血圧が低すぎるときはどうすればいい?低血圧のタイプと対処法
高血圧が重篤な病気を引き起こす可能性があることはよく知られています。低血圧はどうなのでしょうか?
低血圧で悩んでいる人も多いと思いますが、意外と低血圧のリスクがあるかどうかを知っている人は少ないのではないでしょうか。ここでは低血圧のタイプや対処法について詳しく見ていきましょう。
目次
低血圧の特徴
正常血圧は最高血圧115mmHg未満かつ最低血圧75mmHg未満と定義されています。低血圧は、実は日本では明確な診断基準が規定されていません。一般的には最高血圧が100mmHg未満の場合、低血圧と診断されています。
症状としては、主に疲れやすさ、だるさ、めまい、耳鳴り、肩こり、不眠、食欲不振、集中力の低下、動悸、息切れ、朝なかなか起きられないなどの症状がみられます。
眼が疲れやすい眼精疲労、顔色が悪い、夜間の排尿回数が多い、インポテンツ、性欲減退、排尿時の失神、下肢の静脈瘤なども起こる場合があります。
また、血圧が低い状態が続くと全身に十分な血液が供給されず、細胞が十分な酸素や栄養を受け取ったり老廃物を取り除いたりすることができなくなるため、細胞や臓器が正常に機能しなくなる恐れもあります。
低血圧のタイプ
低血圧には次のようなタイプがあります。
本態性低血圧症
低血圧の原因として最も多いのが本態性低血圧です。これは遺伝的な体質のために起こる低血圧であり、一次性低血圧ともいいます。特に自覚症状がない場合には病気とは言えませんが、自覚症状があり、原因となる特別な病気がない場合に本態性低血圧症と診断されます。
起立性低血圧症
急に立ち上がった瞬間に血圧が低下して、立ちくらみやめまい、失神などの症状を起こすことがあります。これは、自律神経による血圧の調節がうまくいかず、下半身にたまった血液が心臓に戻りにくくなることで起こります。
寝た状態では正常な血圧が、立った状態になると20mmHg以上低下します。健康な人でも栄養状態が悪いときや疲れているときなどに起こることがありますが、頻繁に起こる場合は、何らかの病気が隠れている可能性もあるため、精密検査を受けましょう。
症候性低血圧症
症候性低血圧症とは、二次性低血圧とも呼ばれ、疾患の症状として起こります。主な疾患には、心筋梗塞や不整脈などの心臓の疾患、肺塞栓などの肺の疾患、甲状腺機能低下症(橋本病)やアジソン病などの内分泌の疾患などがあります。また、がんなどにともなう低栄養状態や外傷による大出血の場合も低血圧となります。
このほか、薬の内服などによっても低血圧は起こり、降圧薬や抗うつ薬などの副作用や、人工透析でも起こります。
低血圧を放置した場合
子どもや若い頃からの低血圧を放置すると、さまざまな余病を発生する場合があります。
線維筋痛症
全身が痛くなり、ひどい疲労感を感じて働けなくなってしまう病気です。全国に約200万人おり、さらに進行すると、筋痛性脳症/慢性疲労症候群という重篤な疾患へと発展します。
低血糖
血糖値が低下すると脳が障害を受け、記憶障害、認知障害、食後の眠気、ふらつき、めまい、疲労感、発汗、けいれんなどの症状が出現します。膵臓からインスリンが過剰に分泌されることで血糖値が下がり過ぎて起こります。
血圧が低すぎるときの対処法
日頃から血圧が低かったり、立ちくらみが起きやすい人は、日常の生活で注意が必要です。基本的な対処法を確認しておきましょう。
急に立ち上がらない
いきなり立ち上がると、普段は正常な血圧の人でも立ちくらみやめまいが起きる場合があります。立ち上がるときは少しずつ体を起こしながら、ゆっくりと立つように意識しましょう。もしも、立ったあとに立ちくらみやめまいがしたときは、すぐに座って楽な姿勢をとりましょう。
脱水に注意する
体の水分量が減ると、血圧が下がりやすくなります。そのため、十分な水分を摂取して、血液量を増やし、血圧を上げる必要があります。
人間の身体は1日に2.5リットルの水分が失われると言われています。食事から1リットル程度補給されるほか、体内で0.3リットルの水分が作られるため、飲み水としては1.2リットル程度摂取することが推奨されています。
塩分を摂取する
塩分には血管を収縮させて血圧を上げる作用や、食欲を増進させる働きがあります。高血圧症の場合には塩分の摂取が制限されますが、低血圧では反対に塩分をきちんと摂る必要があります。
また、不足しがちなミネラルを補うために、野菜や海藻類を積極的に摂ることも大切です。タンパク質は不足しやすいので、肉、卵、魚介類、乳製品、大豆製品などをバランスよく摂りましょう。なかでも、チェダーチーズには血圧をコントロールする物質が含まれ、低血圧の症状緩和に効果があると言われています。
低血圧の人は朝なかなか起きられないため、朝食を摂らない傾向があります。朝食は1日の活動に備えて血圧を正常に上昇させるための大切なエネルギー源です。早寝早起きを心がけ、十分に睡眠をとり、1日3回規則正しく食事をしましょう。
アルコールを控える
アルコールには血管を広げる作用があります。アルコールが血液中にある間は血圧が低くなります。低血圧症の人は、お酒を飲むと起立性低血圧による失神を起こしやすくなるため、アルコールは控えましょう。
無理なダイエットを控え、ストレスを溜めない
低血圧は、体質ばかりでなく無理なダイエットによって栄養不足になったり、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスなどから引き起こされることも少なくありません。バランスの良い食事を心がけるとともに、ストレスを上手に解消しましょう。
軽い運動を習慣づけて、積極的に体力づくりをすることも大切です。末端部の血液循環には筋肉の収縮も作用するため、ウォーキングなどの運動がおすすめです。
漢方を活用する
低血圧症には、高血圧と違い、降圧薬などの薬があるわけではありません。低血圧がある人には漢方が選択肢となります。
四物血行散(シモツケッコウサン)
血行障害を改善する四物湯がベースになっており、血液の循環を整え、低血圧や婦人科系のさまざまな症状を改善させます。また、血行不良の方は、水分代謝異常を伴うことが多いため、茯苓、白朮を加味し、胃腸への負担も同時に軽減する漢方です。とくに、倦怠感やめまいといった貧血症状のある人に適している薬となっています。
真武湯(シンブトウ)
水(血液以外の体液全般に相当し、水分代謝や免疫システムなどに関わっているもの)が滞った水滞を改善する薬となっています。めまいや体のふらつき、冷え、むくみなどがあるときに用いられ、低血圧症によく使われます。
補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
貧血症の人で胃下垂などが原因となる食欲不振、胃疲労感、倦怠感のある場合に使われます。
半夏白朮天麻湯(ハンゲハクジュテンマトウ)
胃下垂などが原因で、食事をすることで傾眠、頭痛やめまいを伴う人に使用されます。
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、当帰芍薬加附子湯(トウキシャクヤクカフシトウ)
生理不順などの女性に使用され、めまい、貧血、動悸、頭重感がある場合に使われます。
いかがでしたでしょうか。一時的に低血圧が起こる人はいます。しかし、立ちくらみやめまい、動悸などの症状が頻回に起こる場合は、一度病院で詳しく検査をして、異常がないかどうかを確認しましょう。
<執筆・監修>
九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師
九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。
日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。