ネフローゼ症候群とは?検査と治療法、浮腫への対策を解説

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ネフローゼ症候群とは、尿の中にタンパク質が多量に出てしまい、血液中のタンパク質が減ってしまう状態を示す症候群であり、主に尿の泡立ちや浮腫などが出現します。ここではネフローゼ症候群の分類や予後、治療法について解説します。

ネフローゼ症候群とは

ネフローゼ症候群とは、明確な原因は不明ですが腎臓にある糸球体が炎症を引き起こして血液中に含まれているアルブミンというタンパクが大量に尿中に漏れ出る状態を指しています。

アルブミンは本来血管内に水を引き込み、血流を維持する大事な役割を持っていますが、その血液中のアルブミン濃度が下がることで低タンパク血症になると、全身の浮腫やさまざまな症状が発生します。

低タンパク血症自体は、腎不全や感染症、心筋梗塞や脳梗塞のような血栓症を合併する危険性があると認識されています。

血中アルブミン濃度が下がると、血管外へ水分が漏れて溜まってしまうことにより、下半身や顔面部などを中心として肺、心臓、腹部のスペースにも水が溜まります。

糸球体とは小さな穴が網目状に空いている微細な血管でできた組織で、ふるいのような役割を持っていることが知られており、本来であれば穴を通過できないアルブミンが、糸球体の炎症によって穴を通過してしまい、尿となって排泄されます。

ネフローゼ症候群の代表的な症状は、全身の浮腫、タンパク尿(尿の泡立ち)、低タンパク血症、易感染性、凝固能亢進などが挙げられます。

自覚症状は乏しいものの、下腿前面部を10秒ほど押すとへこみが持続するほどの浮腫が出現します。尿の泡立ちが必ずしもタンパク尿を意味しているとは限りませんが、タンパク尿は尿の泡立ちがみられることが多いと指摘されています。

浮腫が全身に広がり悪化すると急激な体重増加だけでなく、胸腔内や腹腔内のスペースに水成分が溜まることで呼吸苦、食欲低下、腹痛、陰嚢水腫なども認められますし、腎機能が低下して循環する血液量が増えると肺水腫や心不全を引き起こす可能性もあります。

ネフローゼ症候群の分類

ネフローゼ症候群は一次性ネフローゼ症候群と二次性ネフローゼ症候群に分類されます。

一次性ネフローゼ症候群

一次性ネフローゼ症候群とは腎臓そのものが主な原因である指定難病のひとつとして認識されています。

一次性ネフローゼ症候群には、微小変化型ネフローゼ症候群、膜性腎症、巣状分節性糸球体硬化症、膜性増殖性糸球体腎炎などが含まれています。

微小変化型ネフローゼ症候群とは、腎生検をしても糸球体に障害がない、もしくは少しだけ変化が認められる疾患を指しており、若年者に多く発症も急激とされています。

通常、ステロイドによる治療で改善効果は期待できますが、ステロイドの投与量を減らすと約半数の人に再発所見が認められます。

また、膜性腎症は、糸球体に自己免疫抗体ができることで糸球体の構造を変化させて、本来であれば通過できないアルブミン成分が糸球体を通過して尿に排出されてしまう腎症です。

ネフローゼ症候群全体のうち、約8割弱の人が一次性と考えられています。

二次性ネフローゼ症候群

ネフローゼ症候群全体のうち、約2割程度の人が二次性と考えられており、その発症原因は、代謝性疾患、膠原病、悪性腫瘍、感染症、アレルギー、非ステロイド系抗炎症薬などさまざまなものが挙げられます。

その中でも、特に二次性ネフローゼ症候群を引き起こす代表的な疾患としては、糖尿病、全身性エリテマトーデス、特定のウイルス感染症が挙げられます。

二次性ネフローゼ症候群には、糖尿病性腎症、ループス腎炎、アミロイドーシス、紫斑病性腎炎などがあります。

糖尿病性腎症は糖尿病を発症してから約10年以上経過して発症することが多いと言われ、血液透析導入となる原因疾患の代表例となっています。

ループス腎炎とは自己免疫疾患の一つである全身性エリテマトーデスに合併して発症する腎炎のことであり、糸球体にさまざまな障害を及ぼして腎機能を低下させることが判明しています。

実際の治療は、ステロイド投与と免疫抑制剤投与を実施しますが、治療効果が乏しく進行性の腎不全をきたしてしまうと人工透析や腎移植などが必要になる場合も見受けられます。

アミロイドーシスはタンパク質が凝縮してアミロイドになり、それぞれの臓器に付着することで発症する難病ですし、紫斑病性腎炎とは血管性紫斑病の症状のひとつであり、糸球体にIgAが沈着することで発症します。

