栄養失調の症状と原因…新型栄養失調や高齢者の低栄養との違い

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栄養失調は必要なエネルギーや栄養素が不足している状態です。貧困などが原因で十分に食事ができない場合だけでなく、食事はしていても気づかない内に栄養バランスが偏っており、新型栄養失調に陥っていることもあります。また、高齢者は低栄養になりやすいことが知られています。ここでは栄養失調の症状や原因について解説します。

栄養失調とは

栄養失調とは、健康を維持するために必要なエネルギーや栄養素の摂取量が不足することによってもたらされる状態を指していて、一般的には低栄養や栄養不良といった呼び方が浸透しています。

栄養失調は先進国よりも発展途上国に多くみられる傾向があり、現在の日本の経済・社会状況においては比較的まれですが、世界を見渡すと現在でも医学的、あるいは社会的に大きな課題として認識されています。

昨今では日本でも高齢者の栄養不良状態が問題となっていて、栄養失調に伴って、るいそう(やせ)、体重増加不良(成長・発育不良)、貧血、下痢、易感染性(感染症にかかりやすい状態)などの症状を認めることがあります。

また、栄養失調が重症化すると低血圧、低体温など危険な兆候を認めることもあります。

ビタミンやミネラル成分など特定の栄養素が不足することに伴う代表的な症状は、欠乏する栄養素によって多岐にわたります。

例えば、ビタミンB1欠乏症ではウェルニッケ脳症を引き起こして、眼球運動の異常や運動失調をきたすことがありますし、ビタミンB12欠乏症や葉酸欠乏症においては造血機能が低下して巨赤芽球性貧血という貧血状態に繋がります。

さらに、ビタミンC成分が特に欠乏すると、皮膚や粘膜から出血する、あるいは創傷の治癒が遅れて形成された傷がなかなか治らないなどの病態を生じることもあります。

栄養失調の原因

栄養失調を呈する原因としては、単純な摂取不足、胃腸機能に関連する消化・吸収障害、内因的な代謝障害、心理的要素が関わっている神経性食欲不振症などが挙げられます。

消化・吸収障害では、肥厚性幽門狭窄症や慢性下痢症などに起因しますし、代謝障害においては先天性代謝異常、甲状腺機能亢進症などによって栄養が正常に代謝できないことで栄養失調が起こると考えられています。

体重低下を伴う栄養失調は、食事で必要なエネルギー数が確保できていないことに伴って発症し、また偏食、あるいは虐待により食事を与えないなどの事情によって特定の栄養素を含有する食品が摂取できないケースに見受けられます。

基本的には、再栄養を確保する事が治療の大前提となりますが、急激な補充は心臓の不適応や電解質異常を合併することがあり、徐々に栄養補充を実施することが大切です。

介護を必要とする高齢者においては、介護力が不足することによって食事の提供が不十分になる、定期服用している薬剤に伴う副作用、あるいは摂食機能が低下して嚥下障害を引き起こしている際に栄養失調が多く認められます。

精神疾患の一つである神経性食欲不振症では、主に思春期から青年期の女性が心理的要因によって過度な食欲制限を行った際に、栄養成分の摂取不足に伴って栄養失調をきたします。

体型に特徴はある?

栄養失調を疑う場合には身長や体重を測定することにより、標準体重からどの程度低下しているかを計算してアセスメントします。

栄養障害は、種々の体型変化を起こすことが知られていて、小児期や成長期に栄養障害が続けば全身の体型変化を認める傾向がありますが、成人期では栄養障害は通常体重の変化として見受けられることが多くなります。

成人において体重が増加すれば栄養状態が良好になったと解釈されることもありますが、栄養アセスメントを実践する際には体重の数値のみならず体脂肪と除脂肪体重が重要な要素となります。

新型栄養失調とは

新型栄養失調は食の細った状態だけでなく、カロリーが充足して栄養過多の状態であっても認められることがあります。

特に、多くの高齢者世代においては、普段から慢性的に食欲不振に陥って、タンパク質やカロリー不足から全身の筋肉量や筋力が減少するサルコペニアという状態になりやすいと指摘されています。

また、加齢に伴って自然と咀嚼する力が弱くなり硬いものを避けがちになり、バランスよく食事を摂取することが困難になりますし、足腰が弱って買い物や運動ができなくなると、どうしても食欲が落ちて、食思不振に繋がります。

