大動脈解離のA型とB型の違いは?特徴の違いと治療の種類
急性大動脈解離という病気は、ある日突然に血管内部の内膜および中膜が傷ついて亀裂が走り、発症時には激しい痛みを伴うことが多いと言われています。
大動脈瘤が破裂して大出血を引き起こす、あるいは重要な臓器である心臓、脳、腹部などの領域血管に血が供給できなくなる重篤で命に直結する病気として知られています。
ここでは大動脈解離の治療法について詳しく解説します。
大動脈解離のA型とB型の違い
急性大動脈解離は、造影CT検査などによってスタンフォードA型とB型のタイプに鑑別されて、両者の治療は異なります。
大動脈の種類
大動脈は、上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈 の3種に分類されます。
上行大動脈は直径約3cmで心臓を出てすぐ上に向かう血管であり、弓部大動脈は上行大動脈が弓状に孤を描いてUターンし下行する弓状の部分です。
下行する大動脈のうち横隔膜から上を下行大動脈、横隔膜から下を腹部大動脈と言います。
また、上行大動脈や弓部大動脈、下行大動脈を総称して胸部大動脈と呼び、ほとんどの大動脈解離はこの部分で発生します。
大動脈はいろいろな臓器に血液を送るために、さまざまな場所に枝分かれしています。
そうした分岐部に解離が及ぶことで、偽腔が分岐した血管を塞ぎ、その先の臓器に血液が流れにくくなったり、大動脈の血流も偽腔の拡大により低下したりします。
大動脈解離は、解離が起こった部位によって、スタンフォードA型とスタンフォードB型に分類 されます。
スタンフォード分類は、予後と治療方針の決定に役立つ分類で、A型は上行大動脈に解離があるタイプ、B型は上行大動脈に解離がないタイプです。それぞれの特徴や治療について詳しく見ていきましょう。
スタンフォードA型とは
A型のほとんどが緊急手術を要し、予後も一般的に不良とされています。
大動脈の拡張では、大動脈弁閉鎖不全症、瘤圧迫症状(嗄声、嚥下障害)、瘤形成が出現し、大動脈の破裂では、心臓の入った袋の中に出血し心臓が動けなくなる心タンポナーデ、血胸などが出現する場合があります。
また、偽腔の圧迫による血流障害では、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、脳虚血、腎不全、腸管虚血、脊髄虚血、上肢虚血、下肢虚血などが出現します。
スタンフォードA型では、心嚢内への破裂、心筋梗塞、心不全、出血、大動脈弁閉鎖不全症など急死に至る合併症を生じやすく、速やかな外科的治療が必要です。
緊急手術までの間に突然死することもあるために、予断を許さない状態です。
A型の治療
スタンフォードA型は緊急的な手術を実施する必要があります。
A型解離に対しては、通常のケースでは上行大動脈人工血管置換術、あるいは上行大動脈と弓部大動脈の人工血管置換術を実施することになります。
スタンフォードB型とは
スタンフォードB型は、上行大動脈に解離がないタイプです。
原則的に、B型の場合には破裂しにくく、破裂しても出血が心臓を圧迫することがなく、重要な部位の血流が途切れる危険性も少ないと考えられていますが、一部のB型解離のケースでは破裂に伴って血流低下を起こして生命の危険性をきたすさまざまな合併症が出現する可能性もあります。
B型の治療
上行大動脈に解離所見を認めないスタンフォードB型の場合には、原則としてまず血圧を下げて、新たな解離の進行やその他の合併症が起こらないように治療管理します。
解離している大動脈の範囲が限定されていて、それぞれの臓器への血流が維持されている際には、収縮期血圧100~120mmHg以下に維持することを目標としながら降圧薬などの薬物治療を実施します。
解離や合併症の進展が起こらないようにケアするために、集中治療管理が行われます。
集中治療管理では、48時間の絶対安静と約1週間のベッドでの安静が必要であり、その後は、内服薬による血圧の調整を行いながら、徐々に日常生活への復帰を試みます。
退院後も、解離が拡大し破裂しないように、日々の血圧の管理や病院での定期的な経過観察が必須です。急性期を乗り切っても楽観するのは禁物ですし、残存している解離が拡張傾向にある場合には、再発症する前に治療を受けることが大切です。
臓器障害や破裂などの合併症の発生時には緊急手術が必要です。大動脈が破裂している、あるいは血液が供給されずに臓器に障害が起こるケースでは腹部大動脈や下行大動脈への人工血管置換術、またはステントグラフト内挿術やハイブリッド治療などの緊急手術を実施することもあります。
大動脈解離の治療の種類
大動脈解離の治療法には次のようなものがあります。
保存的治療
大動脈解離の症例に対して、手術適応とならない場合には、安静、降圧管理、疼痛コントロールなどを含む保存的治療を実施します。
