菊花(きくか)の詳しい生薬解説

漢方事典

別名:黄甘菊(おうかんきく)・甘菊花(かんきっか)・杭菊花(こうきくか)/きく(菊)

中国を原産とするキク科植物のキク(㊥菊Chrysanthemummorifolium)の頭状花を用います。日本漢方では、単に菊花といえば野菊花(のぎくか)(別項)のことをいいます。中国では2000年以上前からキクを薬用として栽培していた記録があります。日本にも古くから観賞用として多くの品種が栽培されていますが、薬用には食用ギク(料理ギク)を用います。

山形県では「もってのほか」、青森県八戸市では阿房宮といった品種が栽培されています。中国各地で菊は花をお茶として飲む風習(菊普茶:ごぷうちゃ))や、菊を原料とする酒、菊花を用いた料理などがあります。また古くから薬枕のひとつとして枕の中に菊花をつめる習慣もあります。中国産では産地を冠した名称も多く、安徽省亳県などに産する亳菊花(はくぎくか)は最佳品とされています。

このほか、安徽省の貢菊花(こうきくか)や滁菊花(じょきくか)、浙江省の杭菊花(こうきくか)などが有名であります。日本ではおもに杭菊花が輸入されています。しかし、日本の市場では、単に菊花といえば野菊花のため、本来の菊花を求める場合には杭菊花と指定します。菊花の成分にはクレサンテミン、アミノ酸、βカロテン、ビタミンB1などが含まれていますが、薬理作用は明らかではないです。漢方では解表・平肝・明目・清熱解毒の効能があり、頭痛、めまい、目の充血、視力の低下、化膿性の炎症などに用います。

一般に亳菊花は視力の改善(明目)の作用が強く、杭菊花は頭痛や眼の充血など炎症(風熱)に対する作用が強いといわれています。ちなみに野菊花はシマカンギクの花であり、中国医学では清熱解毒薬のひとつとして、肺炎や皮膚化膿症、高血圧などの治療に用いられます。→野菊花

①抗炎症作用

感染症(外感風熱)による咳喇、結膜炎に用います。上気道炎などで咽痛、咳嗽、鼻閉などの症状に桑葉・薄荷などと配合します(桑菊飲)。流行性の結膜炎には防風・桔梗などと配合します(明眼ー方)。

②視力改善作用

視力の低下に用いる。高齢者などの目のかすみ、目の痛み、羞明感に六味丸に加味して用います(杞菊地黄丸)。

③向精神作用

頭痛、頭重感に用います。高血圧症やイライラしやすい人の頭痛、頭のふらつきに釣藤などと配合します(釣藤散)。

処方用名

菊花・甘菊花・杭菊花・滁菊花・黄菊花・白菊花・キクカ

基原

キク科CompositaeのキクChrysanthe-mummorifoliumHemsl.およびその品種の頭花。産地・品種・採取加工などの違いにより名称を異にする多くの商品が出回っています。しばしば、ホソバアブラギクClavandulaefoliumMak.(野菊花)の頭花が漢菊花として市場に出回るので、注意が必要です。

性味

甘・微苦・微寒

帰経

肺・肝

効能と応用

方剤例

疏散風熟

桑菊飲

外感風熱による発熱・頭痛・咳嗽・咽痛などの症候に、桑葉・薄荷・連翹などと用います。

明目

①菊花散

風熱・肝火による目の充血・腫脹・疼痛に、蟬退・決明子などと用います。

②杞菊地黄丸

肝陰不足の視力減退・目のかすみには、熟地黄・山茱萸・枸杞子などと使用します。

平肝陽

羚羊鈎藤湯・釣藤散

肝陽上亢によるめまい・ふらつき・頭痛・頭が脹るなどの症候に、釣藤鈎・石決明・白芍・生地黄などと用います。

臨床使用の要点

菊花は甘苦・寒で芳香を有し、軽清涼散するとともに甘凉益陰し苦で泄熱し、頭目の風熱を除き平肝熄風・明目にも働くので、外感風熱の頭痛目赤あるいは肝陽上昇・肝風內動の頭暈目眩に常用します。

参考

①品種により効能がやや異なります。

黄菊花(杭菊花)は、味苦で泄熱に長じ、疏散風熱にすぐれています。

白菊花(滁菊花)は、味甘で清熱に長じ、平肝明目にすぐれています。

もう一種、野菊花があり、清熱解毒の効能をもちますが、別項で述べます。

②菊花・桑葉は、肺・肝に入り軽清疏散に働き、頭目の風熱を散じ平肝明目の効能をもち、外感風熱・肝陽上亢に併用されます。桑葉は疏散にすぐれ潤肺止咳に働き、菊花は平肝明目にすぐれ益陰にも働くので、肺燥を涼散するには桑葉を、肝風上擾(じょうじょう)には菊花を使用することが多いです。

用量

6~12g、煎服。

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