栄養不足の悪循環に陥ってしまうと、全身の筋肉や骨を正常に維持できなくなり、内臓への負担も増加しますし、認知機能の低下につながる恐れもあります。

新型栄養失調の原因

高齢者の場合には、食が細くなったり、噛む力が衰えたりすることから、新型栄養失調に陥りやすくタンパク質などの栄養素が不足しがちになります。

そして、現在のところ厚生労働省が最も警鐘を鳴らしている新型栄養失調のタイプは、20代女子の栄養障害であり、若い世代の栄養不足が深刻な課題となりつつあります。

国の将来を担う若年世代に増加する新型栄養障害が、大切な家族や子孫にまである程度影響することも判明してきました。

若い女性における新型栄養失調の主な原因は、食事制限を伴う不自然なダイエット、ジャンクフードやコンビニ弁当などによる偏った食生活などであり、痩せたいという強い願望から野菜ばかり摂取して、肉や魚に含まれるたんぱく質が不足する傾向が見受けられます。

働き盛りのミドル世代では、仕事が多忙でつい食事を簡単に済ませるためにインスタント食品やコンビニ弁当などを食べることが多く、野菜不足や食物繊維不足に陥りやすくなりますし、カロリー過多、タンパク質やミネラル成分の不足が同時に認められやすくなります。

体型では判断できない?

現代人の間で近年特に問題になっているのは、常日頃からある程度しっかりと食事を摂取しているのにもかかわらず、栄養失調に陥ってしまう新型栄養失調です。

自分ではきちんと食べていると思っているものの、実際には栄養失調になってしまっている新型栄養失調の厄介な点は、高齢者のみならず健常な若年者であっても発症する懸念があるということです。

実際に、幅広い世代において、肥満体型から痩せ型体型の方に至るまであらゆる体型の場合に新型栄養失調が増加していると言われていますので、単純に体型(体形)だけでは栄養失調を判断できないと考えられます。

高齢者の低栄養とは

高齢者は低栄養になりやすいことが知られています。高齢者の低栄養について詳しく見ていきましょう。

低栄養とたんぱく質不足

低栄養は体に必要なたんぱく質、エネルギーが不足して、健康な体を維持することが難しい状態のことであり、この状態が長く続くということは、体を動かすためのエネルギー不足や、筋肉・内臓・骨・皮膚などのもとになる材料不足を意味します。

体を作り維持していくための材料であるたんぱく質が不足すると、体そのものが脆弱になり、外部の刺激から体を守る力も衰えていき、体力・免疫力が低下します。

また、たんぱく質の多くは、筋肉内に蓄えられていて、体にとって必要なたんぱく質の摂取が不足すると、この筋肉内のたんぱく質が使われて、筋肉量の減少や筋力の低下が生じます。

筋肉量が減少するため、体重も減少しますし、筋力が低下することでさらに運動機能や活動量が低下するという悪循環に陥ります。

サルコペニアと低栄養

高齢者の低栄養状態から引き起こされるサルコペニアは、主に加齢が原因で起こる一次性サルコペニア、加齢以外にも原因がある二次性サルコペニアに分類されます。

二次性サルコペニアでは、生活スタイルに関連する栄養不足が原因となることもあれば、悪性腫瘍などを始めとする身体的疾患が罹患契機となることもあります。

サルコペニアは慢性的な炎症状態、酸化ストレスに関連して筋肉の代謝に関わるステロイドホルモンや成長ホルモン、炎症性サイトカインなどが健康時から変化して、筋肉の分解量が産生量を上回ることから発症すると考えられています。

フレイルと認知機能

高齢者の低栄養状態に伴って発症するサルコペニアの状態になれば、高齢の方において転倒して骨折を起こすことによって寝たきりの状態になる恐れがあります。

フレイルとは、年齢を重ねて身体の様々な役割が衰えて日常における生活能力が低下して介護が必要になる状態であり、栄養状態の不良が理由で起こるサルコペニアがフレイルを発症させる原因となる可能性があります。

また、サルコペニアに伴って身体機能が低下すると、認知機能が低下して認知症を発症するリスクが上昇しますし、その反対に認知機能が低下すれば身体機能が衰えてフレイルの状態が進行する危険性も考えられています。

まとめ

これまで、一般的な栄養失調の症状と原因、体型で判断できない新型栄養失調などを中心に解説してきました。

日常的に健康を維持するのに欠かせない食事を良好に摂取することによって、私たちは食べ物に含まれる様々な栄養素をエネルギーに効率よく変換して、日々の活動をしています。

一方で、食べ物の量や種類によっては全身にとって必要なエネルギーや栄養素が不足する、いわゆる栄養失調に陥る危険性が指摘されています。

新型栄養失調の原因として考えられているのは、「偏食による栄養素の極端な偏り」であり、日本においてはタンパク質、ビタミン、ミネラルの3つの栄養素が不足していると言われています。

飽食の時代ともいわれる現代において、新型栄養失調を含めて食生活が偏ると自分では気がつかないうちに栄養失調に陥っている場合があります。普段の食生活でバランスがとれた栄養成分を摂取するように心がけましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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