急性期治療の場面では、収縮期血圧の目標値は100~120mmmHgとされており、慢性期に移行すると収縮期血圧の目標値は130mmmHg前後と考えられています。
一般的に、大動脈解離の急性期治療が終了すれば、日常生活に関しての行動制限はほとんど無く、リハビリテーションプログラムに応じて約3週間から4週間程度の期間をかけて少しずつ運動量や運動強度をアップさせていく理学的療法などを実践することになります。
人工血管置換術
大動脈解離における治療の原則は、再破裂や再解離をさせないことであり、薬のみの治療では動脈瘤そのものを縮小化することはできませんので、高血圧などの基礎疾患を有している場合には、動脈瘤に対して人工血管を用いて置換する治療が必要となることもあります。
これまで、大動脈解離を起こして瘤になっている部分を手術治療によって切除して、合成繊維のポリエステルで合成されている人工血管と置き換える「人工血管置換術」を行う治療方法が主流に行われてきました。
人工血管そのものは、化学繊維(ダクロン)を網目状に織ったチューブ型のものであり、その耐久性は数十年以上と言われています。
ただし、人工血管は異物であり、感染に対して脆弱であると指摘されており、万が一人工血管が感染した場合にはその治療は非常に困難であるとされています。
ステントグラフト内挿術
胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤など大動脈解離に伴って発症する解離性大動脈瘤に対する治療手段の一つとして、開胸・開腹下での人工血管置換術のみならず、低侵襲の治療方法であるステントグラフト内挿術が知られています。
10年以上前よりステントグラフト内挿術は広く治療導入されており、個々の患者さんにおける耐術能、大動脈瘤の解剖学的要素、社会背景などを考慮して、人工血管置換術ではなくステントグラフト内挿術を選択するケースも少なからず存在します。
ステントグラフトはバネ状になった金属に薄い人工血管が装着されている医療器具であり、実際の手術の際には鼠径部を5cm程度皮膚切開して、その深部に走行している総大腿動脈からアプローチしてステントグラフトが内挿された太いカテーテルを挿入します。
手術場面においては、ステントグラフトを大動脈の目的部位まで挿入し、大動脈の内壁から瘤や大動脈解離の亀裂した部分を塞ぐように留置処置を実施します。
解離性大動脈瘤に対する治療は、基本的に破裂や再解離を事前に防ぐ予防的な観点で実施される手術内容であり、術後の生活の質を向上させることも重要な観点となります。
ステントグラフト内挿術は従来の人工血管置換術と比較して一定程度低侵襲であり、人工血管置換術と同等の治療効果がある治療法として認識されています。
その一方で、大動脈自体の経年的変化も伴って、追加治療を余儀なくされるケースもありますし、追加で治療を行う際には初回のステントグラフト内挿術よりも高度な医療技術と経験が必要であると言われています。
定期的な画像検査で発見される慢性期の大動脈解離の症例では、通常の大動脈瘤の治療に準じて、ステントグラフトによる治療も一部の患者さんで実施可能となっています。
ハイブリッド治療
基本的にステントグラフト治療は正常部と正常部を橋渡しする大動脈治療となっています。
ところが、弓部大動脈の頚部分枝や腎動脈領域に内挿する必要がある場合には、debranchingといって腋窩動脈や総頸動脈などを人工血管でバイパスを併用するハイブリッド手術が実施されることもあります。
このように従来の人工血管に交換する手術にくわえてステントグラフト治療を併用して行うハイブリッド治療の登場によって、より少ない身体の負担で適切な手術が実施できるようになってきました。
具体的には、広範な弓部下行解離性大動脈瘤に対して、弓部手術の際にはelephant trunkという人工血管部分を下行瘤内に挿入して、後日追加のステントグラフト内挿術を実施するという2期的なハイブリッド手術で低侵襲に大動脈治療ができる方法も普及しています。
まとめ
これまで、タイプによって異なる大動脈解離の治療方針と治療の種類などを中心に解説してきました。
大動脈解離の治療法は、スタンフォードのA型とB型で異なることが知られており、上行大動脈に解離所見を有するスタンフォードA型では、命に関わる致命的な合併症を生じやすいため、基本的には緊急手術が必要となります。
大動脈解離に対する手術治療に伴う危険性はおおむね10~30%前後であり、現代医学の中でも危険率の高い手術のひとつですが、近年では手術手技の向上や人工血管の改良、体外循環法の適切な確立などによって治療成功率の成績が上昇しています。
大動脈解離を一度引き起こした患者さんは、解離所見が悪化して大動脈が破裂しないように普段の生活で的確に血圧管理などを予防的に行って、専門医療機関で定期的に経過観察を実施することが大切です。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。