです。食べ物に含まれる鉄には、レバーやかつおなどに豊富なヘム鉄と、小松菜やひじきなどに豊富な非ヘム鉄があります。ヘム鉄のほうが、非ヘム鉄よりも体内への吸収率が高いと言われています。

非ヘム鉄は動物性たんぱく質やビタミンCと合わせて摂ると、吸収率がアップします。この動物性たんぱく質は肉や魚に、ビタミンCは柑橘類や野菜類に豊富です。

また酢や柑橘類、梅干しなど酸味のあるものや香辛料を合わせると、胃液の分泌が良くなり、さらに鉄の吸収がよくなります。

妊娠中などは造血成分といわれるビタミンB12(レバー、魚、納豆など)、葉酸(緑黄色野菜)、ビタミンB6(いわし、かれい、黄卵など)、銅(貝類、レバー、ごまなど)などと一緒に摂るとよいでしょう。緑茶や紅茶、コーヒーなどはタンニンが多く含まれています。このタンニンが鉄と結合して、鉄の吸収を阻害するため、鉄欠乏性貧血がある場合は控えましょう。

しかし、これらに気をつけても偏食や欠食があると意味がありません。バランスの良い食事を意識し、1日3食をとることを心がけましょう。

また、氷食症は精神的ストレスが影響している可能性があります。疲れやストレスを感じた際には休養をとり、ストレスをためないように心がけましょう。趣味やスポーツをして身体を動かしたり、自分なりのストレス解消方法を行うのも大切です。

氷食症の治療法

氷食症を長引かせることで、偏食や過食によって他の食品を摂る量が減り、さらに鉄分不足となることがあります。医療機関で問診や血液検査を行い、その結果、鉄欠乏性貧血に伴う氷食症と診断された場合は、鉄剤を用いた治療や食事療法などがおこなわれます。

鉄剤を内服して1〜2か月経過すると氷を食べずにはいられない生活からは抜け出せます。しかし、貧血の症状が軽減しても、再び氷食症とならないようにするために、鉄剤を4か月以上摂り続ける必要があると考えられています。

また、大量の氷を食べることによって、歯が欠けたり、顎関節症となるケースもあり、治療が必要となることもあります。

心理的なストレスによる氷食症が原因の場合は、心療内科での治療が行われ、場合によっては薬物療法が行われることもあります。

いかがでしたでしょうか。妊娠中や幼少期は氷食症が起こる可能性があります。ご自身や子どもが暑くもないのに氷を食べずにはいられない状況になり、強い不安を感じるようなら医療機関を受診して相談してみましょう。


<執筆・監修>

九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師

九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。
日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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