心臓マッサージのやり方と、行うかどうか迷ったときの判断

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胸骨圧迫(CPR)とは、心停止した傷病者の心臓付近の胸部を圧迫することによって脳や心臓に血液の循環を促す心肺蘇生を目的とした一次救命処置のことです。文字通り胸の骨を体の外から圧迫することで以前は「心臓マッサージ」と言われていました。

心臓マッサージのやり方と、心臓マッサージを行うかどうか迷ったときの判断方法について紹介します。

心臓マッサージ(胸骨圧迫)による救命処置

心臓が正常に動かず血液を送り出せない状態の時に胸骨圧迫を絶え間なく実施することで、血液を循環させて自己心拍を再開させる可能性が期待できます。

心臓が正常に動かず血液を送り出せない状態に陥ると、身体の全身の細胞に酸素を送ることができない状態になって、血液が送られないようになってから3分以内に脳細胞が壊死し始め、一度壊死した脳細胞は通常元通りに復帰しないと考えられています。

したがって、心肺停止の際には1秒でも早く胸骨圧迫を開始して脳血流を含めて血液を循環させ、体に残った酸素を脳に有効的に送ることが必要になります。

AED(自動体外式除細動器)とは

2004年7月以降、医師や看護師、あるいは救急救命士など医療従事者以外の一般市民にも、一次救命処置の中でAEDの使用が認められ、これに伴って学校や駅など公共施設でのAEDの設置件数が増加しています。

AEDは、自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator)の略であり、心室細動と呼ばれる心臓がけいれんした状態に対して、電気ショックをかけて細動を止め、元の動きを取り戻すための専門医療機器です。

最近では公共の場所を中心に多くの場所に設置されていますし、実際にAEDを用いる際には自動的に心電図を解析して、電気ショックが必要かどうかをAED自体が自動的に判断してくれますので、一般の方々も安心して使用できるようになっています。

心臓マッサージのやり方

胸骨圧迫(従来の心臓マッサージ)は、心肺蘇生に有効な心拍出量を得て、酸素の含まれた血液を有効的に循環させようとする手技であり、強く、速く、絶え間ない胸骨圧迫が心肺蘇生にはもっとも重要なポイントであると言われています。

心肺停止の状態に陥った傷病者に対して胸骨圧迫を実施するだけでも救命率は大幅に向上すると考えられていますので、胸骨圧迫の実際の方法をしっかり事前に理解して習得しておくことをお勧めします。

胸骨圧迫の手技を実践する場合には、実際に倒れている人の胸の真ん中部分に手のかかとの部分を重ねてのせ、肘を伸ばした状態で真上から強く胸が約5cm程度沈むまで押して圧迫しましょう。

胸を5cm以上圧迫した後には瞬時にその力を緩めますが、手が胸の真ん中から離れないように注意しながら、手が胸部中央部からずれないように意識しながら、1分間に100~120回の速さで胸骨圧迫を繰り返して続けます。

胸が元の位置に戻る時に全身から心臓へ血液が戻ってきますので、しっかり胸部を圧迫するとともに、元の位置に戻るまで力を抜くリコイル運動を継続することで、胸骨圧迫の効果を最大限に発揮することができます。

心臓マッサージを行うかどうか迷ったときの判断

心臓マッサージを行うべきか迷うような状況も発生することでしょう。ここでは基本的な判断方法を紹介します。

呼吸をしている場合

傷病者の頭部から胸腹部までを5秒以上(10秒未満)を目安にして目視で調べ、胸郭や腹部の上下運動を確認し、傷病者が普段どおりの呼吸をしている場合は、基本的に胸骨圧迫は必要ありません。

自発呼吸が確認できれば、傷病者を横向きに寝かせることで傷病者が嘔吐した場合でも気道を確保することができます。

救急医療サービス(救急隊員)のメディカルチームが現場に到着するまで傷病者に付き添って状況を継続して観察してください。

死戦期呼吸の場合

死戦期呼吸とは、死の直前の喘ぎ呼吸を意味していて、突然の心停止から数分のうちに生じることが多く、外見上は非常に速く空気を吸い込んでいるように見えます。

また、この状態では口を開けたままで、あご、頭、首を動かす、あるいは鼻を鳴らすいびきやうめき声のように聞こえる場合もあります。

心停止直後には、あえぐような呼吸が見られることがありますので、いつも通りの呼吸様式ではない、あるいは傷病者がこの死戦期呼吸を示している場合には、心停止と判断して迷わず胸骨圧迫を開始しましょう。

心停止が疑われるが確信が持てない場合

傷病者の呼吸が普段通りかどうかわからない、あるいは心停止が疑われるが確信が持てない場合には、救命につながる可能性もあるため、胸骨圧迫を実施してください。

通常、胸骨圧迫によって傷病者に害を与える可能性は少ないと言われていて、胸骨圧迫が必要な人に胸骨圧迫を実施しないよりも、胸骨圧迫が不要な状態の際に胸骨圧迫を行う方が望ましいという考え方が基礎となっています。

日本蘇生学会の蘇生ガイドラインによれば、呼びかけに反応がない、普段通りの呼吸をしていない、死戦期呼吸など自発呼吸の有無が判断できない場合には、ただちに胸骨圧迫を開始することが勧められています。

一般的に、心停止でない傷病者に対する胸骨圧迫のリスクに関連して、市民救助者は傷病者が心停止でなかった場合の心肺蘇生処置に伴う危害を恐れる必要はないと明示されています。

そして、心肺停止を疑った際には救命処置を開始することを強く推奨しており、少しでも傷病者が心肺停止の状態であると疑われる場合には、積極的に胸骨圧迫を実施するべきであると提唱されています

まとめ

これまで、心臓マッサージのやり方と、行うかどうか迷ったときの判断などを中心に解説してきました。

突然目の前で人が倒れて、呼びかけに反応が乏しく自発呼吸もない場合には、自動体外式除細動器(AED)を持ってきてもらうように周囲の人々に要請するとともに、119番通報して直ちに胸部を圧迫することで救える命が存在します。

胸骨圧迫は、一度止まってしまった心臓の代わりに脳を含む全身に血液を送る効果が発揮されることが期待されており、絶え間のない胸骨圧迫の実施が救命の鍵を握っていると考えられています。

傷病者が普段通りの呼吸をしている場合は、胸骨圧迫の必要はありませんが、普段通りの呼吸をしていない場合や死戦期呼吸を認める際、あるいは心肺停止に陥っているかどうか確信が持てない場合には迷わず胸骨圧迫を実施してください。 

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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