これらの疾患の予後は比較的良好とされていますが、病状の経過観察を中断すると再発、または腎炎の進行を見逃す可能性があります。

一次性ネフローゼ症候群の予後と長期経過

一次性ネフローゼ症候群は、およそ20年で約半数弱の人が慢性腎不全に移行するという統計があり、特にタンパク尿が多い人は腎機能が低下しやすいと考えられています。

巣状分節性糸球体硬化症の場合は、腎生検で部分的な硬化が認められる疾患で、ステロイド治療を実施しても顕著な治療効果が乏しい難治性の病気であると言われています。

膜性増殖性糸球体腎炎は血尿を伴い、糸球体が分かれた葉っぱのようにみえる比較的稀な腎炎であり、約10%の例では小児から若年者にみられることが指摘されています。

ネフローゼ症候群の検査

ネフローゼ症候群の検査には尿検査と血液検査があります。

尿検査

ネフローゼ症候群は一次性ネフローゼ症候群と二次性ネフローゼ症候群に分類されます。

一次性ネフローゼ症候群の場合、失われたタンパクの量を測定する方法として24時間にわたって尿を採取する方法が有効です。

しかし、1日かけて尿を集めるのは困難なので、1回の尿検査で老廃物の濃度に対するタンパク濃度の比を確認することで、失われたタンパク量を推定できます。

また、尿検査で、脂肪円柱などネフローゼ症候群の特徴が出ていないか調べます。

血液検査

血液検査によって、ネフローゼ症候群の背景にある病気を特定できる場合もあるので、過去に罹患した感染症・自己抗体について調べます。

血液検査以外にも、超音波検査やCT検査・内視鏡検査も悪性疾患の探索を行うのに有効です。

特に、ネフローゼ症候群をきたす原因は様々なので、腎臓超音波検査や直接腎臓に針を刺し組織を採取して調べる腎生検も、病型の確認・診断に有効です。

ネフローゼ症候群に関する診断基準については、タンパク尿3.5g/日以上が持続する、低アルブミン血症(血清アルブミン値3.0g/dL以下)、浮腫、脂質異常症(高コレステロール血症)の2点を同時に満たす必要があります。

その中でも、明らかな原因疾患がないものは一次性ネフローゼ症候群の診断がつき、明らかな原因疾患がある場合は二次性ネフローゼ症候群の診断となります。

ネフローゼ症候群の治療法と浮腫への対策

ネフローゼ症候群の治療法と浮腫への対策について見てみましょう。

副腎皮質ステロイドの投与

基本的には、ネフローゼ症候群に伴うタンパク尿の症状に対する治療法は副腎皮質ステロイドの投与です。

ステロイドを投与する際には、内服薬か点滴投与を行います。

点滴の場合は、高用量のステロイドを3日間連続で投与するステロイドパルス療法を実践しますが、ステロイド投与で治療効果が乏しいケース、あるいは再発を繰り返す場合には免疫抑制剤などを用いて追加治療を実施することも見受けられます。

原因となっている病気の治療

二次性ネフローゼ症候群の症例に対しては、発症原因となっている病気に対する根治的な治療が中心となります。

塩分の制限

浮腫という症状に対しては悪化しないように、日々の食生活における塩分制限と安静保持が治療の基本になります。

塩分制限に関しては酷い浮腫が生じている場合、0〜4g/日の塩分制限を行い、症状が改善されるようであれば6〜7g/日まで制限を緩和することもあります。

利尿剤の使用

セルフケアでも浮腫が改善せずに体重増加がみられる場合は、利尿剤を使用することがあります。

血中アルブミン濃度が過度に低下する、あるいは利尿剤を使用しても体に水が溜まって浮腫が悪化する場合は、一時的に透析治療を実施しなければならない可能性もあります。

まとめ

これまで、ネフローゼ症候群とはどのような病気か、その予後と治療法などを中心に解説してきました。

ネフローゼ症候群は、糸球体の炎症でタンパクが漏出して、全身の浮腫や体重増加などが出現する病気であり、重症なケースにおいては肺や心臓などに水が溜まる、あるいは血栓症などの合併症が出現することも見受けられます。

ネフローゼ症候群には、原因が明確な場合と不明な場合があり、厳密に予防することが難しい疾患ですが、適切なタイミングで治療しないと人工透析などを導入しなければいけなくなる可能性もあります。

ネフローゼ症候群に罹患した場合は、腎臓に過剰な負担をかけないように日常的にストレスを溜め込みすぎず、塩分やタンパク質の摂取量を控えめにするといった対策が求められます。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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